ロードテスト済みGMSLカメラが新市場に進出

著者 Pete Bartolik(ピート・バートリック)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

車載アプリケーション向けに開発された技術は、自動車メーカーの信頼性、性能に対する厳しい要求や、電子的に過酷な環境での高速データレートの必要性から、他の市場にも頻繁に移転されています。これが、Gigabit Multimedia Serial Link(GMSL™)カメラが、オートメーションやロボティクス、スマート農業、デジタルヘルスケア、航空電子工学、自動運転タクシー、小売および倉庫の在庫管理などの分野におけるビジョンアプリケーションの市場に容易に受け入れられている理由です。

当初は、車内での高速ビデオおよびデータ伝送アプリケーション向けに導入されたAnalog DevicesのGMSLは、高速ビデオリンクに新たなレベルの性能をもたらし、単一ケーブルでのマルチストリーミングを可能にする、広く採用され、実績のある技術です。

ビジョンアプリケーションでは、高品質のビデオを確保するために、非常に大きなデータストリームが必要です。フルHD画像は、1080行 x 1920列で構成されています。これは200万ピクセルに相当し、各ピクセルは赤、緑、青の要素で構成されているため、600万の要素となります。各要素は8ビットのデータを表すので、1フレームはほぼ50Mbpsのデータになります。毎秒60フレームの場合、カメラ1台に必要なデータレートは3.5Gbpsを超えます。

2008年に初めて利用可能となった第1世代のGMSLは、低電圧差動信号(LVDS)規格を利用して、最大3.125Gbpsのパラレルデータダウンリンクレートを実現しました。これは、複数のカメラシステムやその他の先進運転支援システム(ADAS)からのデータ伝送、および車内での高解像度フラットパネルディスプレイの使用拡大に特に適していました。

2018年には、第2世代となるGMSL2が発表されました。GMSL2は、データレートを最大6Gbpsに高速化し、HDMIやMIPIインターフェース規格など、より多くの標準高速ビデオインターフェースをサポートしています。MIPIは、民生用および車載用カメラで広く使用されているイメージセンサインターフェースです。これらの進歩により、フル高解像度(FHD)ディスプレイや最大8MPの解像度を持つカメラに対応できるようになりました。 

次世代のGMSL3は、1本のケーブルで最大12Gbpsのデータ転送が可能です。GMSL3は、複数の4K解像度ストリーム、複数のディスプレイのデイジーチェーン接続をサポートします。また、車の前後左右に取り付けられ、360°ビュー機能を提供する複数カメラの集約もサポートしています。現在、多くの自動車メーカーが、サイドミラーやバックミラーをカメラで補い、前方および後方を撮影するカメラを衝突回避に、車内カメラを運転手や同乗者の安全確認に活用しています。GMSL3は、LiDARやレーダだけでなく、複数のビデオフィードからのデータも集約することができます。

カメラがCMOSセンサのレベルまで小型化されたことで、かつては驚異的な品質と考えられていたものが、低コストかつ低消費電力で実現できるようになりました。イメージセンサには数百万個の受光素子があり、各受光素子は測定値をデジタル値に変換します。これらの値は、同期情報とともに、パラレルインターフェースのシリアルデータレーンを介してストリーミングされます。

GMSL2とGMSL3はいずれもMIPIインターフェース規格を利用しており、設計者やベンダーはGMSLカメラ用の様々なイメージセンサにアクセスできます。

GMSLとGigE

ビジョンアプリケーションを始めるエンジニアは、GMSLとギガビットEthernet(GigE)ビジョン技術のどちらを使用するかという決断を早急に迫られることでしょう。GigEは、主にEthernetネットワークインフラと規格に依存しているため、産業用アプリケーションで広く使用されています。

2.5 GigE、5 GigE、10 GigEを搭載したGigE Visionカメラは、今日のアプリケーションでは一般的であり、100 GigEの最先端カメラは最大100Gbpsのデータレートを利用できます。GMSLは、同軸ケーブルまたはシールド付きツイストペアケーブルで最大15mまでデータを伝送するように設計されており、GigEでは100mまで伝送できます。特定の条件下では、これらの距離を超えることも可能です。

各技術は、同じケーブルでデータと電力を伝送することができます。GMSLはPower over Coax(PoC)を使用しているため、ビデオ、オーディオ、制御、データ、および電力は単一のチャンネルで伝送できます。ほとんどのGigE Visionアプリケーションは、4ペアEthernet用のPower over Ethernet(PoE)に依存しています。また、あまり一般的ではありませんが、Single-Pair Ethernet(SPE)用のPower over Data Line(PoDL)に依存している場合もあります。

システム要件とアプリケーションのニーズによって、どのビジョン技術が最適かが決まります。たとえば、シングルカメラアプリケーションでは、特にEthernetポートを備えたPCや組み込みプラットフォームに直接接続する場合に、GigE Visionがいくつかの利点をもたらす可能性があります。

複数のカメラを使用する場合は、GigE Visionアプリケーションでは専用のEthernetスイッチ、複数のEthernetポートを備えたネットワークインターフェースカード(NIC)、またはEthernetスイッチICを使用する必要があります。このスイッチング要件により、最大総データレートが低下し、カメラと端末機器の間に予測不可能な遅延が生じる可能性があります。一方、GMSLはよりシンプルで直接的なアーキテクチャを提供します。

GigE Visionデバイスは、追加のバッファリングと圧縮により、より高解像度またはより高フレームレート、あるいはその両方を同時にサポートする可能性があります。フレームバッファリングと処理はGMSLデバイスでは提供されないため、解像度とフレームレートは、イメージセンサがリンク帯域幅内でサポートできるものに依存します。エンジニアは、解像度、フレームレート、およびピクセルビット深度の間のシンプルなトレードオフを決定する必要があります。

GMSLが高速ビデオアーキテクチャを簡素化

GigE Visionカメラは通常、イメージセンサ、プロセッサ、Ethernet物理層(PHY)を含む信号チェーンを利用します(図1)。センサからの生の画像データは、プロセッサによってEthernetフレームに変換されます。このプロセスでは、サポートされているEthernet帯域幅のデータレートに合わせるために、圧縮やフレームバッファリングが使用されることがよくあります。

図:Analog Devices GigE Visionカメラのセンサ側の主要信号チェーンコンポーネント図1:GigE Visionカメラのセンサ側の主要信号チェーンコンポーネント。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

GMSLカメラの信号チェーンは、プロセッサを使用しないシリアライザ/デシリアライザ(SerDes)アーキテクチャを利用しています(図2)。代わりに、イメージセンサのパラレルデータはシリアライザによって高速シリアルデータストリームに変換されます。バックエンドでは、デシリアライザがシリアルデータをパラレル形式に変換し、電子制御ユニット(ECU)のシステムオンチップ(SoC)で処理します。

図:Analog DevicesのGMSLカメラは、よりシンプルな信号チェーンアーキテクチャを利用図2:GMSLカメラは、GigE Visionよりもセンサ側の信号チェーンアーキテクチャがシンプルです。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

GMSLカメラアーキテクチャにより、低消費電力の小型フォームファクタカメラの設計がよりシンプルになります。シリアライザは標準のMIPI CSI-2インターフェースを介してカメラに直接接続でき、パケット化されたデータをGMSLリンク経由で送信できます。

典型的なホストデバイスは、1つまたは複数のデシリアライザを搭載したカスタマイズされた組み込みプラットフォームです。デシリアライザは、イメージセンサのMIPI出力と同じフォーマットで、MIPIトランスミッタを介して画像データを送信します。カスタマイズされた設計には、新しいGMSLカメラドライバが必要です。しかし、イメージセンサ用の既存のドライバがある場合は、プロファイルレジスタをわずか数個使用するか、またはレジスタ書き込みを数回行うだけで、カメラから制御ユニットへのビデオストリームを有効にすることができます。

GMSLコンポーネント

ADIは、さまざまなインターフェースをサポートするシリアライザおよびデシリアライザの包括的なポートフォリオを提供しています。これらの製品は、堅牢なPHY設計、低いビットエラーレート(BER)、下位互換性を特長としています。あらゆるビデオプロトコルをブリッジすることができます。たとえば、HDMIをOpen LVDS Display Interface(oLDI)にブリッジすることができます。

エンジニアは、デバイスのインターフェース、データレート、帯域幅、消費電力、環境条件、ケーブル長など、アプリケーションのニーズに基づいて最適なコンポーネントを選択する必要があります。その他の要素としては、EMI、エラー処理、信号の完全性などがあります。ADIのGMSLコンポーネントの例を下記に挙げます。

  • MAX96717は、CSI-2/GMSL2シリアライザ(図3)で、順方向では3Gbpsまたは6Gbps、逆方向では187.5Mbpsの固定レートで動作します。

回路図:Analog Devices MAX96717シリアライザを利用したデータストリーム図3:MAX96717シリアライザを利用したデータストリームを示す回路図。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

  • MAX96716Aは、デュアルGMSL2シリアル入力をMIPI CSI-2に変換します。GMSL2入力は独立して動作し、両方の入力からのビデオデータを集約して単一のCSI-2ポートに出力することも、2番目のポートに複製して冗長処理を行うこともできます。
  • クワッドトンネリングデシリアライザであるMAX96724は、4つのGMSL 2/1入力を2つのMIPI D-PHYまたはC-PHY出力に変換します。データリンクレートは、GMSL2が6/3Gbps、GMSL1が3.12Gbps、逆方向リンクレートは、GMSL2が187.5Mbps、GMSL1が1Mbpsです。
  • MAX96714デシリアライザは、単一のGMSL 2/1入力をMIPI CSI-2出力に変換し、順方向では固定レートの3Gbpsまたは6Gbps、逆方向では187.5Mbpsで動作します。
  • MAX96751はHDMI 2.0入力を備えたGMSL2シリアライザで、HDMIをシングルまたはデュアルGMSL2シリアルプロトコルに変換します。また、ビデオと双方向データの全二重、単線伝送も可能にします。
  • MAX9295Dは、シングルポートまたはデュアルポート4レーンMIPI CSI-2データストリームをGMSL2またはGMSL1に変換します。

ADIはまた、MAX96724デバイス用のMAX96724-BAK-EVK#評価キットなど、いくつかの開発ツールも提供しています。

まとめ

複雑さが軽減されたGMSLカメラは、GigE Visionと比較してよりコンパクトで、一般的にコスト効率の高いソリューションを提供できます。GMSLは、マイクロ秒単位の遅延で高解像度のデジタルビデオを確実に伝送します。この技術は、機械学習や自律操作からインフォテイメントやセーフティに至るまで、多様化するカメラおよびディスプレイベースのアプリケーションに最適です。何百万ものGMSLリンクが、今日の道路におけるドライバーの体験を向上させており、その信頼性と性能を証明しています。

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著者について

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Pete Bartolik(ピート・バートリック)

Pete Bartolikはフリーライターで、20年以上にわたってITとOTの問題や製品について研究し、執筆してきました。それ以前は、IT管理専門誌『Computerworld』のニュース編集者、エンドユーザー向け月刊コンピュータ誌の編集長、日刊紙の記者を務めていました。

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