アナログ電圧コンパレータの基本と使用方法:レベル検出から発振器まで

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

設計者が、モノのインターネット(IoT)、産業用IoT(IIoT)、人工知能(AI)、機械学習(ML)アプリケーション向けにエッジでより多くのデータを収集しようとするとき、測定値(電圧、電流、温度、または圧力)が閾値より上か下かを検出する簡単な方法が必要になります。同様に、測定された量が値の範囲内にあるか、範囲外にあるかを知る必要があることがよくあります。ノイズや干渉信号がある場合にエッジでこの判断を行うことはしばしば困難ですが、適切に選択して適用された電圧コンパレータが役立ちます。

電圧コンパレータは、入力電圧と既知のリファレンス電圧を比較し、入力がリファレンス電圧より上か下かによって出力状態を変化させる電子デバイスです。この機能は、閾値の交差、ヌル、振幅範囲内または範囲外の信号振幅を検出する必要性を満たしています。

この記事では、電圧コンパレータの使用、その特性、および重要な選択基準について説明します。Texas Instrumentsのデバイス例を使用して、閾値検出器およびゼロ交差検出器のための電圧コンパレータの使用について、クロック回復および弛張発振器のアプリケーションとともに説明します。

電圧コンパレータとは?

電圧コンパレータは、2つの入力のうち、どちらの入力がもう一方の入力よりも高い電圧であるかを論理状態で出力する電子デバイスです(図1)。

TINA-TIのシミュレーションで示されたコンパレータの基本動作の画像(クリックして拡大)図1:コンパレータの非反転入力に正弦波を印加し、基準として反転入力にゼロボルト(グランド)を印加することで、コンパレータの基本動作をTINA-TIシミュレーションで示しています。(画像提供:DigiKey)

コンパレータはTexas InstrumentsのTLV3201AQDCKRQ1シングルコンパレータで、プッシュプル出力を備えています。すべてのコンパレータと同様に、2つの入力があります。反転入力はマイナス記号(-)、非反転入力はプラス記号(+)で表示されます。コンパレータ入力はオペアンプの入力と非常によく似ています。主な違いは、コンパレータの出力がアナログ電圧ではなくデジタル論理の状態であることです。図1では、入力は200ミリボルト(mV)のピーク振幅を持つ1メガヘルツ(MHz)の正弦波です。非反転入力の電圧が反転入力の電圧よりも大きい場合、出力はこの場合2.5ボルトのハイ状態になります。非反転入力の電圧が反転入力の電圧より低い場合、出力は-2.5ボルトのロー状態になります。このコンパレータはレールツーレール出力を備えているため、出力論理の状態は電源レベルまで拡張されます。この例では、対称的な正負2.5ボルトの電源が使用されており、出力電圧振幅に反映されています。

コンパレータの1つの考え方は、それが1ビットのA/Dコンバータ(ADC)であるというものです。ゼロ交差で状態を変更するように構成されている場合、その出力は基本的に符号ビットです。

このコンパレータは40ナノ秒(ns)の応答時間を持ち、これは伝播速度または遅延として指定されます。これは、入力で閾値が交差してから出力が状態を変化させるまでの時間です。伝播速度は、コンパレータがどれだけ速く状態を切り替えられるかに影響し、実質的には帯域幅に関連する仕様です。TLV3201はまた、信号入力のノイズを抑制するために、1.2mVの電圧ヒステリシスを内蔵しています。

ヒステリシスとノイズ

コンパレータ入力にノイズやスプリアス信号があると、閾値が複数回交差し、出力が閾値の交差に合わせて複数回切り替わる場合があります(図2)。

信号入力のノイズにより、コンパレータ出力が複数回切り替わる場合があることを示す画像(クリックして拡大)図2:信号入力にノイズがあると、ノイズが閾値の上と下に入力を繰り返し駆動するため、コンパレータ出力が複数回切り替わる場合があります。(画像提供:DigiKey)

この不要な出力スイッチングの解決策は、コンパレータ回路に振幅ヒステリシスを追加することです。ヒステリシスにより、コンパレータ出力は、閾値の交差後、入力振幅が一定量変化するまでその状態を保持します。これは、出力からコンパレータの入力に正のフィードバックを適用して、閾値を小さな増分だけシフトさせることで実現します(図3)。

ヒステリシスがリファレンス入力に正のフィードバックを適用することを示す画像(クリックして拡大)図3:ヒステリシスは、リファレンス入力に正のフィードバックを適用して、閾値を一定の増分だけシフトさせます。そのため、入力信号の小さな振幅変化が出力を変化させることはできません。(画像提供:DigiKey)

抵抗R3は出力をリファレンス入力にフィードバックし、リファレンスレベルを抵抗R1、R2、およびR3の値によって決定されるわずかな量だけシフトさせます。与えられた抵抗値では、これは400mVのヒステリシスとなり、入力がヒステリシス振幅を超えるまで出力状態が変化しないように閾値を変化させます。その結果、出力は閾値の交差で1回遷移します。

図1の回路と比較して、使用した回路についていくつかの注意点があります。まず、反転入力と非反転入力が入れ替わっており、出力論理が反転しています。出力は、信号が閾値を下回ると論理ハイになります。この回路特性は、値が範囲内または範囲外かをセンスする回路に利用されます。TLV3201は、図1の2.5Vのデュアル電源ではなく、5Vのシングル電源で動作します。このため、R1とR2で構築された電圧デバイダによって2.5ボルトのリファレンス電圧(入力のコモンモード電圧)が生成されます。入力信号もこのコモンモード電圧にバイアスされます。三角波のピーク振幅は2ボルトで、バイアスレベルは2.5ボルトです。これは一般的な回路構成です。

ウィンドウ内外の値をセンスする

1つの電圧コンパレータは、入力電圧がリファレンス閾値を上回っているか下回っているかをセンスできます。入力電圧が2つの限界値の間にあるかどうかを判断することはウインドウイングと呼ばれますが、これには各限界値に1つずつ、合計2つのコンパレータが必要です(図4)。

コンパレータウィンドウ回路構成の図(クリックして拡大)図4:コンパレータウィンドウ回路構成では、デュアル電圧コンパレータを使用して、入力がVLとVHの2つの電圧レベル内にあるかどうかを判断します。(画像提供:Texas Instruments)

上の図で示したウィンドウ回路には、Texas InstrumentsのTLV6710DDCRデュアル電圧コンパレータを使用しています。TLV6710は、高電圧アプリケーション向けの2つの高精度コンパレータで構成されています。1.8~36ボルトの電源電圧で動作します。400mVの内部DCリファレンスソースが含まれています。コンパレータ出力はオープンドレイン接続になっており、図のように共通のプルアップ抵抗を介して接続することで論理的に「OR接続」できます。コンパレータは、1つのコンパレータ(コンパレータA)の反転入力ともう1つのコンパレータ(コンパレータB)の非反転入力にリファレンス電圧が印加されるように配線されています。入力は抵抗R1、R2、R3からなる電圧デバイダを介して印加され、電圧デバイダは下限で3.3ボルト、上限で4.1ボルトに閾値電圧を設定します。入力のVMONがウィンドウ内にあるとき、コンパレータ出力はハイ状態(3.3ボルト)になります。コンパレータAは入力電圧が4.1ボルト未満の場合を示し、コンパレータBは入力が3.3ボルトを超える場合を示します。TLV6710の両方のコンパレータには、ノイズと小さなグリッチを除去するのに役立つ5.5mVの公称内部電圧ヒステリシスがあることに注意してください。

このコンパレータの伝播遅延は、通常、ハイからローへの遷移で9.9マイクロ秒(μs)、ローからハイへの遷移で28.1μsです。この違いは、オープンドレイン出力構成によるものです。ハイからローへの遷移は出力FETによるアクティブプルダウンであり、ローからハイへの遷移は抵抗を介したパッシブプルアップで、より時間がかかります。このコンパレータは、より高い伝播遅延(遅い信号)で動作可能な電圧監視アプリケーション向けです。

ウインドウイングアプリケーション

ウインドウイングは、光と2つのCDSフォトセルを用いてロボットの進行方向を制御するために、ロボティクスで使用できます。たとえば、硫化カドミウム(CDS)フォトセルは、照明に応じて抵抗値が変化し、暗いときは抵抗値が高く、照明が当たっているときは抵抗値が大幅に低くなります。TINA-TIのシミュレーションでは、Texas InstrumentsのLM393BIPWRデュアルコンパレータを使用してこの原理を説明しています(図5)。

2つの制御モータを用いたロボット操縦制御の回路シミュレーションの画像(クリックして拡大)図5:「Left」、「Right」とラベル表示された2つの制御モータを用いたロボット操縦制御の回路シミュレーション。モータに5ボルトが印加されると前進し、0ボルトが印加されると逆方向に移動します。(画像提供:DigiKey)

LM393Bコンパレータは、3~36ボルトの電源電圧で動作できるオープンコレクタ出力のデュアルコンパレータです。この回路では、各セクションが「Left Drive」または「Right Drive」として指定された2つのモータのそれぞれにモータ制御信号を提供しています。

ポテンショメータは、2つのCDSフォトセルをモデル化するために使用されます。0%から40%までのポテンショメータの設定は、右のフォトセルが照らされ、左のフォトセルが暗いままであることを表します。60%から100%までの設定は、光が主に左のフォトセルに当たっており、右のフォトセルは暗くなっていることを示します。40%~60%の設定では、両方のフォトセルが照らされます。どちらかのモータへのモータ制御信号が+5ボルトの場合、モータは正回転します。モータ制御信号が0ボルトの時は、モータは逆回転します。

両方のフォトセルが均等に照らされているときは、両方のモータが正回転し、ロボットを直進させます。ポテンショメータの設定が0%~40%の間にある場合、左のモータが正回転、右のモータが逆回転してロボットを右に駆動します。60%~100%の範囲では、右のモータが正回転、左のモータが逆回転し、ロボットは左に回転します。

コンパレータのリファレンスレベルは電圧デバイダから導き出され、右のコントローラで2ボルト(ポテンショメータの40%)、左のコントローラで3ボルト(ポテンショメータの60%)に設定されています。

弛張発振器

正のフィードバックと負のフィードバックの両方を使用して、コンパレータを弛張発振器として構成することができます(図6)。

入力の1つにコンデンサを追加してフィードバックを適用する画像(クリックして拡大)図6:入力の1つにコンデンサを追加し、そのコンデンサにフィードバックを適用することで、弛張発振器が作成されます。(画像提供:DigiKey)

矩形波出力の弛張発振器(非安定マルチバイブレータとも呼ばれます)は、図6に示す回路を用いて作成することができます。発振周波数はR1とC1の抵抗-コンデンサ時定数で決まります。C1が最初に放電された状態(0ボルト)では、反転入力電圧は非反転入力のリファレンス電圧を下回っています。出力は強制的に5ボルトになります。コンデンサC1はR1を介してリファレンス電圧まで充電され、その時点で出力は0ボルトに低下します。C1はリファレンス電圧を下回るまでR1を介して放電され、サイクルが繰り返されます。リファレンス電圧にはヒステリシス(正)フィードバックが付加されています。出力が0ボルトのとき、リファレンス電圧は2.5ボルトです。出力が5ボルトの場合、リファレンス電圧は約1.7ボルト上昇し、4.2ボルトになります。グラフの過渡応答は、出力(Vo)とコンデンサ(Vc)の両方の電圧波形を示しています。

最大発振周波数はコンパレータの伝播遅延によって制限されます。この場合、伝播遅延が40nsのTexas Instruments TLV3201を使用して、10MHzの発振器を作成します。この周波数は、このコンパレータの最大値にかなり近くなります。

クロックの回復と復元

バックプレーンやケーブルを介して伝送されるクロック信号は、帯域幅の制限、符号間干渉(ISI)、ノイズ、反射、クロストークによって劣化します。コンパレータは、クロック信号を回復し、より明確に定義された形に復元するために使用することができます(図7)。

伝播遅延が7nsのコンパレータの画像(クリックして拡大)図7:内部ヒステリシスを備え、伝播遅延が7nsのコンパレータは、20MHzのクロックを復元するために使用されます。(画像提供:DigiKey)

このタイプのアプリケーションでは、伝播遅延がより重要になります。コンパレータが追跡できる最大周波数は、次の式が示すように伝播遅延と出力遷移時間の関数です。

式1 式1

上記の式で、fMAXは最大トグル周波数

tRiseは出力立ち上がり時間

tFallは出力立ち下がり時間

tPD LHはローからハイへの遷移時の伝播遅延

tPD HLはハイからローへの遷移時の伝播遅延

5ボルト電源で動作するTexas InstrumentsのLMV7219M5X-NOPBは、立ち上がり時間が1.3ns、立ち下がり時間が1.25ns、標準伝播遅延が両遷移方向で7nsです。これにより、最大トグル周波数は60.4MHzとなります。電源が2.7ボルトで伝播遅延と遷移時間を長くしても、このコンパレータレートの最大トグル周波数は約35MHzで、この20MHzクロックには十分です。

極めて低い伝播遅延に加えて、LMV7219はレールツーレールのプッシュプル出力段を組み込んでいます。これは立ち上がり時間と立ち下がり時間が短く均一であることを意味します。また、7.5mVの内部ヒステリシスを持ち、ノイズの影響を最小限に抑えています。

まとめ

アナログとデジタルの世界の架け橋となる電圧コンパレータは、エッジでIIoT、AI、MLの信号レベルやウインドウイングに使用したり、ヌル検出、クロック回復に使用したり、発振器として使用したりすることができ、特に有用なツールです。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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