フォトダイオードおよびフォトトランジスタの基礎と応用方法

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

設計問題の中には、人間の視覚を用いて簡単に解決できる種類があります。プリンタで用紙の適切な位置を感知する場合を考えてみましょう。人間がアライメントを確認するのは簡単ですが、マイクロプロセッサがそれを検証するのは困難です。携帯電話のカメラは、フラッシュを作動させる必要があるかどうかを判断するために、周囲光を測定する必要があります。どうすれば血液中の酸素濃度を非侵襲的に測定することができるでしょうか?

このような設計上の課題は、フォトダイオードやフォトトランジスタを使用することで解決できます。これらの光エレクトロニクスデバイスは、光(光子)を電気信号に変換することで、マイクロプロセッサ(またはマイクロコントローラ)が「見る」ことを可能にします。これにより、物体の位置や配置の制御、光度の特定、光との相互作用に基づく物質の物理的特性の測定などが可能になります。

この記事では、フォトダイオードとフォトトランジスタの動作理論を解説し、設計者にそのアプリケーションの基礎知識を提供します。その例としては、Advanced Photonix, Inc.Vishay Semiconductor Opto DivisionExcelitas TechnologiesGenicom Co., LtdMarktech Optoelectronics、およびNTE Electronicsのデバイスが挙げられます。

フォトダイオードやフォトトランジスタで一般的に使用される光学スペクトル

フォトダイオードやフォトトランジスタは、さまざまな光波長に反応します。場合によっては、これが操作を人間の目に見えなくするための設計上の考慮事項となります。設計者は、デバイスをアプリケーションに適合させるために、光学スペクトルを認識する必要があります。

光学スペクトルは、長波長の赤外線(IR)から短波長の紫外線(UV)まで広がっています(図1)。可視光の波長は、その中間にあたります。

可視スペクトルを中間にして紫外線から赤外線まで広がる光学スペクトルの図(クリックして拡大)図1:電磁スペクトルの一部である光学スペクトルは、紫外線から赤外線まで広がっており、その中間に可視スペクトルがあります。表には、可視光の波長とそれに関連した周波数の一覧を示します。(画像提供:Once Lighting(上)およびArt Pini(下))

ほとんどの光エレクトロニクスデバイスは、ナノメートル(nm)単位の動作波長を用いて指定され、周波数値が使用されることはほとんどありません。

シリコン(Si)フォトダイオードは、可視光に敏感な傾向があります。赤外線感応デバイスには、アンチモン化インジウム(InSb)、ヒ化インジウムガリウム(InGaAs)、ゲルマニウム(Ge)、またはテルル化カドミウム水銀(HgCdTe)が使用されます。紫外線に対して敏感なデバイスには、一般的にシリコンカーバイド(SiC)が使用されています。

フォトダイオード

フォトダイオードは、2つの素子からなるP-NまたはPIN接合部で、透明なボディまたはカバーを通して光にさらされます。接合部に光が当たると、動作モードに応じて電流や電圧が発生します。フォトダイオードは、印加されるバイアスに応じて、3つのモードのいずれかで動作します。それらは、光起電モード、光伝導モード、アバランシェダイオードモードです。

フォトダイオードにバイアスがない場合は、光起電モードで動作し、光源を照射すると小さな出力電圧が発生します。このモードでは、フォトダイオードが太陽電池のように動作します。光起電モードは、一般的に350kHz未満の低周波アプリケーションで、低光強度の場合に有効です。出力電圧が低いため、フォトダイオードの出力にはほとんどの場合、アンプが必要です。

光伝導モードでは、フォトダイオードを逆バイアスにする必要があります。逆バイアスをかけると、P-N接合部に空乏領域が生成されます。バイアスが大きいほど、空乏領域は広くなります。空乏領域が広がることで、バイアスなしのダイオードに比べて静電容量が減少し、応答時間が速くなります。このモードでは、ノイズレベルが高くなり、それを制御するために帯域制限が必要になる場合があります。

逆バイアスがさらに大きくなると、フォトダイオードはアバランシェダイオードモードで動作します。このモードでは、フォトダイオードが高い逆バイアス状態で動作し、アバランシェブレークダウンによって光生成された電子正孔対が増加します。これにより、フォトダイオードの内部ゲインと高感度を実現します。このモードは、光電子増倍管に似た機能をもたらします。

ほとんどのアプリケーションでは、フォトダイオードが逆バイアスの光伝導モードで動作します(図2)。

光度に比例して電流が流れる逆バイアスされたフォトダイオードの図(クリックして拡大)図2:逆バイアスされたフォトダイオードでは、空乏領域で電子正孔対が生成されるため、光度に比例した電流が発生します。青く塗りつぶされた円は電子を、白い円は正孔を表しています。(画像提供:Art Pini)

逆バイアスされた未照射のフォトダイオード接合部には、自由キャリアの少ない空乏領域があります。それは、帯電したコンデンサのように見えます。熱的に励起されたイオン化によって小さな電流が発生し、これは「暗」電流と呼ばれます。理想的なフォトダイオードには、暗電流がありません。暗電流と熱雑音のレベルは、ダイオードの温度に比例します。暗電流は光レベルが極端に低くなると光電流を隠してしまうため、暗電流の少ないデバイスを選択する必要があります。

光が十分なエネルギーで空乏層に衝突すると、結晶構造中の原子がイオン化し、電子正孔対が生成されます。バイアスにより、既存の電界は電子を陰極に移動させ、正孔を陽極に移動させることで、光電流を引き起こします。光度が大きいほど、光電流も大きくなります。図3に示す逆バイアスされたフォトダイオードの電流-電圧特性は、これを示しています。

逆バイアスされたフォトダイオードのV-I特性のグラフ(クリックして拡大)図3:逆バイアスされたフォトダイオードのV-I特性は、光レベルに応じてダイオード電流が段階的に変化することを示しています。(画像提供:Art Pini)

このグラフは、光度をパラメータとして、印加された逆バイアス電圧に応じたダイオードの逆電流をプロットしたものです。光レベルの増加に伴い、逆電流レベルも比例して増加することに注意してください。これは、光度を測定するためにフォトダイオードを使用する際の基本です。バイアス電圧が0.5Vを超える場合、光電流にはほとんど影響しません。この逆電流をトランスインピーダンスアンプに印加すると、電圧に変換することができます。

フォトダイオードのタイプ

光の検出・測定アプリケーションは多岐にわたるため、さまざまなタイプの独特なフォトダイオードが登場しています。基本的なフォトダイオードは、プレーナ型P-N接合です。このデバイスは、バイアスなしの光起電モードで最高の性能を発揮します。また、最もコスト効率が良いデバイスでもあります。

Advanced Photonix, Inc.の002-151-001は、プレーナ拡散型InGaAsフォトダイオード/光検出器の1例です(図4)。この製品は、1.6 x 3.2 x 1.1mmの面実装デバイス(SMD)パッケージで提供され、直径0.05mmの有効光学的開口を備えています。

プレーナ拡散型P-N SMDフォトダイオードであるAdvanced Photonixの002-151-001の画像(クリックして拡大)図4:002-151-001は、1.6 x 3.2 x 1.1mmのプレーナ拡散型P-N SMDフォトダイオードです。スペクトル域は800~1700nmです。(画像提供:Advanced Photonix)

このInGaAsフォトダイオードは、赤外スペクトルをカバーする800~1700nmのスペクトル域を備えています。その暗電流は1nA未満です。特定の光パワーを入力したときの電流出力を指定する分光感度は、通常1A/Wです。この製品は、産業用センシング、セキュリティ、および通信などのアプリケーションを対象としています。

PINダイオードは、従来のダイオードのP型層とN型層の間に抵抗値の大きな真性半導体の層をはさんで形成されます。したがって、PINという名称は、このダイオードの構造を反映しています。

真性層を挿入したことでダイオードの空乏層の有効幅が広がった結果、静電容量は低くなり、降伏電圧が高くなります。静電容量を低くすることで、フォトダイオードの速度を効果的に高めることができます。空乏領域が大きいほど、光誘導による電子正孔の発生量が多くなり、量子効率が向上します。

Vishay Semiconductor Opto DivisionのVBP104SRは、430~1100nm(紫~近赤外)のスペクトル域をカバーするシリコンPINフォトダイオードです。この製品の一般的な暗電流は2nAで、4.4mm²という大きな光学的感度領域を備えています(図5)。

VishayのVBP104SR PINフォトダイオードの画像(クリックして拡大)図5:VishayのVBP104SRは、高速光検出を目的として大きな光センシング窓を備えたPINフォトダイオードです。(画像提供:Vishay Semiconductors)

アバランシェフォトダイオード(APD)は、アバランシェ効果を利用してダイオードにゲインを生成するという点で、光電子増倍管と機能的に似ています。高い逆バイアスがかかると、それぞれの正孔電子対がアバランシェブレークダウンによってさらに対を生成します。これにより、光の1光子あたりの光電流が大きくなるという形でゲインが得られます。そのため、APDは光感度が低い場合に最適な選択肢となります。

APDの例として、Excelitas TechnologiesのC30737LH-500-92Cが挙げられます。この製品は500~1000nm(青緑~近赤外)のスペクトル域を備え、ピーク応答は905nm(赤外)です。分光感度は900nmで60A/W、暗電流は1nA未満です。この製品は、車載用の光検出と測距(LiDAR)システムや光通信など、高帯域のアプリケーションを対象としています(図6)。

Excelitas TechnologyのC30737LH-500-92Cアバランシェフォトダイオードの画像(クリックして拡大)図6:C30737LH-500-92Cアバランシェフォトダイオードは、LiDARや光通信などのアプリケーションを対象とした高帯域のフォトダイオードです。(画像提供:Excelitas Technology)

ショットキーフォトダイオード

ショットキーダイオードは、金属と半導体の接合をベースにしています。接合の金属側は陽極になり、N型半導体側は陰極になります。光子は、部分的に透明な金属層を通過してN型半導体に吸収され、電荷キャリアのペアが解放されます。これらの自由電荷キャリアは、印加電界によって空乏層から一掃され、光電流を形成します。

これらのダイオードに顕著な特性は、応答時間がきわめて速いことです。一般的に小型のダイオード接合構造を採用しているため、迅速に応答することができます。ギガヘルツ(GHz)領域の帯域幅を備えたショットキーフォトダイオードが市販されています。これらは、高帯域の光通信リンクに最適です。

ショットキーフォトダイオードの例として、Genicom Co., Ltd.のGUVB-S11SDフォトセンサが挙げられます(図7)。紫外線に対して敏感なこのフォトダイオードは、UVインデックスなどのアプリケーションを対象としています。このダイオードは窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)ベースの材料を使用しており、紫外スペクトルの240~320nmの分光感度を備えています。このデバイスは分光感度を備え、可視光には反応しないため、明るく照らされた環境で役立ちます。暗電流は1nA未満で、応答性は0.11A/Wです。

紫外線に対して敏感なAlGaNベースのフォトセンサであるGenicomのGUVB-S11SDの画像図7:GUVB-S11SDは、紫外線に対して敏感なAlGaNベースのフォトセンサで、有効光学領域は0.076mm²です。(画像提供:Genicom Co, Ltd.)

フォトトランジスタ

フォトトランジスタは、光度に比例した電流を発生させる、フォトダイオードと似た接合型半導体デバイスです。これは、電流アンプを内蔵したフォトダイオードのようなものと考えられます。フォトトランジスタは、NPNトランジスタのベース接続部を光源に置き換えたものです。ベース-コレクタ接合部は逆バイアスされており、透明窓を通して外光にさらされます。光電流を最大にするために、ベース-コレクタ接合部は意図的にできるだけ大型化されています。ベース-エミッタ接合部は順方向にバイアスされており、そのコレクタ電流は入射光レベルの関数です。光が供給するベース電流は、通常のトランジスタ動作によって増幅されます。光がない状態では、フォトダイオードのように小さな暗電流が流れます。

Marktech OptoelectronicsのMTD8600N4-Tは、400~1100nm(可視~近赤外)の分光感度を備えた、ピーク光応答880nmのNPNフォトトランジスタです(図8)。

コレクタ電流を生成するMarktech OptoelectronicsのMTD8600N4-Tフォトトランジスタの画像図8:MTD8600N4-Tフォトトランジスタは、入射光レベルに比例したコレクタ電流を生成します。トランジスタの電流増幅により、フォトダイオードに比べてコレクタ電流が1桁大きくなっていることに注意してください。(画像提供:Marktech Optoelectronics)

このフォトトランジスタは、透明なドームトップの金属缶に収められています。このプロットは、光の放射照度をパラメータとする、コレクタ-エミッタ間の電圧に応じたコレクタ電流です。トランジスタの電流増幅により、コレクタ電流はフォトダイオードの電流に比べて大幅に高くなります。

フォトトランジスタには、さまざまなパッケージスタイルが用意されています。たとえば、NTE ElectronicsのNTE3034A NPNフォトトランジスタは、側面から光を受けるモールドエポキシパッケージを採用してします。また、可視光から近赤外光までに反応し、ピーク光応答は880nmです。

まとめ

フォトトランジスタやフォトダイオードを用いた光検出は、マイクロプロセッサやマイクロコントローラが物理的世界を把握し、それに応じて制御や分析のアルゴリズムを実装するための1つの手段です。フォトトランジスタはフォトダイオードと同じアプリケーションで使用されますが、それぞれに利点があります。フォトトランジスタはフォトダイオードに比べて出力電流レベルが高く、フォトダイオードはより高い周波数で動作するという利点があります。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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