LDOの基礎 & ポータブル/ウェアラブル機器に使用して電池寿命を延長する方法

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

最近の電子機器は、小型化と携帯化が進んでいます。スマートウォッチ、フィットネストラッカー、セキュリティシステム、モノのインターネット(IoT)機器などでは、電池駆動のものが増えています。そのため、このような機器をより長く使用するために、1回の充電でできるだけ多くの電力を供給する高効率なパワーレギュレータが必要です。また、温度上昇を最小限に抑えた動作が求められます。従来のリニアレギュレータやスイッチモードパワーレギュレータでは、これらのポータブル機器に求められる効率に容易に到達することはできません。さらに、スイッチモードパワーレギュレータは、ノイズや過渡電圧の問題があります。

低ドロップアウト電圧レギュレータ(LDO)は、リニア & スイッチングレギュレータのラインアップに最近加わったデバイスです。LDOは、レギュレータ全体の電圧降下を非常に低く抑えて動作するため、効率の向上と熱放散の低減を実現しています。LDOは、低~中電力のアプリケーションに適しています。最小で3 × 3 × 0.6ミリメートル(mm)のサイズのパッケージで提供されます。固定出力電圧と、可変出力電圧のバージョンが入手可能です。また、出力イネーブルラインによるオンオフ制御が可能なバージョンもあります。

この記事では、低ドロップアウトレギュレータの基礎と、従来のリニア & スイッチモードパワーレギュレータと比較した主要特性について取り上げます。また、Diodes Incorporated製のLDOデバイスとその応用例をご紹介します。

LDOレギュレータとは?

電圧レギュレータの機能は、負荷やソース電圧が変化しても、出力電圧を一定に保つことです。従来の電圧レギュレータ回路は、リニアまたはスイッチモード設計を使用しています。LDOレギュレータはリニアレギュレータに属しますが、入出力端子間の電圧が非常に低い状態で動作します。他のリニア電圧レギュレータと同様に、LDOは帰還制御ループをベースにしています(図1)。

画像:電圧制御帰還回路をベースにしたLDOレギュレータ図1:LDOレギュレータは、電圧制御帰還回路をベースにしています。直列パスデバイスは、PMOS、NMOS、PNPバイポーラトランジスタのいずれかで、電圧制御抵抗器のように動作します。(画像提供:Diodes Incorporated)

LDOレギュレータは、出力レベルをスケーリングする抵抗分圧器を通して出力電圧を感知します。スケーリングされた出力電圧は誤差アンプに印加され、リファレンス電圧と比較されます。誤差アンプは、出力端子の電圧を必要な値に維持するために、直列パスデバイスを駆動します。入力電圧と出力電圧の差はドロップアウト電圧となり、パスデバイスに現れます。

LDOの直列パスデバイスは、電圧可変抵抗器のように動作します。直列パスデバイスには、Pチャンネル金属酸化膜半導体(PMOS)、Nチャンネル金属酸化膜半導体(NMOS)、PNPバイポーラトランジスタを使用することができます。PMOSとPNPデバイスを飽和状態に駆動して、ドロップアウト電圧を最小限に抑えることが可能です。PMOS電界効果トランジスタ(FET)の場合、ドロップアウト電圧はチャンネルのオン抵抗(RDSON) × 出力電流にほぼ等しくなります。これらのデバイスにはそれぞれ利点と欠点がありますが、PMOSデバイスは実装コストが最も低いことが証明されています。Diodes IncorporatedのAP7361EAシリーズ 正出力LDOレギュレータは、PMOSパスデバイスを採用しています。このLDOレギュレータは、3.3V出力、負荷電流1アンペア(A)で、約360ミリボルト(mV)のドロップアウト電圧と±1%の電圧精度を実現します(図2)。

グラフ:DiodesのAP7361EAシリーズ 3.3V LDOのドロップアウト電圧図2:AP7361EAシリーズ 3.3V LDOについて、3種類の温度におけるドロップアウト電圧と出力電流の関係を示しています。(画像提供:Diodes Incorporated)

ドロップアウト電圧と出力電流のプロットは、各温度で一定の傾きを示し、抵抗性であることを示しています。ドロップアウト電圧は、ある程度温度依存性があり、温度が上がるとドロップアウト電圧レベルが上がります。LDOのドロップアウト電圧は、従来のリニアパワーレギュレータのドロップアウト電圧(約2V)に比べてはるかに低いことに注目してください。

また、図1の出力コンデンサが、レギュレータの安定性に影響を与える固有の等価直列抵抗(ESR)で表示されていることにも注意してください。-40°C~+85°Cの全動作温度範囲で安定性を保証するために、ESRが10Ω未満のコンデンサを選択する必要があります。2.2マイクロファラッド(µF)以上の積層セラミックコンデンサ(MLCC)、固体電解コンデンサ、タンタルコンデンサをおすすめします。

静止電流IQは、無負荷時にLDOが電源から引き込む電流を表します。静止電流は、誤差アンプや出力分圧器などのLDO内部回路に電力を供給します。電池駆動の機器では、静止電流は電池の放電率に影響するため、一般にできるだけ小さくなるように設計されています。Diodes IncorporatedのAP7361EAシリーズは、68µA(標準)のIQ を実現しています。

AP7361EAシリーズ LDO

AP7361EAシリーズには、図3に示すような3種類の回路構成があります。

図:DiodesのAP7361EAシリーズ 固定/可変出力電圧デバイス(クリックして拡大)図3:AP7361EAシリーズには、固定出力電圧(イネーブル制御あり/なし)と、可変出力電圧のバージョンがあります。(画像提供:Diodes Incorporated)

AP7361EAシリーズには、固定出力電圧と、可変出力電圧のバージョンがあります。固定電圧バージョンは内部に分圧器があり、1.0、1.2、1.5、1.8、2.5、2.8、3.3Vの出力電圧レベルを提供します。可変出力デバイスには、ユーザーが供給する外部分圧器が必要です。可変出力デバイスの出力電圧範囲は0.8~5Vです。出力電圧の精度は全バージョンで±1%、入力電圧範囲は2.2~6Vです。

固定または可変バージョンは、イネーブル制御ライン(EN)を含むことができます。AP7361EAは、ENピンをHighにするとオン、Lowにするとオフとなります。この機能を使用しない場合は、ENピンを入力ピン(IN)に接続し、レギュレータの出力を常時オンにしておく必要があります。イネーブルラインの応答時間は、ターンオンで約200マイクロ秒(µs)、ターンオフで約50µsです。

AP7361EAデバイスのもう1つの大きな違いは、物理的なパッケージです。パッケージはU-DFN3030-8(タイプE)、SOT89-5、SOT223、TO252(DPAK)、SO-8EPが用意されています。

表1は、AP7361EA製品の数例を比較したものです。固定(AP7361EA-33DR-13AP7361EA-10ER-13)、可変(AP7361EA-FGE-7AP7361EA-SPR-13)バージョンを記載しています。

品番 固定/可変 出力電圧 出力電流 出力イネーブル パッケージ
AP7361EA-33DR-13 固定 3.3V 1A なし TO-252、(D-Pak)
AP7361EA-10ER-13 固定 1.0V 1A なし SOT-223-3
AP7361EA-FGE-7 可変 0.8V~5.0V 1A なし U-DFN3030-8
AP7361EA-SPR-13 可変 0.8V~5.0V 1A あり 8-SO-EP

表1:AP7361EAの固定/可変電圧構成の例。(表提供:Art Pini、Diodes Inc.のデータを使用)

AP7361EAシリーズのデバイスはすべて、短絡と過電流に対して保護されています。短絡 & 過電流保護回路は、出力電流が電流制限値(通常1.5A)を超えると、400ミリアンペア(mA)のフォールドバック電流制限を行います。サーマルシャットダウンは、デバイスの接合部温度が公称150°Cまで上昇すると発生し、約130°Cを下回ると動作を再開します。

負荷 & ラインレギュレーション

負荷レギュレーションは、出力負荷電流の変化にもかかわらず、出力電圧を維持するLDOの能力を表します。電池駆動のポータブル機器では、使用しないときにコントローラがサブシステムを停止させることが多いため、この能力は重要です。AP7361EAシリーズ LDOの最大指定負荷レギュレーションは、出力レベルが1~1.2Vの場合は1.5%、1.2~3.3Vの場合は1%です(図4)。

画像:3.3V出力での負荷レギュレーションのグラフ図4:3.3V出力での負荷レギュレーションのグラフ例公称3.3V出力で負荷が100mAから500mAに変化したときの最大出力変動は約0.15%、すなわち約5.0mVです。(画像提供:Diodes Incorporated)

負荷レギュレーションは、公称出力電圧に対する最大出力電圧変動の割合で算出されます。上記の例では、負荷が100mAから500mAに変化したときの最大出力変動は、約5.0mVです。したがって、負荷レギュレーションは0.005/3.3、すなわち0.15%になります。

ラインレギュレーションは、出力1Vあたりのソース電圧の変化に対する出力の変化量を表します。AP7361EAシリーズは、最大ラインレギュレーションの仕様が室温で0.1%/V、全温度範囲で0.2%/Vとなっています。3.3V出力の場合、入力レベルが1V変化すると、出力レベルの変化は公称3.3V出力の0.33%未満となるはずです(図5)。

画像:Diodes AP7361EAのラインレギュレーションのグラフ図5:3.3V出力で動作するAP7361EAのラインレギュレーションを示すグラフです。入力電圧が4.3Vから5.3Vに変化すると、出力電圧は0.05%変化します。(画像提供:Diodes Incorporated)

図5は、LDOのラインレギュレーション特性を示しています。ソース電圧が4.3Vから5.3Vに変化すると、出力レベルは0.05%、すなわち約1.65mV変化します。

なお、ライン変動、負荷変動のいずれの条件でも、出力は過渡現象から速やかに回復します。これは、ポータブル機器のプロセスを再起動する際に、停止した回路を再起動する前に電源バスをオンにして機能させなければならない場合に重要です。

電源電圧変動除去比

LDOはリニア回路であるため、スイッチモード電源(SMPS)やパワーコンバータに比べてノイズの発生が非常に少ないデバイスです。多くのアプリケーションでは、LDOは基板上でローカルに使用し、電源はSMPSを使用します。LDOは制御システムがあるため、入力電源からのノイズやリップルを抑制する傾向があります。このノイズ抑制の指標となるのが、電源電圧変動除去比(PSRR)です(図6)。

図:交流信号から算出したPSRR(クリックして拡大)図6:LDOの入出力で測定した交流信号から、PSRRを算出します。(画像提供:Diodes Incorporated)

PSRRは、図6に示すように、入力のAC成分と出力のAC成分の比に基づいて計算されます。AP7361EAシリーズのPSRRは周波数に依存し、周波数が高くなるにつれて低下します。PSRRは1キロヘルツ(kHz)で75デシベル(dB)です。PSRRは10kHzで55dBに低下します。75dBは5600:1以上の減衰量に相当します。1kHzで10mVのリップルやノイズ信号は、約1.7マイクロボルト(μV)に減衰します。

応用例

可変出力LDOの典型的なアプリケーションを図7に示します。AP7361EA-SPR-13と同様の出力イネーブルと、外付けの出力分圧器を搭載しています。

図:外付けの出力分圧器が必要な可変出力LDOの使用図7:外付けの出力分圧器が必要な可変出力LDOの使用例。式(右下)は、必要な出力電圧と内部リファレンス電圧に対する抵抗器R1、R2の関係を示しています。(画像提供:Diodes Incorporated)

分圧器の抵抗値は、図7の右下の式で計算することができます。R2の値は、内部電圧リファレンスの安定性を確保するため、80キロオーム(kΩ)未満にしてください。出力2.4V、リファレンス電圧0.8V、R2が61.9kΩの場合、R1の値は123.8kΩとなります。124kΩ、1%の抵抗器が適当です。

まとめ

LDOは、入出力間の電圧差が小さく、低静止電流で動作するリニア電圧レギュレータです。LDOは高い電力効率と低ノイズ、小型化を実現します。特に、電池駆動のポータブル機器に適しており、電池寿命の延長や信頼性の向上が期待できます。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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