ISM/LPWAデバイスにおけるアンテナ統合の最適化

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

産業機器、民生機器、医療機器におけるモノのインターネット(IoT)の継続的な拡大、さらにはスマートシティやスマートビルディングの出現により、低電力広域(LPWA)ワイヤレスネットワークの利用が急増しています。特に、米国の915MHz、ヨーロッパの868MHzと169MHz、アジアの433MHzの産業用、科学用、および医療用(ISM)無線周波数(RF)帯では、それが顕著になっており、LoRa、Neul、SigFox、Zigbee、Z-Waveなどのワイヤレスプロトコルに対応しています。

LPWAデバイスは小型化が進んでおり、優れた性能を備えた安価で小型のアンテナが求められています。アンテナのグランドプレーンの問題は、特に868MHzと915MHzのISMバンドで厄介なことになります。これらの問題は、回路を追加したり、デバイス統合を高めたり、より精密な周波数調整を行ったりすることで対処できますが、これらはすべて開発期間とコストの増大につながります。設計者は、グランドプレーンに関する懸念を最小限に抑えることのできるアンテナを必要としています。加えて、LPWAデバイスはバッテリ駆動の場合が多く、最大限のエネルギー効率が求められます。アンテナの選択と統合は、効率的な設計のための重要な側面です。最適でないアンテナソリューションは、バッテリの寿命を縮め、システム全体の性能を低下させる可能性があります。

リンクバジェットの最適化は、信頼性が高く効率的なワイヤレス通信インターフェースを実現するための1つの鍵です。アンテナの選択と統合は、リンクバジェットに大きな影響を与えます。しかし、リンクバジェットとグランドプレーンの両方の懸念に対処できる効率的で高性能なアンテナを設計または選択することは、複雑なプロセスです。リンクバジェットに影響を与えるアンテナ仕様には、インピーダンス、リターンロス、電圧定在波比、ゲイン、放射パターンなどがあります。グランドプレーンの問題を最小限に抑え、統合が容易で小型、かつ高性能なアンテナを特定することにより、エンジニアリング時間を大幅に短縮し、システム全体の性能を向上させることができます。

この記事では、基本的なリンクバジェットモデルを説明し、リンクバジェットに影響を与える主なアンテナ仕様を確認してから、グランドプレーンの問題を克服してLPWAデバイスのリンクバジェットを最適化するのに役立つMolexアンテナの例を紹介します。

基本的なリンクバジェット

ワイヤレスシステムのリンクバジェットは、レシーバに到達する有効なRFエネルギーの指標となります。その等式は、送信電力(dBm)から始まり、ゲイン(dB)を加え、損失(dB)を差し引き、受信電力(dBm)に到達します。実用的な設計では、ゲインと損失の要因が多数存在します。

リンクバジェットを深く掘り下げた理解

アンテナ性能は、リンクバジェットにおいてゲインと損失に影響を与える唯一の要因です。アンテナ効率、ゲイン、放射パターンは、アンテナ性能における3つの重要な側面であり、しばしばオーバーザエア(OTA)チャンバを用いて測定されます(図1)。リンクバジェットに影響を与えるその他の要因としては、リターンロス(S11パラメータ)や電圧定在波比(VSWR)があります。

OTAチャンバを使用して測定されるアンテナ効率、ゲイン、放射パターンの画像図1:アンテナ効率、ゲイン、放射パターンは、OTAチャンバを使用して測定されます。(画像中のDUTは「テスト中のデバイス」の意味)(画像出典:Molex)

アンテナ効率により、アンテナの放射率が決まります。平均効率がよく使用されますが、効率は単一の数字ではありません。それは、検討される特定のアンテナに応じて、多かれ少なかれ平坦な曲線となります(図2)。多くの場合、より平坦な効率曲線を持つアンテナは、より尖った効率曲線を持つアンテナよりも最大効率が低くなります。

大きく異なるアンテナ効率曲線の画像(クリックして拡大)図2:アンテナ効率曲線は、大きく異なる場合があります。左のアンテナの効率曲線は平坦ですが、右のアンテナは915MHzでのピーク効率が約10%高くなっています。(画像提供:Molex)

効率と同様に、アンテナゲインも平均値またはピーク/最大値として測定できます。特定の周波数において、平均ゲインは3次元空間のすべての角度で測定されますが、最大ゲインは単一の動作点となります。一般に、平均ゲインは高いほど良いとされています。

アンテナの放射パターンは、ゲインを決定する重要な要素です。すべての方向に同じエネルギーを放射する理論上のアンテナは等方性放射体と呼ばれ、ゲインは0dB(ユニティ)です。実際のアンテナは、いわゆる全方向性設計であっても、放射パターンは非等方性であり、3次元平面で測定すると、多かれ少なかれ指向性を持つことがあります(図3)。3dBのゲインを持つアンテナは、等方性放射体の2倍の効果を特定方向に対して発揮します。これにより、トランスミッタのパワー、またはレシーバの感度が、その特定の方向で2倍になります。

さまざまなアンテナ設計で異なる放射パターンの画像(クリックして拡大)図3: 放射パターンはさまざまなアンテナ設計で異なり、リンクバジェットの計算で重要になることがあります。これらのアンテナは、いずれも全方向性の放射パターンを持つ仕様となっています。(画像提供:Molex)

アンテナ設計と周辺環境は、放射パターンに影響を与えます。一般的なデータシートの測定値は、周囲の干渉がない自由空間環境を用いたものです。実際の実装では、周囲の部品によって放射パターンが変化するため、等方性(dBi)に対して1~2デシベル程度ピークゲインが低下します。

リターンロス(S11)と電圧定在波比(VSWR)は、アンテナで反射してRF回路に戻るエネルギー量の関連測定値で、値が小さいほど優れています(図4)。多くの場合、S11 ≤ -6dBまたはVSWR ≤ 3が許容可能な最小性能レベルと考えられます。S11 = 0dBの場合、すべての電力が反射され、何も放射されません。S11 = -10dBの場合は、3dBの電力がアンテナに供給されると、-7dBが反射電力となります。アンテナは、残りの電力を使用します。

高効率アンテナと低効率アンテナのリターンロスを示すグラフ(クリックして拡大)図4:高効率アンテナ(右)のリターンロスは、915MHzで約-14dBであり、より平坦な効率曲線を持つ低効率アンテナのリターンロスは、915MHzで約-10dBです。(画像提供:Molex)

VSWRは、反射係数の関数です。リターンロスと同様に、VSWRが小さいほど優れたアンテナであることを示します。VSWRの最小値は1.0で、この場合はアンテナから電力が反射されません。インピーダンス整合を使用すると、S11とVSWRを最小化できます。インピーダンス整合には、アンテナとRF回路の間の伝送ラインを変更して、最大エネルギー伝送を向上させることが含まれます。インピーダンスが不一致になると、RFパワーの一部がアンテナで受け止められなくなります。伝送ラインのインピーダンスとアンテナのインピーダンスが完全に一致すると、すべてのRFパワーがアンテナで受信されることになります。

一部のアンテナはインピーダンスが50Ωで、整合ネットワークが不要です。ほとんどのアンテナは、アンテナ性能を最適化するために、伝送ラインにインピーダンス整合ネットワークを必要とします。一般的に、複数の周波数帯に対応するアンテナでは、整合ネットワークが必要となります。 整合ネットワークは、必要に応じて、コンデンサ、インダクタ、抵抗など、さまざまな組み合わせで構成できます。

強化されたRF性能

基本的なアンテナは一定の長さの導体で構成されますが、アンテナ性能を向上させるために、素子を追加することができます。1例として、MolexのMobliquA™アンテナ技術には、帯域幅拡張技術が含まれています(図5)。MobliquA技術は、リターンロスを許容できる周波数範囲(しばしば「インピーダンス帯域幅」と呼ばれる)を向上させるために設計されています。この技術により、放射効率を落としたり、アンテナを大きくしたりすることなく、インピーダンス帯域を60~70%向上させることができます。MobliquA技術を用いて868MHzおよび915MHz用に設計されたISMアンテナでは、従来の設計に比べて体積を最大75%削減でき、グランドプレーン依存の問題に対処するために必要となる高価な回路や周波数チューニングが不要になります。

MolexのMobliquA技術の画像図5:MolexのMobliquA技術は、インピーダンス帯域幅を向上させ、アンテナボリュームへの金属物体の挿入に対して高度な耐性をもたらすように設計されています。(画像提供:Molex)

MobliquA技術により、RFデカップリングや接地された部品(接地されたコネクタハウジングなど)を使用することが可能になります。これにより、アンテナボリュームに金属部品が挿入されても、良好な耐性が発揮されます。その独自の給電技術とアンテナ素子の直接接地を組み合わせることで、RFフロントエンドの静電気放電(ESD)保護を強化しています。

アンテナ統合

前述の電気的仕様はすべてアンテナ統合の重要な側面ですが、アンテナを機械的に接続してシステムに統合する際の問題もあります。これには、いくつかの可能性があります。たとえば、一部のアンテナはシステムにはんだ付けするように設計されていますが、他のアンテナは同軸ケーブルとコネクタでシステムに接続されます。以降の2つのセクションでは、それぞれの全方向性アンテナについて、仕様の一部を紹介します。

同軸ケーブル・コネクタ付きのISMフレキシブルアンテナ

868/915MHzのデュアルバンドISMアンテナが必要なアプリケーションの場合、設計者はMolexのモデル2111400100を利用することができます(図6)。このモノポールアンテナのサイズは38 × 10 × 0.1mmで、柔軟なポリマー材料で作られ、長さ100mm、外径1.13mmのマイクロ同軸ケーブルと、MHF互換のU.FLコネクタを備えています。「ピールアンドスティック」方式で、金属以外のあらゆる表面に貼り付けることができます。また、2WのRFパワーに対応し、動作温度範囲は-40~+85℃です。このシリーズの他のアンテナでは、50、150、200、250、300mmのケーブル長が選択でき、カスタム長も可能です。

柔軟性のあるMolexの2111400100デュアルバンドISMアンテナの画像図6:このデュアルバンドISMアンテナは柔軟性があり、「ピールアンドスティック」接着剤を使用してシステムに取り付けることができます。(画像提供:Molex)

主な仕様の一部は、次の通りです。

  • 効率:868MHzで55%超、902MHzで60%超
  • ピークゲイン:868MHzで0.3dBi、902MHzで1.0dBi
  • 放射パターン:全方向性
  • リターンロス(S11):-5dB未満

プリント基板にはんだ付けする高効率ISMセラミックアンテナ

より高い効率を必要とする場合、設計者はISMアプリケーション向けに特別設計された2081420001セラミックアンテナを使用することができます(図7)。868~870MHzと902~928MHzという2つの周波数帯で、異なる整合ネットワークを使用できます。動作定格は-40~+125℃、サイズは9 × 3 × 0.63mmです。

Molexの2081420001セラミックアンテナの画像図7:異なる整合ネットワークを備えたこのセラミックアンテナは、868~870MHzと902~928MHzという2つの周波数帯で使用できます。(画像提供:Molex)

主な仕様の一部は、次の通りです。

  • 効率:868MHzで70%、902MHzで65%
  • ピークゲイン:868MHzで1.5dBi、902MHzで1.8dBi
  • 放射パターン:全方向性
  • リターンロス(S11):868MHzで-10未満、902MHzで-5未満

まとめ

LoRa、Neul、SigFox、Zigbee、Z-WaveのIoTプロトコルを含むLPWA/ISMアプリケーションに対してアンテナを最適化および統合することは、重要かつ複雑なタスクです。優れたワイヤレス性能と長いバッテリ寿命を確保するためには、リンクバジェットを最適化する必要があります。これには、電気的動作仕様のさまざまなトレードオフや、効果的なインピーダンス整合ネットワークの開発が含まれます。また、アンテナ選定プロセスにおいても、デバイスの動作環境、機械的要件、および相互接続要件を考慮する必要があります。

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著者について

Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者