パワーアプリケーション用フィルムコンデンサの理解と選択

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ソーラーパネルと電気自動車(EV)の使用は増え続けています。これらの電源システムはDC/DCコンバータやDC/ACインバータに依存しており、低周波リップルを低減し、電磁干渉(EMI)の原因となる高周波成分をフィルタリングし、過渡負荷電流を吸収して電源の1次側に影響を与えないようにするためにコンデンサが必要です。このようなパワーアプロケーションに使用されるコンデンサは、信頼性が高く、小型、軽量、長寿命で、優れた高周波性能を備えている必要があります。

フィルムコンデンサはこのようなパワーアプリケーションに適した選択肢ですが、設計者はその構造と特性を理解して適切なデバイスを選択する必要があります。

この記事では、フィルムコンデンサの概要について説明します。そして、Eaton-Electronics Divisionの例を用いて、パワーアプリケーションにおけるその選択と使用について解説します。

フィルムコンデンサ

他のコンデンサと同様、フィルムコンデンサは、2枚の導電性プレートを低損失で高誘電体であるポリプロピレン製の薄いプラスチックフィルムからなる絶縁誘電体で分離したものです(図1)。導電性プレートは、薄い金属箔または誘電体上に蒸着された薄い金属層です。金属箔とフィルムはコアに巻かれ、リード線が取り付けられ、コンデンサはプラスチックケースに入れられ、エポキシ樹脂で密閉され、コンデンサを環境から保護します。

金属層と誘電体層を交互に巻いたコアで構成されるフィルムコンデンサの図図1:フィルムコンデンサは、保護プラスチックケースに封入された金属層と誘電体層を交互に巻いたコアで構成されています。(画像提供:Eaton-Electronics Division、Art Pini氏により修正)

フィルムコンデンサはエネルギー密度が比較的低いですが、静電容量密度が高く、他にもいくつかの特徴があります。まず、フィルムコンデンサは無極性であり、AC回路でもDC回路でも使用できます。乾燥した固体誘電体であるため、液体や半液体の電解質を使用したコンデンサよりも信頼性が高く、優れた温度安定性で安定した静電容量値を持っています。等価直列インダクタンス(ESL)と等価直列抵抗(ESR)が低いため、高いリップル電流を効果的に扱うことができ、フィルムコンデンサは高周波アプリケーションに適しています。フィルムコンデンサの最も大きな特徴は、自己修復性です。誘電破壊が発生した場合、部分的なホットスポットが形成され、隣接する金属が気化して非導電性の穴が形成され、コンデンサが正常に機能するようになり、寿命が延びます。

フィルムコンデンサのタイプ

フィルムコンデンサは特定の用途に合わせて調整され、一般的なタイプは安全、DCリンク、ACフィルタ、パルスなどです。安全フィルムコンデンサは、ACラインフィルタリング用途で伝導エミッションを減衰させるように設計されています。多くの国際安全規格は、伝導EMIに関する要求事項を定めています。EV用のライン電源駆動DC充電器を考えてみましょう。急速充電DCステーションでは、コンデンサを介したコモンモードおよび差動モードのEMIフィルタリングが、最小限の電力消費でノイズ信号を遮断する低インピーダンス回路として機能します。

EMI抑制には、電源ラインとスイッチング電源の間にフィルムコンデンサで構成されるラインフィルタを使用します(図2)。

ラインフィルタに組み込まれる安全フィルムコンデンサCXとCYの構成図(クリックして拡大)図2:安全フィルムコンデンサCXとCYは、EMIが電源ラインに伝播するのを防ぐためにラインフィルタに組み込まれています。(画像提供:Eaton-Electronics Division)

CXと表示されたコンデンサは、ラインとラインの間に配置され、差動モードのEMIを低減します。CYコンデンサは各ラインからグランドに配線され、コモンモードEMIを低減します。

DCリンクコンデンサは、AC段の間にあるDC回路の平滑フィルタとして機能します。たとえば、モータ駆動回路の整流器とインバータ段の間のDCバス上のインダクタ - コンデンサ(L-C)フィルタです(図3)。

L-Cフィルタに使用されるDCリンクフィルムコンデンサの画像図3:モータ駆動回路の整流器とインバータ段の間のL-Cフィルタに使用されるDCリンクフィルムコンデンサ。(画像提供:Eaton-Electronics Division)

これらのコンデンサは、モータ駆動とともに、AC入力とAC出力が異なる電圧レベルのパワーインバータやその他の高電力充電回路でもよく見られます。たとえば、太陽光発電システムの分散型インバータでは、DCリンクフィルムコンデンサが各段間のノイズと過渡電流を低減するために使用されています(図4)。

ノイズと過渡現象を抑制するDCリンクフィルムコンデンサの図図4:太陽光発電システムの昇圧コンバータとインバータ間のノイズと過渡現象を抑制するDCリンクフィルムコンデンサ。(画像提供:Eaton-Electronics Division)

フィルムコンデンサは、Vlinkラインが制御回路に情報をフィードバックするポイントでのスプリアス信号を低減し、性能を向上させます。

ACフィルタリングコンデンサは、3相AC電源のようなアプリケーションで不要な高調波周波数成分を除去するのに役立ちます(図5)。

3相電源のフィルタに使用されるACフィルタコンデンサの図図5:3相電源のフィルタリングに使用されているACフィルタコンデンサ。(画像提供:Eaton-Electronics Division)

フィルムパルスコンデンサは、高dV/dt電圧変化から高感度部品を保護するように設計されています。それらは、パルス電子機器およびパワーインバータアプリケーションで使用されます。高エネルギー密度用に設計され、共振タンクパワーコンバータ(図6)などの回路に高速バースト電源を供給します。

共振タンク回路を形成するパルスフィルムコンデンサの図図6:パルスフィルムコンデンサは、パワーコンバータのスイッチング周波数に対して調整された共振タンク回路を形成し、トランス2次側の高調波を除去します。(画像提供:Eaton-Electronics Division)

共振タンク回路は、インダクタ-インダクタ-コンデンサ(LLC)パワーコンバータの効率を大幅に改善します。パルスコンデンサは、パワーコンバータのスイッチング周波数に対してタンク回路を調整するために使用されます。共振タンクはトランスの2次側からの高調波を除去します。さらに、共振タンクはパワーコンバータスイッチのソフトスイッチングを可能にし、損失を低減して効率を高めます。

フィルムコンデンサの構造

各タイプのフィルムコンデンサの特性は、使用される材料とフィルム層の形状によって決まります。たとえば、Eaton-Electronics DivisionのEFACA25J155D032LH ACフィルタリングコンデンサは、1.5マイクロファラッド(μF)±5% コンデンサで最大電圧定格は250Vです。車載アプリケーション向けのAEC-Q200に適合し、湿度侵入に対するTHBタイプIIIB定格を有しています。

フィルムコンデンサは、金属化された誘電体の層を交互に重ねることで形成されます。最も低い定格電圧のコンデンサ(180VAC~300VAC)では、交互の層はそれぞれ個別のリード線に接続されています。複数の層を並列に配置すると総容量が増加し、2つ以上の層を直列に配置すると定格電圧が増加します(図7)。

複数のコンデンサを直列に接続すると、フィルムコンデンサの定格電圧が増加する図(クリックして拡大)図7:複数のコンデンサを直列に追加すると、フィルムコンデンサの定格電圧が増加します。(画像提供:Eaton-Electronics Division、Art Pini氏により修正)

リード線は、高定格電圧(350VAC~500VAC)用の分割メタライゼーションの両側に接続されています。交互の層は、リード線から絶縁された単一のメタライズドフィルムを持ち、共通のコンデンサプレートとして機能するため、2つのコンデンサが直列に接続されます。この構造により、静電容量を下げながら、ペアの耐圧を上げます。複数のペアを並列に配置することで、設計者は静電容量を増やすことができます。

絶縁された分割セグメントと同じ原理を使用して、600VAC~760VAC定格のコンデンサは、重ね合わせたペアごとに3つの直列コンデンサを作ります。

パルスコンデンサの用途と構造

パルスコンデンサは、高いdV/dtと電流が発生するアプリケーション用に設計されています。パルスコンデンサは、低いESRとESLを備え、過渡電圧スパイクからのエネルギー吸収能力を向上させます。その自己修復特性により、信頼性の高い長期動作が保証されます。

パルスフィルムコンデンサは、スイッチング時に発生する電圧スパイクやリンギングからアクティブスイッチングデバイスを保護する、スイッチングモード電源のスナバ用途に適しています。たとえば、図8では、パルスフィルムコンデンサ(C1)が抵抗(R1)およびダイオード(D1)と組み合わされて、MOSFETスイッチのターンオフ時にトランスの寄生インダクタンスによって発生する電圧スパイクを吸収するスナバを形成しています。

C1などのパルスフィルムコンデンサの図図8:C1などのパルスフィルムコンデンサは、MOSFETスイッチのターンオフ時にトランスの寄生インダクタンスによって発生する電圧スパイクを吸収する、スイッチトモード電源のスナバ用途に適しています。(画像提供:Art Pini氏)

フライバックスイッチドモードパワーコンバータでMOSFETがオンすると、ドレイン電流は最大になります。トランスのインダクタンスは、その電流を維持するために動作し、電圧を急速に上昇させます。最初は放電されますが、スナバ回路のコンデンサが誘導スパイクエネルギーを吸収し、MOSFETスイッチを保護します。ESLを低く保つことで容量性動作の応答時間が短縮され、スナバが過渡現象の高いdV/dtを処理できるようになります。ESRが低いため、スイッチのターンオフ時に過渡エネルギーを吸収するために必要な大電流を流すことができます。

パルスフィルムコンデンサの構造は、高いdV/dtとその結果生じる電流を処理するために最適化されています(図9)。

パルスフィルムコンデンサの内部構造の図図9:パルスフィルムコンデンサの内部構造は、ESRを低減するために両面メタライズド誘電体フィルムを採用しています。(画像提供:Eaton-Electronics Division)

Eaton-Electronics Divisionのフィルムパルスコンデンサは両面メタライズド誘電体フィルムを使用し、コンデンサプレートとリード接続間の接触面積を効果的に倍増させることにより、コンデンサのESRを下げ、その電流能力を増加させます。たとえば、EFPLS1GJ223B072LHは、0.022μF±5%のパルスフィルムコンデンサで、最大電圧は1600Vです。ESRは30ミリオーム(mΩ)、ESLは12ナノヘンリー(nH)です。最大dV/dt仕様は6,000V/マイクロ秒(V/μs)、定格RMS電流は3.2A、定格ピーク電流は132Aです。

関連するEFPLAシリーズには、車載用などの過酷な環境向けのパルスフィルムコンデンサがあり、THBグレードIIIBおよびAEC-Q200仕様に準拠しています。たとえば、EatonのEFPLA2AJ153B092LHは、0.015μF±5%のパルスフィルムコンデンサで、定格電圧は2,000Vです。ESRは45mΩ、ESLは12nHです。最大dV/dt仕様は4,500V/µs、定格RMS電流は3A、定格ピーク電流は142.5Aです。

まとめ

フィルムコンデンサは乾式無極性技術を利用し、高い静電容量密度を特徴としています。温度に対して安定した静電容量を実現し、高いリップル電流やパルス電圧、サージ電圧に対応し、高周波やパワーアプリケーションに適しています。また、メタライズド構造により自己修復機能を実現し、信頼性と動作寿命を向上させ、より優れた故障メカニズムを促進します。Eaton-Electronics Divisionは複数の異なるアプリケーションと動作環境のために機能的に最適化されたメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサを幅広く提供しています。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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