アナログマルチプレクサおよびスイッチを使用してリソースを共有することにより、スペース、コスト、電力を節約します。
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2019-07-10
複数のセンサをデジタル化したり、複数のトランシーバを共通の通信バス上にルーティングしたりするために、コスト効率、省電力効率、スペース効率の最も良い方法を見つけることが、設計者にとっての課題となることがよくあります。その解決策となるのは、共通リソースを共有して、信号チェーン全体および関連コンポーネントの重複を避けることです。
これは、アナログマルチプレクサを使用して入力を多重化することで実現されます。これらのアナログマルチプレクサは、複数のセンサをA/Dコンバータ(ADC)の入力に接続し、各トランスデューサをデジタル化できます。この同じアプローチは、一定の時間間隔で各トランシーバがバスを共有する通信バスにも適用できます。
アナログスイッチおよびマルチプレクサの主な特性として挙げられるのは、両方とも入出力間の双方向スイッチパスを提供するほか、クロストークやリーク電流を最小限に抑えた信号の高い完全性も備えている点です。
この記事では、まずアナログマルチプレクサおよびスイッチの構成について説明し、次にこれらのデバイスの機能および柔軟性を実証するTexas Instrumentsの適切なソリューションを紹介します。そのあとに、リソースを共有するアナログスイッチおよびマルチプレクサのアプリケーションについての洞察を行います。
アナログマルチプレクサ
マルチプレクサは、複数の入力ソースを共通の出力ラインへ選択的に接続する電子スイッチです(図1)。
図1:4:1マルチプレクサを使用した標準的なアナログマルチプレクサアプリケーションは、4つのセンサのアナログ出力を連続的にデジタル化します。ロジック信号A0およびA1のバイナリ状態により、どの入力をADCに接続するかが決まります。(画像提供:Texas Instruments)
図1は、4:1アナログマルチプレクサ経由で共通ADCに接続された4つのセンサを示しています。ロジック信号のペア(A0およびA1)は、どのセンサをADCに接続するかを制御します。センサは時間の経過により急速に変化しない物理的特性を報告するため、シーケンシャルなサンプリングはデータロスのリスクをもたらしません。主なメリットは、4つのセンサすべてに対して単一のADCおよび関連回路のみを使用することにより、全体の部品数が低減されることです。これにより、全体の設計コストも削減できます。
マルチプレクサおよびスイッチの構成
アナログマルチプレクサは、電子スイッチという、より広いカテゴリの一部であり、図2で示すようにさまざまな構成で利用可能です。
図2:共通スイッチおよびマルチプレクサの構成の一部。スイッチは、出力が1つに集約されておらず独立してルーティング可能であるという点で、アナログマルチプレクサとは異なります。(画像提供:DigiKey)
マルチプレクサは、一般的に使用可能な2:1~16:1のモデルを使用して、2N入力のいずれかを選択するように構成されています。各マルチプレクサ2N構成に対するデジタル制御ラインの数はNです。そのため、8:1マルチプレクサには3本の制御ラインが必要になります。スイッチ構成は、入力または「極」の数、および出力または「投」の数により描写されます。単極単投(SPST)スイッチには、1つの入力と1つの出力があります。単極双投(SPDT)スイッチには、1つの入力と2つの出力があります。多くの場合、集積回路(IC)メーカーは、図2で示す4チャンネルSPSTスイッチのように、複数のスイッチを単一のICパッケージに統合し、複数のスイッチを複数のチャンネルを持つものとして描写します。
SPSTとSPDTスイッチの2つは、最も一般的なスイッチ構成です。また、無線周波数(RF)アプリケーションで使用される単極3投(SP3T)および単極4投(SP4T)スイッチもあります。
スイッチの設計により、スイッチ接点が変化した場合の動作に影響を及ぼす特定の動的特性を設定できます。スイッチが「メークビフォアブレーク」で設計されている場合は、新しい接続が実行されるまで最初の接続が維持されることを意味します。可動接点がオープン状態になることは決してありません。一方、「ブレークビフォアメイク」スイッチは、新しい接続を実行する前に元の接続を切断するため、隣接した接点が短絡することはありません。
CMOSスイッチ
現在、大部分のアナログスイッチおよびマルチプレクサの設計では、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)電界効果トランジスタ(FET)が採用されています。代表的な双方向スイッチ素子では、2つの相補型CMOS FET、Nチャンネル、およびPチャンネルデバイスを並列に接続して採用しています(図3)。
図3:基本的なマルチプレクサスイッチ素子とその等価回路。相補型FETは双方向操作が可能であるため、どちらの方向にも信号を切り替えることができます。(画像提供:DigiKey)
並列配列により、伝導パスはどちらの極性の信号も処理することができます。また、この組み合わせは、直列オン抵抗(ROn)を最小化し、電圧感度を低減します。等価回路の重大要素は、ROnおよびチャンネル静電容量(CD)です。
ソース抵抗(RSource)および負荷抵抗(RLoad)に加えて、オン抵抗はクローズ時のスイッチのゲインに影響を与えます。オン抵抗は、適用される信号電圧によっても変動します。オン抵抗、およびCDと負荷静電容量(CLoad)の並列の組み合わせは、帯域幅とスイッチングダイナミクス(特にスイッチング時間)に影響を与えます。一般的に、設計者はROnとCD両方の最小化に努める必要があります。また、直流(DC)オフセットに影響を与える信号パスへのリーク電流もあります。
スイッチがオープンの場合、貫通静電容量(CF)はスイッチ周辺にパスを提供して、絶縁機能を制限します。スイッチのクローズ中に、電荷はソース静電容量(CS)とチャンネルおよび負荷静電容量間で共有されます。その結果、スイッチング過渡が発生します。
図1で示したように、非常に高い入力抵抗を持つバッファアンプでスイッチ出力をバッファすることにより、スイッチのオン抵抗の影響を最小化できます。この回路構成は、ゲインロスを低減し、オン抵抗の変動の影響を最小化します。ただし、リーク電流によりオフセット電圧が上昇する場合があります。通常、この技術的なトレードオフは、リーク電流を最小限に抑えたコンポーネントを選択することにより解決されます。
アナログマルチプレクサおよびスイッチのソリューション
Texas InstrumentsのTMUX1108PWR 8:1マルチプレクサは、ADCと嵌合するように作られた高精度マルチプレクサの例です。この製品は、1.08~5ボルトの供給電圧(VDD)範囲を備えています。信号電圧の範囲は0ボルト~VDDで、双方向のアナログまたはデジタル信号をサポートしています。チャンネル直列抵抗(ROn)は一般的に2.5オーム(Ω)で、リーク電流は3ピコアンペア(pA)未満です。オン静電容量は65pFであるため、チャンネル間の遷移時間は標準で14ナノ秒(ns)、帯域幅は90メガヘルツ(MHz)になります。
TMUX11xxシリーズのマルチプレクサは数多くの構成を取り揃えています。たとえば、TMUX1109RSVRはデュアルチャンネルの4:1マルチプレクサです。電源範囲とリーク電流仕様はTMUX1108PWRと同じですが、1.35Ω(標準)のオン抵抗と135MHzの最大帯域幅を備えています。このデバイスには、2つの4:1マルチプレクサが搭載されており、4:1差動マルチプレクサとして、または2つの4:1シングルエンドマルチプレクサ(図4)として使用できます。
これは、デュアル同時サンプリングの逐次比較型ADCに基づく差動4チャンネルデータ収集システムのアプリケーション例です。ADCごとに4つの差動チャンネルがあります。最大±3.8ボルトの振幅を持つ信号に対して、各16ビットADCのサンプリングレートは3メガサンプル/秒(MS/s)です。このタイプの収集システムのアプリケーションには、光制御、産業用制御、およびモータ制御などがあります。
図4:2つのデュアル4:1マルチプレクサのアプリケーションは、16.45MHzの帯域幅を備えた4チャンネル差動信号収集システムで、光制御、産業用制御、およびモータ制御信号の処理を対象としています。(画像提供:Texas Instruments)
最も簡単なマルチプレクサトポロジは、シングルチャンネル2:1マルチプレクサです。これは、基本的にSPDTスイッチです。Texas InstrumentsのTMUX1119DCKRは、2:1マルチプレクサの高精度バージョンです。この製品は、TMUX11xxファミリの他の製品と同じ電源範囲とリーク電流仕様を共有しています。オン抵抗は標準1.8Ωで、最大帯域幅は250MHzです。
2:1マルチプレクサのアプリケーションとして、それら2つのマルチプレクサを1つの反転スイッチとして使用することもあります(図5)。その回路は、差動飛行時間測定を使用して流速を特定するガス計量システムの回路と同じです。2つの超音波トランスデューサが既定の間隔でパイプ内に配置されており、1つのトランスデューサから別のトランスデューサへの伝播時間を測定した後に、トランスデューサを反転して反対方向の伝播時間を測定します。パイプ内のガスの流速は、この時間差から算出されます。トランスデューサ接続を反転させるには、2つのTMUX1119マルチプレクサを使用します。これは、ガス流量アナライザの入力へ信号をルーティングするマルチプレクサの例です。本製品は超低リーク電流とオン抵抗の平坦性を備えているため、このアプリケーションにおいて優れた選択肢になります。
図5:回路図は、ガス流量アナライザ内の1組の超音波トランスデューサにおいて、2つの2:1マルチプレクサを使用して接続を反転させる様子を示しています。(画像提供:Texas Instruments)
これらのさまざまなマルチプレクサ構成に加えて、複数の独立したスイッチを1つのICに統合できます。Texas InstrumentsのTMUX6111RTER 4回路SPSTスイッチ(図6)について考えてみましょう。このデバイスは、0.5pAという非常に低いリーク電流と800MHzの帯域幅を備えています。オン抵抗は中程度の120Ωです。
図6:TMUX611RTER 4回路SPSTスイッチには、非常に低いリーク電流と800MHzの帯域幅を備えた4つの独立したスイッチが含まれます。(画像提供:Texas Instruments)
これは、4つの独立したスイッチを備えたこの製品シリーズの3つあるデバイスのうちの1つです。このバージョンには、4つのノーマリオープンスイッチがあります。別のバージョンには4つのノーマリクローズスイッチがあり、第3のバージョンには各タイプのスイッチが2つずつあります。
まとめ
アナログスイッチおよびマルチプレクサは、複数のセンサで共通のA/Dコンバータを共有させることにより、コンポーネントのスペース、コスト、および電力面で大きな節約効果を発揮します。さらに、通信バスの共有やトランスデューサ接続の変更など、コンピュータ制御下で回路接続を変更する際に大幅な柔軟性も発揮します。

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