用途に特化したICを使用して車載用ドアエレクトロニクス設計を簡素化
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-04-29
2030年までに、エレクトロニクスは車両コストの50%を占めるようになるでしょう。電子的コンテンツの成長分野の1つは自動車のドアです。各ドアにはコントローラ、コントローラエリアネットワーク(CAN)、または他の車両システム、複数のモータドライバ、および電圧レギュレータに接続するためのローカル相互接続ネットワーク(LIN)トランシーバが必要なため、ドアエレクトロニクスの設計は挑戦になります。これらのデバイスおよびネットワークのデザインインは、複雑で負担が多く、費用や時間もかかります。したがって、設計者はアプリケーションを簡素化し、BOM(部品表)を合理化する方法を探しています。
車載用アプリケーションのために設計された特定業務用標準製品(ASSP)は、設計者のタスクを軽減します。さらに、これらのソリューションにより、設計者は設計およびコスト制約の複雑さに応じて、ドアエレクトロニクスに対する集中型または分散型アプローチのいずれかを活用できます。
この記事では、ネットワーク化されたドアエレクトロニクスシステムの進化について、また集中型および分散型アプローチそれぞれの利点と欠点について説明します。そしてこの記事では、集中型設計用の単一のボディ制御ユニット(BCU)、または分散型アプローチで各ドアに対する個別のBCUの設計を容易にするためのASSPの使用方法を紹介します。また、CANおよびLINソリューションによってこれらのアプローチを自動車の車内ネットワーク(IVN)に統合する方法についても考察します。例として、ON Semiconductorのソリューションを使用します。
車載用エレクトロニクスとネットワーク機能の進化
車載用エレクトロニクスは、燃料噴射を管理するエンジン制御ユニット(ECU)のニーズとともに始まり、1970年代にキャブレターに取って代わるようになりました。それ以降、エレクトロニクスは急速に普及しました。現在の高級車は、以下4つの主要分野で包括的な電子システムを備えています。
- パワートレイン(エンジン制御、トランスミッション制御、スタータ/オルタネータ)
- ボディおよび快適性(照明、HVAC、座席/ドア、リモートキーレスエントリ)
- 安全性(ABS、パワーステアリング、エアバッグ、運転支援)
- インフォテイメント(ナビゲーション、オーディオ、マルチメディア、セルラーコネクティビティ、Bluetooth、テレマティクス、ダッシュボード)
これらのシステムは、それぞれ専用のコンピューティングモジュールを使用します。個々のモジュールは、CANまたはLINテクノロジに基づきIVN経由でリンクされます。
CANは、コンピューティングモジュールおよびセンサ/アクチュエータがホストコンピュータを必要とせずに通信できるようにするために設計されたビークルバス規格です。CANは接続を優先順位付けするため、1台以上のデバイスが同時に送信すると、最も重要な接続が優先され、競合問題を回避して重要な機能が遅延しないようになります。CANは車両内のすべての電子部品の接続に使用するにはコストが高すぎるため、大抵はLIN(一般的に搭乗者の快適性に関連した急を要さない機能のために、より単純で低コストのシリアルリンク技術を使用)で補完することによって、IVNにすべてのデバイスを追加します。
この記事では、車両のドアに関連した電子システムに焦点を当てています。自動車の他の分野と同様に、ここでも運転者の利便性のためにエレクトロニクスがますます使用されるようになっています。
最先端の自動車には、電子制御された窓、ロック、およびミラーが搭載され、さらに最近では挟み込み防止などの機能が導入されています。高級車には、ドアミラーの除霜、ミラーインジケータ、およびドアインテリア照明などの機能が備えられています。次世代のハイエンドモデルには、他の車両のライトの明るさに応じてサイドミラーを暗くするエレクトロクロミックミラー制御が搭載されるでしょう。
分散型と集中型の車載用エレクトロニクス制御
ドアエレクトロニクスの集中型トポロジは、現在最も一般的なアプローチで、ドア機能が限られた低コスト車両では特にそう言えます。BCU(INVシステム、マイクロプロセッサ、アクチュエータドライバ、およびディスクリート部品で構成されるモジュール)は、送電用とCAN/LIN通信用に別個の配線を使用して、各ドアのアクチュエータに接続されます。このアプローチの主な利点は、コスト(必要なのは1個のBUCのみ)とスケーラビリティです(図1)。
図1:集中型ドアエレクトロニクスシステムは、単一のBUCを使用することでコストを節約します。(画像提供:ON Semiconductor)
ただし、集中型トポロジは、高級車では人気がありません。なぜなら、高級車にはより優れたレベルの機能性が求められ、配線の量も増えるからです。その結果、ワイヤハーネスの重量や複雑さが増し、コストも上昇します。
もう一つの方法は、各ドアにBCUを搭載する分散型アプローチです。この実装では、BCU(ローカルでドアアクチュエータに電力を分配)および車両の他の部分に拡張されるCAN/LIN接続に必要な単一電源のみを使用し、配線の大部分は局所化されます。主な利点は、ワイヤハーネスの重量、複雑さ、コストの劇的な減少に加え、特定のドアに適合するBCU設計の柔軟性です。たとえば、フロントドアのBCUには、ドアミラーに対応するための付加的な機能が必要です(図2)。
図2:分散型システムにより、ワイヤハーネスの重量と複雑さが軽減されます。(画像提供:ON Semiconductor)
分散型トポロジの人気が高まっているものの、集中型アプローチが消滅するというわけではありません。設計方法の選択の大部分は、コストとワイヤハーネスの複雑さとのトレードオフによって決まります。
各ベンダーは、分散型または集中型ソリューションいずれかの設計を簡素化するソリューションを提供しています。たとえば、ON Semiconductorは、ドアエレクトロニクス向けにさまざまなASIC、ASSP、およびディスクリート部品を提供しています。設計者は好みのマイクロコントローラを自由に選択できます(図3)。
図3:ON Semiconductorは、分散型および集中型BCU向けにさまざまなASIC、ASSP、およびディスクリートソリューションを提供しています。これにより、設計者は好みのマイクロコントローラを自由に選択できます。(画像提供:ON Semiconductor)
車内ネットワーク
設計者がドアエレクトロニクス制御において分散型または集中型設計のどちらを選択するかにかかわらず、IVNにBCUを確実に統合する必要があります。コントローラと物理バス間でインターフェースを形成するCANトランシーバとペアリングされたCANコントローラにより、CANコネクティビティが促進されます。車載用アプリケーションに適したCANトランシーバの例には、1メガビット/秒(Mbit/s)の高速CANデバイスであるON SemiconductorのNCV7341D21R2Gが含まれます。このチップは、厳しい自動車環境で優れた電磁イミュニティ(EMI)を実現するために、高いコモンモード範囲を備えた差動レシーバを搭載しています。さらに、このチップのバスピンは、車載用電気システムを悩ませる電圧過渡から保護されています(図4)。
図4:5VのCANコントローラを備えたNCV7341D21R2G CANトランシーバの一般的なアプリケーション回路図。トランシーバは、分散型または集中型自動車ドアシステムのどちらにとっても、IVNに接続するための優れた選択肢です。(画像提供:ON Semiconductor)
分散化システムには、IVNへのCANコネクティビティだけでなく、フロントおよびリアのBCU間のLINコネクティビティも必要です(図2を参照)。フロントドアのBCUはCANに接続されていますが、コストと配線を節約するため、リアのBCUはLINによりフロントのBCUにデイジーチェーン接続されています。LINでは各ノードに対して1本のワイヤを使用することにより、配線を簡素化し、コストを削減しています。スループットは最大20キロビット/秒(kbits/s)に制限されていますが、これはドアロック、窓、ドアミラーなどの装置を制御するには十分です。
ON SemiconductorのNCV7321D12R2G LINトランシーバは、ドアエレクトロニクスのLINコネクティビティを実現するための優れた選択肢です。このチップには、LINトランスミッタ、LINレシーバ、パワーオンリセット(POR)回路、サーマルシャットダウン、および4つの動作モード(電力供給なし、スタンバイ、ノーマル、スリープ)が組み込まれています。これらのモードは、電源電圧(VBB、5~27V)、入力信号イネーブル(EN)およびWAKE、LINバス上のアクティビティによって決まります。トランシーバは、最大スループットに最適化され、LIN出力の低いスルーレートによって優れたEMI特性を提供します。
LINトポロジは、1つのマスターノードを使用して、最大16個の一連のスレーブノードを制御します。分散型システムでは、ウィンドウ制御パネルのような周辺装置にスレーブノードが組み込まれていますが、フロントおよびリアのBCUにはマスターノードが組み込まれています(図2を参照)。マスターノードは、LINトランシーバを適切なマイクロコントローラとペアリングします(図5)。
図5:マスターノード構成におけるNCV7321D12R2G LINトランシーバの一般的なアプリケーション回路図。各マスターノードは、最大16個のスレーブノードを制御できます。(画像提供:ON Semiconductor)
ドアアクチュエータドライバ
分散型または集中型トポロジにおけるBCUの他の主要部品は、ドアロック、ミラー、窓、および他のシステムに電力供給するために必要なアクチュエータドライバです。ON Semiconductorは、これらのアプリケーションの車載用および産業用モーション制御向けに特別に設計されたトリプルハーフブリッジドライバである、NCV7703CD2R2Gを提供しています。これら3つのハーフブリッジドライバは、標準のシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)を介して個別に制御可能で、標準出力500mA、最大出力1.1Aを供給できます。このチップには、3.15~5.25Vの電源電圧、および5.5~40Vの負荷電圧で電力供給できます。
主な設計制約は、最高ダイ温度です。デバイスの3つのドライバのうち同時に使用可能なドライバ数を制限したとしても、150°Cのダイ温度を超過することはできません。
出力ドライブ制御(および故障レポート)は、SPIポートを介して処理されます。EN機能は、デバイスの不使用時に低静止電流のスリープモードを提供します。また、EN、SI、SCLK入力上でプルダウン抵抗を提供することにより、入力信号が遮断された場合にデフォルトのロー状態に戻るようにします。
ドアミラー位置決めシステムにおけるNCV7703CD2R2Gトリプルハーフブリッジドライバの使用方法を、図6に示します。この配列では、3つのハーフブリッジドライバからの出力が、ミラーをXおよびY方向に動かすために使用される2個の電気モータに電力供給します。
図6:ミラー位置調整アプリケーションにおけるON SemiconductorのNCV7703CD2R2Gトリプルハーフブリッジドライバのブロック図は、3つのハーフブリッジドライバからの出力が、ミラーをXおよびY方向に動かすために使用される2個の電気モータに電力供給する方法を示しています。(画像提供:ON Semiconductor)
1個のマイクロプロセッサを使用して、複数のNCV7703CD2R2Gトリプルハーフブリッジドライバを制御することにより、ドアエレクトロニクスのBOMを削減できます。これを実行するための最も効率的な方法は、各デバイスを多重化制御し、ドライバを並列に作動させることです。
シリアル構成では、シリアル文字列の最後のデバイスのプログラミング情報が、最初に以前のデバイスすべてを通過する必要があります。並列制御トポロジではその要件が排除されますが、プロセッサの選択肢が各ドライバのチップセレクト(CSB)ピンを提供するデバイスに絞られます。次に、シリアルデータは、それぞれのCSBピンを介してアクティブ化されるデバイスによってのみ認識されます(図7)。
図7:ドアエレクトロニクスのBOMコストは、1個のマイクロプロセッサを使用して複数のトリプルハーフブリッジドライバを制御することにより削減できます。(画像提供:ON Semiconductor)
NCV7703CD2R2Gトリプルハーフブリッジドライバには、内部動作用の電源入力において5Vの安定化が必要です。この要件に対する優れた選択肢は、ON SemiconductorのNCV8518BPWR2Gリニア電圧レギュレータです。このチップの固定出力は5Vで、±2%以内で安定化します。このチップは、すべての自動車環境での使用に適しており、425mV標準の低ドロップアウト電圧、100µAの低静止電流を備えています。安全機能には、サーマルシャットダウン、短絡保護、および最大45Vの過渡に対応する機能が含まれます。リニア電圧レギュレータは、BCUのマイクロプロセッサに電力供給するためにも使用できます(図8)。
図8:NCV8518BPWR2Gリニア電圧レギュレータは、BCU上のアクチュエータドライバやマイクロプロセッサに5V出力を供給するための優れた選択肢です。(画像提供:ON Semiconductor)
低コストオプションを必要とするドアエレクトロニクス部品用リニア電圧レギュレータの別の選択肢には、NCV8184DR2Gがあります。このチップは、-3.0~45Vの調節可能なバッファ出力電圧を提供し、リファレンス入力を注意深く監視(±3.0mV)します。その動作電圧範囲は、4.0~42Vです。
NCV8184DR2Gの有用な機能は、従来の構成において、損傷なしに自動車用バッテリへの短絡に耐えられることです(図9)。このチップは、低電圧で絶縁型電源から電力供給される場合にも、バッテリへの短絡に耐えることができます。
図9:NCV8184DR2Gは、BCU電圧安定化の低コストオプションであり、車両バッテリへの短絡に耐えることができます。(画像提供:ON Semiconductor)
ディスクリート部品
ON Semiconductorは、IVN、アクチュエータドライバ、および電圧安定化用のモノリシックデバイスに加えて、車載グレードのツェナーダイオードなどのさまざまなドアエレクトロニクス用ディスクリート部品も提供しています。これらの部品は、過渡電圧抑制(TVS)によって、雷や静電気放電(ESD)などの外的要因が引き起こす電圧スパイクからBCUの敏感なシリコンを保護するために使用できます。(車載用エレクトロニクスの保護に関する詳細については、DigiKeyライブラリの記事「TVSダイオード保護の設計によりCANバスの信頼性を向上させる」を参照してください。)
ツェナーダイオードの2つ目の用途は、抵抗器やMOSFETと組み合わせて、安価でコンパクトなリニア電圧レギュレータの基礎を構築することです。ディスクリート部品からアセンブリしたリニア電圧レギュレータにより、車両バッテリからの電源電圧を安定化させて、アクチュエータのプリドライバやドライバに電力供給することができます(図10)。車載バッテリは約14Vを供給しますが、NCV7703CD2R2Gトリプルハーフブリッジドライバの電源電圧(VS) は5.5~40Vです。このシンプルで安価なツェナーダイオードのリニア電圧レギュレータは、自動車バッテリの電圧出力が変動する場合でも、ドアエレクトロニクスに対して安定した電圧を維持します。
図10:ドアエレクトロニクスのBCUの一部は、ディスクリート部品からアセンブリされたリニア電圧レギュレータを示しています(強調表示された部分)。このデバイスは、車両バッテリの電圧(Vbat)をアクチュエータブリッジに必要な電源電圧(VS)へと安定化させます。(画像提供:ON Semiconductor)
この用途に適合するツェナーダイオードは、ON SemiconductorのSZBZX84C5V1LT3Gです。これは、コンパクトなSOT-23パッケージで供給される車載用(AEC-Q101)グレードのツェナーダイオードです。これらのデバイスは、最小限のスペース要件で電圧安定化を提供します。ツェナーダイオードの最大許容損失は250mWで、ツェナー降伏電圧は選択した部品に応じて2.4~75Vです。
完全なレギュレータには、ツェナーダイオードを流れる電流を制限するための抵抗器が必要です。安定化を実行するために十分な量の電流が負荷およびツェナーに流れるような抵抗器を選択する必要がありますが、多すぎることがないようにします。ツェナーレギュレータには高いソースインピーダンスがあります。これは、すべての負荷電流が電流制限抵抗器を通過して、レギュレータが負荷に提供可能な電流の量を制限する必要があるためです。図10で示すMOSFETなどのソースフォロワを使用してツェナーダイオードの出力をバッファすることにより、この制約を克服することができます。(詳細については、Maker.ioの記事「Zener Diode Regulator with Transistor Current Buffer(ツェナーダイオードレギュレータ+トランジスタ電流バッファ)」を参照してください。)
結論
自動車メーカーが車両により多くの機能を追加しているため、ドアエレクトロニクスはますます複雑になっています。この傾向により、エンジニアがコスト、重量、空間、信頼性などの制約を満たすシステムを設計することはさらに困難になっています。
上述のとおり、相互に補完する車載用規格を満たすように設計されたASIC、ASSP、およびディスクリート部品は、設計上の課題を軽減し、ドアエレクトロニクス設計へのモジュラーアプローチを可能にします。このようなアプローチにより、優れた性能と信頼性を維持しつつ、仕様やBOMの制約を満たすことがより簡単になります。
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