認証済みのLoRaWANモジュールで長距離コネクティビティの開発をスピードアップ

著者 Stephen Evanczuk

DigiKeyの北米担当編集者の提供

農業、資産追跡、ユーティリティ、モノのインターネット(IoT)など、多くの大規模センサベースアプリケーションでは、開発者が広範な動作範囲にわたって安全なコネクティビティを提供する必要があります。このようなデバイスの非常に大規模なネットワークをサポートするために設計された長距離広域ネットワーク(LoRaWAN)プロトコルは、効果的なソリューションを提供できます。しかし、最適化された通信サブシステムを迅速に実装するには、適切な習熟度と専門知識が必要です。

この記事では、LoRaWANとその機能について簡単に説明します。次に、Murata ElectronicsのLoRaWAN認証モジュールを紹介します。このモジュールは、低消費電力広域ネットワーク(LPWAN)を介して超長距離コネクティビティを実現するドロップインソリューションを開発者に提供します。また、試作を加速させるために、開発ボードとソフトウェアサポートも紹介します。

LoRaWANとは

利用可能な無線コネクティビティの選択肢の中で、LoRaWANは、Wi-FiやBluetoothのような馴染みのある無線オプションの通信距離をはるかに上回り、低消費電力エンドデバイスと接続するサーバベースのアプリケーション向けの効果的なソリューションとして登場しました。LoRaWANネットワークでは、アプリケーションサーバは従来のTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)ネットワークを介してLoRaWANゲートウェイと通信します(図1)。

一般的なLoRaWANネットワークアプリケーションの画像(クリックして拡大)図1:一般的なLoRaWANネットワークアプリケーションでは、サーバはゲートウェイに接続し、ゲートウェイはLoRa技術の長距離・低消費電力特性を利用して、何キロも離れた場所にあるエンドデバイスに接続します。(画像提供:Murata Electronics)

次に、LoRaWANゲートウェイは、免許不要の産業・科学・医療(ISM)周波数帯域で動作するLoRaサブギガヘルツ無線周波数(RF)技術を使用して、エンドデバイスと通信します。比較的低ビットレートのアプリケーションを想定したLoRa技術の最大ビットレートは約10キロビット/秒(Kbits/s)ですが、長距離アプリケーション向けの唯一無二の利点があります。

スペクトラム拡散技術に基づくLoRa RFでは、開発者はビットレートと引き換えに通信距離を延ばすことが可能で、農村部では15km以上、密集した都市部の屋内では5km以上の距離で信頼性の高い双方向通信を簡単に実現できます。

LoRaWANプロトコルは、LoRaWANのセキュリティモデルにより通信トラフィックを保護します。LoRaWANは、2つのセキュリティキーを使用します。1つはパケットレベルでの信頼性と完全性を保証するもので、もう1つはエンドデバイスとアプリケーションサーバ間のメッセージのエンドツーエンドのセキュリティを提供するものです。

LoRaWANプロトコルは、エンドデバイスの消費電力とアプリケーションの通信ニーズのバランスを取る上で、さらなる利点をもたらします。LoRaWANネットワークでは、デバイスを3つのクラス(クラスA、クラスB、クラスC)のいずれかで動作させることができます。どのクラスのデバイスも必要に応じてメッセージを送信できますが、いつメッセージを受信できるかはクラスによって決まります。

クラスAデバイスは最もエネルギー効率が高く、センサが環境の変化を検出した時など、イベント駆動型の動作用に設計されています。クラスAデバイスは、イベント間でスリープ状態を維持することができ、センサデータ取得後にデータを送信するのに十分な時間のみウェイクアップします。それから、アップリンク送信に続いて、指定された時間後にダウンリンク受信ウィンドウ(RX1とRX2)を開きます(図2)。

アップリンクと1番目の受信ウィンドウ(RX1)および2番目の受信ウィンドウ(RX2)の図(クリックして拡大)図2:LoRaWANクラスの中で最もエネルギー効率の高いクラスA動作では、デバイスは可能な限り長くスリープ状態を維持し、ゲートウェイへのデータ送信(アップリンク)を行うためのみにアクティブになります。そして、アップリンク完了後に1番目の受信ウィンドウ(RX1)と2番目の受信ウィンドウ(RX2)を開きます。(画像提供:Murata Electronics)

クラスBデバイスは、アプリケーションが要求するスケジュールでの周期的動作をサポートします。クラスBデバイスでは、LoRaWANプロトコルにより、デバイスはゲートウェイから送信されるビーコンを使用してエンドデバイスをネットワークと同期させ、指定されたスケジュールでダウンリンク受信ウィンドウを開くことができます(図3)。

同期されたダウンリンクを可能にするLoRaWANクラスBデバイスの図(クリックして拡大)図3:LoRaWANクラスBデバイスは、タイミングを維持するために接続されたゲートウェイから送信されるビーコンを使用して、同期されたダウンリンクを可能にします。(画像提供:Murata Electronics)

クラスCデバイスは、エンドデバイスがダウンリンクメッセージを連続的にリッスンする必要があるアプリケーション用に設計されています。クラスCデバイスはアクティブな状態を維持する必要があるため、クラスAおよびクラスBデバイスのように電池駆動ではなく、電源ケーブル駆動が一般的です(図4)。

常にアクティブな状態を維持するLoRaWANクラスCデバイスの図(クリックして拡大)図4:通常、LoRaWANクラスCデバイスは常時電源から給電され、アップリンクメッセージを送信していないときは絶えずダウンリンクメッセージをリッスンし、常にアクティブな状態を維持します。(画像提供:Murata Electronics)

概念的には一見簡単ですが、LoRaWANネットワークの実装には、LoRaWANプロトコルの詳細な動作パラメータとその根底にあるLoRa技術との適切なバランスを見つけるために、かなりの知識と経験が必要です。

ドロップインソリューションを提供する認証済みLoRaWANモジュール

Murata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296モジュールと関連ファームウェアは、LoRaWANネットワークコネクティビティを加速させるドロップインソリューションを提供し、エンドデバイスに完全なLoRaWAN認証ソリューションをもたらします。このモジュールには、SemtechSX1262 LoRaトランシーバ、STMicroelectronicsSTM32L072マイクロコントローラ、192キロバイト(Kbyte)のフラッシュメモリ、RFスイッチ、温度補償水晶発振器(TCXO)が内蔵されています。このモジュールは、わずか10.0 x 8.0 x 1.6mmのシールド型樹脂モールドパッケージで提供されます(図5)。

Murata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296モジュールの図(クリックして拡大)図5:完全なLoRaWANコネクティビティソリューションを提供するMurata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296モジュールには、SemtechのSX1262 LoRaトランシーバと、プリロードされたLoRaWANスタックを実行するSTMicroelectronicsのSTM32L072マイクロコントローラが内蔵されています。(画像提供:Murata Electronics)

3.3Vの単一電源で動作するこのモジュールは、125キロヘルツ(kHz)の帯域幅でわずか15.5ミリアンペア(mA)しか消費しません。また、同じ帯域幅と最大拡散率でのパケット誤り率は1%で、1ミリワット(mW)を基準とした-135.5デシベル(dBm)のレシーバ感度を提供します。拡散率は、LoRaのチャープスペクトラム拡散技術の実装における、ビットあたりのチャープ数として定義されます。送信の場合、このモジュールは最大送信電力で118mAを消費するとともに、最大+21.5dBmの送信電力を提供します。

LBAA0QB1SJ-296モジュールは、LoRaWANクラスA、B、またはCをサポートし、開発者が性能と消費電力のバランスを取ることを可能にする複数の低消費電力動作モードを提供します。電池駆動のエンドデバイス(通常、クラスAまたはクラスBで動作)の場合、このモジュールはリアルタイムクロック動作で約1.3マイクロアンペア(µA)しか消費しない超低消費電力モードで動作できます。これにより、数年間にわたる動作を実現します。

LoRaWAN接続デバイスの迅速な開発

LBAA0QB1SJ-296モジュールを使用してエンドデバイスシステムにLoRaWANコネクティビティを追加するのは比較的簡単です。ハードウェア側において、このモジュールは、モジュールのユニバーサル非同期レシーバ/トランスミッタ(UART)インターフェースを介して、エンドデバイスのホストプロセッサに接続します。ホスト通信用のUARTインターフェースの他に、このモジュールに必要なのは外部アンテナと、いくつかの追加コンポーネントのみです。これだけで完全なLoRaWANハードウェアサブシステムを提供できます(図6)。

Murata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296モジュールの図(クリックして拡大)図6:Murata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296モジュールを使用することにより、開発者はいくつかの追加コンポーネントを使用するだけで、エンドデバイスの設計に認証済みのLoRaWANコネクティビティを追加できます。(画像提供:Murata Electronics)

ソフトウェア側において、LBAA0QB1SJ-296モジュールは、915メガヘルツ(MHz)のISMバンドにおけるLoRaWAN動作用の完全なスタックで事前構成されています。動作中、エンドデバイスのホストプロセッサは、ATコマンドセットを使用してモジュールの動作を管理および監視します。

モジュールのハードウェアインターフェースとプリロードされたファームウェアは、カスタム開発のスピードアップに役立ちますが、MurataのLBAA0QB1SJ-TEMP-EVK評価ボードを使用すると、開発者は迅速な試作をすぐに開始し、生産設計の開発を加速させることができます(図7)。

MurataのLBAA0QB1SJ-TEMP-EVK評価ボードの画像(クリックして拡大)図7:LoRaWANコネクティビティの評価と迅速な試作を高速化するために設計されたMurataのLBAA0QB1SJ-TEMP-EVK評価ボードは、LBAA0QB1SJ-296モジュールと周辺機器およびコネクタを組み合わせたものです。(画像提供:Murata Electronics)

この評価ボードは、発光ダイオード(LED)、サーミスタ、押ボタンなど、複数のユーザーインターフェースデバイスを搭載したオンボードLBAA0QB1SJ-296モジュールをサポートしています。開発者は、ボードのArduino Uno V3コネクタを使用して必要な周辺機器を追加することで、ボードの機能をさらに拡張できます。

アプリケーション向けのLoRaWANの評価を開始するために開発者が行うのは、適切な915MHz RFサブミニチュアバージョンA(SMA)アンテナを取り付け、外部電源から電力を供給し、USBコネクタを介してボードをホスト開発システムに接続することだけです。

ボードが起動したら、開発者はターミナルエミュレーションプログラムや、登録ボードユーザーが利用できるグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)テストツールを使用して、モジュールの動作をテストできます。拡張デバッグ用に、このボードにはSTMicroelectronicsのST-LINKデバッガ/プログラマを接続するためのシリアルワイヤデバッグ(SWD)およびUSBコネクタが用意されています。

エンドツーエンドのアプリケーション評価やソフトウェアデバッグを行う場合、開発者はすぐに利用可能なLoRaWANゲートウェイを追加するだけで、評価ボードとアプリケーションサーバ間の通信リンクを完成させることができます。

まとめ

LoRaWANプロトコルとその根底にあるLoRa技術は、限られた電力バジェットを損なうことなく、長距離にわたってエンドデバイスを接続するための効果的なソリューションを提供します。Murata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296モジュールは、低消費電力広域ネットワークの展開をスピードアップするように設計されており、LoRaWAN認証ドロップインソリューションを提供します。Murata ElectronicsのLBAA0QB1SJ-296ベースのLBAA0QB1SJ-TEMP-EVK評価ボードを使用することで、開発者はLoRaWANネットワークアプリケーションの試作と評価を高速化できます。

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著者について

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Stephen Evanczuk

Stephen Evanczuk氏は、IoTを含むハードウェア、ソフトウェア、システム、アプリケーションなど幅広いトピックについて、20年以上にわたってエレクトロニクス業界および電子業界に関する記事を書いたり経験を積んできました。彼はニューロンネットワークで神経科学のPh.Dを受け、大規模に分散された安全システムとアルゴリズム加速法に関して航空宇宙産業に従事しました。現在、彼は技術や工学に関する記事を書いていないときに、認知と推薦システムへの深い学びの応用に取り組んでいます。

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