コンパクトEV電源設計に車載グレードフライバックトランスを使用

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

革新的な自動車設計における電気および電子電源の要件は、出力の向上、効率の向上、スペースの削減、信頼性の向上に要約できます。電気自動車(EV)の場合、効率はユーザーの「走行距離不安」を軽減する上で極めて重要です。EVの要件を組み合わせると、待機用および補助電源の小型で軽量な電源ソリューションが求められます。小型電源には、高密度で配置された部品間の電気的故障を防止するための絶縁強化や、電磁干渉(EMI)の低減などの新たな課題があります。

フライバック電源コンバータは、補助電源の生成、バッテリ管理、ゲートドライブ電源など、さまざまな低消費電力EVアプリケーションで広く使用されています。これらのコンバータは、部品点数を削減したシンプルな設計により、小型化、信頼性の向上、コスト削減を実現しています。フライバック電源の心臓部はフライバックトランスであり、これは一般的に高電圧絶縁を実現ために必要な最も大きい部品の1つです。

この記事では、フライバックコンバータの動作原理、誘導性および容量性寄生成分の影響、および部品サイズと信号絶縁の重要性について説明します。その後、Bournsのフライバックトランスを紹介し、車載用電源に関する数々の課題にどのように対処できるかを示します。

フライバックコンバータ

フライバックコンバータは、最大100Wの電力に対応する、シンプルで最小限の部品で構成された設計で注目されています。これらの設計の心臓部はフライバックトランスであり、コンバータ回路の1次側と2次側間で電力伝達と絶縁の両方を担います(図1、上)。コンバータは、フライバックトランスの構成によって、直流電源の電圧を昇圧または降圧することができます。フライバックトランスに加え、この回路には1次側のスイッチ(SW)(通常はMOSFET)、および2次側の整流器/フィルタが必要です。

フライバックコンバータの基本要素の概略図の画像図1:フライバックコンバータの基本要素(上)および重要な動作波形(下)の概略図。(画像提供:Bourns Inc.)

動作サイクルは、SWをオンしてVgsをハイ状態にすると開始します(図1の下)。スイッチが閉じ、そしてインダクタの両端にかかる電圧はステップ関数となります。インダクタは電流の瞬間的な変化を妨げ、そして印加されたステップ電圧を積分する役割をします。この結果、ランプ関数が生じ、フライバックトランスの1次巻線に流れる電流は、1次側のインダクタンスの影響により直線的に増加します。整流ダイオード(D)が逆バイアスされているため、トランスの2次側には電流は流れず、フライバックトランスの磁気コアにはエアギャップがあるため、トランスの磁界が増加しても飽和することはありません。

スイッチをオフにして、Vgsをロー状態に戻すと、トランスの磁界に蓄積されたエネルギーが、順バイアスされたダイオードを通して2次側に伝達され、出力コンデンサ(C2)に充電されます。2次電流は、磁界からのエネルギーが消費、またはスイッチが再びオンして次のサイクルが始まるまで、直線的に低下します。

リニア電源に見られるような典型的なトランスは、1次巻線から2次巻線へ連続的にエネルギーを伝達します。フライバックトランスの動作は、動作サイクル中に連続的にエネルギーを伝達しない点で、一対の結合インダクタの動作により近くなります。しかし、トランスのように、1次巻線と2次巻線数比を変えることで出力電圧を調節することができます。フライバックトランスはまた、1次巻線と2次巻線間でガルバニック絶縁を行うことができます。さらに、複数の2次巻線に対応しているため、コンバータから複数の出力電圧を得ることができます。

フライバックコンバータにおける寄生効果

電子回路の典型であるフライバックコンバータは、寄生インダクタンスや寄生容量によって望ましくない影響を受けます(図2)。

フライバックコンバータの回路図の画像図2:コンバータ部品に関連する寄生容量とインダクタンスを赤色で強調したフライバックコンバータの回路図。(画像提供:Bourns Inc.)

励磁インダクタンス(Lm)は、フライバックトランスのエネルギー蓄積を決定する主要な誘導特性です。また、トランスには寄生漏れインダクタンス(Llk)があり、これはスイッチと直列に接続されます。スイッチが開くと、1次電流を流し続けようとし、スイッチ両端にかかる電圧を上昇させます。ほとんどのフライバックコンバータは、クランプ回路またはスナバを採用し、この過渡電圧からスイッチを保護します。この効果は磁界放射を増加させ、EMIにも影響を与えます。また、基板配線のインダクタンス(Ltr)が、このような影響を助長します。

トランスの設計者は、漏れインダクタンスを最小限に抑えるめにあらゆる努力をしています。主な対応策は、1次巻線と2次巻線の結合を高めることです。これは、巻線間の間隔を可能な限り狭くし、交互に配置することによって実現できます。

分布容量には、1次容量(Cp)、巻線間容量(Cps)、2次容量(Cs)、FET出力容量(Co)、2次ダイオード容量(Cd)があります。これらの静電容量はインダクタンスと相互作用して、コンバータの信号波形の完全性を低下させます(図3)。

容量性寄生および誘導性寄生要素がスイッチング波形に及ぼす影響の図(クリックして拡大)図3:容量性寄生および誘導性寄生要素がスイッチング波形に及ぼす影響を示します。(画像提供:Bourns Inc.)

スイッチング波形は、オーバーシュートもアンダーシュートもない矩形パルスが理想です。この矩形パルスの遷移時間が速いため、電流が増加する前に電圧波形がゼロになることが保証されます。実際には、寄生容量やインダクタンスの影響で遷移時間が遅くなり、オーバーシュート、アンダーシュート、リンギングの原因となります。さらに、立ち上がりと立ち下がりの時間が遅くなると、ゼロでない1次電圧と電流の波形が重なるため、コンバータのスイッチング損失が増加します。この重なりは、FETスイッチのスイッチング損失として電力を消費し、コンバータの効率を低下させます。パルスのトップにおける顕著な落ち込みは、負荷抵抗と励磁インダクタンスによるものです。

フライバックトランスを設計する際には、自己共振周波数をコンバータのスイッチング周波数からできる限り離すようにする必要があります。また、スイッチとフライバックトランス間の配線をできるだけ短くすることで、寄生容量を最小限に抑えることができます。さらに、巻線間容量は、1次信号の高周波成分を出力に結合するための経路となります。巻線間容量が大きいほど、コンバータの伝導EMIエミッションは大きくなります。巻線の結合を密にすると漏れインダクタンスは減少しますが、巻線間容量が増加するため、最適な性能を得るには設計上のトレードオフが必要です。そこで重要になるのが、トランス設計者の経験です。

小型化および信号絶縁

車載アプリケーション向けの部品は、できる限り小型である必要があります。部品の物理的なサイズは、材料の特性と部品の機能の物理的特性によって決定されます。フライバックトランスの場合、導体の間隔は、ピーク使用電圧と規格認証に必要な電圧試験に対応できる十分な余裕を確保する必要があります。電圧破壊に関する重要な仕様は、クリアランスと沿面距離です(図 4)。

クリアランスと沿面距離の視覚化図図4:クリアランスと沿面距離とは、絶縁破壊やアーク放電を防ぐために必要な、隣接する導体間の最小距離を示す仕様です。(画像提供:Bourns Inc.)

クリアランスとは、空気中の2つの導電性パス間の最短距離のことであり、沿面距離とは、絶縁材料の表面に沿った2つの導電性パス間の最短距離のことです。これらの距離は、アーク放電を防ぎ、電気的絶縁を維持する上で極めて重要です。

EV要件に適合するフライバックトランス

BournsのHVMA03F40C-ST10S(図5)フライバックトランスは、車載規格に適合し、100kHz~400kHzのスイッチング周波数で動作するように設計されており、最大3Wの定格に対応しています。

BournsのHVMA03F40C-ST10Sフライバックトランスの画像図5:HVMA03F40C-ST10Sフライバックトランス(左)の定格出力は3Wで、デュアル出力巻線(右)を備えています。(画像提供:Bourns Inc.)

このフライバックトランスは、車載グレードのAEC-Q200準拠部品で、-40°C~+155°Cの温度範囲で動作します(自己発熱を含む)。これは8パッドの表面実装デバイスで、フットプリントは9.5mm × 10.3mm、高さは13mmと非常に小型です。6V~27Vの1次側駆動で動作するように設計されており、2次側のデュアル2次巻線は14Vの公称出力を発生ます。

1次巻線(ピン1と2の間)の主インダクタンスは40マイクロヘンリー(mH)で、漏れインダクタンスはわずか1.1mH、そして直列抵抗は1.0Ωです。主2次側巻線(ピン6と7の間)の直流抵抗は1.0Ωです。補助出力(ピン3と4間)の直列抵抗は1.4Ωです。トランスは1:1:1の巻数比でユニティゲインに設定されています。

使用電圧は最大900Vまで対応し、その絶縁電圧は4,000VACです。定格電圧が高いにもかかわらず、トランスの定格沿面距離は10mmで、クリアランス距離は6mmです。

このフライバックトランスは、トランジスタのゲートドライブ用電源、バッテリ管理回路、EVの独立電源回路間の絶縁電源など、車載用アプリケーションに最適です。固定スイッチ周波数でパルス幅変調、または固定パルス幅と可変周波数制御で動作する多くのフライバックコントローラ用ICと互換性があります。

まとめ

BournsのHVMA03F40C-ST10Sは、設計者がEVの電源要件を満たすのに特に適しています。AEC-Q200に準拠しており、小型のフォームファクタ、クリアランスおよび沿面距離の仕様への準拠、幅広い温度範囲で3Wの定格を特徴としています。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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