宇宙用途向けのコネクタとケーブルの選択肢を理解する
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-08-11
この10年で、地球軌道を周回する宇宙船は、大量市場アプリケーションを備えた主要産業となりました。その結果、低軌道、中軌道、静止軌道(LEO、MEO、GEO)で運用されるさまざまなミッションを持った衛星が大量に配備されるようになりました。衛星のサイズ、製造元、ミッションにかかわらず、これらすべての衛星の部品表(BOM)には、信号と電力のために多くの電気コネクタとケーブルが必要であるという共通の要素があります。
これらは、アクティブなオンボードエレクトロニクスや幅広い衛星ミッションのような魅力的な要素を備えていないかもしれませんが、その性能、信頼性、不変性は、衛星の設計、配備、目標寿命にとって不可欠です。そのため、適切な相互接続の選択と適用が、ミッション成功の重要な要素となります。サイズと重量を最小化しながら基本的な機能を提供し、宇宙への打ち上げや飛行に求められる独自の信頼性と堅牢性の要件を満たす必要があります。
幸いなことに、21世紀には比較的大量のインターコネクトが必要とされるようになったため、スペースクォリファイのコネクタやケーブルは、ベンダーから代理店経由で入手できる標準部品となっており、特殊でカスタムオーダー品だったわずか10~20年前とは大きな転換を遂げました。
この記事では、宇宙環境に適したコネクタとケーブルの要件と、その適切な選択について考察します。その後、確実なミッション成功に役立つHarwinの実世界ソリューションをご紹介します。
宇宙向けのケーブルおよびコネクタ要件
かつては主に難解な宇宙船や通信・航法衛星によるNASAミッションの領域でしたが、LEO、MEO、GEO衛星の打ち上げは、ほぼ日常的なイベントになっています。これらの打ち上げの中には、大学や一部の高校、さらにはアマチュアの科学グループなどで開発された一般的な小型CubeSatユニットなど、十数以上の衛星の配備につながったものもあります。
しかし、宇宙はあらゆるタイプの電子部品にとって過酷な環境です。潜在的な問題としては、断続的接続、規格外の性能、さらには完全な故障などがあります。これらの問題は、打ち上げ時の振動に始まり、軌道上での低温・真空状態を経て、さらに広がっていきます。
また、これらの問題により、コネクタ性能に対する要件や、コネクタの設計や実装に対する制約も増大します。これらは、信頼性を優先するという広い意味で、また機内での修理や交換が現実的でない、あるいは不可能であるという点で一致しています。サイズ、重量、衝撃、振動に加え、ガス抜け、残留磁気、極端な温度と熱サイクル、宇宙線、フラッシュオーバー、コネクタの向きなども問題になります。
- 重量とサイズ(体積):宇宙船とその衛星は、燃料効率のため、また体積に制約のある宇宙設計では立方センチメートル単位の体積が貴重であるため、これら2つの要素が厳しく制限されます。
- 加速度、振動、衝撃:過酷な打ち上げ段階では、広い周波数範囲で数十Gがかかります。このため、宇宙定格コネクタでは通常、ジャックスクリューやラッチング設計を可能な限り指定し、確実な接続を実現します。
- ガス抜け:宇宙空間の熱と真空の条件により、コネクタからのガス抜けの発生率が高くなります。エラストマやプラスチックなどの素材は、素材に溶解、捕捉、凍結、吸収された揮発性有機化合物(VOC)を気体や蒸気としてゆっくりと放出することがあります。エポキシ系などの一般的な接着剤でもこのようなVOCを放出する可能性があるため、特殊な接着剤が必要になります。VOCは汚染の原因となり、繊細な機器や光学表面に干渉することで、ミッションクリティカルな装置の性能に重大な影響を及ぼす可能性があります。宇宙定格コネクタの場合は、真空密閉された炉でコネクタを高温で焼くことにより、VOCを材料から「追い出す」ことができます。
- 残留磁気:これは、周辺の回路やサブシステムの性能を阻害し、精密センサの読み取り値を誤認させる可能性があります。これを最小化するには、銅合金などの非磁性体を可能な限り使用する必要があります。
- 温度範囲:宇宙定格コネクタの拡張範囲は、通常-65⁰C~+150⁰Cです。しかし、熱サイクルも懸念事項となります。このようなサイクルによって生じる繰り返し応力は微小クラックを誘発し、最終的に疲労破壊を引き起こす可能性があります。一部の衛星は、太陽の当たる面と日陰の面の平均温度を均等にするために、回転するように設計されています。大型衛星の場合は、表面や表面下が深部と比較して大きな熱サイクルにさらされる可能性があるため、このソリューションでは不十分です。CubeSatのような小型衛星では、ほぼすべての部品が表面に比較的近い場所にあります。
- 宇宙線:これは、衛星の高度が高くなり、地球の保護大気が薄くなると増加します。この避けられない放射線の影響は、ある意味で電磁干渉(EMI)の影響と似ています。宇宙船のメタルエンクロージャはある程度の保護を提供しますが、放射線の影響を受けやすい回路基板やケーブルには、さらに遮蔽物を追加する必要があるかもしれません。
- フラッシュオーバー:これは、導体から最も近い金属表面へ高電流が連続放電されることです。フラッシュオーバーは、宇宙の真空を極限とした空気分子の密度によって異なる電圧値で発生するため、コネクタには高度に適した電圧定格が必要となります。
- 物理的な考慮事項:コネクタとそのケーブルの向きは非常に重要です。衛星は当然ながら高密度で実装されますが、人気がある小型CubeSatは、この密度を新たなレベルに引き上げようとしています(図1)。CubeSatの1ユニット(U)は10 × 10 × 10cmで標準化されており、完成したCubeSat衛星には、1U、2U、3U、6U、12Uの大きさがあります。
図1:一般的なCubeSat衛星の設計は、さまざまな増分長さの積み重ねを可能にする標準的な小型モジュール形式に基づいています。(画像提供:Harwin)
ケーブルが回路基板に対して直角になるようにコネクタを設計すると、コネクタとケーブルが干渉してしまうため、CubeSat内の基板間隔を狭くすることができません。しかし、水平コネクタと嵌合ケーブルアセンブリでは、プリント基板の端からスタック端周辺にケーブルを横向きに配線し、回路基板上部に必要なクリアランスを小さくすることで、この問題に対処できます。
1つのサイズですべてをカバーすることは恐らく永遠に不可能
さまざまな相互接続経路で電圧、電流、周波数などの性能要件が異なるため、単一のコネクタファミリでは、多くの状況で深刻な仕様不足または仕様過剰となり、理由は異なるにせよ、どちらの状態も受け入れがたいものとなります。また、宇宙定格コネクタを定義する単一の「規格」は存在しません。その代わりとして、ガス抜けのような特定の性能属性に関する規格が設けられています。NASA Parts Selection List(NPSL)は宇宙技術用部品の仕様ガイドとして使用され、これらの認定部品リスト(QPL) に掲載されている部品は宇宙用途に特化したものです。欧州では、宇宙グレードコネクタが欧州宇宙機関(ESA/ESCC)によって認定されています。
コネクタを選択する設計者は、コネクタ定格とミッションクリティカル性のバランスを取る必要があります。過剰な仕様のコネクタを指定すると、コストや入手性/リードタイムに深刻な問題が発生します。同時に、コネクタの不備や理解不足の問題が原因でCubeSatが早期に故障してしまったら、残念でがっかりすることでしょう。そのため、プロジェクト要件とコネクタやケーブルの選択肢の比較について、現実的な視点を提供することが重要となります。
要件を満たす豊富な選択肢
設計者が宇宙定格の要件に応じて最適な選択肢を調整できるように、Harwinなどのベンダーは複数のコネクタファミリを提供しています。各ファミリには、コンタクトのタイプや数、嵌合配置、保持オプションなど、さまざまなバリエーションがあります。関連するHarwinのコネクタファミリには、以下のようなものがあります。
- Mix-Tek Datamateは、信号・電源・同軸コネクタの幅広い構成を提供するため、エンジニアはアプリケーションによくマッチしたコネクタ配置を選択できます(図2)。電源コンタクトは最大20Aの定格、信号コンタクトは3Aに対応し、同軸コンタクトは50Ωのインピーダンスで6GHzの性能を提供します。
図2:Mix-Tek Datamateシリーズは、信号(3A)、電源(20A)、同軸コネクタ(6GHz)の組み合わせをサポートしています。(画像提供:Harwin)
高い信頼性は、Harwinの4フィンガーベリリウム銅コンタクトクリップと組み合わせて使用する旋削加工コンタクトによるものです。Mix-Tekコネクタは、最大50個の低周波コンタクトまたは12個の特別な(同軸および電源)コンタクトを備え、さまざまなワイヤおよび基板対応の構成で入手できます。2mmピッチのコネクタは、信号・電源・同軸コンタクトのほぼすべての組み合わせで混合および適合させることが可能です。
- Kona 8.5mmピッチ高信頼性コネクタファミリは、要求の厳しい環境下で高品質の大電流接続を実現します(図3)。個別にシュラウドされたコンタクトは、250嵌合サイクルの耐久性定格を備えており、1コンタクトあたり3,000Vで60Aの連続電流を実現します。6フィンガーのコンタクト設計は、ベリリウム銅と金メッキで激しい衝撃や振動下での電気的導通を維持し、ケーブル対基板構成のコンパクトな単列パッケージで提供されます。
図3:8.5mmピッチコネクタのKonaシリーズは、1コンタクトあたり最大60Aの連続電流と3,000ボルトの電圧に対応します。(画像提供:Harwin)
- M300電源コネクタは、高い信頼性と性能を備えた電力定格を有し、1コンタクトあたり最大10Aでコンパクトな電源接続を実現することにより、過酷な条件下で実績のある軽量かつ堅牢なソリューションを提供します(図4)。このコネクタは、取り付けられたステンレス鋼のジャックスクリューで振動や衝撃から保護します。
図4:M300電源コネクタは、1コンタクトあたり最大10Aでコンパクトな電源接続を提供します。(画像提供:Harwin)
実績のある4フィンガーのコンタクト設計により、高振動・高衝撃環境でも電気的導通が維持されます。これらの3mmピッチプリント基板コネクタ、圧着ケーブルコネクタ、および既製のケーブルアセンブリは、-65°C~+175°Cの温度と1,000回の嵌合サイクルに耐えられます。
CubeSatが推進する特別なファミリ
Geckoファミリのコネクタおよびケーブルアセンブリは、CubeSatアプリケーションの寸法に従い、比較的高容量のあまり厳格でない要件に適合するように設計されています(図5)。これらのコネクタは、薄型、ケーブル対基板、基板対基板の相互接続ソリューションを提供し、特にPCB面積が貴重な分野でのスタッキングやケーブル嵌合に適しています。
図5:Geckoファミリの薄型コネクタは、幅広いスタイル、構成、コンタクト数で提供されています。(画像提供:Harwin)
Geckoコネクタは、1.25mmピッチで信頼性の高い長方形コネクタで、コネクタハウジングと別売の交換可能なコンタクトで提供されます。このコネクタはケーブルバレル圧着コンタクトとハウジングを使用し、オスとメスがあります。垂直および水平のスルーホールプリント基板テールコネクタと垂直面実装コネクタは、ケーブル対ケーブル、ケーブル対基板、基板対基板の相互接続に対応します。
Geckoコネクタは、業界標準の既存の同等品やMicro-Dと比較して、最大45%の小型化と最大75%の軽量化を実現し、標準的な重量は約1gとなっています。以下3つのバリエーションが用意されており、相互嵌合はできません。
- Gecko-SL(Screw-Lok)コネクタシリーズ:1つのコネクタにフローティングスクリューを採用し、相手側コネクタとの確実で堅牢な相互接続を実現します(図6)。また、Screw-Lokには、回路基板やエンクロージャを確実に保持するために、基板/パネル取付スタッドを付けることも可能です。単独では1コンタクトあたり2.8A定格で、すべてのコンタクト同時では2.0A定格となります。これらのコネクタは、高密度基板スタッキング用の水平コネクタおよび嵌合ケーブルアセンブリとして提供されます。
図6:Gecko-SLシリーズのコンタクトは、単独では1コンタクトあたり2.8A定格で、すべてのコンタクト同時では2.0A定格となります。(画像提供:Harwin)
たとえば、G125-3241696M2は、1.25mmピッチの16コンタクト、パネルマウント長方形Gecko-SLコネクタです(図7)。
図7:Gecko-SL G125-3241696M2は、1.25mmピッチの16コンタクト、パネルマウント長方形Gecko-SLコネクタです。(画像提供:Harwin)
- Gecko-MT(Mixed Technology):このコネクタは、Gecko-SLシリーズの混合レイアウトバージョンです(図8)。データコンタクトを2個または4個の10A電源コンタクトで補完し、1 + 8 + 1または2 + 8 + 2の電源/データ構成にすることで、Gecko-MT製品は電子ハードウェアのスペースと重量を大幅に削減します。
図8:Gecko-MTは、Gecko-SLシリーズと似ていますが、単一コネクタハウジングで信号コンタクトと電源コンタクトの混在に対応します。(画像提供:Harwin)
Gecko-SLコネクタと同じScrew-Lok固定方式を備えたケーブル構成またはスルーホール構成で入手可能です。また、信号用(2列)と電源用(1列)のコンタクト構成が用意されています。
G125-FV10805F1-1AB1ABPは、10極のGecko-MTレセプタクルコネクタで、8個の信号コンタクトと2個の電源コンタクトを備えているため、1個のコネクタで両方の機能を果たします(図9)。
図9:Gecko-MTシリーズのG125-FV10805F1-1AB1ABPコネクタは、8個の信号コンタクトと2個の電源コンタクトを搭載しています。(画像提供:Harwin)
- Gecko Latch(オリジナル設計):このファミリのオスコネクタには、メスの嵌合コネクタに確実に相互接続するために、簡単に解除できるロッキングラッチを装備できます(図10)。
図10:Gecko Latchコネクタは、簡単に解除できるラッチをオス・メスペア間に提供します。(画像提供:Harwin)
20極の面実装レセプタクルコネクタであるG125-FS12005LORは、Gecko Latch設計の一例です(図11)。
図11:20極の面実装レセプタクルコネクタであるG125-FS12005L0Rは、Gecko Latchファミリの製品です。(画像提供:Harwin)
Gecko-SLシリーズとLatchシリーズは、2列構成で6~50個のコンタクトを提供します。コネクタハウジングは誤嵌合防止のために極性化されており、ハウジングの外側にコンタクト数が表示されています。
Gecko-SLコネクタとGecko-MTコネクタの両方に対応するオプションのメタルバックシェルは、20極Gecko-SLコネクタ用G125-9702002バックシェル (フード) のように、機械的保護、無線周波数 (RF) 保護、およびEMI保護を提供します(図12)。
図12:この20ピンGecko-SLコネクタ用G125-9702002などのメタルバックシェルは、Gecko-SLおよびGecko-MTコネクタに対する機械的保護やEMI保護を強化するオプションとなります。(画像提供:Harwin)
バックシェルをオプションとすることで、そのような保護が不要な設計では、メタルエンクロージャを備えたコネクタの重量が負担になりません。柔軟性向上のため、バックシェルはコネクタではなく回路基板に装着されます。
ケーブルとアセンブリを忘れずに
コネクタの選定に時間とエネルギーを費やすのは簡単ですが、それはコネクティビティの一部でしかなく、コネクタに付随するケーブルも同様に重要です。信号のタイプや取り付けによって決まる相互接続の選択肢の中には、基本線、ツイストペア、シールド線、同軸ケーブルなどがあります。ケーブルアセンブリの入手に関して、設計者には以下5つの選択肢があります。
- 自作(内製)
- 圧着済みコンタクトとワイヤを使用
- 既製のケーブルアセンブリを使用
- 標準製品のバリエーションである完全な受注生産のケーブルアセンブリを指定
- 要件に特化して製作されたフルカスタムのケーブルアセンブリを指定
Geckoコネクタの普及により、必要なケーブルアセンブリの多くが標準的な既製品として提供されており、リードタイムと不確実性が低減されています。たとえば、
G125-FC11205F0-0150F0は、長さ150mmの12極ケーブルアセンブリで、長方形のソケット間相互接続用に設計されています(図13)。
図13:ケーブルとアセンブリ全体で完全な相互接続を構成します。このG125-FC11205F0-0150F0は、長方形のソケット間相互接続用の12極、長さ150mmのケーブルアセンブリで、標準部品として入手可能です。(画像提供:Harwin)
まとめ
必要な性能枠に対して、できるだけ小さく軽いコネクタを探し、厳しい数値や目標が不要な部分はオーバースペックにならないようにすることが重要となります。
これは、CubeSat市場で特に当てはまります。これらの小型衛星は、スペースと重量の両方が非常に重要なロケットの中で複数積み重ねられるように設計されているためです。
これらの一般的なほぼ「大量市場」の衛星では、Geckoコネクタとケーブルアセンブリにより、部品選択における複数の、時には相反するトレードオフのバランスを取るように努力しながら、性能とコストという現実を管理できるようになります。
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