5Gの約束:偽物か本物か
2020-08-18
企業は、コストを最小化して品質を確保しつつ、ビジネスプロセスを劇的に加速化するのに役立つ技術を常に探しています。企業の速度要件を満たすIoT製品を設計すると同時に、コストを最小限に抑えるよう支援することにより、ビジネスイノベーターは5Gを十分に活用できます。
第5世代ワイヤレス技術(5G)は、非常に高速で信頼性の高い低コストのマシンツーマシン通信を実現するIoTソリューションを構築するための有望な技術です。
しかし、新たに出現した5Gは、そのすべての約束を本当に果たせるでしょうか?5Gの「宣伝された」約束は現実的でしょうか、それとも単なる誇大広告でしょうか?
5Gの約束
多くの人が、5Gは旧世代のワイヤレス技術がサポートできない「サイエンスフィクションのような」使用事例を可能にすると信じています。4Gでさえ、速度、遅延、およびスペクトラム周波数などの要素において5Gと比較すると見劣りします(図1を参照)。
図1:宣伝に基づいた4Gと5Gの比較(画像提供:Voler Systems)
5Gには、スマート交通やハイパーコネクト医療向けのプライベートネットワークを含むさまざまなビジネス使用事例があります。スマート交通は、スマート車両と道路や線路に埋め込まれたセンサ間の高速で信頼性の高いワイヤレス通信を活用することにより、新たなサービスを実現します。これにより、スマート交通システム全体にわたって可視性および制御を向上させることができます。
医療において、5G技術は、個人の潜在的な健康問題を予測して早期の医療介入を計画することにより、患者の転帰や健康を向上させると期待されています。5G技術は、遠隔ロボット手術などのアプリケーションによる持続可能な医療サービスを実現するのに役立ちます。そのため、シカゴのラッシュ病院などの先進的な医療機関は、5Gコネクティビティへの移行を計画しています。
ただし現実はもっと複雑
さまざまな要因によって、企業は5Gの可能性を最大限に発揮できなくなっています。最初に、5Gに関する重要な基礎知識をいくつか説明します。
- 周波数帯域
5Gの性能は、利用可能な周波数帯域に依存しています(図2を参照)。たとえば、低帯域スペクトラム(1GHz未満)では、ピークデータ速度が最大100Mbpsしかありません。また、中帯域スペクトラム(1GHz~6GHz)では最大400Mbps、高帯域スペクトラム(6GHz~86GHz)では最大10Gbpsです。ただし、高帯域スペクトラムまたはミリ波(mmWave)の利用は限られています。
さらに、mmWave信号は約100メートル以上離れると伝送されず、壁や窓を貫通することもできません。多くの基地局が必要なため、mmWaveは過密な都市部でのみ利用できますが、その信号は建物に遮られてしまいます。ただし、IoTは通常、mmWaveの高い速度を必要としません。
図2:3つの主な周波数帯域内の5Gスペクトラム(画像提供:Voler Systems)
- 5Gのサービスクラス
5Gにおける3つのサービスクラスは、モバイルブロードバンドの高度化(eMBB)、超高信頼低遅延通信(URLLC)、および大量端末接続(mMTC)です。それぞれに、特性、用途、および限界があります。
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eMBBは、最大10Gb/秒(4Gの20倍)という非常に高いデータレート、非常に高いトラフィック容量(100万台/km2)、および非常に低い伝送遅延(わずか4ms)を実現します。eMBBの使用事例には、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)が含まれます。これは、スマートフォン、タブレット、およびUHD TV(4Kおよび8K)放送といったスマートデバイス向けのサービスクラスです。
ただし、eMBBの性能は、利用可能な周波数帯域に依存しています。たとえば、利用可能な周波数帯域が1GHz未満の場合、4Gによく似たエクスペリエンス(最大下り100Mb/秒、上り50Mb/秒のデータレート)になります。4msの遅延は一方向で、最寄りの基地局のみに対するものです。長距離送信ではさらに遅くなります。
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URLLCは、インテリジェント輸送システム(インフラストラクチャバックホール)、ディスクリートオートメーション(モーション制御)、プロセスオートメーション(リモート制御)、および電力分配(高電圧)といったオンプレミスのシナリオ向けに設計されています。URLLCは、非常に低い遅延(わずか1ms)や超高可用性/信頼性(99.9999%)を約束しています。これは、4Gよりもはるかに優れています。
しかし、5GがURLLC性能の根本的な改善を約束しているとしても、遠隔手術、高速の遠隔接続ビデオゲーム、自宅での拡張現実といった多く事例で実現する可能性は低いままです。URLLCが約束する「99.9999%」の信頼性も、あらゆるワイヤレス接続で実現できるかは疑問です。
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mMTCは、IoTの大量展開をサポートし、非常に低いデバイスコストや非常に低いエネルギー消費を実現します。 これは、スマートビルディング、ロジスティクス、トラッキング、フリート管理、ウェアラブルデバイス、およびスマートメータにとって魅力的な提案です。
mMTCの規格はまだ作成中のため、今のところIoTは4G規格(NB-IoTおよびLTE-M)によりサポートされています。
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5Gは約束するすべての機能を現在提供しているわけではない
mMTCの現状は、その宣伝内容からかけ離れています。現在、5Gは約束するすべての機能を提供しているわけありません。mMTCの規格はまだ策定中のため、既存の5G技術はパケットサイズや短いセッションに最適化されていません。制御信号も非効率的で、10バイトのデータを送信するのに100バイトの信号が必要です。既存のチャンネルコーディング方式も、小型のデータパケットにとって効率的ではありません。期待される10年の電池寿命は、メッセージの頻度が非常に少なく、データレートも非常に低い場合にのみ可能です。
5Gの可用性
5Gの可用性も決定的な要素です。図3は、2020年5月時点でどの都市およびキャリヤが5Gを提供しているかを示しています。これは、以下の理由により、ユーザーの場所および使用するキャリヤが大きな違いを生むことを示しています。
- 5Gを展開している米国のワイヤレスキャリヤは4社のみ:AT&T、Verizon、T-Mobile、およびSprint
- 5Gを使用するには、5G対応の電話またはデバイスが必要
- 農村部はほとんどカバーされていない
- 300メートルごとに基地局が必要なため、郊外または農村部で高速mmWaveのカバレッジが提供される可能性は低い
- 一部のキャリヤの速度は制限されている
図3:5Gの可用性マップ
赤:T-Mobile、黒:Verizon、青:AT&T、黄:Sprint (画像提供:Digital Trends)
既存のIoTサービスはどうなるか?
NB-IoTおよびLTE-M(Cat MまたはEmtcとも呼ばれる)は、5Gと共存します。米国内のNB-IoTおよびLTE-Mのカバレッジは良好です。2019年5月、Verizonは、米国人口の92%がNB-IoTネットワークによってカバーされていると発表しました。
一方、非セルラーサービス(ZigBee、LoRa、Ingenu、Sigfox、およびWeightless)は5Gに含まれていませんが、ライセンスを受けていないスペクトラムを使用して機能し続けます。ただし、それらは多くの地域で利用できません。
これは、IoTの未来にとって何を意味しますか?
今のところ、大きな変化はないということです。
しかし、4G技術(NB-IoTおよびLTE-M)は、2019年以降、やっと十分に展開されるようになったばかりです。これにより、電池駆動デバイスは、携帯電話やWi-Fiホットスポットを経由することなく、インターネットに直接接続できるようになります。 今こそ、この技術の時代です。
ただし、各ワイヤレス規格には長所と短所があることに注意してください(表1を参照)。IoTデバイスの設計に適切な規格を知り、大きな損害をもたらすミスや他のIoT設計リスクを回避するために、IoT設計の専門家に相談するか、有能なIoT技術者を雇ってください。
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表1:既存のIoTワイヤレス規格の比較。(画像提供:Voler Systems)
結論
IoTを原動力とする5G対応の業界が現実となりつつあります。ただし、5Gはまだ初期段階にあり、約束するすべての機能を提供しているわけではありません。それでもなお、5Gはビジネスに必ず利益をもたらす有望な新技術です。
ビジネスイノベーターは、5Gまたは4G対応の安全で信頼性の高いIoTデバイスを設計することにより、5Gの約束を現実とすることに貢献できます。しかし、これに着手するのは簡単ではなく、専門家の助けが必要です。
Volerは、次世代IoT/ウェアラブルデバイスの設計および開発に関する専門的なガイダンスを企業に提供しています。Volerは、IoTデバイス向けの適切な技術を選択し、セキュリティと信頼性を保証するエレクトロニクスの適切な組み合わせを見極める支援を行います。詳細については、Volerまでお問い合わせください。
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