LED接合部の過熱防止

DigiKeyの北米担当編集者の提供

平均的な高輝度(HB)LEDは、与えられたエネルギーの約45%しか可視光の光子に変換せず、残りは熱となります。 この熱がLEDから適切に発散されないと、加熱により破壊的な障害を引き起こす恐れがあります。 破壊的な障害が発生しなくても、LEDの接合部温度が上昇すると光出力の低下、色の変化、予測寿命の大幅な短縮が起きる可能性があります。

この記事では、接合部温度を計算する方法を示し、熱抵抗の重要性を解説します。 熱抵抗の低いLEDパッケージ代替品、たとえばチップスケールやチップオンボード(COB)設計などについて説明し、ヒートシンク性能に影響する要因について調べます。

LEDによる熱の発生とその影響

LEDのP-N接合に十分な電圧が正しく印加されているとき、電流は接合部を流れ、光と熱の両方を生み出します。 しかし平均的な高輝度(HB)LEDは、与えられたエネルギーの約45%しか光に変換せず、残りは熱となります。

P-N接合部は小さいため、ユニットの面積当たりの熱生成率は大きなものになります。1W、1mm2のLEDは、約100W/cm2の熱を生成する可能性があります。 接合部温度が上昇すると、LEDの順方向電圧とルーメン出力の両方が減少します。 LEDの寿命を延ばし、性能を維持するため、LEDの接合部温度をメーカーの動作時仕様範囲内に維持する必要があります。

図1に示すように、動作電流が一定の場合、接合部温度が10°C上昇するごとに、順方向電圧は約20mV減少します。 より具体的に言うと、LEDの接合部温度が25°Cから80°Cに上昇すると、定電流350mAでの順方向電圧は0.17V減少します。 

LED接合部温度上昇による順方向電圧低下の画像

図1:LED接合部温度上昇による順方向電圧低下 (提供元:Osram)

同様に、接合部温度が25°Cから80°Cに上昇すると、図2に示すように光出力は10%低下します。 LEDが25°Cで90ルーメンの光を発生する場合、接合部が80°Cのときは81ルーメンしか発生しません。 簡単に言うと、動作電流が一定の場合、接合部温度が10°C上昇するごとに光効率は約1.8%低下します。

LED接合部温度の上昇による光出力の低下の画像

図2:LED接合部温度の上昇による光出力の低下 (提供元:Osram)

LEDの中心波長は、LEDが主に放射する光子の波長で、LEDの色を決定します。 図3に示す赤色626nm LEDのような単色LEDでは、接合部温度の上昇につれて中心波長が増大し、色が変化します。

接合部温度の上昇による中心波長のシフトの画像

 

図3:接合部温度の上昇につれて中心波長がシフトし、LEDの色が変化します (提供元:Osram)

接合部温度の計算

ソリッドステート照明デバイスの効率は、接合部温度に大きく依存し、その接合部温度は印加される電力、LED接合部と周囲温度との間の熱抵抗、周囲温度自体の3つの要因に主に依存します。 印加される電力は、どれだけの熱が生み出されるかを決定し、熱抵抗および周囲の状況は、その熱がどの程度効率的に発散されるかを決定します。

2つの重要な熱経路の抵抗が、接合部温度に影響します。 最初のものは、LED接合部と、パッケージ底面にある熱コンタクトとの間の抵抗です。 2番目のものは、熱コンタクトから周囲への抵抗です。

LED接合部の温度(TJ)は、周囲温度(TA)と、接合部から周囲大気への熱抵抗(次の式でRth j-a)とPd、消費電力(If x Vf)との積を足したものです。 熱抵抗は、消費電力単位ごとの部品の温度上昇として定義され、単位は°C/Wです。

計算式: 式1

照明システムを設計するとき、最大の熱性能を保証するには、LEDデバイスの接合部から周囲大気への熱経路を把握することが不可欠です。 話を簡単にするため、ここではLED接合部と周囲との熱抵抗の合計値だけを考えることにしますが、実際のLED照明システムには、システム全体の熱経路を定義する数多くの抵抗が存在します。

熱抵抗が低いと、過熱による早期障害の危険を増やすことなく、LEDを大電流で駆動し、照度を上げることができます。 LEDの最大接合部温度と熱抵抗は、製造元のデータシートに記載されています。

パッケージの影響

LED接合部から、パッケージの底部にある熱コンタクトへの熱抵抗は、パッケージの設計により決定されます。 エンジニアはこの点を理解して、チップスケールパッケージ(CSP)デバイスや、チップオンボード(COB)LEDなど、熱効率の高い設計の開発に注力してきました。

CSPテクノロジは、従来のサブマウントを排除し、LEDのダイをPCBへ直接取り付けます(図4)。 このような小さなデバイスから熱を取り出すことが困難なため、CSPは最近までLEDにおいて一般的ではありませんでした。 しかし、効果の向上と、より高い温度への許容性により、この問題は解決しました。

CSPテクノロジの多くの利点の画像

図4:CSPテクノロジには、熱抵抗の低さなど多くの利点があります (提供元:Samsung Semiconductor)

CSPに標準的な定義は存在しませんが、業界では一般に、LEDの発光部分と同じサイズ、または20%まで大きい任意のデバイスが「チップスケールパッケージLED」と考えられています。 CSPは従来型のLEDよりも熱抵抗が低く、これは主にCSP LEDとPCBのヒートシンク表面との間が金属同士で接合されているためです。

たとえば、Samsung Semiconductor製の SCP8RT78HPL1R0S06Eは、パッケージの熱抵抗がわずか2°C/Wです。 SamsungのCSPテクノロジは、フリップチップテクノロジと、蛍光体コーティングテクノロジとを組み合わせて、従来型のLEDパッケージを小型化し、金属ワイヤやプラスチックの成型を不要にします。

COB手法により、メーカーは多くのダイを基板に直接パッケージできます。 Bridgelux VeroおよびVシリーズのLEDアレイは、熱と電気の経路が分離されているLEDダイの構造により、1.6°C/Wから0.25°C/Wという低い熱抵抗を実現しています。

良好な熱伝導のためには、LEDをクリーンで平らな、滑らかなヒートシンクに装着することが必要です。 LEDとヒートシンクとの間に熱伝導材料(TIM)を使用することも、良好な熱伝導のために必要となります。 LEDサプライヤのCreeは、自社のセラミック基板CXファミリのLED(CXA1304-0000-000C00A427Fなど)の背面は、他のCOB LEDに多く使用されているアルミ基板の背面よりも10倍滑らかであるとしています。

ヒートシンクの平坦性を判定するため、Creeは剃刀の刃を直線のエッジとして使用し、剃刀の刃とヒートシンクとの間に存在するギャップを探すことを推奨しています(図5)。

ヒートシンクの平坦性のチェックの画像

図5:ヒートシンクの平坦性のチェック (提供元:Cree)

熱伝導材料とヒートシンク

標準的なLED照明システムには複数のHB LEDパッケージがあり、基板に接続され、ヒートシンクに取り付けられています。 LEDは従来型の白熱電球のように熱を放射しないため、LEDにより発生する熱は基板を経由して発散させる必要があります。 従来型の熱基板には、Al2O3(アルミ酸化物またはアルミナ)とAIN(窒化アルミ)の2種類のセラミックがあります。 組立時には、基板の底面がヒートシンクの取付面と完全に接触する必要があります。 LEDとヒートシンクとの間の小さな隙間やエアギャップをふさぎ、熱伝導を改善するため、熱伝導材料(TIM)が使用されます。 LEDとヒートシンクとの間に隙間があると、熱経路の効率が低下します。 TIMには接着剤、グリース、ジェル、パッド、はんだ合金、エポキシの形態のものがあります。

ヒートシンクは、熱スタックの最後の必須部分です。 ヒートシンクはLEDから熱を取り去り、接合部温度を許容範囲内に維持するため役立ちます。 設計者は、ヒートシンクの表面、表面積、空力学、熱伝導、取付を考慮する必要があります。

ヒートシンクは、伝導(固体媒体から別の固体への熱の移転)、対流(固体から流体、通常は大気への熱の移転)、放射(表面温度が異なる2つの物体からの熱の移転)の3つの方法で動作します。 ヒートシンクは通常、アルミや銅などの金属で作られ、表面積を増やすために多くのフィンが付けられています(表1)。

材質 熱伝導性(W/mK)
79.5
アルミ 205
385
大気(0°Cのとき) 0.024

表1:ヒートシンクの一般的な材質と大気の熱伝導性(提供元:Bridgelux)

ヒートシンクの冷却を助けるため、パッシブまたはアクティブの冷却方法を実装できます。 基本原則として、発散する電力1ワットごとに、ヒートシンクの表面積は10平方インチ必要です。

結論

LEDの障害原因の大多数は温度に依存します。 LEDの接合部温度の上昇から障害が発生しなくても、光出力の低下、色の変化、平均寿命の大幅な短縮が起きる可能性があります。 この記事では、接合部温度を計算する方法に触れ、熱抵抗の重要性を解説しました。 また、熱抵抗の低いLEDパッケージ代替品、たとえばチップスケールやチップオンボード(COB)設計などについて解説し、ヒートシンク性能に影響する要因について調べました。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者