ネットワークの可用性を極大化するインテリジェント電源分配の活用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-07-29
エネルギーコストの上昇を懸念して、データセンターなどのネットワーク設備の運用者は、設備の構成を見直す必要に迫られています。そのような設備構成の中には、より環境に優しく、信頼でき、コストの低い運用を可能にすることでネットワークの可用性を向上させるインテリジェント電源分配装置(iPDU)に対する期待が変化していることも含まれます。また、クラウドコンピューティングを支える大規模なデータセンターから、工場や倉庫などの施設に分散するエッジにある小規模なデータセンターに至るまで、データセンターの種類が増えているため、iPDUの指定や組み入れにはその種類に応じたアプローチが必要です。たとえば、大規模なデータセンターは、冷房の必要による電力消費を削減するために、60℃の暖気通路にiPDUを設置して運用されています。これに対し、エッジのデータセンターは、施設が設置されている環境に適するよう、40℃を最高温度として運用されています。
iPDUの仕様や動作特性は、導入先の環境に合わせる必要があります。「iPDUが、電力の遠隔からの監視と制御をサポートすることで、あらゆる場合に可用性を最適化できる」という期待が高まっています。
この記事では、iPDUのハードウェアとソフトウェアの動作環境と期待値をクラウド環境とエッジ環境間で比較対照するとともに、導入に関する推奨事項を説明した後、PanduitとOrion Fansによるクラウドおよびエッジのデータセンターに適したiPDUを紹介します。
iPDUの選定に影響を与えるクラウド環境とエッジ環境の特徴として、熱環境の違い、ネットワーク通信アーキテクチャの違い、装置密度の違いの3点が挙げられます。クラウド環境とエッジ環境の違いで最も大きな問題があるのは、クラウドデータセンターでは60℃までの動作が想定されているのに対して、大半のエッジ環境では40℃までの動作しか想定されていないことでしょう(図1)。クラウド環境では、暖気/冷気通路により、冷却の必要性を最小限に抑え、大規模なデータセンターにおける主要な運用コストである電力コストを削減することができます。iPDUは通常、暖気通路に設置され、60℃の定格が必要です。
図1:クラウドデータセンターに設置するiPDUは、暖気通路に設置できるよう、60℃で動作可能である必要があります。(画像提供:Panduit)
また、暖気通路と冷気通路を運用する場合、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)により、冷気通路ではキャビネット前面に温度センサ3つと湿度センサ1つ(これらを「3T + H」と呼ぶ)を、暖気通路ではキャビネット背面に温度センサ1つだけを設置することが義務付けられています。これにより、複数のセンサ入力をサポートするiPDUは、センサ用の中間の1RUアプライアンスが不要となる点が、クラウドデータセンターでの選定候補となる上で効いてきます。
高可用性は、エッジ環境とクラウド環境のいずれの環境でも重視されますが、どちらといえばクラウド環境での方が重視されます。クラウドデータセンターに設置するiPDUの場合、iPDUのコントローラモジュールはホットスワップ可能である必要があります。コントローラモジュールがホットスワップ可能なため、クラウドでは重要な検討事項であるダウンタイムを最小限に抑えることができます。また、クラウドではGigabit(Gb)Ethernetが他の接続速度のネットワークよりも広く採用されているため、クラウド上のiPDUは、エッジ環境ではそれほど高く評価されていないGb Ethernet接続をサポートすることからメリットが得られます。さらに、クラウド環境では通常、より高度なセキュリティと複雑な電力監視・管理ソフトウェアをサポートするiPDUが必要になります。
クラウドデータセンターでは、エッジよりも高い密度のラックが使用されるため、クラウド施設におけるiPDUの選定では電力密度が重要な要素となります。クラウドデータセンターでは、IPDUは、アウトレットの密度が高いというメリットが得られるものの、より高い電力密度をサポートするには高度なインテリジェント電力制御・監視機能を提供する必要があります。
クラウド環境でもエッジ環境でも、電源コードの不用意な切断が装置のダウンタイムの主な原因となっています。iPDUの電源コードを誤って切断してしまう最も一般的な原因は、振動や重力の影響で電源ケーブルが時間をかけて引っ張られることであって、「ユーザーによる過ち」ではありません。振動や重力が電源ケーブルに与える影響を最小限に抑えることで不慮の切断を防ぐようにiPDUを設計することは、エッジ環境においてはせいぜい重要だというレベルにとどまりますが、クラウド施設ではなくてはならないレベルとなります。
全負荷時で60℃の定格を持つiPDU
データセンターのエンジニアは、PanduitのG5のインテリジェントPDU(Gen 5 iPDU)を利用することで、クラウド施設の電源分配、可用性、セキュリティ、および監視のニーズに対応することができます。Gen 5 iPDUの全負荷時での動作温度は60℃です。また、冷気通路側の3T + Hと暖気通路側の温度センサに関するASHRAE要件であるセンサ入力も備えているので、中間の1RUアプライアンスを必要としません。iPDUには、デジタル自己識別センサを直接接続できるので、導入作業が短縮されます。
Gen 5 iPDUのインテリジェントネットワークコントローラ(iNC)は、ホットスワップ可能のため、最大限のアップタイムを実現できます(図2)。構成部品としては、高精細OLEDディスプレイ、工場出荷時値の設定/設定変更装置、メニュー選択ボタン、ステータスLED、USBコネクタ(ファームウェアや設定を更新したり、オプションのラック自動照明に接続したりするのに使用)、1Gb Ethernetポート(ネットワーク接続用)、PDUアウトおよびPDUイン/シリアルポート(複数のiNCをデイジーチェーン接続できる)、2つのセンサポート(オプションのセンサ拡張ポートを使用してそれぞれ最大4つのセンサ、合計8つのセンサに接続できる)があります。
図2:Gen 5 iPDUに搭載されたiNCは、ホットスワップ可能のため最大限のアップタイムを実現できるとともに、さまざまな監視・制御機能をサポートしています。(画像提供:Panduit)
最大4台のiPDUをデイジーチェーン接続し、2つの異なる安全なネットワークに接続することで、以下が可能になります。
- 施設のネットワークでの電力使用量を監視し、データを追跡
- 最大4台のラック型iPDUを1つのIPアドレスだけで管理・監視(図3)
デイジーチェーン接続内の各iPDUには最大8台のセンサを接続できますが、1つの接続では合計32台のセンサを接続できます。また、2つのiPDUを使用した冗長化ネットワークアクセス構成も使用可能です。
図3:1つのIPアドレスで最大4台のGen 5 iPDUをデイジーチェーン接続可能です。(画像提供:Panduit)
大規模なデータセンターでは、非効率な部分を監視・特定し、運用効率の向上、コストの削減、環境負荷の最小化を図ることが求められています。Gen 5 iPDUは、電力リソースの効率的な使用、情報に基づいた容量計画の決定、アップタイムの増加、電力使用効率(PUE)の測定などの機能を網羅した高精度の電力測定ソフトウェアをサポートしています。これらのiPDUは、電力使用量の継続的な削減を可能にするために、電力の測定、監視、制御など、必要な以下の機能を提供します。
- PDUレベルの電力の測定と監視
- 電力量 (kWh)の測定
- 電力(W)の測定
- V、A、VA、kWh、力率(pf)など、入力位相レベルの電力測定
- 回路ブレーカレベルの電流の測定
- 課金グレードの測定機能
- 履歴データを記録/閲覧/レポートするための内蔵メモリ
- アラームの閾値および通知のカスタマイズ
- アウトレットレベルの制御
- アウトレットごとの電源のリモート投入/遮断
- 装置を順次起動したり突入電流の過負荷を回避したりするために、電源投入時の遅延時間をユーザー設定可能
- 役割とアクセスのセキュリティレベルをユーザーが割り当て可能
- アウトレットごとの電力測定
- 電力量 (kWh)の測定
- V、A、VA、W、pfなどの電力測定
- Green Grid Level 3のPUE算出用データ
Gen 5 iPDUは、高い電力密度と最大48個のアウトレットを備え、10フィート(3メートル)の入力電源コードを標準装備しています。また、縦置き(0U)、横置き(1U、2U)をはじめとする、さまざまな実装構成にも対応しています。たとえば、モデルP36D08Mは、各相30A定格、0U FULLフォームファクタ、L15-30P入力プラグ、3つの回路ブレーカ、8.6 kW処理可能、36個のアウトレット(30個のC13と6個のC19)という特長を備えています。
Gen 5 iPDUを使用する設計者は、不慮の切断の問題に対して、2つの異なるソリューションから選択することができます。標準的なC13とC19のアウトレットは、その横に非導電性のケーブルタイを差し込めるように設計されたスロットが埋め込まれており、振動や重力の影響を効果的に排除しています。これらのアウトレットは安価ですが、ケーブルタイを使う手間がかかるのと、装置側で電源コードが固定されないという問題があります。この点、Gen 5 iPDUには、カチッと安全に固定できるロック式コードも付属しているので、ソリューションとしての完全性が高くなります。さらに、装置側プラグも、本装置にロックするユニバーサルロック機構を備えているため、両側が固定されるので、ケーブル保持が永続的なものとなっています。設置で必要であれば、ケーブルタイスロット付きアウトレットとロック式アウトレットを組み合わせたGen 5 iPDUを使用することもできます(図4)。また、クラウドデータセンターでは、キャビネット背面のA側とB側に大量の電源コードが配線され、ケーブル管理が煩雑になる場合があります。Gen 5 PDUには、カラーケーブルタイ、カラーマーキングストラップ、カラー電源コード(ロック式と非ロック式の両方)が用意されているので、A側のケーブルとB側のケーブルを識別・管理しやすくなっています。
図4: Gen 5 iPDUでは、不慮の切断に対する懸念を解消するため、ケーブルタイスロット付きアウトレットとロック式アウトレットのいずれをも使用できます。(画像提供:Panduit)
オプションであるPanduit Smart Zone G5セキュリティハンドルは、Gen 5 iPDUと組み合わせることで、最大200ユーザーのアクセス制御が可能です。このハンドルには、ハンドルのセキュリティ状態を示すステータスLEDと、キャビネットの状況を示すビーコンLEDが備わっています。また、湿度センサを内蔵し、温度とドアに関する専用アラームセンサを搭載しているので、センサの設置がシンプルになり、ASHRAE規格にも対応することができます(図5)。このG5セキュリティハンドルは、現場で交換可能なロックタンブラーとロックキーを備えているほか、以下の4つの方法でキャビネットの開閉を管理することができます。
- 二重周波数カードリーダは、低周波カードと高周波カードのどちらも読み取ることができます。
- Gen5 iPDUに搭載されているウェブインターフェースにより、リモートからアクセスを制御することができます。
- モデルACF06には、安全なピンコードでキャビネットにアクセスできるキーパッドがオプションで用意されています。
- モデルACF06は、カードスワイプとキーパッド押下の両方が必要な場合のデュアル認証を実現することができます。
図5:オプションのセキュリティハンドルSmart Zone G5は、湿度センサとステータスLEDを搭載しているほか、アクセス制御用のキーパッドの有無も構成時に選択できます。(画像提供:Panduit)
エッジ環境用iPDU
Orion Fansは、最大40℃で動作するiPDUを使用できるエッジのデータセンターなどのアプリケーション向けに、リモートで順次起動、制御、監視が可能なアウトレットを埋め込んだSmart Switched PDUシリーズを提供しています。Smart Switched PDUは、各アウトレットを個別に監視し、ユーザーが設定した閾値を超えた場合、メール、トラップ、アラーム音で警告を送出します。その他の特長としては、以下のものがあります。
- ラックマウント型機器のアウトレットレベルでの電源の制御および監視
- 0〜40℃での動作
- メータ、ウェブ、またはSNMP(simple network managing protocol)による電源監視
- 通信プロトコルhttp、https、SNMP、DHCP、およびUDP
- 本PDUに搭載されている真のRMS電流デジタルメータ
- バンドルされているソフトウェア:電力効率の向上、運用コストの削減、ダウンタイムの最小化を実現するための制御と分析を提供します。
Smart Switched PDUシリーズの一例であるモデルOSP-V-16-23-16-N1には、14個のIEC320 C13アウトレット、2個のIEC320 C19アウトレット、1個のIEC320 C20インレット、IEC320 C19およびC20の3メートル長の電源コード1本、16Aの回路ブレーカ1個が搭載または同梱されています。また、この代替品となるOSP-H-16-23-08-N1には、8個のIEC320 C13アウトレット、1個のIEC320 C20インレット、IEC320 C19およびC20の3m長の被覆電源コード0.1本、16Aの回路ブレーカ(20A電流計(3桁、分解能0.1A))が装備されています(図6)。
図6:iPDU OSP-H-16-23-08-N1は、8個のIEC320 C13アウトレットと分解能0.1Aの3桁電流計を装備しています。(画像提供:Orion Fans)
ご注文内容
クラウドのデータセンターとエッジのデータセンターとでは、iPDUに対するニーズも異なります。たとえば、動作温度要件の違い、信頼性・可用性への期待の違い、セキュリティ・電源制御 & 監視へのニーズの違いなどがあります。ネットワークエンジニアは、エッジおよびクラウド環境の固有の要件に適合するiPDUを選定することで、コストとパフォーマンスのバランスが最適で環境に優しいソリューションを実現することができます。
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