過渡電圧抑制ダイオードを使用した回路の堅牢化と電気的完全性の維持

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

電気的高速過渡(EFT)電圧は、回路、システム、システムユーザーを保護するために設計者が考慮しなければならない現実です。EFTには、敷物の上を歩いたり、モータを始動させたり、落雷で連鎖反応を引き起こしたりするような単純な動作による一般的な静電気放電(ESD)など、さまざまな原因があります。これらの過渡電圧は、低電圧バッテリ駆動のウェアラブル製品から高電力のモータシステムまで、あらゆる製品クラスに悪影響を及ぼす可能性があります。

EFTの影響は、一時的な混乱や機能不全から、長期的な性能低下、完全な永久的損傷や故障にまで及びます。設計者は、静電気防止エンクロージャの使用、フィルタリング、ソースでのクランプ、追加接地の実装など、電圧過渡を低減するための対策を講じることができますが、これらの対策は、特定のアプリケーションシナリオに応じて、しばしば修正またはアップグレードする必要があります。

過渡電圧の有害な影響を確実に最小化または除去するために、過渡電圧抑制(TVS)ダイオードと呼ばれる2端子受動部品を使用することができます。これらのダイオードは一般的に開回路とみなされますが、過渡現象が発生するとほぼ瞬時に反応して短絡のような形になることで、過渡過電圧をグランドに迂回させます。TVSダイオードは、高速応答、高耐電圧、長寿命、低静電容量を提供します。

この記事では、Eaton Corporation plc(Eaton)のさまざまなデバイスファミリとデバイスを例にとり、TVSダイオードのニーズ、役割、タイプ、用途を考察します。

IEC規格から始めよう

EFTのリスクを軽減するため、国際電気標準会議(IEC)はIEC 61000-4(「電磁両立性(EMC):試験および測定技術」)内で、過電圧保護に関して国際的に認められた以下3つの規格を定義しています。

1)IEC 61000-4-2は、システムレベルのESD耐性を対象とし、人体接触によるESDに適用されます(図1)。この波形では、立ち上がり時間(tr)は0.7~1ナノ秒(ns)と短く、エネルギーの大半は最初の30ns以内に消散され、その後は急速に減衰します。したがって、ESDイベントにタイムリーに対応するためには、非常に速断型の過電圧保護が必要となります。

人体接触による一般的なESDパルス波形のグラフ図1:IEC 61000-4-2で規定されている、人体接触による一般的なESDパルス波形は、立ち上がり時間が1ns未満と非常に短く、ほとんどのエネルギーは最初の30ns以内に消散されます。(画像提供:Eaton)

波形だけでは、関連する電圧レベルはわかりません。IEC 61000-4-2には、さまざまな装置における接触放電と空気放電のシステムレベルESD耐性の試験電圧が規定されています(図2)。

IEC 61000-4-2のレベル 接触放電 空気放電
レベル1 2kV 2kV
レベル2 4kV 4kV
レベル3 6kV 8kV
レベル4 8kV 15kV

図2:空気放電および接触放電に対するIEC 61000-4-2の各レベルには、さらに人体接触の詳細が定義されています。(画像提供:Eaton)

TVSダイオードの適切な選択は、アプリケーションに求められるESD保護のレベルによって異なります。IEC 61000-4-2でテストすると、EatonのTVSダイオードのすべてがレベル4の最小性能を提供することに注意してください。その他のオプションとしては、空気放電と接触放電の両方で最大30kVと、さらに高いESD耐性保護を備えたものも用意されています。

2)IEC 61000-4-5は、雷や電力システムの切替などによる電気サージに対する耐性を対象としています。比較的低電力の静電気とは異なり、落雷は最大1ギガジュール(GJ)のエネルギーを含み、最大120kVのサージ電圧を発生させる場合があります。雷に起因する過渡現象は、屋外の電気回路に直接落雷してサージ電圧が発生したり、間接的な落雷で導体にサージ電圧が発生したり、雷のグランド電流が流れたりすることで発生します。TVS ESDサプレッサは直接的な落雷を防ぐことを意図していませんが、落雷は1マイル以上の距離にわたる配電システム全体に過渡電流を送る可能性があるため、サプレッサは依然として必要です。

IEC 61000-4-5には、一般的な雷電圧波形が定義されています(図3)。

IEC 61000-4-5で定義された雷パルス波形の画像図3:これは、IEC 61000-4-5で定義されている雷パルス波形(IPPはピーク電流)です。(画像提供:Eaton)

IEC 61000-4-5規格には、電気/電子機器の各クラスにおけるサージ耐性の試験電圧レベルも規定されています(図4)。

それらのレベルは、エンドアプリケーションによって定義されます。

  • クラス1:部分的に保護された環境
  • クラス2:短距離でもケーブルが十分に隔離されている電気環境
  • クラス3:電源ケーブルと信号ケーブルが平行に配線された電気環境
  • クラス4:電源ケーブルと屋外ケーブルが相互接続され、電子回路と電気回路の両方に使用される電気環境
IEC 61000-4-5のサージ試験レベル
クラス 電圧レベル(kV) 2Ωでの最大ピーク電流(A)
1 0.5 250
2 1 500
3 2 1,000
4 4 2,000
X カスタム カスタム

図4:IEC 61000-4-5には、電気サージ耐性の試験レベルが4つのクラスで規定されています。(画像提供:Eaton)

3)IEC 61000-4-4は、EFTに対する保護を対象としています(図5)。EFTは、大型モータ、リレー、配電システムのスイッチングコンタクタ、力率補正装置の入切など、誘導性負荷の動作によって発生します。

IEC 61000-4-4で規定されているEFTパルス波形の画像図5:IEC 61000-4-4で規定されているEFTパルス波形を示します。(画像提供:Eaton)

EFTは多くの場合、ピーク値までの立ち上がり時間(t1)と、過渡がピーク値の50%に低下するまでのパルス持続時間(t2)という、対になった2つの数値だけで規定されます。8/20µsの過渡は、産業用アプリケーションでは一般的なパルスです。

回路やシステムが耐えるべき過渡電圧ESDの大きさは、アプリケーションによって異なります。MIL-STD-883では3つのクラスが定義されており、軍用システムや航空宇宙システムだけでなく、産業界でも広く使用されています(図6)

分類 優れたESD性能
クラス1 0V~1,999V
クラス2 2,000V~3,999V
クラス3 4,000V以上

図6:MIL-STD-883の試験方法番号3015によるESD感度の分類には、3つのレベルがあります。(画像提供:Eaton)

TVSデバイスによる問題解決

さまざまな要件を満たしてシステムを保護するために、設計者はTVSダイオードを使用することができます。TVSダイオードは、ダイオードのアバランシェ降伏原理に基づいて動作するシリコン過電圧保護デバイスです。これらのダイオードは、短時間(過渡)電圧や中・高電圧から内部部品を保護するために、通常回路と並列に設置します(図7)。

入力側に配置したTVSダイオードの図図7:TVSダイオードは、保護するラインとシステムグランドの間の入力側に配置します。(画像提供:Eaton)

通常の非過渡動作では、TVSダイオードは高インピーダンスを維持し、装置を介した電力や信号の送信を妨げません。しかし、TVSダイオードの端子に瞬間的に高エネルギーの衝撃が加わると、低インピーダンス状態(アバランシェ降伏と呼ばれる)に急速に移行して大電流を吸収し、電圧を安全なレベルにクランプすることで下流の回路素子を保護します。

TVSダイオードは、一方向または双方向のP-N接合デバイスとして利用可能です。その名称とは裏腹に、ほとんどの一方向TVSダイオードは両極の電圧を抑制します。一方向タイプは非対称の電圧-電流(V-I)特性を持つのに対し、双方向TVSダイオードは対称のV-I特性を持つという違いがあります(図8)。双方向TVSダイオードは、双方向またはグランド電圧以上/以下の信号を持つ電気ノードの保護に適しています。

TVSダイオードの名称が固有の方向性を反映していないことを示す図図8:TVSダイオードの名称は、固有の方向性を反映していません。一方向TVSダイオードは非対称の電圧-電流(V-I)特性を持つのに対し、双方向ダイオードは対称のV-I特性を持っています。(画像提供:Eaton)

TVSの性能を定義するトップレベルのパラメータ、パッケージング、配置

TVSダイオードは、高レベルの多くの仕様によって定義されています。それらを以下に示します。

  • 最大逆動作電圧(VRWM):これはTVSダイオードが「OFF」のときの最大動作電圧で、逆スタンドオフ電圧とも呼ばれる
  • 降伏電圧(VBR):TVSダイオードでアバランシェ降伏が発生して低インピーダンスになる電圧
  • 逆リーク電流(IR):TVSダイオードが逆バイアスされたときにTVSダイオードに流れる電流
  • クランプ電圧(Vc):定格ピークパルス電流(Ipp)においてTVSダイオードにかかる電圧
  • 静電容量:一般的にピコファラド(pF)単位で、入力ピンと別の基準点(多くの場合、グランド/アース)の間に蓄積された電荷の測定値。通常は1MHz信号で測定する
  • ピーク電流(Ipp):電流波形の最大正振幅と最大負振幅の差

TVSダイオードの選択は通常、以下4段階のプロセスで行います。

  1. 通常の動作電圧よりも高いスタンドオフ電圧を備えたダイオードを選択する
  2. 指定されたピーク電流が予想されるピーク電流を上回っていることを確認し、過渡事象中に必要な電力を処理するようにダイオードが指定されていることを確認する
  3. 選択したダイオードの最大クランプ電圧(VCL)を計算する
  4. 算出されたVCLが、プロテクトピンの指定された絶対最大定格未満であることを確認する

回路基板上のTVSデバイスの配置は、これらのデバイスの性能をフルに発揮させるために非常に重要です。最良のサージ保護を実現するには、高速過渡サージの効果的な抑制に対する寄生の影響を最小限に抑えるために、ダイオードをI/Oポートなどの電圧侵入点にできるだけ近い位置に配置する必要があります。

提供範囲を示すTVSの例

EatonのTVSダイオードは、I/Oインタフェースや高速デジタル/アナログ信号ラインの過電圧保護によく適しています。これらのダイオードは、非常に低いクランプ電圧、高いピーク電力、高い電流散逸、ナノ秒の応答時間を提供します。

TVSダイオードのパッケージは、仕様と密接な関係があります。パッケージには面実装型とスルーホール型があり、後者の方が電圧/電流性能が高くなります。

TVSダイオードは、幅広い電圧と電流から保護する必要があります。したがって、電圧定格や他のパラメータの1つの値であらゆるEFTの状況に対応することはできません。4つの異なるファミリの例が、これらの点を示しています。

1)SMFEシリーズは、10/1000µsの波形で200ワットのピークパルス出力能力を備えています。このデバイスは、業界標準の薄型SOD-123FL面実装パッケージに収められており、サイズは2 × 3 × 1.35mmで、モバイルおよびウェアラブルデバイスの基板スペースを最適化します。

このシリーズの製品の1つにSMFE5-0Aがあります(図9)。9.2Vのクランプ電圧と21.7AのIppを備え、一方向または双方向のユースケースをサポートします。逆リーク電流は10V以上の動作で1μA未満、応答時間は高速で、0VからVBRまで通常1.0ピコ秒(ps)未満です。

EatonのSMFE5-0A 9.2V TVSダイオードの画像図9:SMFE5-0A 9.2V TVSダイオードは、薄型のSOD-123FL面実装パッケージで提供され、モバイルおよびウェアラブルアプリケーションを対象としています。(画像提供:Eaton)

2)STシリーズは、1本の双方向I/Oラインを保護し、USBやその他のデータポート、タッチパッド、ボタン、DC電源、RJ-45コネクタ、RFアンテナを対象としています。33V、12A IppSTS321120B301など、このファミリの製品は1.8 × 1.4 × 1.0mmの小さなSOD-323 SMTパッケージに収められており、1ラインあたり400ワットのピークパルス電力(tP= 8/20μs)で定格されています。このシリーズのダイオードは、2.8ボルトDC(VDC)から70VDCの動作電圧と、0.15pFまでの超低静電容量をサポートします。これらのダイオードは、最大30kV(IEC 61000-4-2準拠)のESD保護を提供します。

3)AKシリーズは、最大10,000Aの保護を備えた高出力TVSダイオードで構成され、ACおよびDCアプリケーションの厳しいサージ試験環境に対応するよう設計されています。これらのダイオードは、低スロープ抵抗と、スナップバック技術による優れたクランプ係数を特長としています。また、民生用電子機器、家電製品、産業用オートメーション、ACライン保護などのアプリケーション向けのUL1449サージ保護デバイス規格に適合しています。(注:スロープ抵抗またはダイナミック抵抗は、AC電圧が印加されたときにダイオードが提供する抵抗です。スナップバックは、低電圧でも大電流の導通が継続するデバイスプロセスです。)

このシリーズのデバイスには、電流量とUL要件を満たすために、AK6E-066Cで使用されているようなスルーホールアキシャルリードパッケージ、120Vクランプ、6000A Ippのダイオードを採用しています(図10)。このダイオードはリード線に沿って25mmで、ほぼ正方形の「中心」ボディは約13 × 15mmです。

EatonのAK6E-066C高電力120V TVSダイオードの画像図10:AK6E-066C高電力120V TVSダイオードは、最大10,000Aの保護を提供し、スルーホールアキシャルリードパッケージに収められています。(画像提供:Eaton)

4)SMAJExxHシリーズのSMAサイズTVSダイオードは、車載用アプリケーションに要求されるAEC-Q101規格に適合しているという点でユニークです。400ワットのピークパルス電力(10/1000μs波形)を提供し、0VからVBRまでは通常1.0ps未満の高速応答時間、10V以上では1μA未満のIRを備えています。

このファミリのデバイスは5~440Vで、各デバイスに一方向および双方向バージョンがあり、35.5Vのクランプ電圧と11.3AのIppを特長とするSMAJE22AHが含まれています(図11)。このシリーズの全デバイスは、3.0 × 4.65 × 2.44mm(最大)の面実装プラスチックパッケージに収められており、UL 94 V-0の難燃性定格を満たしています(図11)。

EatonのSMAJE22AH 35.5V TVSダイオードの画像図11:SMAJE22AH 35.5V TVSダイオードは、AEC-Q101で規定されている車載用規格に適合しており、UL 94 V-0難燃性定格の規格を満たすプラスチックパッケージを使用しています。(画像提供:Eaton)

まとめ

静電気、モータの始動、近くの雷などによる電気的過渡現象により、電子システムやそのコンポーネントが損傷する可能性があります。TVSダイオードはそれらの過電圧にほぼ瞬時に反応し、過渡電圧やエネルギーをグランドに迂回させることで、システムを保護します。上述したように、EatonはさまざまなシリーズのTVSダイオードを提供しています。各シリーズは、予想される過渡電圧の大きさ、最終製品の制約、規制義務に合致するために、異なる電圧定格の多数のデバイスで構成されています。それらに必要なのは、数平方ミリメートルの回路基板面積だけです。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

出版者について

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