シグマデルタ変調器による調整されたフィードバックとモーション制御

DigiKeyのヨーロッパ担当編集者の提供

ロボティクスアプリケーションでは、機械の接合部の多くを駆動するモーターの正確な制御が要求されます。 制御システムは、信頼性が高く安全な動作を保証するため、各種のアームやアクチュエータの位置を知る必要があります。 効率性への要求から、モータのケース内でローターがどのように動作するのかをリアルタイムベースで正確に把握することも求められます。

一般的なモータ制御の信号チェーンの図

図1:一般的なモータ制御の信号チェーン

ローターの角度の情報なしでは、制御用の電子回路が過剰な電流を供給し、その電流は熱として浪費されることになりますが、高負荷の状況ではこの角度情報は不正確になりやすい傾向があります。 位置とローターの状態を感知するため、制御アルゴリズムで重要になる変数の1つが、モータのワインディング電流レベルです。 概念的には、これはモータから制御回路へのリンクを提供するだけで簡単かつ低コストに監視できる変数です。 ただし、この信号ができるだけ正確であることを保証するため、多くの点を考慮する必要があります。 エラーが発生すると、位置を正確に検出できなくなり、エネルギーの浪費が増大する可能性があります。

モータ制御で最も一般的に使用される電流センサはシャント抵抗器、ホール効果センサ、および電流トランスです。 このうち後者2つは絶縁されており、これは高電圧を扱うときは極めて重要ですが、総合的なコストが増大します。 シャント抵抗器は一般に、50A以下の電流の測定に制限されていますが、すべての種類のセンサのうち最も直線的な応答が得られ、コストも低いという利点があります。 これらは、ACとDCの両方の測定に適しています。

シャント抵抗器をシグマデルタ変調器と組み合わせることで、正確で高感度の結果が得られるようになります。 シグマデルタのサンプリングおよびフィルタリング手法は、過渡ノイズの影響を処理するため役立ち、12ビットを大幅に超える分解能をサポートできます。 モータ制御を含む計測用途向けに設計されたシグマデルタ変調器の例として、Texas Instruments製のADS1203が挙げられます。 このデバイスはシングルチャンネルの2次シグマデルタ変調器で、DCから39kHzまでの周波数帯における、高分解能のA/D変換用に設計されています。 このコンバータの出力はデジタルの1と0のストリームで、その時間的平均はアナログ入力の電圧に比例しています。 フィルタリングされたシグマデルタ変調器の信号を使用する主な利点は、量子化および過渡ノイズのソースが高い周波数へ移行するため、ローパスフィルタを使用して除去しやすいことです。

代表的なシグマデルタビットストリームの図

図2:アナログ入力レベルの変化に対応する代表的なシグマデルタビットストリームの例

完全なA/Dコンバータの代わりに変調器を使用すると、設計者はデジタルフィルタリングがモータ制御の要件に対して最適になるよう調整できます。これには、モータ自身へ電力を供給するH-ブリッジ回路内の、トランジスタスイッチングイベントとの密接な同期が含まれます。 フィルタ自体は、コストと性能の目標値に応じて、デジタル信号プロセッサ(DSP)、マイクロコントローラ、またはフィールドプログラム可能なゲートアレイ(FPGA)を使用して実装可能です。 カスタムフィルタを使用して、過渡応答と最終的なサンプルの分解能との間で、最適なバランスを実現できます。 オーバーサンプリング率を上げると、精度が高くなりますが、値の更新頻度は低くなります。オーバンサンプリングを下げると、分解能が低下し、リフレッシュレートは向上します。

2次シグマデルタ変調器ブロックの図

図3:2次シグマデルタ変調器ブロック

データ操作に関して、従来型の逐次近似(SAR)A/Dコンバータとは対照的な点があります。 SARコンバータでは、サンプリングはサンプルアンドホールド回路の補助によって行われるため、システム設計者はサンプリングの瞬間のタイミングを精密に制御できます。 これに対してシグマデルタ変換では、連続的なサンプリングプロセスを採用するため、サンプリングがトリガされる瞬間は定義されません。 その代わりに、その時点でのサンプルは、一連の1ビットサンプルの重み付けされた平均で、サンプルが表す時点での値の範囲にまたがる可能性があります。

1ビットストリームにフィルタリングとデシメーションを適用し、データ速度の低いマルチビットのサンプルの流れに転換する処理は、2つの独立したステージで行うこともできますが、ごく一般的な方法では、sincフィルタを使用して1つのステージで両方の処理が行われます。 3次は、多くの場合にsinc3と呼ばれ、現在のところこれらのアプリケーションで最も一般的な選択肢です。

フィルタは大部分、サンプルのウィンドウの重み付けされた合計で、中央のサンプルにより大きな重みが、シーケンスの先頭や末尾のサンプルには小さな重みが与えられます。 パワートランジスタのスイッチングコンポーネントが測定電流に及ぼす影響により、この効果を考慮に入れないと、フィードバックアルゴリズムがエイリアシングなどの影響を被ることになります。

sinc3フィルタのインパルス応答では、中央のサンプルの前にあるサンプルと、後にあるサンプルとで、寄与分は同じです。 電流のスイッチング成分も、平均電流点を中心として対称的で、スイッチング成分の合計は0になります。 サンプルウィンドウの中央が、H-ブリッジの駆動に使用されるPWM同期パルスに揃えられている場合、エイリアシングなしで位相電流を測定できますが、データがフィルタから読み取られるとき、サンプルが正しく揃えられることを保証するため注意が必要です。 このフィルタリングにより、PWM同期パルスの時点でのフィルタからのサンプル出力が、それ以前のいくつかの期間から得られるように遅延が発生します。 これにより、SARベースの電流測定と比較して、ソフトウェアルーチンのスケジューリングに相違が発生します。

SARの場合、PWM-同期パルスによりA/Dコンバータがトリガされ、一連の変換が実行されます。 制御ループ用のデータの準備が整うと、割り込みが生成され、制御ループの実行を開始できます。 シグマデルタ変調器とフィルタを使用すると、サンプルが連続的に生成されますが、位相-電流測定用の目的のサンプルは、一定の遅延時間後に利用可能になります。 PWM-同期信号が発生すると、割り込みを生成するにはタイマまたはカウンタを使用する必要があります。 この遅延時間は、サンプル数で見ると実効上sinc3インパルス応答の半分です。

sinc3フィルタのインパルス応答のグラフ

図4:sinc3フィルタのインパルス応答

標準的な制御システムでは、PWMタイマのゼロ次のホールド効果は、インパルス応答の半分を大きく上回るため、sincフィルタがループのタイミングに大きな影響を及ぼすことはありません。 シグマデルタ変調器とカスタムフィルタにより、ユーザーはsincフィルタのレイテンシとサンプルの分解能について最適なバランスを選択できます。 この柔軟性は、モータ制御アルゴリズムを設計するときに有益です。 通常、アルゴリズムの一部は遅延に敏感ですが、フィードバックの精度にはそれほど敏感でありません。 アルゴリズムの他の部分は、より低い動力学で動作し、高い精度から恩恵を受けられますが、遅延にはそれほど敏感ではありません。

PWM同期信号へのタイミングキャプチャのグラフ

図5:PWM同期信号へのタイミングキャプチャのグラフ

プロポーショナル積分コントローラ(PI)アルゴリズムについて考えてみましょう。 P部分とI成分は、同じフィードバック信号で動作できます。 ただし、PパスとIパスを分離し、異なるタイプのフィルタリングでフィードバック信号を使用することも可能です。 PIコントローラでは、P成分の主要な目的は、負荷および速度の急速な変化の影響を抑制することです。 従って、信号レベルの高速な変化に対応できる必要があります。 I成分は定常状態の性能に特化し、測定の精度に、より重点が置かれています。 その結果、P成分は低分解能で、更新速度の速い電流フィードバック信号の恩恵を受けられ、これはsinc3フィルタの低いオーバーサンプリングとデシメーション率を意味します。 I成分は、より高いオーバーサンプリング率による利益を受けられ、その結果として更新速度が低下しても問題ありません。

シグマデルタ変調器、特に大きな負荷を扱うシステムにおいて、さらに考慮が必要なのは、絶縁の問題です。 オプションの1つは、単純に絶縁アンプを使用し、非絶縁変調器でA/D変換を行うか、変調器の出力と、デジタルフィルタリングに使用するデバイスの入力との間にオプトカプラを配置することです。 もう1つのオプションは、絶縁シグマデルタ変調器を使用することです。 絶縁変調器を使用すると、デジタルフィルタも過電流の影響を排除するよう構成可能なため、アナログ過電流保護回路を省略可能です。

絶縁変調器の例は、Devices Analog製のAD7403です。 このデバイスは2次変調器を実装しており、シャントサイズを柔軟に選択でき、14ビットをわずかに超える実効ビット数と、20MHzの出力ストリーム速度を提供します。 適切なデジタルフィルタがあれば、このデバイスは78.1kサンプル/秒で88dBの信号ノイズ比を達成できます。 分離スキーマには、同社のiCouplerテクノロジを使用しています。同社によれば、このテクノロジは標準的なオクトカプラ配置の性能を超えるものです。

絶縁などの追加機能や、フィルタリング性能の向上、そしてこれらの機能を搭載したマイクロコントローラやプログラマブルロジックデバイスの数の増加により、設計者はロボティクスアプリケーション用のモータ制御を引き続き最適化していくことが可能です。

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