n+1アーキテクチャにより、さらに信頼性の高い電源をサポート

著者 ヨーロッパ人編集者

DigiKeyのヨーロッパ担当編集者の提供

SoC(システムオンチップ)デバイスや、高密度のFPGA(現場でプログラム可能なゲートアレイ)によって統合の高度化が可能になり、産業用システムにより多くの機能を詰め込むことができるようになりました。 しかし、これらのシステムは、従来なら複数の製品で担っていた役割を果たすようになっていることから、コントローラ自身だけでなく電源についても、フォールトトレランスや冗長性への要求が強くなってきています。

機能が増えることにより、ピーク電流への要求も高くなります。 このような場合、電源システムの設計者は、2つ以上のユニットを並列に使用できます。 並列化により、高いピーク電力への要求に対応できるだけでなく、長期的なストレスが低くなることから、総合的な信頼性も向上し、"n+1"冗長化設計の実装もサポートできます。

n+1アーキテクチャでは、システムに最低1台の追加電源が存在し、他の電源のいずれかに障害が発生したときにエネルギーを供給できます。 n+1冗長化アーキテクチャは、特に大規模なシステムでフォールトトレランスを提供できる、投資対効果の高い方法です。 通常の動作条件では、2台以上の電源に同時に障害が発生する可能性は極めて低いため、2台または3台の電源が電流シェアリングモードで実行されている電源アレイに、もう1台の電源を追加しても、それほどコストは増大しません。

n+1冗長性に使用される一般的な手法は2つあります。 1つは、予備電源をコールドまたはホットスタンバイとして割り当てる方法です。 コールドスタンバイ動作では、予備電源の寿命が延びますが、障害が発生した後で電源が起動するために時間を要するため、システム障害を引き起こす恐れがあります。 ホットスタンバイでは、グループ内の別の電源に障害が発生したときに予備電源にただちに切り替わることが保証されますが、この電源は非常に低い負荷で動作し、そのため効率が低くなるので、コールドスタンバイのユニットよりも内部的な発熱によるストレスを大きく受けることになります。

予備電源を電流シェアリングに追加できるようにすると、電源供給によるストレスは電源サブシステム全体にバランスよく分散されます。 従来の電源は、高出力負荷のピーク効率を想定して設計されていたため、負荷がピークよりも低い電流シェアリングで動作するときには過剰な発熱が増加します。 しかし近年では、低負荷時の効率を重視して電源が設計されるようになってきたため、この問題は重要ではなくなりました。 高効率の範囲が広い電源を使用すると、通常の動作時には電源が低発熱のゾーン内で動作し、障害の発生後に高負荷の状態に移行することが保証されます。

n+1冗長性のソリューションは、フルパワーの電源から、ICレベルの構築ブロックまで、多くのレベルで利用可能です。 フルパワー電源のレベルでは、CUI製のVFK600シリーズが並列動作用に設計されています。 2つのモジュールのPCピンを接続することで、並列動作時に負荷電流がモジュール間で均等に分配されます。 VFK600は2つの異なるモードで並列動作を実行できます。1つは並列動作に使用され、もう1つはn+1冗長化動作用で、バックアップ電源が必要なときの負荷に適しています。

VFK600は700Wまでの分離された出力を提供し、堅牢な金属の筺体に収納され、ヒートシンクが組み込まれています。また、中間DCバスでの使用に適切で、2:1の入力範囲を提供し、18~36VDCソース、または36~77VDCから12~48VDCへ降圧変換を行います。 この電源には、内部の短絡保護とリモートオン/オフ制御が組み込まれています。

VFK600のような電源には、n+1システムで動作するために必要なコンポーネントが組み込まれていますが、他の設計には組み込まれていないことがあり、電源設計にカスタムの手法が必要な場合があります。 このため、複数の電源を並列に、安全に相互接続するための方法が必要になります。 n+1の設計に一般的に使用される技法の1つは、ショットキーOR接続ダイオードを使用して、冗長化電源を負荷の共通ポイントへ接続することです。

一般に、OR接続デバイスはダイオードで、入力電源からの短絡などの障害からシステムを保護するために使用されます。 OR接続ダイオードを使用すると、電流が一方向へのみ流れるようになり、障害が冗長化バスから分離されるため、システムは残りの電源を使用して動作を継続できます。

ダイオードは実効的に、入力電源の短絡を瞬時に切断します。 ただし、従来のダイオードを使用する方法には欠点もあります。 OR接続アプリケーションのダイオードは動作時間のほとんどにおいて順方向導通モードであるため、ダイオードの性質上、電圧低下が避けられず、電力損失と熱が発生し、より大規模な熱管理が必要となります。

電力密度の増大により、この消費電力増大の問題は近年ますます重要視されつつあり、データセンターのサーバなどのアプリケーションでは、強制空冷のコストを可能な限り削減することへの強い要求があります。

OR接続ダイオードをNチャンネルMOSFETに置き換えると、複雑性が多少増加しますが、MOSFETの伝導性の高さから、回路が多少複雑になることと引き換えに、大電力のアプリケーションにおいてダイオードヒートシンクや同様の熱管理技法を使用する必要性は減少します。 この目的のために設計されたコントローラの例は、Texas Instruments製のLM5050-1です。 これは正電圧、ハイサイドのOR接続コントローラで、外部のNチャンネルMOSFETがOR接続ダイオードの代わりに動作します。

MOSFETのソースピンとドレインピンとの間の電圧は、LM5050-1により監視されます。 「ゲート」出力ピンがMOSFETを駆動し、監視されているソースとドレイン間の電圧に基づいて、その動作を制御します。 その結果、理想的な整流器として、つまりMOSFETのソースおよびドレインピンがそれぞれダイオードのアノードおよびカソードピンとして動作します。

Texas Instruments LM5050-1のブロック図

図1: TI LM5050-1のブロック図

LM5050-1は、MOSFETのソースおよびドレインピン間の電圧が約30mV未満に低下すると、MOSFETのゲートからソースへの電圧をレギュレートするよう設計されています。 電圧が低下すると、MOSFETのピン間の電圧が22mVにレギュレートされるまで、ゲートピンの電圧が引き下げられます。 MOSFETの電流が逆転した場合、これは多くの場合、入力電源の障害によりMOSFETのドレインおよびソース間の電圧が約-30mVよりも(負の方向に)低下した場合に起きることですが、LM5050-1は強力な放電トランジスタを経由して、迅速にMOSFETゲートを放電させます。

入力電源に突然障害が発生した場合、これは電源がグランドと短絡した場合に発生しますが、ゲートが完全に放電できるまで、一時的に逆電流がMOSFETをフロースルーします。 この逆電流は、負荷静電容量および並列接続された他の電源から発生します。 LM5050-1は通常、25ns以内に逆電圧の状況に応答します。 MOSFETがオフになるために必要な実際の時間は、使用されているMOSFETのゲート静電容量に保持されている電荷によって異なります。 TIによれば、実効ゲート容量が47nFのMOSFETは標準で180nsでオフにできます。 このように高速でオフにできるため、出力での電圧変動と、冗長化電源からの過渡電流が最小化されます。

入力電源の回路の短絡により抵抗が突然0Ωになった場合、LM5050-1内部の制御回路によりMOSFETのゲートが放電される間、可能な最大の逆電流が流れます。 この時間内は、MOSFETのオン抵抗と、寄生配線抵抗およびインダクタンスによってのみ、逆電流が制限されます。 最悪な条件での瞬間的な逆電流は、通常(Vout - Vin)/RDS(on)に制限されます。

突然MOSFETがオフになった場合、寄生配線インダクタンスに蓄積されているエネルギーは、回路の他の部分へ転送されます。 その結果、LM5050-1の測定ピンで電圧スパイクが観測されます。 ソース接続されたピンは、ピンとグラウンドとをダイオードで逆方向に接続して保護できます。他のピンは、TVS保護ダイオード、ローカルのバイパスコンデンサ、またはその両方で保護できます。

個別のアクティブOR接続回路の代わりに、Vicor製のCool-ORingシリーズのデバイスなど、パッケージ化されたバージョンを選択することもできます。 これらは、高速のOR接続MOSFETコントローラと、オン状態の抵抗が非常に低いMOSFETとを組み合わせたもので、高密度の耐熱強化された5 x 7mmのLGA(ランドグリッドアレイ)パッケージに搭載されています。 これらのソリューションは標準のオン状態抵抗が約1.5μΩと低く、広い動作温度範囲にわたって24Aまでの連続負荷電流に対応します。 この設計は低電圧のハイサイドアプリケーションに使用でき、サポート回路とともにパッケージすることで、個別のソリューションと比べて基板面積を削減できます。 これらのコンポーネントは、フォールト状態に約80nSで高速に応答します。 マスター/スレーブ機能により、大電流のアクティブOR接続要件を満たすためにデバイスを並列化できます。

Picor Cool-ORingソリューションの画像

図2: Picor Cool-ORingソリューションのフォールト状態への応答

OR接続ソリューションを使用すると、複数の電源を安全に結合できるため、n+1冗長性に基づいた信頼性の高い電源システムを、妥当なコストで産業用および類似のシステム用に作成できます。

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