タクタイルスイッチの基礎知識
2022-03-01
タクタイルスイッチは、電気スイッチの一種で、メカニカルスイッチと同様、手で作動させて電気回路を開閉する電気スイッチの一種で、よく知られているものです。1980年代初頭、キーボードやキーパッドのメンブレンスイッチやスクリーン印刷スイッチとして誕生したこのタイプのスイッチは、当初、性能が低かったり触覚フィードバックがなかったりするために抵抗感を持たれていました。しかし、1980年代後半になると、金属ドームを組み込んだものが、触覚フィードバックの改善、確実な作動、寿命の延長により、広く普及するようになりました。このような変化により、現在、民生用・業務用を問わず、様々な用途で使われているタクタイルスイッチが誕生したのです。
前述したように、タクタイルスイッチは、アクチュエータを押すと、「カチッ」という音や触感でスイッチが正常に作動したことが分かるのが大きな特徴です。このスイッチは、モーメンタリ作動のデバイスであるため、ユーザーが押さなくなると解放され、電流が遮断されます。タクタイルスイッチはノーマリオープンタイプが一般的ですが、アクチュエータを押すと電流が切れ、解放すると電流が流れ始めるノーマリクローズタイプも存在します。
図1:一般的なタクタイルスイッチの例(画像提供:Same Sky)
タクタイルボタンか押ボタンか?
タクタイルスイッチと押ボタンスイッチは、よく混同されたり、相手方の名前で呼ばれたりします。押ボタンスイッチは、性質や機能がタクタイルスイッチと似ていますが、アクチュエータを所定の深さだけ押すことで電流を流し、再び押すことで電流を止めるというように動作します。一方、タクタイルスイッチは、アクチュエータを最小限の深さまで押し続ければ、電流の流れが開始/停止します。
モーメンタリ作動スイッチとして動作するのは押ボタンの一部であるのに対し、タクタイルスイッチはすべてモーメンタリ作動スイッチです。タクタイルスイッチは一般的にパッケージサイズが押ボタンスイッチよりも小さく、通常、電圧と電流の定格が低くなっています。また、音声や触覚によるフィードバックも押ボタンとの大きな違いであり、押ボタンがパネルにもPCBにも実装できるのに対し、タクタイルスイッチはPCBにのみ直接実装できるよう設計されています。押ボタンスイッチの詳細については、Same Skyのブログ「Push Button Switches 101」をご覧ください。
基本構造と動作
タクタイルスイッチが他のメカニカルスイッチよりもシンプルで堅牢であることにつながる重要ポイントの一つは、目的の機能を実現するための内部部品の数が限られているということです。一般的なタクタイルスイッチの設計には通常、以下のような合計4つの部品が含まれています。
- トップカバー:スイッチの内部機構を保護するもので、目的の機能に応じて金属や他の素材で構成されます。また、静電気からスイッチを保護するためのアース端子を付けることもできます。
- プランジャ:カバーの下、コンタクトドームの上にあり、ユーザーが押してドームを曲げ、スイッチを作動させるための部品です。プランジャには、フラット型と隆起型があります。
- コンタクトドーム:アーチ状の形状をした部品で、ベースにフィットし、プランジャに接触すると、たわんだり、裏返しの形になったりします。このたわみによって、「カチッ」という音や触感を実現するとともに、ベースの2つの固定コンタクトを接続し、回路が完成します。プランジャとの接触がなくなると、コンタクトドームは元の形に戻り、回路を切断します。コンタクトドームとプランジャの両方に使用する素材(金属、ゴムなど)によって、スイッチの触感と音が決まります。
- 成形樹脂ベース:最後の部品であり、スイッチとPCBを接続するための端子やコンタクトを収納します。
図2:代表的なタクタイルスイッチの構造(画像提供:Same Sky)
主な利点と仕様
適切なタクタイルスイッチを選択するには、製品データシートに記載されている仕様を評価するだけでは足りません。部品としてのタクタイルスイッチの選定は、モーメンタリ作動、低電力&低電流定格、可動部が少ないことによる堅牢性、低コストといった一般的な特長や利点の他に、触感や音によっても大きく左右されます。スイッチやその触覚フィードバックを作動させるのに必要な力は目的の用途や機能によって異なるため、触感や音は数値化が難しい特長であると言えます。たとえば、車載用のタクタイルスイッチは、振動による誤入力を避けるために、家庭やオフィスで使用するスイッチよりも大きな作動力が必要となる場合があります。スイッチの特性を決めるには通常、試作とテストを行うことをお勧めします。
とはいえ、選定する際には、やはり以下のような重要な仕様項目を押さえておきたいところです。
- 定格電圧:スイッチが開閉する際に耐えることができる最大電圧。
- 定格電流:スイッチが損傷を受けるまでに流すことができる最大電流(アンペア)。
- 作動力(または作動荷重):スイッチ上のアクチュエータを動かすのに必要な力または圧力の量(単位:グラム重またはgf)。
- たわみ量(またはアクチュエータの深さ):スイッチを完全に奥まで押した場合の深さ。
- 接触力:スイッチが端子を接続するために必要な力または圧力(単位:グラム)。
- アクチュエータ高さ:スイッチ本体から見たアクチュエータの高さ(図3を参照)。
- ライフサイクル範囲:通常の動作条件下でのスイッチの予想寿命。
- 温度範囲:スイッチが仕様通りに動作する動作温度範囲。
- 実装スタイル:スイッチをPCBに実装する方法。スルーホール実装と面実装から選択します。
- IP定格:埃や液体の侵入に対するスイッチ(および他の製品)の保護レベルを分類した国際規格。Same Skyの「IP67定格タクタイルスイッチ」ページをご覧ください。
図3:タクタイルスイッチの一般的なアクチュエータ高さ(画像提供:Same Sky)
タクタイルスイッチの配線
多くのタクタイルスイッチは、PCB実装時に安定性を確保するために4本のピンを備えています。これらの4本のピンは内部で2組に分けて接続されています。配線に必要なピンは技術的には2本だけですが、4本すべてのピンを使用することがベストプラクティスです。また、2ピンのみのタクタイルスイッチモデルや、最小限のパッケージでジョイスティックのように操作できる5ピンのモデルもあります。
図4:一般的な4ピンタクタイルスイッチの構造(画像提供:Same Sky)
まとめ
タクタイルスイッチは、小型・低背・長寿命であることから、ウェアラブル技術などの新しいアプリケーションを含め、民生用・業務用を問わず様々な製品の多様なニーズに適合しています。低電力でモーメンタリ作動できる必要がある場合、タクタイルスイッチは、触感と音によるフィードバックという付加価値を持つ、最適のスイッチソリューションであり続けるでしょう。タクタイルスイッチの選定作業を支援するためにSame Skyでご用意しているラインナップは、小型パッケージ、様々なアクチュエータ高さ、複数の構造オプションを備えたものです。
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