時間的制約のある重要なアプリケーション向けにシングルペアEthernetネットワーク実装を簡素化

高速リアルタイムEthernet通信は、産業オートメーションや自動車システムなど、時間的制約のあるアプリケーションにますます不可欠になっています。このようなタイプのアプリケーション要件に対応する際、従来のマルチペアEthernetは、その非確定的な性能、かさばるケーブルハーネス、消費電力の増大により、多くの場合不十分です。

より効果的なソリューションは、シングルペアEthernet（SPE）規格に依存しています。この規格は、合理化された物理層（PHY）を提供しますが、ケーブルの延長距離や機能安全対応における性能上の課題や、効果的な設計リソースの利用可能性に関連する実装上の課題を示す可能性があります。エンジニアは、リアルタイムSPEネットワークの厳しい性能要件を満たしながら、実装を高速化する包括的なソリューションを必要としています。

この記事では、特に産業や自動車分野で、時間的制約のある重要なアプリケーションの設計者が直面するネットワーク要件と関連する問題について概説します。また、Ethernet PHYトランシーバ、評価ボード、関連する設計リソースなど、Microchip TechnologyのSPEソリューションをご紹介します。これらのソリューションは、規格準拠のSPEネットワークシステムを実装する際に生じる新たな課題の解決に役立ちます。

重要なアプリケーション要件がリアルタイムEthernetの需要をいかに促進するか

リアルタイムEthernetは、多くの重要な産業用アプリケーションや自動車用アプリケーションにおいて、その役割を拡大しています。産業用モノのインターネット（IIoT）や産業用制御システムでは、センサ、コントローラ、アクチュエータ間の高精度な連携には、IEEE 1588 Precision Time Protocol（PTP）などのプロトコルで実現される確定的な通信ネットワークが必要です。先進運転支援システム（ADAS）、インフォテイメント、テレマティクスサブシステムなどの自動車アプリケーションでは、信頼性の高いリアルタイムデータ交換が、車両環境の過酷な条件に耐える必要があります。

工場現場であれ、車内であれ、時間的制約のあるネットワークは、低い有界遅延、高耐障害性、最小ジッタを保証しなければなりません。特に、ミリ秒単位の応答時間がシステムの運用と安全にとって重要な環境では、デバイス間の同期を維持する能力が不可欠です。同時に、ネットワークソリューションは、製造セルや車両シャーシ内のネットワークサブシステムに利用可能な限られたスペースに対応しなければなりません。

時間やスペースに制約のあるアプリケーションのネットワーク要件を満たす方法

産業用および車載用アプリケーションのギガビットEthernet（GbE）はIEEE 802.3bw（100BASE-T1）およびIEEE 802.3bp（1000BASE-T1）規格で規定されており、SPEは従来のEthernetに代わる合理的なPHYとして登場しました。SPEは、ケーブルの複雑さとシステムコストを削減しながら、時間的制約のあるアプリケーションの厳しい要件をサポートします。しかし、このような利点があるにもかかわらず、SPEベースのネットワーク設計者は、適切なデバイスを統合し、機能安全への対応を確保する上での課題に直面しています。

Microchip TechnologyのLAN8872 1000BASE-T1 SPE PHYトランシーバ（図1）と関連する設計リソースは、規格準拠のSPEネットワークを実装する際に開発者が直面する新たな課題の解決をサポートします。LAN8872は、物理コーディングサブレイヤ（PCS）、有限状態マシン（FSM）、アナログフロントエンド（AFE）、低ドロップアウト（LDO）レギュレータ、電圧モニタ、オンチップ終端、フィルタリングを含む完全なPHYサブシステムを集積しています。

図1：LAN8872は1000BASE-T1 PHYトランシーバを内蔵し、PCS、LDOレギュレータ、電圧モニタ、AFE、FSM、オンチップ終端、フィルタリングを備えています。（画像提供：Microchip Technology）

IEEE 1588-2019およびIEEE 802.1AS-2020の高精度クロック同期プロトコル規格をサポートするLAN8872は、リアルタイムEthernetネットワーク向けのAudio Video Bridging（AVB）およびIEEE 802.1 Time-Sensitive Networking（TSN）規格に完全対応しています。LAN8872の確定的タイミング機能は、開発者が複数のシステム間で厳密な同期を維持するのに役立ち、そのエネルギー管理機能は、過酷な環境でも堅牢な低電力接続のニーズに対応します。

低電力SPEネットワーク設計の簡素化

LAN8872はMicrochipのエネルギー効率に優れたEtherGREEN技術を搭載しており、超低電力のスリープモードでは通常わずか15マイクロアンペア（μA）しか消費しません。このデバイスはOPEN Alliance Technical Committee 10（TC10）規格のリモートスリープおよびウェイクアップメカニズムをサポートします。また、スリープ要求を認識し、WAKE_INパルスに応答してウェイクアップすることができます。INH出力により、電子制御ユニット（ECU）電源をイネーブルまたはディスエーブルすることができます。LAN8872に内蔵されたMicrochipのFlexPWR電源管理テクノロジーは、可変I/Oおよびコア電源電圧を活用することで、さらなる省エネを実現します。

LAN8872の高い集積度は、設計をさらに簡素化します。広範な統合機能とともに、オンチップ終端抵抗と統合伝送フィルタリングが組み合わされ、コンパクトなフットプリントと低電磁妨害（EMI）のソリューションを可能にします。システムレベルの統合のために、LAN8872は基準クロック出力と標準のSerial Gigabit Media-Independent Interface（SGMII）を備えており、システムオンチップ（SoC）、マイクロコントローラユニット（MCU）、フィールドプログラマブルゲートアレイ（FPGA）などのEthernetメディアアクセスコントローラ（MAC）やMAC対応デバイスとのインターフェースを簡素化します（図2）。

図2：開発者はLAN8872 PHYトランシーバをSPEネットワークソリューションに統合するために、わずか数個の追加コンポーネントのみが必要です。（画像提供：Microchip Technology）

IEEE 802.3bp-2016に準拠したLAN8872は、重要な産業用ネットワークや自動車用ネットワークのトラブルシューティングをサポートしながら、1対のワイヤでギガビット性能を提供するように設計されています。このデバイスは、短絡や断線などのケーブル不良の検出、受信Signal Quality Indicator（SQI）、過温度保護、不足電圧保護、包括的なステータス割り込みサポート、さまざまなループバックおよびテストモードなどの機能により、ネットワーク診断を支援します。

LAN8872ベースSPEソリューション設計の加速

設計と開発を加速するために、Microchipは開発者のさまざまな要件に応える評価ボードを提供しています。システムレベルの設計テストと検証を容易にするため、MicrochipのEV75E52A EVB-LAN8870-MC評価ボード（図3）は、1000BASE-T1と標準ギガビットEthernetをブリッジする完全なメディアコンバータを提供します。開発者は、GbEポートからボードのRJ-45ジャックにCAT5 Ethernetケーブルを接続し、SPEネットワークからボードのT1車載Ethernetコネクターにツイストペアケーブルを1本接続するだけです。

図3：EV75E52A EVB-LAN8870-MC評価ボードは、ギガビットEthernetでSPEネットワークを接続する設計をテストするための完全なメディアコンバータを提供します。（画像提供：Microchip Technology）

PHY機能の評価に重点を置く開発者に対して、MicrochipのEV39G24A EVB-LAN8870-RGMIIボード（図4）は、PHYと直接インターフェースするための完全なPHYサブシステムを提供します。

図4：EV39G24A EVB-LAN8870-RGMIIボードは、SPE設計のPHY評価向けに完全なPHYサブシステムを提供します。（画像提供：Microchip Technology）

EVB-LAN8870-RGMIIボード（図5、左）は、PHYインターフェースコネクタを介して、EV88E76A EVB-LAN7801-EDSやEVB-LAN7431-EDS（図5、右）などのMicrochip製Ethernet開発システム（EDS）ボードに接続できるように設計されています。

図5：開発者は、EVB-LAN8870-RGMII PHYボード（左）を EVB-LAN7431-EDS（右）などのEDSボードに接続し、開発ホストドライバを通してすべてのPHYレジスタにアクセスできます。（画像提供：Microchip Technology）

EVB-LAN8870-RGMIIボードを使用する開発者は、WindowsまたはLinuxホスト上で動作するEDSボードドライバを使用して、すべてのPHYレジスタにアクセスできます。EVB-LAN8870-MCを使用する開発者は、Windowsベースのグラフィカルユーザーインターフェース（GUI）ソフトウェアパッケージを使用して、トランシーバの性能を設定および監視できます。

カスタムSPE設計の開発を加速するために、Microchipは包括的なリファレンス回路図と設定ガイドライン、LAN8872の統合をサポートする広範なソフトウェアエコシステムを提供しています。ドライバは、Linux、FreeRTOS、AUTOSARなどの一般的なプラットフォームで利用可能です。MicrochipのMPLAB Harmony組み込みソフトウェア開発フレームワークには、統合ドライバ、ペリフェラルライブラリ、Code Configuratorサポートが含まれており、LAN8872 PHY設計の設定とテストを効率化します。

これらの開発リソースに加え、Microchipの無償MicroCHECK設計レビューサービスでは、コンセプトからレイアウトまで実装の各段階を直接サポートします。MicroCHECKサービスでは、開発者は回路図とプリント回路基板レイアウトを提出して専門家のレビューを受けることができ、シグナルインテグリティ、配電、推奨設計手法への準拠に関する実用的なフィードバックを得ることができます。開発者は、設計の初期段階でMicroCHECKサービスを利用することにより、製造プロセスの後半でPHY関連の実装問題が発生するリスクを最小限に抑えることができます。

典型的な開発ワークフローでは、開発者はまずMicrochipのリファレンスボードを使用して設計のPHY機能を評価します。ターゲット環境におけるPHYの性能と動作を検証した後、リファレンス回路図と推奨レイアウトを使用して、PHYをカスタム設計に組み込みます。プロトタイプ製作に着手する前に、設計をMicroCHECKレビューに提出し、その実装が堅牢で量産対応であることを確認します。

まとめ

リアルタイムEthernetがより多くの産業用および車載用アプリケーションで不可欠になるにつれ、開発者は、コンパクトで規格に準拠した低電力のネットワークソリューションを実装する必要に迫られています。包括的なリソースと専門家によるプロジェクトレビューサポートに支えられたMicrochip LAN8872 1000BASE-T1 PHYは、信頼性に優れた高性能SPE接続に必要な設計の開発を加速します。