水晶発振器のパラメータを理解して部品選択を最適化
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2021-03-02
水晶ベースの水晶発振器は、ほぼすべての電子回路で周波数/タイミング精度と性能を担う中核部品です。そのため、長期的に正確で高精度なものであることが求められます。もちろん、「完璧な」発振器は理論的にしか存在しないため、設計者にとっての問題は、設計目標を満たす適切な発振器です。これは簡単なことではありません。
アプリケーションの性能要件が決定されると、設計者は、関連回路の性能、コスト、安定性、サイズ、電力、物理構造、および駆動機能において適切なバランスを備えたソリューションを見つける必要があります。そのためには、発振器の動作原理、主要特性、そしてそれらがどのように進化してきたかを理解する必要があります。
この記事では、水晶発振器の基礎を概説してから、高性能水晶発振器モジュールに関連するさまざまな観点に目を向けます。その後、ECS Inc.の代表的なデバイスを使用して、これらの発振器の基礎を簡単に確認してから、第1層と第2層のパラメータを特定し、これらのパラメータの現実的な値を示します。また、さまざまなユニットがいくつかの標準的なアプリケーションのニーズにどのように適合するかも示します。
水晶発振器の仕組み
水晶発振器は、プロセッサのクロックハートビート、データリンクのビットタイミング、データ変換のサンプリング時間、チューナやシンセサイザのマスター周波数を提供します。簡単に言うと、水晶発振器の水晶素子は、発振回路のフィードバックネットワーク内で、非常に高いQ値を備えた共振素子として機能します(図1)。水晶振動子とその発振器の重要性により、水晶材料の基礎物理学や電気的/機械的性能、および各種の発振回路が幅広く研究/分析されてきました。
図1:水晶振動子は圧電効果を利用して、発振回路のフィードバックループの中で、高Q値の安定した高精度共振素子として機能します。(画像提供:
ECS Inc. International、一部変更)
長年にわたり、ユーザーが水晶振動子の周波数やその他の重要な特性を指定し、当初は真空管、次にトランジスタ、最終的にはICを使用して、独自の発振回路を提供してきました。この回路は通常、慎重な設計分析に加えて、いくらかの「技能」と経験に基づく判断が組み合わされたものであり、相互に関連した機微が多く存在していました。設計者は、これらの要素を調和させ、発振器の性能を水晶振動子の「カット」や特性、およびアプリケーションの優先事項と適合させようとしました。
現在では、初期設計を適切に行うのに時間と労力がかかるため、このような自作(DIY)による水晶発振器の設計努力は比較的珍しいものとなっています。次に、発振器の性能を正確に測定する方法があります。これは複雑で、精密な計測器と入念なセットアップが必要になります。その代わりに設計者は、多くのアプリケーションにおいて、水晶素子と発振回路およびその出力ドライバを含む、完全に密閉された小型モジュールを購入することができます。これにより、設計の労力と時間が削減されることは明らかです。同時に、ユーザーは完全に特性化されたユニットと、保証された仕様を備えたデータシートを取得できます。
用語についての注意事項:歴史的な理由やその他の理由から、技術者はしばしば「水晶振動子」という言葉を使用しますが、実際には水晶発振回路全体のことを述べています。意図した意味は文脈から理解されるため、通常これは問題になりません。ただし、水晶振動子を単体の部品として購入した後に別個の発振回路を提供することも可能であるため、混乱を招くことがあります。この記事では、発振回路だけではなく、水晶振動子とその発振回路を合わせた自己完結型モジュールを指して「発振器」という言葉を使用しています。
水晶発振器の特性化
他の部品と同様に、水晶発振器の性能は、最上層パラメータのセットによって最初に定義されます。一般的な重要度順は、次の通りです。
動作周波数:これは、数十キロヘルツ(kHz)~数百メガヘルツ(MHz)の範囲に及びます。ギガヘルツ(GHz)範囲など、発振器の基本到達範囲を超える周波数の発振器は通常、基本周波数をアップコンバートするための周波数逓倍器として位相ロックループ(PLL)を使用します。
周波数安定性:これは、発振器の2番目に重要な性能要素です。外部条件による出力周波数の元の値からの偏差を定義しているため、この数値は小さければ小さいほど良いことになります。
安定性に影響を与える外部条件は数多くあり、多くのベンダーはそれらを個別に呼び出し、設計者がアプリケーションで実際の影響を評価できるようにしています。これらの要因には、25℃での公称周波数に対する温度関連の変動が含まれます。その他の要因としては、経年変化による長期安定性、はんだ付けの影響、電源電圧の変動、出力負荷の変化などがあります。高性能ユニットの場合は通常、公称出力周波数に対して、100万分の1(ppm)または10億分の1(ppb)の単位で特性化されます。
位相ノイズとジッタ:これらは、同じ一般的なクラスの性能に対する2つの視点です。位相ノイズは周波数領域のクロックノイズを特性化しますが、ジッタは時間領域のクロックノイズを特性化します(図2)。
図2:時間領域のジッタと周波数領域の位相ノイズは、同じ不完全性に対する同等に有効な2つの解釈です。望ましい視点は、アプリケーションの機能です。(画像提供:ECS Inc. International)
設計者はアプリケーションに応じて、主に一方の領域または他方の領域で定義されたエラーに焦点を当てることになります。位相ノイズは通常、指定された周波数オフセット(fm)での1Hz帯域幅のノイズと、周波数(fO)での発振器信号振幅の比として定義されます。位相ノイズは、周波数シンセサイザの精度、分解能、およびS/N比(SNR)を劣化させます(図3)。一方、ジッタはタイミングエラーを引き起こし、データリンクのビットエラーレート(BER)の増加に寄与します。
図3:位相ノイズは発振器のパワースペクトルを拡散し、分解能とSNRに有害な影響を及ぼします。(画像提供:ECS Inc. International)
タイミングジッタは、アナログ/デジタル変換においてサンプリング時間の誤差の原因となり、SNRやそれに続く高速フーリエ変換(FFT)の周波数解析にも影響を与えます。
ECS Inc.の標準発振器であるMultiVoltファミリ(MV)のデバイスは±20ppmまでの安定性を提供しており、同社の精密安定性を備えた発振器(SMV)は±5ppmまでの安定性を提供しています。さらなる精密安定性を実現するために、MultiVolt TCXOは、HCMOS出力で±2.5ppm、クリップドサイン波出力で±0.5ppmの性能を提供します(TCXOとクリップドサイン波の両方について、以下で詳しく説明します)。
領域に関わらず、位相ノイズ/ジッタは高性能設計にとって重要な要素であり、アプリケーションのニーズを念頭に置きつつ、誤差バジェットにおいて考慮に入れる必要があります。ジッタには、絶対ジッタ、サイクル間ジッタ、統合位相ジッタ、長期ジッタ、周期ジッタなど、多くの種類があることに注意してください。位相ノイズについても、ホワイトノイズやさまざまなノイズの「色」など、異なる統合範囲やタイプがあります。
発振器のジッタと位相ノイズの特性や、アプリケーションに与える影響を理解することは、しばしば課題となります。一方の領域から別の領域に仕様を変換するのは困難であるため、その代わりにユーザーはデータシートを参照する必要があります。また、誤差バジェット全体の中でこれらの誤差を説明する際は、性能を定量化する正当な定義に加えて、異なるベンダーによる定義も理解することが重要です。
出力信号のタイプとドライブ:これらは、接続されている負荷に合わせる必要があります(図4)。出力ドライブの2つのトポロジは、シングルエンドと差動です。
図4:さまざまな出力フォーマットが用意されており、発振器の負荷構成と互換性がある必要があります。(画像提供:ECS Inc. International)
シングルエンド発振器は実装が簡単ですが、ノイズに対する感度が高く、一般的には数百メガヘルツまでしか適合しません。シングルエンド出力タイプには、以下のようなものがあります。
- TTL(トランジスタ-トランジスタロジック):0.4~2.4V(現在ではほとんど使用されていない)
- CMOS(相補型金属酸化物半導体):0.5~4.5V
- HCMOS(高速CMOS): 0.5~4.5V
- LVCMOS(低電圧CMOS): 0.5~4.5V
差動出力は設計がより難しくなりますが、差動トレースに共通するノイズがキャンセルされるため、高周波数アプリケーションにおいてより優れた性能を提供します。これは、負荷回路から見た発振器の性能を維持するのに役立ちます。差動信号のタイプは、次のとおりです。
- PECL(正エミッタ結合ロジック): 3.3~4.0V
- LVPECL(低電圧PECL): 1.7~2.4V
- CML(電流モードロジック): 0.4~1.2Vおよび2.6~3.3V
- LVDS(低電圧差動シグナリング): 1.0~1.4V
- HCSL(高速電流ステアリングロジック): 0.0~0.75V
信号タイプの選択は、アプリケーションの優先事項と関連回路によって決定されます。
発振器の出力波形は、従来の単一周波数正弦波またはクリップドサイン波にすることができます(図5)。コンパレータ回路を使用して矩形波に変換するとジッタ/位相ノイズが加わって劣化するのとは対照的に、アナログ波は「最もクリーン」で、ジッタ/位相ノイズの影響を最も受けにくくなります。クリップドサイン波は、性能を犠牲にすることなく、デジタル負荷に対応した矩形波のような出力を生み出します。
図5:クリップドサイン波は、追加のジッタや位相ノイズを最小限に抑えながら、矩形波に近似しています。(画像提供:ECS Inc. International)
電源電圧と電流:今日の低電圧システムおよび電池駆動である場合が多いシステムのニーズを満たすために、これらの両方が低下しています。ほとんどのMultiVoltシリーズ 発振器は、1.8V、2.5V、3.0V、3.3Vの電源電圧で動作可能です。
パッケージサイズ:動作電圧や電流と同様に、発振器のパッケージも小型化しています。業界ではシングルエンドデバイス(必要なのは4つの接続のみ)向けに標準化されたサイズがいくつかありますが、差動発振器は6つの端子を持ち、より大きなパッケージを使用します。以下にmm単位の寸法を示します。
1612:1.6mm × 1.2mm
2016:2.0mm × 1.6mm
2520:2.5mm × 2.0mm
3225:3.2mm × 2.5mm
5032:5.0mm × 3.2mm
7050:7.0mm × 5.0mm
主に温度が関係
発振器の性能に影響や変化を与える最大の外的要因は温度です。発振器の動作電力が低く、自己発熱がごくわずかな場合でも、周囲温度の変化が水晶振動子の機械的な寸法や応力に影響を与えるため、動作周波数に影響を及ぼします。期待される範囲の両極端の温度で、選択された発振器の性能を確認することが重要です。これらの範囲は、一般的に次のように表示されます。
- 民生用、車載グレード4: 0~+70°C
- 拡張民生用: −20~+70°C
- 産業用、車載グレード3: −40~+85°C
- 拡張産業用、車載グレード2: −40~+105°C
- 車載グレード1: −40~+125°C
- 軍事用: −55~+125°C
- 車載グレード0: −40~+150°C
設計によっては、考慮事項は全温度にわたる性能だけでなく、他の信頼性仕様を満たす必要がある場合もあります。たとえば、ECS-2016MVQは、1.7~3.6V動作用の小型面実装MultiVolt HCMOS出力発振器です(図6)。2016(2.0mm×1.6mm、上記の通り)セラミックパッケージは、高さ0.85mmで、より過酷な産業用アプリケーションを対象としており、グレード1の温度要件に対応したAEC-Q200認定(車載用)を取得しています。1.5~54MHzの周波数に対応し、-40℃~+85°Cの範囲で±20ppm~±100ppmまで4段階の周波数安定性を提供しています。位相ジッタはわずか1ピコ秒(ps)と非常に低く、12kHz~5MHzで測定されます。
図6:ECS-2016MVQは、1.5~54MHzの周波数に対応し、±20ppm~±100ppmまで4段階の安定性を提供します。(画像提供:ECS Inc. International)
動作範囲のドリフトが許容できないほど高いアプリケーションでは、温度補償水晶発振器(TCXO)とオーブン制御水晶発振器(OCXO)という2つの先進的な発振器を実装できます。(XTALは、多くの回路図では水晶振動子の呼称であり、頭字語の「X」はその略語として使用されていることに注意してください)。TCXOは、アクティブ回路を使用して、温度変化による出力周波数の変化を補償します。これに対し、OCXOでは、最高周囲温度以上に加熱して一定温度に保つ断熱オーブン(加熱のみのオーブンでは周囲温度以下に冷却できない)に水晶発振器が設置されます。
TCXOでは基本的な発振器に比べて回路を追加する必要がありますが、一般的に数ワットの電力を必要とするオーブン付きのOCXOよりはるかに少ない電力で済みます。さらに、TCXOは補償されていないユニットよりもわずかに大きいだけで、OCXOよりもはるかに小型です。TCXOは通常、補償されていないユニットの10~40倍のドリフト改善を示します。一方、OXCOはそれと比較して2桁大きな改善となるドリフト性能を示しますが、サイズと電力の面で大きな犠牲が伴います。
ECS-TXO-32CSMVは、10~52MHzの周波数に対応するMultiVolt機能(1.7~3.465V電源)を備えたクリップドサイン波面実装TCXOです(図7)。高さ3.2×2.5×1.2mmのセラミックパッケージは、安定性が重要なポータブルおよびワイヤレスアプリケーションによく適しています。主な仕様は、温度変化、電源変化、負荷変化、経年変化に対する非常に高い安定性と、2mA以下の控えめな電流要件を示しています(表1)。
図7:ECS-TXO-32CSMVは、安定性能を大幅に向上させるために内部補償回路を内蔵したクリップドサイン波出力水晶発振器です。(画像提供:ECS Inc. International)
表1:温度補償型ECS-TXO-32CSMV TXCOの仕様は、一連の外的妨害にもかかわらず、内部補償によって安定性能がどのように向上するかを示しています。(画像提供:ECS Inc. International)
優先される場合が多い低電力動作
プロセッサのクロックやデータレートがますます高くなる傾向にあるにもかかわらず、超低電力アプリケーションにおいてタイミングを取るための低周波数水晶発振器には依然として大きなニーズがあります。たとえば、ECS-327MVATXは、固定周波数32.768kHzで動作する小型の面実装発振器で、MultiVolt機能(1.6~3.6V)を備えています。わずか200μAという電流要件とシングルエンドCMOS出力を備えたこの発振器は、リアルタイムクロック(RTC)、低電力/ポータブル、産業用、およびモノのインターネット(IoT)などのアプリケーションに適しています。これは2016から7050までのパッケージサイズで提供され、モデルに応じて、-40⁰Cから+85⁰Cまでの温度範囲で、厳格な±20ppmからやや緩い±100ppmまでの周波数安定性を提供します。
平均消費電力を最小限に抑えるために、多くの発振器はイネーブル/ディスエーブル機能も提供します。たとえば、ECS-5032MVは、1.6~3.6VのMultiVolt動作機能とCMOS出力を備えた125MHzの面実装発振器で、5032セラミックパッケージで提供されています(図8)。
図8:ECS-5032MVは、省電力化に役立つイネーブル/ディスエーブル機能を備えた125MHzの面実装発振器です。(画像提供:ECS Inc. International)
4つの端子の1つにより、発振器をスタンバイモードにして、必要な電流を35mAのアクティブ値からわずか10μAのスタンバイ電流にまで低減させることができます。ユニット再有効化後の起動時間は5ミリ秒(ms)です。
アプリケーションへの仕様の適合
アプリケーションに適した水晶発振器を決定するには、やはり仕様、優先順位、コスト、およびそれらの相対的な重み付けのバランスが大切です。それは、スタンドアロン発振器として必要な公称周波数、周波数安定性、ジッタ/位相ノイズなどの属性を備えたユニットの選択を考慮する以上のことを意味します。またユーザーは、発振器の出力ドライブが関連する負荷やシステムと互換性があることを確認し、ペアリングによって性能が低下しないようにする必要もあります。このような考慮事項は数多くありますが、一般的なガイドラインがいくつかあります。
- LVDS出力ではレシーバに1つの抵抗器だけが必要なのに対し、LVPECLではトランスミッタとレシーバの両方で終端が必要です。
- LVDS、LVPECL、およびHCSLは、CMOSよりも高速な遷移を実現していますが、より多くの電力を必要とし、高周波数設計に最適です。
- 150MHz以上で最小消費電力を実現するには、CMOSまたはLVDSが最適な選択肢です。
- LVPECL、LVDS、そしてCMOSは、低周波数で最高のジッタ性能を提供します。
結論
水晶発振器は、多くの回路やシステムの心臓部となっています。この機能の性能をアプリケーション要件に適合させるには、公称周波数の精度、温度に対する安定性、ジッタや位相ノイズなど他の要因を含む主要なパラメータ間で慎重にバランスを取る必要があります。また、発振器の出力駆動形式を負荷回路の特性に合わせる必要もあります。ECS MultiVoltファミリの水晶発振器は、完全で使いやすいモジュールに仕様を組み合わせることで優れた性能を提供します。
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