エッジアプリケーション向けミッドレンジビジョンAIマイクロプロセッサ
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2025-07-17
エッジAIアプリケーションは、コンピュータビジョンアルゴリズムを利用して、リアルタイムで人、物体、または欠陥などの異常を検出します。エッジでの画像や動画の処理には、通常、カメラとの接続、およびAIモデルの実行が可能な専用のAIアクセラレータを内蔵したビジョンAIマイクロプロセッサ(MPU)が必要です。
ビジョンAI機能を単一のデバイスに統合することで、個別のコンポーネントを使用するコストとサイズを削減できるため、最先端のビジョンAI MPUは小型の組み込みアプリケーションに最適なソリューションとなります。
Renesas Electronics CorporationのRZ/V2N MPU (図1)は、低消費電力、高いAI推論性能を特長としたビジョンAI MPUです。このMPUは、4つのArm® Cortex®A55 CPUコア(1.8 GHz)、Arm Cortex-M33(200 MHz)、およびMIPI接続による2つのカメラ入力を搭載しています。
図1:設計者にとって、Renesas RZ/V2N MPUは、エッジアプリケーションにビジョンAIを組み込むための新たな選択肢となります。(画像提供:Renesas Electronics Corporation)
このRenesasのMPUは、手頃な価格帯で中程度から高いAI性能を必要とするエッジアプリケーション向けのコスト効果の高いソリューションです。これは、スマートオフィスからドローンまで幅広い拡張性を提供することを目的とした同社のRZ/Vシリーズの一部です(図2)。
図2:RZ/Vシリーズのミッドレンジモデルとして位置付けられたRZ/V2Nは、家庭用モバイルロボットやドライバー監視システムなどのアプリケーションに対応可能です。(画像提供:Renesas Electronics Corporation)
ビジョンAIマイクロプロセッサの要件
エッジAIアプリケーションは、バッテリ駆動または低消費電力で動作する組み込みデバイス上で実行されることが多くあります。そのため、ビジョンMPUは、従来のハイパフォーマンスコンピューティングデバイスよりも少ない消費電力を実現しながら、高い推論性能を提供する必要があります。
理想的なビジョンAI MPUは、性能、電力効率、統合性、開発の容易性、およびセキュリティのバランスを最適化しています。MPUを選択する際の主要な機能の概要は以下の通りです。
- 推論性能:RZ/V2Nは、統合されたDRP-AI3アクセラレータにより最大15TOPSの推論性能を実現し、スマートカメラ、産業用検査、エッジロボティクスなどのミドルレンジアプリケーションに最適です。一方、協働ロボットや自律型ドローンなどの高性能システムでは80から100TOPSが必要となる場合もありますが、多くのエッジAIアプリケーションは、その複雑さに応じて1~15TOPSで十分に機能します。TOPS/W(1ワット当たりのTOPS)は、製品の効率性を表し、1ワットあたり1秒間に実行できる演算回数を表します。
TOPSは性能の基準を示しますが、専用のAIアクセラレータを組み込むことで、行列やテンソル計算に依存するビジョンAIのワークロードをオフロードし、実際の推論速度を大幅に改善できます。これにより、システムはより高速かつ効率的に動作し、クロックサイクルの削減と消費電力の低減を実現します。
- 低消費電力動作:多くのエッジデバイスはバッテリ駆動または厳しい熱制限下で動作します。エッジAI向けに設計されたビジョンMPUは、ワークロードの要求に応じて電力使用量を調整する動的電圧周波数スケーリング(DVFS)を組み込んでいることが多くあります。ニューラルネットワークプルーニング(モデルサイズを圧縮し、不要な計算を削減)技術と組み合わせることで、DVFSはTOPS/W比を向上させ、実行時間とバッテリ寿命の両方を改善します。DRP-AI3 アクセラレータは、消費電量の大きいGPUを使用せずに、エッジでのTOPS/Wを向上させます。
- オンチップ画像処理:オプションで組み込みの画像信号処理プロセッサ(ISP)を搭載したビジョンマイクロプロセッサは 、黒レベル補正、色補正、クロッピング、シャドウ補正などの一般的な画像処理タスクを実行できます。セキュリティや監視アプリケーションにおいて、ISPはフレームの事前フィルタリングも行うことが可能です。たとえば、連続した動画ストリームにおいて、システムは静止フレームを破棄し、動作や活動(例:侵入者検出)を含むフレームのみをAIプロセッサに送信することで、不要な推論を削減し、消費電力を節約します。
- オンチップメモリ:メモリは、性能と効率の面でも重要な要素です。データをローカルに保存することで、外部メモリへのアクセスに伴う遅延と消費電力を低減できます。これは、リアルタイムAI推論において特に重要なポイントです。1.5MBのオンチップSRAMとLPDDR4Xメモリ対応により、RZ/V2Nは内部処理速度と拡張可能なメモリオプションのバランスを実現しています。
- AIの展開を加速:事前プログラムされたアプリケーションとインターフェースを含むAIツールキットと評価ボードは、開発者がビジョンAIアプリケーションを迅速に試作し、展開するのに役立ちます。さらに、MPUは標準的なAIモデル形式をサポートできる必要があります。RZ/V2Nは、ONNXやTensorFlow Liteなどの標準的なモデル形式と互換性があります。
- セキュリティ:エッジ環境では、あらゆるセンサやエンドポイントが潜在的な攻撃対象となる可能性があります。したがって、ビジョンMPUは、セキュアブートや暗号化データパスなどの組み込みセキュリティ機能をサポートすることが重要です。RZ/V2Nは、セキュアブートとハードウェアレベルでの暗号化機能を搭載し、Arm TrustZoneを活用してセキュアなオペレーションを隔離することで、モデルの完全性と機密性の高い入力データの保護をサポートします。
RZ/V2N MPUのAI設計に最適な機能
Renesasの独自AIアクセラレータDRP-AI3(Dynamically Reconfigurable Processor)は、10TOPS/Wの性能を誇り、高度なプルーニング技術により、システムが処理する必要のあるモデルのサイズを圧縮することで、最大15TOPS/Wまで性能を向上させることができます。これにより、個別のグラフィックス処理ユニット(GPU)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)が不要となります。
RZ/V2Nのサイズはわずか15平方ミリメートルのため、小型デバイスを容易に実現できます。クアッドコアCPU、専用AIアクセラレータ、およびデュアルカメラ入力対応を単一のデバイスに統合することで、設計者はスマートカメラ、セキュリティデバイス、ロボット、さらには家電製品などへのアプリケーションにビジョンAIを統合する新たな可能性を開くことができます。
MPUは低消費電力で動作するため、発熱量が低減し、追加の冷却システムやファンが不要となり、組み込みシステムのサイズとコストを削減できます。2台のカメラに対応するため、アプリケーションはダブルアングルの画像を撮影し、空間認識を向上させることができます。1つのシステムで複数の操作を同時に行えます。例えば、駐車場で車両数のカウントと同時にナンバープレートを認識するといったことが可能です。
RZ/V2N MPUのアーキテクチャ
RZ/V2N MPUは、高性能なAIを低コストで実現するミッドレンジ市場向けのAIアプリケーション開発用として、豊富な機能と性能を備えたソリューションを提供します(図3)。
図3:RZ/V2Nアーキテクチャの図。(提供:Renesas Electronics Corp.)
主要な機能には以下のものがあります。
- 中央処理装置(CPU):ハイブリッドアーキテクチャを採用し 、高性能CPUであるCortex-A55クワッド1.8GHzと、リアルタイム制御や安全関連タスク向けに設計された低消費電力コアのCortex-M33 200 MHzが搭載されています。
- 内部共有メモリ:エラー訂正コード(ECC)を組み込んだオンチップメモリとして1.5MBのRAMを搭載し、データの完全性を確保します。ECCアルゴリズムは、データ保存時と伝送中の両段階でデータエラーを検出し、訂正します。1.5MBのオンチップメモリにより、AIアルゴリズムを高速に実行可能で、RZ/V2Nは外部DDRメモリ用のインターフェースも備えており、必要に応じてメモリ容量を増やすことができます。
- AIアクセラレータ:Renesas DRP-A13専用AIエンジンは、エンドポイントに必要な低消費電力と柔軟性を実現する高速AI推論処理が可能です。
- 動画とグラフィックス:オプションのグラフィックス処理ユニット(GPU)と画像信号処理プロセッサ(ISP)が、画像の処理とグラフィックスのレンダリングを効率的に行います。
- タイマ:タイマは、リアルタイム動作をサポートし、モータ制御やその他の自動化アプリケーションにおいて必要な機能です。
- オーディオブロック:スマートスピーカやインフォテイメントシステムなどのマルチチャンネルオーディオアプリケーションに最適です。
- インターフェース:高速メモリインターフェースや高帯域幅周辺機器は、ビジョンマイクロプロセッサモジュールに接続可能な多様なインターフェースのうちの一部です。
- アナログブロック:12ビットのA/Dコンバータ(ADC)により、制御システムや監視アプリケーションにおいて、別途ADCを用意する必要がありません。
Renesasは、RZ/V2N用にRTK0EF0186C03000BJ評価ボードキットを提供しており、設計者がビジョンAIアプリケーションの試作と評価を行うことができます(図4)。設計者は、同社のAIアプリケーションとGitHub上で公開されているAI SDKを通じて、50を超える使用事例に対応するAIアプリケーションにアクセスできます。

図4:RZ/V2N用の評価ボードキットには、CPUボード、拡張ボード、2つのサブボード、およびAI SDKが付属しています。(画像提供:Renesas Electronics Corp.)
まとめ
RenesasのRZ/V2Nは、高速処理で低遅延を実現し、データ駆動型の情報を提供する必要があるミッドレンジのエッジAIアプリケーションに最適です。小型サイズと低消費電力で推論要件を満たす能力により、幅広い組み込みデバイスに適しています。
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