ADASの高度な要件を満たすために適切なDC/DCレギュレータを使用

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

先進運転支援システム(ADAS)と車載インフォテインメントの広まりによって、自動車は車輪の付いた複雑な電子システムとなり、ノイズフリーのマルチレベルDCレールが必要とされるようになりました。しかし、一般的な自動車のバッテリは、動作環境全体にわたって安定しているとは言いがたく、設計者は電力系統の設計に細心の注意を払う必要があります。

ADASのシステムの範囲には、アダプティブクルーズコントロール、衝突回避、GPS、バックカメラ、車線逸脱警報、横滑り防止、コネクティビティが含まれるのに対し、インフォテインメントには、ディスプレイとマルチメディアプレーヤが含まれます。これらの機能向けに車両の12V(場合によっては24Vまたは48V)バッテリからの直流電源を調整するのは、バッテリ出力ノイズ、電圧の急上昇、負荷ダンプによる過渡電圧、温度の極端な変化や熱サイクルのため、困難です。これらは、スペースが狭く高温になること、また、振動と衝撃を受けることによって生じます。

さらに、ADASのさまざまな機能に必要なマルチDCレールを提供するためにバッテリ出力を調整するDC/DCコンバータのICは、過酷な電力条件と環境条件の下で動作しなければなりません。静止電流を少なくし、EMIの発生を最小限に抑えながら、厳格な調整を効率よく行う必要もあります。

この記事では、動作環境と条件について説明し、問題の軽減に役立てる目的で策定された自動車関連の規格を紹介します。さらに、車両配電の要件を満たすのに役立つ電源レギュレータやDC/DCコンバータと、それらを取り入れる方法についても説明します。

ボンネット内の環境は良好ではない

自動車は、電気、温度、衝撃と振動、使用できるスペースという4つの面で、電子機器にとって(そしてメカニカル部品にとっても)難しく厳しい環境です。それぞれ簡単に説明しましょう。

電気:バッテリから無調整で給電されるレールは、ほとんどのバッテリでそうであるように、DC電流源としては扱いやすく安定したものではありません。それどころか、コールドクランク状態での電圧低下(図1)、(オルタネータに接続された負荷が突然絶たれたときに発生する)「負荷ダンプ」による高電圧サージ(図2および表1)、ノイズ、EMI/RFIが発生します。

コールドクランク状態での標準的なバッテリ電圧プロファイルのグラフ

図1:コールドクランク状態での標準的なバッテリ電圧プロファイルには、比較的厳しくない用途でのバッテリ出力の場合との共通点はほとんどない。(画像提供:Texas Instruments

標準的な負荷ダンプパルスのグラフ

図2:標準的な負荷ダンプパルスには、急速な上昇、ゆっくりとした低下、不安定なタイミングという特徴がある。(画像提供:Texas Instruments)

パラメータ 12Vシステム 24Vシステム
U8 65V~87V 123V~174V
Rj 0.5Ω~4Ω 1Ω~8Ω
td 40ms~400ms 100ms~350ms
tr 式1

表1:12Vおよび24Vバッテリシステムにおける(ISO7637-2:2004[1]-5での定義による)抑制なしの負荷ダンプパルスの標準的な値。(画像提供:Texas Instruments)

ローカルのDC/DCレギュレータは、このような実情に対応して、幅広い入力電圧(VIN)範囲にわたって作動し、バッテリの極性反転接続に耐えられるものでなければなりません。さらに、これらのレギュレータでは、自動車が「停止」している間のバッテリの消耗を最小限に抑えるために、静止電流を極めて低く抑える必要があります。

その理由として、これらのADAS(およびその他の)機能の多くは、バッテリから物理的に切り離されるわけではなく、「ソフト的」なオンとオフの切り替えが行われるため、オフになっている間は実際には静止状態になります。自動車が数週間にわたって使われない場合、この状態で消費される待機電力が、全体としてバッテリを消耗することがあります。

温度:ボンネット内の温度は、動作条件やプローブの配置によって、零下(冬季の駐車中)から150°C~200°Cを軽く超えるケースまで大きな幅があります(図3)。車内など自動車の他の部分はそれほど高熱にならないものの、日なたに駐車した場合はかなり高温になることがあります。車外の気温が25°C(77°F)~40°C(104°F)である場合、直射日光が当たる状態で駐車した車内の温度は50°C(122°F)~75°C(167°F)の範囲まで上昇する可能性があります。

さまざまな場所で測定したシボレーシルバラードの車両温度の画像

図3:さまざまな場所で測定したシボレーシルバラードの車両温度は40マイル毎時で上昇、多くの箇所で150°Cを超過。(画像提供:Pelican Parts)

衝撃と振動:機械の衝撃と振動はたえず発生します。基本的な機械分析では、部品が小さく軽いほどこれらの障害の影響を受けにくく、必要な場合には保護材や「ショックマウント」の装着が容易です。また、こうした部品を使えば回路基板を小さくすることができ、それに応じた利点があります。

サイズ:サイズが小さいことには、衝撃と振動の側面とは関係なく、他にも大きな利点があります。自動車の筐体としての固定された物理的「エンベロープ」を考えると、ADAS機能の電気回路と(多くの場合)それに関連するセンサを配置する場所を確保するのは難題です。この電気回路の中には、空いている場所であればほぼどこにでも配置できるものもありますが、ADASセンサの多くはフロントエンド信号調節回路であり、その補助的な電子機器を別のところに配置できる場合であっても、特定の場所への配置が必要です。

自動車関連の規格で定められる課題

自動車の主な動力源は3つあります。電気(EV)、ハイブリッドEV(HEV)、そしてもちろん内燃機関です。これらにも、多様なサイズ、様式、可能出力、コストポイントがあります。業界では、電子部品、ソフトウェア、サブシステムのリスクと性能のレベルについての基準を定義しています。基本となる集積回路(IC)をさまざまなレベルで認定することによって、設計者は、回路基板やアセンブリ、サブシステムを組み上げるのに使用できる構成要素がどうかを確認し、定義された性能で機能を完成させることができます。

性能を定義できるという点で最も有力な規格は、Automotive Safety Integrity Level(ASIL)の枠組みです。これは、自動車の機能安全に関する国際規格ISO 26262で定義された、多重レベルのリスク分類のアプローチです。最も高いレベルがASIL-Dで、最も重大な自動車のハザードを表しており、従って安全要件の遵守についての保証が最も要求されます(図4)。最上位のASIL-Dより下のランクを高い順に並べると、レベルC、B、Aとなりますが、これらはハザードおよび必要な保証の中間的な度合いを定義するものです。最下位は自動車のハザードを伴わない用途を表すASIL QMで、管理すべき安全要件はありません(例:ラジオ)。

ASIL-DからASIL-Aで分類される自動車の機能の画像

図4:ASIL-DからASIL-Aは、自動車の安全性、動作、制御、その他の要因に対する重大度という観点で自動車の機能を分類しており、ASIL-Dが最も厳しい。(画像提供:Mentor Graphics)

DC/DCレギュレータを始め、ADASの機能向けに設計された部品のベンダーは、自社の機器が特定のレベルのASIL性能要件を十分に満たしていることを試験して証明します。これには、温度、振動、故障モードなどが含まれます。

別の関連規格であるAEC-Q100は、Automotive Electronics Council(AEC)が策定した、一連のIC認定試験手順です。これは、部品の認定に関する基準と、新製品およびアップグレードされた製品の両方を対象とする品質システムを定めたものです。AEC-Q100では、部品についての定義されたグレード指定クラスによる温度定格も確立されており、最も範囲が広いのがGrade 0です(表2)。

グレード 周囲動作温度範囲
0 -40°C~150°C
1 -40°C~+125°C
2 -40°C~+105°C
3 -40°C~+85°C

表2:AEC-Q100の温度定格では、対応する添え字とともに基本的な動作範囲が確立されている。(画像提供:Cypress Semiconductor Corp)

ADASの要件に対応したDC/DCレギュレータ

ADASの機能に関する厳しい要件では、電気、温度、サイズに関する考慮事項に関して、この用途での要求に対応したICが必要となります。これには、DC/DCレギュレータも含まれます。こうした部品では、電気、温度、衝撃と振動、使用できるスペースの面で、ASILで示されている(すべてではないにしても)複数の目標を満たす努力が行われています。

たとえば、Maxim IntegratedのMAX16930は、静止電流がわずか20µAの36V DC/DCレギュレータです(図5)。この自動車用のトリプル出力スイッチング装置は、2個の同期整流降圧コントローラと1個の「プリブースト」の非同期整流昇圧コントローラを統合し、個別に制御される電源レールを最大3系統提供します。具体的には、出力電圧を調整可能なプリブースト、5V固定出力または1~10Vの調整可能な出力を提供する降圧コントローラ、3.3V固定出力または1~10Vの調整可能な出力を提供する降圧コントローラです。

Maxim MAX16930マルチ出力降圧レギュレータのプリブースト機能のグラフ

図5:MAX16930マルチ出力降圧レギュレータのプリブースト機能により、バッテリ電圧が1桁台の低い値に下がるコールドクランク状態でも動作できる(黄色)。(画像提供:Maxim Integrated)

MAX16930は3.5V~36Vまで幅広い電源レールで動作しますが、プリブーストにより、コールドクランク性能として求められる2Vの低電圧まで(ブートストラップモードで)動作可能になります(同様に図5)。降圧コントローラとプリブーストはそれぞれ最大10Aの出力電流を提供でき、独立して制御可能です。200kHz~2.2MHzの範囲でユーザーが調整可能なスイッチング周波数と、オプションのスペクトラム拡散により、AM帯域の干渉が排除されます。

MAX16930ではクロック設定を選択できるため、設計者は、ICクロックに起因する干渉や、複数のシステムクロックの混在によるうなり周波数に関する問題を抑制できます。ユーザーは3つの周波数機能モードから選択する必要があります。

  1. 基本となる固定周波数動作(ユーザー定義の周波数)。
  2. スキップモード。負荷が小さいときはクロックを無効にし、出力電圧調整を維持するために必要な場合にのみ起動されます。
  3. 外部クロックへの同期。ICの動作中にこれらのモードを切り替えることができますが、IC管理には別のソフトウェアが必要です。

このICが提供する他のオプションとしては、単一周波数でクロックに起因するEMIの発生を抑制するためにスペクトラム拡散クロックを起動できます。これは、公称周波数値に近い範囲でクロックをランダムにディザリングすることによって実現します。不必要なEMIのエネルギーがさらに広範囲に拡散されますが、どの単一周波数でもピーク振幅は低減します。

ユーザーは、システム設計段階で内部リニアレギュレータの値(LDO)も決定する必要があります。これは外部レールに接続することでバイパス可能です。

一方では、レールノイズを最小限に抑える必要がある小さい局部荷重を供給する場合には、LDO出力は超低ノイズであり有用です。他方、MAX16930内のスイッチングレギュレータよりも効率は低くなります。

フットプリントに対応するために一般的に用いられるのは、単一ICからの個別出力の数を増やす方法です。Analog DevicesのLT8603は、2個の高電圧降圧スイッチングレギュレータと1個の低電圧降圧レギュレータ、1個の昇圧コントローラを6 x 6mmパッケージに収めたクワッド出力デバイスです。

このICは、VIN電源を供給するように昇圧コントローラを設定することにより、たとえばコールドクランク状態で昇圧入力電圧が安定化出力電圧を下回ったときでも、3系統の安定化出力を発生させます(図6)。

仕様どおりに動作するよう設定可能なLinear Technology LT8603のグラフ

図6:LT8603は、仕様どおりに動作するよう設定でき、コールドクランク状態でもフルDC出力を供給する。(画像提供:Analog Devices)

このICは42Vの電源レールで動作し、EMIを最小限に抑えるために250kHz~2.2MHzの範囲でユーザーが定義した周波数でスイッチングします。クラス5ピーク制限のCISPR 25放射エミッション試験における放射EMIは、許容制限(短い水平の線分)を下回っています(図7)。

CISPR 25放射エミッション試験におけるLinear Technology LT8603の放射EMIのグラフ

図7:クラス5ピーク制限のCISPR 25放射エミッション試験において、14V電源を使用し2MHzでスイッチングを行ったLT8603の放射EMIは、そのエミッションが許容制限(短い水平の線分)を下回っていることを示している。(画像提供:Analog Devices)

このICの4つのチャンネルは個別に給電されるため、設計者は、システムと回路の目的に応じてそれらの電源を接続する方法を決定する必要があります。たとえば、降圧コンバータへの入力電圧を供給するように昇圧出力を設定できますが、昇圧入力電圧が安定化バック出力を下回った場合でも、精密に調整された出力が3系統提供されます。この状況はコールドクランク状態で発生する可能性があります。ただし、昇圧モードのコントローラを降圧コントローラの出力から駆動するか、SEPICコンバータとして構成することができ、後者の場合、このICは精密に調整された出力を最大4系統提供します。

設計者が決定しなければならない別の要因として、4つのチャンネルのスイッチング周波数範囲があり、これは発振器の周波数を選択する前に決める必要があります。これは、250kHz~2.2MHzの範囲で単一の抵抗器から設定できます。一般に、周波数が低いほど効率は高くなり、スイッチング損失が低減することで動作入力電圧範囲が拡大し、最小オン状態およびオフ状態などのタイミング制約に対する感度が低くなります。

ただし、スイッチング周波数が高いほどサイズの小さい部品を使用でき、AMラジオなど影響を受けやすい周波数帯からスイッチングに関連するノイズを排除できます。マイナス面は効率の低下です。

高性能ADASセンサへの給電

ADASの機能の中には高性能センサをフロントエンドに配するものがあり、多くのスイッチング降圧レギュレータが提供できる水準よりも低いノイズまたは速い過渡応答が必要とされます。MaximのMAX15027低ドロップアウトリニアレギュレータ(AEC-100 Grade-1認定)は、このような状況向けに設計されています。1.425Vの低い入力電圧で動作し、わずか225mV(ミリボルト)の最大ドロップアウト電圧で最大1Aの連続出力電流を供給します。その広帯域幅によって高速な過渡応答がサポートされているため、500mAの負荷ステップで出力電圧変動が15mVに制限されます。このとき、出力側で使用されるのは4.7μF(マイクロファラッド)セラミックコンデンサのみです。

LDO最適性能に関する注意事項

MAX15027はLDOであり、使用する電源レギュレータのトポロジとしては最も単純な部類ですが、若干注意が必要です。まず、入力側の1μFセラミックコンデンサと出力側の4.7μFセラミックコンデンサは、ESRがミリオームの範囲に収まる高品質なものでなければなりません。ESRが数オーム以上である場合、LDOの入力および負荷の過渡応答が犠牲になり、内部LDOのループ安定性に問題が発生する場合や、自励発振が起こる場合があります。

次に、LDOはスイッチングレギュレータと比べてパッケージサイズに対する放熱率が比較的高いため、プリント基板がヒートシンクや熱の問題に対応できるレイアウトでなければなりません。このため、MAX15027のTDFNパッケージの裏面には放熱用の露出パッドが備えられ、プリント基板への低熱抵抗経路が確保されます。この経路がICからの熱の大半を伝えることで、プリント基板がヒートシンクとして有効に機能します。温度および電気に関する性能を最大限に高めるには、この露出パッドを大型の設置平面に接続する必要があります。

ただし、そのアプローチを独立して検討することは必要ですが、十分ではありません。付近のICやその他の部品が、それぞれのヒートシンクのニーズのためにプリント基板の同じ銅層が使用可能であることを前提としており、選択した冷却戦略で対応できる範囲を全体の熱負荷が超えないかどうか確認するためには、熱的モデルの使用が重要です。

この戦略は一般に、ICからパッドを介してプリント基板層に伝わる熱伝導に始まり、ほとんどの場合、離して配置したヒートシンクまたは冷却板での対流がそれに続きます。このように熱源が集まることで、IC裏面の放熱パッドで始まる基本的な冷却計画が無効になる可能性があります。

結論

ADASやインフォテインメントの使用は、その独特で難しいDC電源のニーズに対応する必要があることを意味します。それにより、静止電流を極めて低く抑えながら、極端な温度やDC入力レールの電圧範囲にもかかわらず機能できる、ICやその他の部品の開発と供給が促進されています。また、これらのICは、振動と衝撃に対する感度を下げるためにサイズを小さくする必要があり、幸いにもそれによりADASの機能におけるコンパクトな回路設計にも対応できます。

電源レギュレータのベンダーは現在、厳格な業界規格を満たし、ADAS向けに最適化されたスイッチングデバイスおよびLDO DC/DCデバイスを幅広く提供しており、基板の共同開発における課題が軽減され、BOMに関する決定が簡素化されます。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

出版者について

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