ワイヤレスモジュールの未来
DigiKeyのヨーロッパ担当編集者の提供
2016-09-22
ワイヤレス技術は、大きく変化しています。 セルラー市場は、データレートの向上と消費電力削減のため、3GからLTE、LTE Advanced、さらにLTE Advanced Proへと移行しつつ、次世代の5G技術を見据えています。 5Gではより高い周波数においてさらに多くの周波数帯が得られ、データレートがより向上します。 この5Gは、Wi-Fiなどの現在ライセンスが不要な周波数帯で利用されている技術にも導入されます。
同時に、通信事業者および開発者は、モノのインターネットに、低コストで信用性が高く、スケーラブルな無線接続を用いるために、セルラー無線の進歩に目を向けています。 モノのインターネットを促進するには、消費電力と電池寿命が重要であるため、狭帯域のソリューションが新たに登場してきています。 こうしたソリューションと共に、近年進化しているのが、IoT用途を対象としたBluetoothやZigBeeなどの仕様です。 Bluetooth 5は距離とデータレートが向上しつつ消費電力はより低くなる見込みであり、ZigBee 3.0はメッシュネットワークに低消費電力をもたらします。
このすべてが、設計技術者にとって頭痛の種となる場合があります。 低コスト、低消費電力、グローバルな用途の無線プロトコルを選ぶことは複雑な場合があり、また状況は安定的とも言えません。
モジュールメーカーがこの問題に挑む方法の1つとして挙げられるのが、フットプリントの共通化です。例えば、Sierra Wirelessは、フットプリントの共通化を考慮して、すべてのワイヤレス開発に対し意図的にモジュールアプローチを採っています。 AirPrime HLファミリは2G、3G、4Gの組み込みモジュールを揃えており、デバイスメーカーにとって必須となるコネクティビティ要件を満たすために必要なものをすべて提供しています。 さまざまなセルラー技術に共通のフォームファクタ、小型化、低消費電力、RF性能の向上により、米国のGPSやロシアのGLONASS衛星システム、およびその他の地球規模のカバレッジを備えたGNSSナビゲーションを選ぶこともできます。

図1:ワイヤレスモジュールのフットプリントを共通化することで、各世代のテクノロジを容易に基板に追加できます。
たった1つのPCBを設計するだけで、デバイスメーカーは音声とデータ接続を容易に統合し、あらゆる地域、あらゆるワイヤレスモジュールネットワークで展開できるようになります(図1参照)。 またSierraでは、モジュールをはんだ付けして大量生産を効率化することも、同じはんだパッドにスナップインソケットを利用して、試作や少量生産のために柔軟性を保つことも選択できるようなフォームファクタについて検討してきました(図2)。 このスナップインソケットを利用すると、生産時や製品ライフサイクルのどの時点においても、共通のフットプリントを利用してデバイスメーカーがモジュールの展開や配備を行えるようになります。
フォームファクタにおけるピン配列が共通であることにより、2G、3G、4Gモジュール間で上位互換性、下位互換性を実現できます。 これは、機械的なピン配置が、シリーズを通じて同一の機能を提供することを意味します。 さらに、HLシリーズのピン配列はWPシリーズのアプリケーション処理と互換性があります。

図2:スナップインソケットにより、どの共通モジュールも試作システムで実際に試すことができ、また少量生産に用いることもできます。
しかしワイヤレスモジュールの未来は、ハードウェアだけにかかっているわけではありませえん。 ソフトウェアやファームウェアも、システムにとっていよいよ重要なコンポーネントとなってきています。 SierraのAirVantageクラウドベースオーバーザエア(OTA)サービスを使うと、ユーザは多数かつあらゆるサイズのリモートマシンに簡単に接続して管理できます。 これにより、オープンなM2M開発ツールおよび標準を用いてマシンデータをエンタープライズシステムに統合できます。
Sierraはこの標準を開発するEclipse IoTワーキンググループを率いており、Githubオープンソースリポジトリに、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)を提供しており、この中にはNode.jsのサンプルが含まれています。 このサンプルでは、Clojureで書かれたAirvantage REST API、AirVantageからゲートウェイのリストを収集するGoで書かれた単純なOAuth2とJSonクライアント、Ruby、PHP、JavaからAirVantage APIにアクセスする方法、およびAirVantage M2M Cloud APIとコマンドラインで対話するための軽量で柔軟なシェルスクリプトを使用します。
同様に、NimbeLinkのSkywire LTE CAT1モデムは長寿命の用途に向けたもので、ワイヤレスの技術的変化を考慮に入れる必要があります。 このモデムはSkywireファミリの同じ小型のXBEEインターフェースを用いており、NimbeLinkの開発キットやマイクロプロセッサシールドと互換性があり、セルラーのコネクティビティを簡単に製品と統合できます。 XBEEの標準インターフェースを用いることにより、他のセルラー技術への移行が単純化できるので、新たな技術が成熟するにしたがって製品寿命を延ばすことができます。
セルラー業界はBluetooth、Wi-Fi、ZigBeeなどのライセンス不要な技術が自らの市場を脅かしていることを認識しており、低データレート通信のため独自の規格に取り組んでいます。 3GPP仕様のリリース13は、ナローバンドIoT(LTE Cat. NB1)規格を含んでおり、IoTのためのセルラーネットワーク利用に初めて道を開くものです。
これによりセルラーモジュールは、スマートビルディングやスマートシティ、需給計器、白物家電、資産管理、環境監視などの用途のために、10~20年の電池寿命を得ることができるようになります。 スマートメータや駐車場の用途においてVodafone、Deutsche Telekom、Huaweiが行った試験は成功し、NB-IoTネットワークはGPRSよりも効果的であることが示されました。 NB-IoTモジュールは2016後半に市場に投入される予定です。ピーク時ダウンリンクレートは最大227kbps、アップリンクレートは最大21kbpsで、消費電力を削減でき、10~20年の電池寿命が得られます。 3つのRF帯を同時にサポートできるので、同じモジュールをほとんどの地域で利用できます。
| LTE | ナローバンドソリューション | 次世代 | ||
| LTE-M、リリース13 | NB-LTE、リリース13 | EC-GSM、リリース13 | 5G | |
| 到達範囲(屋外) | 11km未満 | 15km未満 | 15km未満 | 15km未満 |
| MCL | 156dB | 164dB | 164dB | 164dB |
| スペクトル | 要認可 (7-900MHz) |
要認可 (7-900MHz) |
要認可 (8-900MHz) |
要認可 (7-900MHz) |
| 帯域幅: | 1.4MHzまたは共有 | 200kHzまたは共有 | 2.4MHzまたは共有 | 共有 |
| データレート | 1Mbps未満 | 150kbps未満 | 10kbps | 1Mbps未満 |
| 電池寿命 | 10年超 | 10年超 | 10年超 | 10年超 |
| 利用開始年 | 2016 | 2016 | 2016 | 2025 |
図3:ナローバンドIoTモジュールは、2016年後半リリースの予定(ソース:3GPP)
NB-IoTはデバイスの複雑性が少なく、超低消費電力動作で、1つのシングルセルラーセルにつき最大150,000デバイスをサポートできます。 最も重要なのは、この技術のリンクバジェットはGPRSに比べて20dB向上しているということです。これにより地下や建物内などのカバレッジ条件が悪い場合において素晴らしい性能を発揮できます。
しかし、ライセンス不要な周波数帯のワイヤレス技術も同様に発達し続けています。 Bluetooth 5は、現在のバージョンと比べて4倍の電波到達範囲で、2倍の帯域幅になることを見込んでおり、「コネクションレス」IoTを目指しています。 Bluetooth 5は、以前のバージョンがIoTネットワークに躍り出ることを妨げているいくつかの課題に取り組んでいます。
この新技術は2016年後半または2017初頭にリリースされる予定で、モジュールの電波範囲や速度は大きく向上する見込みです。電波範囲は現在の4倍となる50メートル、速度は2Mbit/sを目指しています。 電波範囲が伸びれば、堅牢で信頼性の高いIoT接続が行えます。家全体、ビル、屋外での利用が現実的になるのです。また、高速化によりデータを素早く送信でき、応答性が最適化されます。
しかし、シリコンとモジュールの双方において、この技術を実装することが、全体的な消費電力や電池寿命を決定します。
また、これらのハードウェアモジュールからさらにモノのインターネットの複雑さを抽象化し、サービスとしてのスマートホーム(SHaaS)を提供する計画もあります。 これにより、1つのセンサがさまざまな用途に利用できるため、必要なセンサの総数が減り、冗長性と必要な保守も削減されます。 たとえば、1つのモーションセンサが 照明の制御、家庭環境の管理、エンターテイメントオプションの制御を行うセキュリティシステムを家族のライフスタイルに合わせた形で利用できるでしょうし、あるいはペットに餌をあげるためにも利用できるかもしれません。

図4:通信レイヤで利用可能なRF規格に加え、アプリケーションレイヤにおいても激しい競争があります。
SHaaSは自前でネットワークを構築する必要がない、スマートホームセンサからの入力を分析し、家族の生活や家屋の利用法を学習するサービスの集合体であり、家庭をより快適、安全にし、よりエネルギー効率を高めるために賢い決定を下すことができます。
家屋に張り巡らせたセンサからの情報はローカルハブにより無線で収集され、データを収集、分析するインテリジェントクラウドサービスへ安全に送信されます。 最初の設置を済ませた後は、わずか1週間から2週間で、クラウド内のアルゴリズムがアプリケーションが家族の生活を「学習」し、予想外の事態が生じた際や、何かが劇的に変化した際にアラートを送信できるようになるために十分なデータを蓄積します。
さまざまなサービスはすべて単一のユーザーインターフェース、利用が簡単な1つのダッシュボードに集約すべきです。また、サービスプロバイダは顧客サポート、課金、加入者管理、ソフトウェアサービスのアップグレードや変更を行います。
これによりスマートホームは使いやすく、管理が簡単になり、安全、安心、快適を効果的に提供できるようになります。またサービスプロバイダにとっては、有益な収入源となります。 デバイス開発者とシステム開発者は、この水準のサービスを作り上げるために、ハードウェア、ソフトウェア、ウェブインテリジェンスの設計において協力すべきです。
結論
ワイヤレスモジュールの未来は、技術と用途の両方によって推進され、ソフトウェアはこの進歩においてますます重要な役割を果たすようになっています。 NB-IoTなどの新たなハードウェア規格が利点をもたらしており、共通のモジュールフットプリントと共に、ワイヤレスノードの設計をより単純化しています。 そしてモジュール上のソフトウェアに複雑性は移ります。サービスとしてのスマートホームなどのまったく新たな市場を創り出すために、OTAのアップデートやアプリケーションへの統合が行われるのです。
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