信頼性の高い無線式産業制御システムでの干渉問題に挑む
DigiKeyのヨーロッパ担当編集者の提供
2015-06-24
無線制御は産業システムに非常に大きな利点をもたらしていますが、克服すべきいくつかの重要な問題があります。 本稿では、Decawave、Linx Technologies、DigiおよびAtmelの各社が提供する種々のトランシーバデバイスやモジュールに実装されている、信頼性の高い産業制御システムや、さまざまな周波数および無線プロトコルに対し、干渉がもたらす難題について取り上げます。
産業用オートメーションのための無線制御システムにおける干渉を最小限に抑えるには、さまざまな方法があります。 設計者はリンクバジェット、距離、周波数およびプロトコルの間でトレードオフを行い、可能な限り最も信頼性の高い無線リンクを確立することができます。 干渉の発生源は、広帯域の電気ノイズや周囲で作動中の他の無線システムなど、多岐にわたります。
プロトコルはリンクの最適化を行う1つの方法で、符号分割多元接続(CDMA)により、損失信号による影響を最小限に抑えます。 フォワードエラー訂正および巡回冗長検査(CRC)は現在、データの完全性維持のためにごく普通に追加されている機能ですが、これらはペイロードの貴重なビットを消費することがあります。
スペクトラム拡散および周波数ホッピングの技術も、干渉を最小化するために使用されています。 より広い周波数帯域に信号を拡散することで、ある1つの周波数が干渉によって受ける影響を低減できます。 周波数ホッピングの場合は、リンクが問題を検出すると、自動的に別の周波数に切り替え、干渉を回避します。
設計者は同時に、これらの技術で得られる周波数帯域のトレードオフを行い、システムによっては最長12kmの通信距離を実現できます。これにより、工場内で他の信号の影響を受けにくい、より高いリンクバジェットを提供することができます。
これらの技術はすべて、使用される周波数スペクトラムに波及効果をもたらします。 サブGHz帯である868MHz帯および902MHz帯は、さまざまな種類のリンクで混雑しており、スペクトラム拡散や周波数ホッピングを実行できません。一方、2.4GHz帯は省電力のZigBeeプロトコルがメインとして使用していますが、Wi-FiおよびBluetoothにも対応する必要があり、また電子レンジやその他の産業機器からの一般的な干渉の問題にも対処が求められます。
この問題の一例として、Wi-Fiと重複しない、干渉がごくわずかであるZigBeeチャネルはほんのいくつか(15、20、25、および26チャネル)しかありませんが、各Wi-Fiチャネルでは、重複するZigBeeチャネルが4つあります。 PER(パケットエラーレート)の低減は、干渉源とレシーバ間の距離、および中心周波数(干渉源とレシーバ間)の差異と密接に関連しており、2.4GHz帯を使用するシステム設計者にいくつかの難題を投げかけています。
Decawave社はこの問題に正面から取り組むのではなく、3.5GHz帯~6.5GHz帯および超広帯域プロトコルを組み合わせて使用することで、これまで以上に干渉に影響されない高いデータレートを実現しています。 DecaWaveのDW1000チップはIEEE802.15.4-2011規格に基づく、完全なシングルチップ構造の、CMOS型超広帯域用ICです。 これは、ScenSor(Seek Control Execute Network Sense Obey Respond)ファミリ初のチップで、110kbps、850kbps、および6.8Mbpsのビットレートで動作します。また周波数が高いため、屋内および屋外でタグ付きのオブジェクトの位置を10cm以内で特定できます。
図1:DW1000トランシーバのブロック図
この技術により、屋内で正確な位置を特定するための信頼性の高いリンク、および特に遠隔地やアクセスの難しい場所でのファクトリオートメーション用の通信、の双方に対処できます。 DW1000では時間およびデータ通信の両方を、正確に同時測定できるため、リアルタイム位置情報システム(RTLS)や屋内測位システム、およびモノのインターネットや無線センサネットワークの設計者は、これを幅広いアプリケーションに活用することが可能です。
ファクトリオートメーション装置のサプライヤは、この技術をオートメーションやツールの監視に導入し、Wi-Fi RTLSでは3~5mの誤差の位置特定を、10cmという精度で実現します。 高周波数の使用により、データレートも最大6.8Mbit/sまで向上します。これに対し、ZigBeeでは250kbit/s、Wi-Fiでは1Mbit/sになります。
使用されるプロトコルは802.15.4a規格で、バースト位置の変調(BPM)および二位相偏移変調(BPSK)の形式を組み合わせたものです。 BPM-BPSK方式を利用してシンボルを変調します。各シンボルは超広帯域パルスのバーストで構成されており、特定の周波数における干渉への脆弱性を低減します。 チップには、6つのチャネルを使用した周波数分割多重接続(FDMA)および符号分割多重接続(CDMA)の技術も合わせて実装されています。CDMAでは2つの異なる符号をチャネルごとに使用し、チャネルリンクの最適化および干渉の低減を図ります。 これがさらに内蔵のFECおよびCRCによる誤り訂正と組み合わされることで、干渉による信号への影響を確実に防ぎます。
パルスの周波数帯は反射が弱く分散しやすいため、この技術ではさらにマルチパスの干渉に対する耐性も備わっています。
DW1000は単一の供給電圧2.8V~3.6Vで動作し、送信モードの電流は31mA、受信モードの電流は64mAで、低消費電力を実現します。
サブGHz帯では、Linx Technologiesにより、信頼性の高い長距離遠隔制御およびセンサアプリケーションが開発されています。 TRM-900-TTは高度に最適化された周波数ホッピング拡散スペクトラム(FHSS)方式のRFトランシーバおよび内蔵のトランスコーダで構成されています。 FHSS方式はより高出力で干渉を抑えることができるため、狭帯域の無線より長距離の送信を提供可能です。
902~928MHz周波数帯で動作するこのモジュールは、標準的な感度である‑112dBmを実現しています。 基本バージョンでは+12.5dBmのトランスミッタ出力を生成でき、アンテナゲインが0dBの一般的な環境で、サイト間のリンクの回線向けに、2マイル(3.2km)以上の距離を達成します。 高出力バージョンでの出力は+23.5dBmで、最大8マイル(12.8km)まで到達可能になります。
RFシンセサイザは、VCOおよび低ノイズのフラクショナルN PLLを装備しています。 VCOは基本的な周波数の2倍程度で動作し、干渉の原因となる不正な発振を抑えるため、より長距離の送信が可能になります。 受信および送信シンセサイザは内蔵型で、最適な位相ノイズ、変調品質、およびセトリング時間が得られるよう、自動構成することが可能です。
レシーバには、最大-112dBmの感度を提供する高効率で低ノイズのアンプが内蔵されています。また、Linx社では高度な干渉阻止技術を開発しており、これによりサブGHz帯で干渉が発生した場合でもトランシーバは非常に堅牢です。
Digi社の提供するXBeeなどのモジュールでは、設計者は802.15.4プロトコルを使用して、2.4GHzと900MHz帯の両方を利用できます。 これらの組み込み型RFモジュールは、マルチポイントおよびZigBee準拠のメッシュトポロジなどの複数のプラットフォームで共有できる共通のフットプリントを有しています(2.4GHzと900MHzの両方に対応)。 XBeeを使用している開発者は、XBeeのタイプを変更することで、動的なアプリケーション要件に最小限の開発で対応できます。2.4GHzバージョンはグローバル展開、900MHzバージョンは長距離、または高い耐干渉性が求められる環境に適しています。
図2:Digi社のXBeeモジュールは2.4GHzおよび900MHzの両帯域で同一のフットプリントを有しています。
開発者がモジュールに移行している主な理由の1つが、干渉の問題です。 モジュールでは、シールドにより電磁干渉からの防護を行うとともに、最適なアンテナ経路を設計することで、その他の電子機器や外部ソースからの干渉を低減しています。
AtmelのATZB-S1-256-3-0-C ZigBit低電力2.4GHzモジュールは、低消費電力のAVR 8ビットマイクロコントローラおよび高データレートのレシーバを併せ持つ、従来型のZigBeeモジュールです。250kb/sから最大2Mb/sの高速データレート、フレームハンドリング、高感度のレシーバ、および高い送信出力電力の提供により、堅牢な無線通信を可能にします。 このモジュールは無線センシング、監視、制御、およびデータ取得のアプリケーション向けに設計されています。
図3:AtmelのATZB-S1-256-3-0-C ZigBitモジュール
干渉問題に対応するため、IEEE802.15.4規格ではDSSS(直接拡散方式)をベースに2つのPHYオプションをサポートしています。 2.4GHz帯のPHYはQ-QPSK変調を使用するのに対し、780/868/915MHz帯ではBPSK(二位相偏移変調)変調を使用します。この両者により、良好なBER(ビットエラーレート)性能が得られます。 これらの低周波数帯で周波数ホッピングを使用することの課題点として、802.15.4物理層にある31チャネルのうち、中国向けの780MHz帯に4個(802.15.4c)、ヨーロッパ向けの868MHz帯に1個、北米向けの915MHz帯に10個、世界中で使用可能な2.4Ghz帯に16個が割り当てられています。
場合に応じて、デバイス内部で干渉に対応する必要があります。 Texas InstrumentsのWL1835MODは、Wi-Fi MIMOおよびBluetooth 4.0リンクを1台のデバイスに搭載しており、チャネルの重複による干渉の制御に重要な課題があることを示しています。
図4:TIのWL1835MODは同一チップ上でWi-FiとBluetooth間に発生する干渉に対処します。
チップにはWi-Fi用の内蔵2.4GHzパワーアンプ、802.11b/gおよび802.11nデータレートを処理するベースバンドプロセッサ(20MHzまたは40MHzのSISO(シングルアンテナ)と20MHzのMIMO(マルチプルアンテナ)設計)、ならびにBluetooth無線のフロントエンドが搭載されています。
これを実現するには、新しい高度な共存スキームが必要です。 このスキームはMACレベルで機能し、2.4GHzの全帯域幅における使用を調整します。 利用可能な帯域幅はすべて、いつでも802.11またはBluetooth専用とすることができます。これは、どちらか一方が使用されていない状態であることが条件です。 たとえば、Bluetooth通信が行われていない場合、最大速度54Mbit/sで全帯域幅を802.11n通信に使用できます。 逆に、802.11無線が使用されていない場合は、2.4GHzの全帯域幅をBluetooth通信専用にできます。 主に音声チャネルなど、特定のタイプの重要な通信について品質を保証するため、共存のソリューションを使用して、通信が時間に依存する度合いに応じて異なる優先順位をスマートに設定できます。
まとめ
混雑している帯域を外れたり、スペクトラム拡散や周波数ホッピングの技術を使用したり、あるいはより高感度のレシーバ、高出力のトランスミッタ、および外部信号の影響を低減するよう最適化されたレイアウトでリンクを向上するなど、干渉の影響を最小限に抑える方法はいくつもあります。 これらすべてにより、産業用オートメーション装置の設計者は、リンクバジェットやリンクの距離をトレードオフし、目標としている非常に信頼性の高いリンクを実装することができます。

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