慎重な部品選択、トポロジ、レイアウトによる7.5桁の信号チェーン精度の実現
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2025-09-16
多くの分解能と読み出しの要件は4桁、あるいは5桁でも十分ですが、ラボ定格のデジタルマルチメータ(DMM)、電磁波測定器の較正、計量器/ラボ用天びん、地震計測などの用途では、7.5(7½)桁という意味のある表示による高精度が求められます。この性能は、避けられない大きなDC信号やオフセットが存在する場合でも、微小な低周波信号の変化を正確に測定するために必要です。
このレベルの精度を達成するには、部品選択や物理的実装に関連する要素に細心の注意を払いながら、多角的な取り組みを行う必要があります。設計者は、複数の潜在的な誤差源、短期的および長期的な挙動の影響、回路の安定性について理解しなければなりません。
この記事では、アナログ信号を7.5桁の精度で意味のある正確な読み取り値として表示する設計上の課題について、簡単に説明します。続いて、Analog Devicesが提供する、この性能達成に最適な部品を紹介します。
高精度読み出しのための部品選定
高精度システムは、その能動部品と受動部品から始まります。高集積化は設計とレイアウトを簡素化し、一定の性能レベルを保証しますが、設計者は最適化された単機能ICを適切な配置と物理的レイアウトで使用することで、より高い性能を達成できる場合が多々あります。これらの部品のプロセス、製造、熱問題と熱勾配、パッケージングおよび関連する応力は、アプリケーションの要件に最適に適合させることが可能です。
高精度7.5桁システム(図1)の中核をなすのは、プリアンプ、ゲイン設定用整合抵抗、A/Dコンバータ(ADC)、および電圧リファレンスです。
図1:7.5桁システムの信号チェーンの中核には、プリアンプ、ゲイン設定抵抗、ADC、電圧リファレンスが配置されています。(画像提供:Analog Devices、Bill Schweber氏による修正)
低レベルのアナログ信号は低ノイズプリアンプに送られ、そこで整合された精密抵抗によってゲインが設定されます。また、電磁干渉(EMI)フィルタが追加される場合もあります。増幅された信号は、高分解能ADCを通過し、精度を維持するため精密電圧リファレンスを用いてデジタル化された値を出力します。変換された出力は、複数の入出力(I/O)フォーマットのいずれかを通じてシステムプロセスに転送されます。
プリアンプ:ここでは、ノイズとドリフトという2つの重要なパラメータが、安定性と精度に影響を与えます。最適なプリアンプの候補の1つとして、ADA4523-1BCPZ-RL7(図2、左)が挙げられます。これは8ピン、36V、低ノイズ、ゼロドリフトのオペアンプです。このオペアンプは、4.5V~36Vという広い電源電圧範囲で高精度の直流特性を提供します。オフセット電圧と1/fノイズが抑制されており、最大オフセット電圧は±4μV、0.1Hz~10Hzの周波数範囲で代表的な入力ノイズ電圧値は最大振幅で88nV(p-p)を実現します。本デバイスは8ピンの面実装パッケージに収められており、DC近傍から10MHzまでの入力電圧ノイズ密度を示しています(図2、右)。
図2:ADA4523-1BCPZ-RL7(左)は8ピン面実装パッケージに収められており、右図はDC付近から10MHzまでの入力換算電圧ノイズ密度を示しています。(画像提供:Analog Devices)
チョッパ安定化方式のADA4523-1BCPZ-RL7はセルフキャリブレーション回路を備え、温度によるオフセット電圧ドリフトが小さく(最大0.01μV/°C)、時間変化に対してゼロドリフトを実現しています。さらに、ADA4523-1BCPZ-RL7はオンチップフィルタリングを採用し、EMIに対する高い耐性を実現しています。
ゲイン設定抵抗:回路をさまざまな入力信号振幅やフォーマットに適合させるため、プログラマブルゲインが必要とされる場合が多々あります。高精度性能においては、ゲイン設定抵抗ペアの絶対値が同じであることよりも、温度変化に対して抵抗ペアの値が同じように変化して整合されていることの方が重要です。これらのペアを組み込んだスタンドアロンデバイスは、アンプダイに集積された抵抗よりも一般的に優れた性能を発揮します。
たとえば、LT5401AHMSE#PBF(図3、左)は、完全差動増幅器用に最適化された超高精度整合抵抗ネットワークで、全温度範囲にわたって優れたマッチング仕様を備えています。整合抵抗のストリングが2本あり、それぞれが3つのタップポイントを提供します。ADA4523-1BCPZ-RL7オペアンプのペアと、これらのゲイン設定抵抗のペアを使用することで、希望のアンプ構成が可能になります(図3、右)。結果として得られる整合比は、差動アンプのゲインまたは減衰を正確に設定するのに最適です。
図3:LT5401AHMSE#PBF(左)には3組の整合抵抗を内蔵しており、2つのADA4523-1BCPZ-RL7アンプ(右)で構成される高精度プログラマブルゲイン段の要となります。(画像提供:Analog Devices、Bill Schweber氏による修正)
LT5401AHMSE#PBFの主要な精度と安定性特性は以下の通りです。
- 抵抗比マッチング:0.003%(最大値)
- コモンモード除去比(CMRR):96.5dB(最小値)
- ゲイン誤差:±25ppm(最大値)
- マッチング温度ドリフト:±0.5ppm/°C(最大値)
- 絶対抵抗値温度ドリフト:8ppm/°C
- 長時間安定性:6,500時間で8ppm未満
ADC:信号が増幅、調整された後、デジタル変換の準備が整います。さまざまなアーキテクチャや属性を備えたADCは数多くありますが、シグマデルタ方式は、変換時間と分解能のバランスを実現できるため、高精度アプリケーションに最適です。
適切なADCの例として、AD7177-2BRUZ-RL7(図4)が挙げられます。これは32ビット、10キロサンプル/秒(ksps)の低ノイズマルチプレクサコンバータで、100マイクロ秒(µs)のセトリングタイムとレールツーレール入力バッファを備えており、プリアンプ出力とのイ ンターフェースを容易にします。その複数の入力チャンネルは、クロスポイントマルチプレクサを介して、2つの完全差動チャンネルまたは4つのシングルエンドチャンネルとして構成することが可能です。
図4:マルチチャネルAD7177-2BRUZ-RL7シグマデルタADCは、高い変換分解能と入力チャネル構成の柔軟性を特長としています。(画像提供:Analog Devices)
なお、高度に集積化されたデバイスではありますが、その集積化は高精度アナログ性能を損なうものではありません。その多くはデジタルおよびI/O側で実現されているためです。複数の入力チャンネルが有用である理由は、多くの高精度アプリケーションにおいて、並列チャンネル間の比較が必要となる場合や、実際のデータ収集において1つのチャンネルをベースライン測定に使用する場合があるためです。
また、このコンバータは、信号の完全性を維持するために50Hzと60Hzの干渉を85dBのフィルタで除去し、50msのセトリングタイムでこれを実現します。また、オンチップの2.5Vリファレンス(±2ppm/°Cのドリフト)を搭載し、変換タイミングには内部クロックを使用するか、外部クロックを供給することが可能です。オンチップ電圧リファレンスは、多くのアプリケーションにおいて十分ですが、より高い精度が要求されるアプリケーションでは不十分です。そのため、AD7177-2BRUZ-RL7では、必要に応じて外部リファレンスを使用することができます。
電圧リファレンス:電圧リファレンスの性能は、信号チェーンを定義する要素です。ADC用の内部電圧リファレンスは、部品点数の削減、基板面積の節約、コンバータ性能の定義されたレベルの確保につながるため、ほとんどの場合に有益です。
しかしながら、オンチップリファレンスは、高精度で安定した低ノイズ電圧の供給という単一の目的を極めて高い精度で達成するために設計、製造、トリミング、テストされた専用スタンドアローンデバイスの性能には及ばない場合があります。ごく一部の例外を除き、システムの精度、正確性、安定性はリファレンスの性能を超えることはできません。しかしながら、自己発熱や熱勾配によるダイやパッケージの応力といった2次および3次誤差がリファレンスの性能に影響を与える可能性があります。
このため、Analog Devicesは、この単一機能のために設計、プロセス、パッケージングが最適化された高精度電圧リファレンスADR1399を提供しています。さらに性能を向上させるため、最高精度電圧リファレンスにはオンボードヒータを搭載しています。これにより、一定温度を維持し、温度変動が安定性に与える大きな影響を抑制します。
ADR1399は、固定出力7.05Vの高精度埋め込みツェナーシャント電圧リファレンスICで、幅広い電圧、温度、静止電流条件において優れた温度安定性を特長としています。温度安定化ループが、アクティブツェナーと一体のモノリシック基板上に組み込まれており、温度による電圧変化をほぼ除去します。
埋め込みツェナー回路は、3ミリアンペア(mA)の静止電流で完全に規定されており、0.1~10Hzで1.44μVp-p、10Hz~1kHzで1.84μVRMSという超低ノイズを実現しています。また、0.2ppm/°Cという極めて低い温度係数と、7ppm/√kHrs(ppm/√kHrs)という優れた長期安定性を提供します。
このデバイスには2つのバージョンが用意されています。ADR1399KHZ(図5、左上)はプラスチック製の断熱材に収められた、シンプルな4ピンの密閉型TO-46パッケージです。断熱材は、周囲の変動を最小限に抑え、必要なヒータ電力を低減します。
一方、ADR1399KEZ(図5、左下)は非断熱の8ピン面実装リードレスチップキャリア(LCC)を採用しています。追加の4ピンのうち2本は内部で接続されておらず、残りの2本はアクティブリファレンスをケルビン接続のフォースと検知動作に分割し、より高い精度を実現しています。パッケージタイプがリファレンス電圧の温度特性に及ぼす影響は、TO-46缶パッケージの ADR1399KHZ(図5、右上)とLCCパッケージのADR1399KEZ(図5、右下)の間で無視できるほどの差しかありません。
図5:パッケージタイプ(左)がリファレンス電圧の温度特性に及ぼす影響は、TO-46缶パッケージのADR1399KHZ(右上)とLCCパッケージのADR1399KEZ(右下)の差はごくわずかです。(画像提供:Analog Devices)
回路トポロジ
高精度を実現するためには、設計者は、本質的に誤差源を低減、あるいは相殺するトポロジやアーキテクチャを採用する必要があります。一部の信号では、誘導ノイズをバランス調整、相殺するために差動構成が必要となる場合があります。マッチング抵抗とトラッキング抵抗は、特に温度変動下においてアンプの差動特性を改善することが可能です。さらに、ブリッジアームの不要なドリフトが相互に相殺され、目的の信号のみが残る比測定構成を実現するため、ホイートストンブリッジが頻繁に採用されます。
物理的実装
精密設計の物理的構造は、性能に重要な役割を果たします。EMIシールドや熱電対効果など、考慮すべき要素は多数あります。異種金属の接合部はすべて熱電接点を形成し、温度依存性の微小電圧(ゼーベック効果)を発生させます。これらは、低ドリフト回路において主要な誤差源となる場合があります。コネクタ、スイッチ、リレー接点、ソケット、抵抗器、はんだ付け箇所はすべて、大きな熱起電力(EMF)発生の要因となる可能性があります。
異なるメーカーの銅線を結合した場合でさえ、200nV/°Cの熱起電力が発生場合があります。これはADA4523-1BCPZ-RL7の最大ドリフト仕様の10倍以上に相当します。図6は、EMF電圧の潜在的な大きさとその温度感度を示しています。
図6:異なるメーカーの銅線同士の結合部(左)と、はんだと銅の結合部(右)で発生する熱起電力が示されています。(画像提供:Analog Devices)
もちろん、複数の回路接地も大きな考慮事項です。十分な容量を持ち、低インピーダンスで、アナログとデジタルを分離した接地が不可欠です。電流の流れをマッピングし、敏感な領域から遠ざける必要があり、2つの接地領域間の接続点は1つだけにするべきです。電源レールと負荷に隣接する接地間のバイパスコンデンサを慎重に配置する通常の考慮事項も同様に適用されます。
較正
最終ユニットの較正が精度と安定性の問題を解決する最も直接的な方法だと思われるかもしれませんが、通常はそうではありません。このレベルの分解能精度での較正には、極めて高価な標準器と入念に設計されたセットアップが必要であり、また時間のかかるプロセスとなります。さらに、このユニットは定期的な再較正を行う必要があります。
較正結果は、測定誤差を補正または補償するために複数の方法で活用されます。較正は、目標を達成するための手段というよりも、設計性能を検証する上で最も効果的です。
まとめ
アナログおよび混合信号設計において、7.5桁という意味のある精度と正確性を達成することは、重要な課題です。設計ソリューションは、適切な部品、回路トポロジ、物理レイアウト、そして適切な較正を組み合わせる必要があります。Analog Devicesが提供する一流の部品、専門知識、アプリケーションサポートに加え、設計の細部にわたって細心の注意を払うことで、この課題への対応が可能になります。

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