ソフトスタータユニットを使用してモータのパワーアップとサイバーセキュリティの問題を解決

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ACラインにより駆動される数十から数百馬力(HP)定格の3相非同期モータは、多くの商用および産業用アプリケーションの原動力となっています。通常、それらのモータは約10A~1000A以上のモータ駆動電流、200ボルトAC(VAC)強~700VACのライン電圧を備えています。設計者にとっての問題は、始動時に大きな突入電流が流れ、モータにダメージを与えたり、負荷に影響したりすることです。

ACラインとモータの間のソフトスタータ制御ユニットは、モータの始動加速度とトルクを管理することでこの突入電流を制御し、モータ性能を最適化して、望ましくない結果を最小限に抑えます。より高度なソフトスタータには、性能を最大化し、電気的および熱的保護を提供し、堅牢な接続オプション一式を備え、サイバー攻撃から保護するための洗練された機能が追加されています。

この記事では、ソフトスタータの機能について概説します。そして、Schneider ElectricAltivarソフトスタータATS480制御ユニットを紹介し、その適用方法を示します。

ソフトスタータの機能

ソフトスタータは、始動時の突入電流を低減して過渡期のトルクを制御するために、モータと共に使用されます。モータにかかる電圧を徐々に上昇させ、ジャーク(加速度の変化率)を最小限に抑えたスムーズな加速を実現します。

スタータは通常、さまざまな用途に合わせて始動トルクと加速時間をユーザーが調整できるようになっています。ブレークアウェイを達成するための始動電流を大幅に低減し、加速時の電流を抑制することができます。

最新のソフトスタータには、効率を高め、動的力率補正を使用して高い力率(PF)を維持し、電気的安全性を強化し、ラインとモータの異常を検出し、ネットワークコネクティビティを提供し、サイバーセキュリティの懸念に対処するための追加機能があります。

最先端のソフトスタータの機能と特長を示す一例として、Schneider ElectricのAltivarソフトスタータATS480シリーズがあります(図1)。

Schneider ElectricのAltivarソフトスタータATS480シリーズの画像図1:AltivarソフトスタータATS480シリーズは、そのコア機能に多くの高度な特長を追加しています。(画像提供:Schneider Electric)

これらのユニットには6個のサイリスタとトルク制御アルゴリズムが組み込まれており、最大900kWの3相かご形非同期モータの加速、減速、停止を制御します。このシリーズの幅広いモデルは、208~690Vの動作電圧と17~1200Aの電流に対応しています。すべてのユニットは、性能、安全性、効率、電磁両立性(EMC)、汚染等級、衝撃および振動を定義する世界的な規格、認証、規制の要件に適合しています。

ATS480ユニットには、以下のようなさまざまなタイプのライン保護、スタータ保護、負荷保護が組み込まれています。

  • 欠相(ライン)
  • 内蔵の熱保護(モータ)
  • 熱保護(スタータ)
  • 過電流(モータ)
  • アンダーロード(モータ)
  • 始動時間超過、ロックローター(モータ)
  • モータ位相損失(モータ)
  • ライン供給位相損失(ライン、モータ)
  • 正温度係数(PTC)サーミスタまたはプラチナ100(PT100)2または3線式測温抵抗体(RTD)プローブへの直接接続による熱保護(モータ)

対象アプリケーションの多様なニーズを満たすために、多くの回路接続の可能性があります。たとえば、基本的な構成の1つは、リモート制御の場合でも、エラーリセット後の再起動に手動介入が必要なローカル制御を対象にしています(図2)。ここで、オペレータはS3押ボタンを押して再起動します。

ソフトスタータの配線オプションの図図2:ソフトスタータの多くの配線オプションの1つを示しています。エラーリセット後の再起動は、S3を押して手動で開始する必要があります。(画像提供:Schneider Electric)

部品名称の詳細は、表1で定義されています。

図2の部品名称を示す表表1:図2の部品名称を示しています。(画像提供:Schneider Electric)

ATS480ユニットは、定格2A/250VACのディスクリートノーマリオープン(NO)およびノーマリクローズ(NC)電気機械式リレー接点と、30Vのオープンコレクタデジタル出力も備えています。これらの接点と出力により、表示ランプや補助装置などの追加機能の実装が簡単になります。

コネクティビティとサイバーセキュリティ

すべてのATS480ユニットは、高度なソフトスタータ機能に加え、幅広いコネクティビティオプションに対応しています。各ATS480ユニットには、構成やファームウェアのアップデートを行い、外部プレーンテキストまたはグラフィック表示端末に接続するためのRJ45ポートが2つあります。また、Modbus TCP、Ethernet/IP、CANopen、PROFINET、PROFIBUS DPのフォーマットをサポートする追加通信モジュール用のスロットが1つずつ装備されています。

このコネクティビティは、必然的にセキュリティ上の懸念をもたらします。それに対処するため、このシリーズでは、意図的な悪さ(ハッキング)および、スタッフや請負業者による不注意な行為から保護するために、サイバーセキュリティの「ベストプラクティス」をユニットに組み込んでいます。これらの保護には、ユーザー認証と承認を含むアカウント管理と、複数層のパスワード保護が組み込まれています。また、さまざまなポート、機能、ソースに意図的な制限があります。

より高度なセキュリティには、詳細な時間ログやユーザースタンプのアクティビティログを含む、サイバーセキュリティ関連のイベントを管理するための詳細でプロアクティブな防御が含まれます。インストールされたファームウェアとアップグレードの信頼性は、デジタル署名されたファームウェアと暗号鍵によって強化されます。これにより、各電源投入サイクルで有効なファームウェアの使用が保証されます。

ヒューマンマシンインターフェースにも対応

多くのソフトスタート装置では、広範なコネクティビティに加え、オペレータが即座に直接アクセスできる方法も必要になります。このアクセスは、モータや装置またはその近傍にある、個別の非常に見やすく、明確にラベル付けされたスイッチを介して、基本的なRUNとSTOPを開始することから始まります。これらは多くの場合、規制上の安全規格によって義務付けられています。

これらの要件を実現するために、ATS480ユニットは、独立した2つのRUN/STOPスイッチ、または1つのRUN/STOPスイッチで配線することができます(図3)。

独立した2つのRUN/STOP押ボタン、または1つのスイッチを2つの役割で使用する場合の図図3:ソフトスタータは、独立した2つのRUN/STOP押ボタン、または1つのスイッチを2つの役割で使用するように配線することができます。(画像提供:Schneider Electric)

基本的なセットアップ、実行、調査を行うために、8行のプレーンテキスト表示端末VW3A1113を使用することができます(図4)。入手可能なRJ45コネクタを使用し、この端子を接続してソフトスタータの前面に取付けるか、リモート取付けアクセサリを使用してエンクロージャのドアに取付けることができます。

Schneider ElectricのVW3A1113プレーンテキスト表示端末の画像図4:VW3A1113プレーンテキスト表示端末は、付属のRJ45コネクタを使用してソフトスタータに接続し、基本的なセットアップ、実行、調査機能をサポートします。(画像提供:Schneider Electric)

システムセキュリティを確保するため、この多言語ユニット(英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語、中国語、その他の言語もダウンロードにより利用可能)にはログイン用パスワードが必要です。一度接続すれば、次のような使い方が可能です。

  • ソフトスタータの制御、調整、設定
  • モータ、入出力、機械データの現在値を表示
  • 構成の保存とダウンロード
  • 電源が入っているソフトスタータの構成を、同じく電源が入っている別のソフトスタータに複製

より高度な診断、制御、監視、ファイル管理の機能は、SchneiderのDevice Type Manager(DTM)とSoMoveソフトウェアをPCベースのグラフィックターミナル表示装置で使用できます。

電力定格で決まるパッケージングとフォームファクタ

AltivarソフトスタータATS480ファミリの各ユニットは、同じ機能、性能、ユーザーインターフェース、コネクティビティを備えていますが、駆動電力レベルが異なります。駆動電力レベルにより、適切なパッケージングとフォームファクタが決まります。これは、シリーズ内の最低電力と最高電力の製品を見れば簡単にわかります。

ATS480D17Y(図5、左)は、208~690VACラインから17Aの電流で3相ACモータに供給および制御する定格を備え、110~230VACの制御電源を使用して動作します。寸法は高さ275mm、幅160mm、奥行き8mm、重さはわずか5kg弱です。

Schneider ElectricのAltivarソフトスタータATS480ファミリの最小ユニット(左)と最大ユニット(右)の画像図5:AltivarソフトスタータATS480ファミリの最小ユニット(左)と最大ユニット(右)は、機能的に類似していますが、電流処理と重量の仕様には大きな幅があります。(画像提供:Schneider Electric)

対照的に、ATS480M12Y(図5、右)は、208~690VACラインからはるかに強力な1200Aの電流定格を備え、110~230VACの制御電源を使用して動作します。17Aユニットとほぼ同等の特長と機能を備えながら、寸法は高さ890mm、幅770mm、奥行き329mmとはるかに大きく、重さは115kgです。

まとめ

ソフトスタータは、多相ACラインと中型~大型の3相ACモータをつなぐ重要な役割を果たし、突入電流を管理します。Schneider ElectricのAltivarsソフトスタータATS480ファミリは、広範なネットワークコネクティビティと強化されたサイバーセキュリティにより、17A~1200Aのモータをサポートします。また、性能、安全性、信頼性を向上させるためのさまざまな機能も備えています。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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