RF電力分配器/コンバイナの基礎
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2019-08-28
モノのインターネット(IoT)、セルラー、車載用電子機器などのアプリケーションで使われるワイヤレスコネクティビティの要件が高まる中で、RF信号/部品/サブシステムを使用するシステムが増え始めています。多くの場合、設計者はこの信号を複数の宛先に送信したり、複数の信号を組み合わせたりする必要があります。しかし、信号を結合したり分割したりする処理は問題を含む場合があります。なぜなら、設計者はインピーダンスの不一致や負荷による劣化なしに信号ルーティングを確保する必要があり、しかもサイズやコストなど重要な要件を維持しなければならないからです。
このように複数の入出力間で信号を分割/結合する必要性に対応するのが、RF電力分配器またはコンバイナです。これらの便利なデバイスは、すべてのソースで適切な負荷インピーダンスを維持し絶縁を可能にしながら、信号分割/結合のタスクを実行します。
この記事では、一般的に使用される3種類のRF電力分配器/コンバイナ、「抵抗/ハイブリッド/ウィルキンソン」の基本について、Susumu、Anaren、MACOM、およびAnalog Devicesが提供するデバイスの例を用いて説明します。また、設計者が実装を考慮しながらデバイスを賢く選択できるように、これら各デバイスの仕様や一般的なアプリケーションについても取り上げます。
電力分配器
電力分配器には、単一の入力信号と2つ以上の出力信号があります。出力信号の電力レベルは入力電力レベルの1/Nで、Nは分配器の出力数に相当します。電力分配器の最も一般的な形式では、出力における信号は同相です。また電力分配器の中には、出力間で位相シフトを制御する特殊なものもあります。前述のように、電力分配器の一般的なRFアプリケーションは、共通のRFソースを複数の機器に向けて送ります(図1)。
図1:電力分配器を使用して、共通のRF信号をフェーズドアレイアンテナシステムや直交復調器など複数の機器に分割します。(画像提供:DigiKey)
最初の例はフェーズドアレイアンテナで、RFソースが2つのアンテナ素子に分割されます。このタイプのアンテナには以前から2~8個以上の素子があり、各素子は電力分配器の出力ポートによって駆動されます。一般的に位相シフタが分配器の外部にあることで、フィールドのパターンアンテナを電子制御によってステアリングできます。
2番目の例は、RFキャリアを同相(I)と直交(Q)変調成分に復調する2台のミキサに局部発振器を提供する必要がある直交復調器です。Q信号の復調に必要な90°位相シフトは図のように電力分配器の外部に配置するかまたは内部に配置することもできます。いずれの場合も、信号のパワーレベルは同等です。
電力分配器は「逆方向」にも運用できるので、複数の入力を単一の出力に結合することで電力コンバイナとしても使用できます。コンバイナモードの場合、このデバイスはその振幅と位相の値に基づいて、信号のベクトル加法または減法を実行できます。
電力分配器のトポロジ
信号を2つの低減された振幅成分に分割しようとする場合、設計者は、単純に「T字型」接続を使おうとして2つの負荷を共通のソースに配置する場合もあるでしょう(図2)。
図2:基本的なT字型接続では、信号を等しい振幅と同じ位相を持つ2つの成分に分割できますが、いくつかの制約があります。(画像提供:DigiKey)
この構成は成立しますが、いくつかの制約があります。最もわかりやすいのは、インピーダンス不一致です。両方の出力(ポート2、3)が50オーム(Ω)に信号を供給する場合、入力ポート(ポート1)には25Ωの負荷が与えられます。入力源が50Ωデバイスの場合、これには負荷の問題が生じます。もう1つの問題は絶縁の欠如です。たとえば出力の1つが短絡した場合、もう1つのポートも短絡します。
電力分割器には、T字型接続の制約をなくす3つの主な回路トポロジがあります。それら3つのトポロジは、抵抗/ハイブリッド/ウィルキンソンです(図3)。ウィルキンソンおよびハイブリッドの分配器は、リアクティブ型分配器と呼ばれる分配器クラスに属します。
図3:3種類の一般的な電力分配器トポロジの簡略回路図。それぞれ抵抗、ウィルキンソン、およびハイブリッドの分配器。(画像提供:DigiKey)
抵抗分配器
抵抗分配器は、電力分配器の最も一般的な実装形態です。値が等しい3つの抵抗器を使用し、最も一般的な構成はスター構成です。 デバイスの対称性により入力専用ポートがなく、どのポートも入力として使用できます。抵抗値は、電力分配器の使用における特性インピーダンスの3分の1です。50Ωシステムの場合は抵抗値は16.67Ωです。75Ωシステムであれば抵抗値は25Ωです。抵抗電力分配器のグループは一般的に周波数帯域幅が最も広くなります。これは設計に周波数依存の無効分がないためです。
抵抗電力分配器の主な利点はその簡潔さにあり、最小限のコストで簡単に実装できます。またデバイスの大きさも最小です。主な欠点は、出力ポート間の直列抵抗による電力損失です。このデバイスには定格電力仕様があります。抵抗電力分配器の大半のアプリケーションは、比較的低電力です。ポート間の抵抗器による絶縁は、T字型構成と比較して改善されます。
抵抗電力分配器の出力ポートにおける信号振幅は、入力信号レベルの信号振幅の半分になります(図4)。
図4:抵抗電力分配器の入力と出力の比較。入力信号は50MHzの正弦バーストで、179.5mVの二乗平均平方根(rms)振幅をともないます(左上のトレース)。出力(中央と左下のトレース)のrmsレベルは91.7mV(-5.8dB)と88.7mV(-6.1dB)です。なお、信号は想定どおりすべて同相となります。(画像提供:DigiKey)
左上グリッドのトレースは50MHzのサインバースト入力信号で、179.5mVのrmsレベルとなります。中央と左下グリッドの出力レベルは、それぞれ91.7mVと88.7mVのrmsレベルをともなう出力信号です。これらは、入力信号より-5.8dBおよび-6.1dB下回ります。右側の3つのトレースは水平方向に拡大したトレースで、詳細を表示できます。なお、信号は想定どおりすべて同相となります。
抵抗電力分配器には、たとえばSusumuのPS2012GT2-R50-T1があります。これは50Ω、2ポートの抵抗電力分配器で、帯域幅は20GHzです。また定格消費電力125mW、挿入損失6±0.5dBでその内3dBは内部抵抗器の消費電力によるものです。このデバイスは、寸法2 x 1.25 x 0.4mmの表面実装パッケージに収納されています。
ウィルキンソン電力分配器
ウィルキンソン電力分配器はリアクティブ型分配器で、2つの分離された並列の四分の一波長伝送ライントランスを使用します。伝送ラインを使用することで、標準のプリント回路伝送ラインを使用してウィルキンソン電力分配器を簡単に実装できます。伝送ラインの長さによって、一般的にウィルキンソン電力分配器の周波数範囲が500MHzより上に制約されます。出力ポート間にある抵抗器により、出力ポートでのインピーダンス一致と絶縁の維持が可能になります。出力ポートには同じ振幅と位相の信号が含まれ抵抗器に電圧がかからないので、電流が流れず抵抗器は電力を消費しません。
AnarenのPD3150J5050S2HFは2ポート、50Ωのウィルキンソン型電力分配器で、3.1GHz~5GHzの周波数範囲をカバーし、最大出力定格は2Ωです。挿入損失は3dBの電力削減を除き1dB(標準)で、絶縁は15dB(標準)超です。寸法は2.0 x 1.29 x 0.53mmです。
ハイブリッド電力分配器
ハイブリッド電力分割器(図3)は、トランスの使用をベースにします。トランスT2はセンタータップ付きで、巻数比2:1のオートトランスを形成します。全出力側のインピーダンスは、センタータップからグランドまでのインピーダンスの4倍です。各出力ポート(ポート2、3)のインピーダンスが50Ωであれば、負荷インピーダンスの合計は100Ωになります。これにより、T2トランスのセンタータップにおけるインピーダンスが25Ωになります。この負荷が入力(ポート1)に一致するには、トランスT1が25Ω~50Ωインピーダンス一致トランスとなる必要があります。
入力がポート1に適用され、ポート2と3が50Ω負荷で終端されると、電流がポート2と3に180°の位相シフトで誘導されます。抵抗器R(ポート2と3のインピーダンス合計に等しく、ここでは100Ω)を流れる電流は、逆位相で等しくなりキャンセルされます。ポート3の信号からポート2およびその逆には電圧がかかりません。理論的には無限の絶縁が存在します。入力電力の半分が各出力ポートに現れます。
MACOMのMAPD-009278-5T1000はハイブリッド電力分配器で、5MHz~1GHzの周波数範囲をカバーします。2ポートの0°電力分配器として構成されています。3dBの電力低減を除く挿入損失は1.4dB未満です。絶縁の仕様は20dB(標準)です。この電力分配器は250mWの最大出力レベルに対応し、実寸は4.45 x 4.22 x 3mmです。
アクティブ電力分配器
無損失信号分配を必要とするアプリケーションでは、アクティブな電力分配器、たとえばAnalog DevicesのADA4304-3ACPZ-R7などを使用できます。このデバイスは75Ω、3:1パワースプリッタで、3dBゲインを供給できるアンプを内蔵しています。また、54~865MHzの周波数範囲での使用を目的とした2400MHzの帯域幅を備えています。出力間絶縁は25dBより優れています。75Ωインピーダンスと周波数範囲からわかるように、この電力分配器はマルチチューナ型セットトップボックスやケーブルテレビなどのテレビ向け用途に適しています。
上述のデバイスの中では、抵抗電力分配器が最もシンプルで、可能な範囲で最も広い帯域幅を備え、サイズも最小ですが、挿入損失が高く絶縁が低くなります。ウィルキンソン電力分配器は、挿入損失が低く絶縁が優れますが、帯域幅の制約があります。実サイズは、必要な特定の周波数範囲により異なります。ハイブリッド電力分配器は、挿入損失が低く絶縁に優れますが、実サイズが大きくなります。アクティブパワースプリッタは挿入損失が解消されますが、より高価になる傾向があります。
実装の考慮事項
電力コンバイナは非常に簡素ですが、正しく適用しない限り問題の原因になる場合があります。たとえば、入力でのDCオフセットには注意が必要です。トランスを使用するハイブリッドコンバイナは、DCオフセットに対応しません。
抵抗電力分配器では、DCオフセットが存在すると分配器の電力定格が低減する場合があります。すべてのパッシブ電力コンバイナでは対称トポロジになり、設計者はその対称性を維持しながらコンバイナを適用する必要があります。負荷は一致および均衡させる必要があります。不一致の負荷インピーダンスを使用すると、出力レベルが等しくなくなります。
たとえば、局部発振器を直交変調器または復調器に供給するなどの、固定位相差を必要とするアプリケーションでは、ミキサでの位相不一致を防ぐため、出力パスの長さを等しくする必要があります。
まとめ
信号の分割または結合の必要性は、IoT、デジタル通信、自動車運転支援など多様なアプリケーションでの最新RF設計にとって不可欠な要素です。この機能を担うのが、電力分配器/コンバイナです。設計者が電力分配器を使う必要がある場合の選択肢は、3種類の電力分配器トポロジのいずれかとなり、各トポロジにはそれぞれ一長一短があります。各トポロジの特性の基本を知ることで、設計者は適切な電力分配器を選択できるようになります。
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