ポイントオブロードモジュールの考慮事項

著者 Aaron Yarnell

限りなく創造的なマーケティングの技術は、各企業が業界他社に対して自社製品を差別化し、利点を強調するための強力なツールです。 問題は、想定されるこれらの利点が、特定のアプリケーションでの優位性をもたらすかどうかです。 それは本当に、対象製品の小型化、高速化、高性能化を実現するのでしょうか。 結局のところ、人生のほとんどの事柄と同じように、回答は「時と場合によります」。

この記事では、マーケティング資料に記載される標準仕様をさらに掘り下げて、ポイントオブロード(POL)DC/DCコンバータの性能の差別化につながる主な要因と、特定のシステム設計との関連性について真に理解することを目指します。 特に、効率、出力静電容量、補償方式、冷却要件について検討します。

ピーク効率と実際の負荷条件下での効率

パワーコンバータの効率は、通常は小文字のギリシャ文字エータ(η)で表され、出力に供給される電力と入力によって消費される電力の比率として表現されます(η = Pout/Pin)。 任意のコンバータの理想的な比率(効率)は1です。 これはコンバータに入力される電力の100%が損失ゼロで負荷に供給される状態を示しています。 しかし、実際のアプリケーションでは、エネルギー形態の変換に関連する多少の損失/非効率が常に生じるため、ηの値は1よりも多少小さくなります。

100%の効率が理想的であることを理解しているマーケティングチームは、多くの場合、アプリケーションに「最高」であることを際立たせるために、達成可能な最高の変換効率を強調します。 これは通常は「ピーク効率」と呼ばれます。 問題は、この効率は1つの数値ではなく多変量の関数であり、通常は負荷に供給される出力電流/電力の関数として表されることです。 以下の図は、ポイントオブロードコンバータの効率曲線の仮定上の例であり、出力の負荷が効率にどのような影響を与えるかを示します。

標準的な効率曲線の例

図1:標準的な効率曲線の例

この仮定上の例では、出力の負荷が全負荷の50%になった時点で効率曲線がピークに達しています。 軽い負荷では効率ははるかに低く、効率のピークを超えて負荷が増していくと、効率は漸次的に低下します。 ピーク効率ポイントよりも重い負荷または軽い負荷でシステムが動作すると、システム内で電力が浪費され、望ましくない熱が発生します。したがって、電力供給システムを設計する際は、これらの効率曲線を理解することが重要です。 以下の図は、POL Bの方がピーク効率が高いにもかかわらず、負荷が要求する電力量が大きいため、(効率に関しては)アプリケーションにPOL Aを選ぶ方が望ましい例を示します。

効率曲線と負荷条件の比較の画像

図2:効率曲線とアプリケーションの負荷条件の比較

希望のリップル/過渡性能を得るのに必要な出力静電容量

POLコンバータの性能のもう1つの指標は、希望のリップル/過渡性能を得るために追加する必要がある、システムレベルの静電容量です。 外部コンデンサの容量とタイプの理論の詳細は、この記事の対象範囲を超えています。しかし、データシートに記載された性能の数値が同じであっても、すべてのPOLモジュールが同じように作られているわけではないことに注意してください。 表面上は、さまざまなPOLが同じリップル/過渡性能を備えているように見えるかもしれません。しかし、テスト条件を詳しく検討すると、電力供給ソリューションの全体的なコストとサイズに影響を与える可能性のある、大きな違いがしばしば見つかります。

以下の表は、2つの競合POLモジュールの比較を示します。 マーケティング用のデータシートに記載された箇条書きの数値を見ると、これらの2つのソリューションはほぼ同じリップル/ノイズ性能を持つように見えます。

POL A POL B
定格電流 60A 40A
Δ VOUT 10mV 10mV
Δ VOUT 30A 20A
セラミックコンデンサ 3x10μF = 30μF 4x47μF = 188μF
ポリマーコンデンサ 9x330μF = 2970μF 27x330μF = 8910μF
合計静電容量 約3000μF 約9000μF

図3:2つのPOLの出力静電容量の比較

しかし、細目を分析すると、同じ電圧変動性能を得るために、POL BではPOL Aよりも300%大きな外部静電容量が必要になることがわかります。 これによる追加コストと十分に活用されない基板スペースは、かなり大きくなります。

幸いなことに、現在では先進的なPOLモジュールは完全デジタル方式で実装されており、ソリューション全体のサイズに対するリップル/過渡性能は、従来のアナログモジュールに比べて大幅に向上しています。

CUINDM3Z-90シリーズは、このようなソリューションの格好の例です。この製品は、優れたリップル/過渡性能で最大90Aの電流を負荷に供給するため、通常は出力静電容量を大幅に削減できます。

CUIのNDM3Z-90デジタルPOLファミリの画像

図4:CUIのNDM3Z-90デジタルPOLファミリ

補償方式

ポイントオブロードモジュールは、負荷に対してクリーンな電圧レールを生成する目的で、調整済みの安定した出力を提供します。 このことは、POLには基本的に負帰還ループが含まれることを意味します。理想的な出力からの偏移が発生した場合、POLの帰還ネットワークは、出力を補償して安定化された理想的な出力に戻そうとします。

市場には少しずつ異なる多くの補償方式が提供されていますが、一般的なアナログ補償方式とデジタル補償方式の利点と欠点について、以下に概要を説明します。

アナログ補償:アナログ補償ネットワーク内で、モジュールの出力の検知、フィルタリング、基準電圧との比較が実行され、誤差信号が生成されます。 この誤差信号を使用して出力を補償し、発生した偏移を修正します。

標準的なアナログスイッチング電圧レギュレータの回路図

図5:標準的なアナログスイッチング電圧レギュレータの回路図

アナログ補償方式の利点は、長期にわたる実績があり、標準的な市販コンポーネントを使用して実装できることです。 アナログ方式の欠点は、高速過渡応答のために広い帯域幅を維持しながら、あらゆる動作条件で安定するように「ループを調整」するのが非常に難しいことです。 これを実現するには、通常は実験室ではんだ付け、試験、再はんだ付け、再試験の手順を長時間にわたって繰り返す必要があります。また、アナログ補償方式は外部ノイズの影響を受けやすく、ノイズが誤って出力に結合されることがあります。

各種のアナログ補償方式は長期にわたって標準としての地位を得てきましたが、最近ほぼ10年の間に新しいデジタル補償方式が出現しました。この方式にはいくつかの大きな利点があります。

デジタル補償:アナログ方式と同様に、デジタル補償回路は、出力の検知、フィルタリング、基準電圧との比較、誤差の生成を実行し、最終的に出力を補償して、発生した偏移を修正します。

標準的なデジタルスイッチング電圧レギュレータの回路図

図6:標準的なデジタルスイッチング電圧レギュレータの回路図

主な違いは、すべての処理が1と0のデジタル信号を使用してデジタルドメインで実行されることです。 出力の「検知」はアナログ~デジタルコンバータで実行され、すべての比較、誤差生成、補償処理は集積回路(IC)内でデジタル方式で実行されます。 デジタルドメインでの動作により、ノイズ除去性能が大幅に向上し、外部ノイズ源が誤って出力に結合することを防ぎます。

デジタル補償方式を利用すれば、実験室で長い時間をかけてさまざまなコンポーネントのはんだ付けを繰り返し、帰還ループを調整する必要はなくなります。 代わりに、IC内の少数のデジタルパラメータを変更するだけで、アプリケーションの要件を満たすようにPOLの挙動を変更できます。 現在市販されている先進的なデジタルPOLは、デジタル化をさらに一歩先に進めて、補償不要型の設計を実現します。 これらの設計では、設計者の代わりにPOLがすべての必要な測定と調整をシステム内で実行し、高速応答が可能な安定した出力電圧レールを継続的に提供します。

冷却要件

ポイントオブロードモジュールの最大の制約要因の1つは、熱放散です。 モジュールの設計に非効率な箇所があると、望ましくない発熱が内部に起こり、重要なコンポーネント(FET、インダクタ、コンデンサなど)が最大定格動作温度に近づきます。 これらのコンポーネントが上限温度またはそれを超える温度で動作した場合、信頼性の低下とハードウェアの故障の原因になるおそれがあります。

POLベンダは、内部発熱の損傷作用に対抗して、通常はモジュールから熱を逃がすために最小限の気流を確保することを推奨しています。 これにより、コンポーネント内の熱の蓄積と、定格温度を超える温度の上昇を抑制できます。 気流を利用してモジュールを冷却すると、通常は負荷に供給される電力量が増加するとともに、周囲動作温度範囲が拡大されます。 以下の図は、自然対流(静止空気)から3m/sまでさまざまな気流環境で動作するときのPOLモジュールの性能を示します。

標準的なディレーティング曲線の例

図7:さまざまな気流条件下での標準的なディレーティング曲線の例

自然対流(静止空気)条件(図7の一番下の実線)の下では、モジュールは最大60℃で43Aを負荷に供給できることがわかります。 2m/sの気流を加えると、電流容量と周囲動作温度範囲の両方が向上し、周囲温度64℃で全50Aを供給できます(図7の一点鎖線)。 ただし、強制空冷方式には欠点があります。強制冷却は電力を消費するため、効率ゲインの一部が打ち消され、許容できないレベルのノイズが発生することがあります。 設計者は、POLの選択時に、パワーモジュールの熱的要件とシステムの冷却機能について注意深く比較検討する必要があります。

結論

アプリケーションはそれぞれ異なる性質を持ち、それぞれ異なる性能指標が重視されます。 一部のアプリケーションでは、高速過渡応答が最も重要な考慮事項になります。 一方、小型化、効率化、または広い動作温度範囲が追求されるアプリケーションもあります。 マーケティング資料が主張する内容にかかわらず、各アプリケーションのすべての要件に単独で対応できるPOLは存在しません。 まず、特定の動作条件下におけるアプリケーションの要件を理解することが重要です。 その後で初めて、お客様の設計に最適なPOLの比較と選択が可能になります。

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著者について

Aaron Yarnell

Article provided by Aaron Yarnell, Field Applications Engineering Manager, CUI Inc.