コボットから作業者を守るための多次元的安全システムの選択と統合方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

協働ロボット(コボット)、自律移動ロボット(AMR)、無人搬送車(AGV)を工場や物流施設に導入する際には、安全性がとても重要です。また、複雑かつ多面的なものです。

機械の動作は、制御システム(SRP/CS)の安全関連部分の設計および統合に関する原則の安全要件と指針を定めた国際標準化機構(ISO)13849、国際電気標準会議(IEC)62061、IEC 61800-5-2に従って監視および管理する必要があります。

コボット、AMR、AGV、および同様の機器の安全な運用を保証するには、物体が危険区域に侵入したことを検知し、機械を停止させなければなりません。そのためには、物体が接近していることを初期の段階で検知および警告するための複数のフィールドを備えた階層的な安全エンベロープを確立する必要があります。

モジュール式のセーフティコントローラシステムは、解析と保護のさらなるレイヤを追加することができます。保護フィールドの遮断やスキャナの予期せぬトリップに対処する際には、効率的かつ迅速な故障解析が重要な考慮事項となります。そのため、1次センサの保護フィールドを監視するための2次センサが必要になることがあります。

本記事では、まずISO 13849、IEC 62061、およびIEC 61800-5-2の要件に関する簡単な復習と、2次元(2D)光検出と測距(LiDAR)安全レーザースキャナの基礎の復習から始めます。次に、コボット、AMR、AGV、および同様の機器から作業員を保護するために、どのようにして安全エンベロープを層状に実装できるかについて、より詳しく説明します。

また、2D LiDARセンサの使用と統合に関するレビュー、およびこれらのセンサとモジュール式プログラマブルセーフティコントローラを組み合わせることで安全性をさら高めることができるという利点、さらに予期せぬ保護フィールドの遮断による故障解析を可能にするイベントカメラの使用についても説明しています。SICKの代表的なデバイスも含まれています。

IEC 61508は、「電気/電子/プログラマブル電子安全関連システム(E/E/PE、またはE/E/PES)の機能安全」に関する基本的な規格であり、すべての産業に適用されます。さらに、産業および用途に特化したサブセクションやバリエーションもあります。

IEC 62061「機械の安全性:電気/電子/プログラマブル電子制御システムの機能安全」は、IEC 61508の機械類に特化したバリエーションです。IEC 61800-5-2「可変速電気駆動システム-第 5-2 部:安全要求事項-機能」もIEC 61508に関連しており、可変速駆動システムの設計と開発に関する規格です。

ISO 13849は、IEC 61508から派生したものではなく、独自に開発されたものです。いずれも機能安全に関するものです。IEC 61800-5-2 は安全度水準(SILs)を使用して安全要件を定義するのに対し、ISO 13849は要求性能レベル(PLr)を定義しています。

ISO 13849とIEC 61508は、1時間当たりの危険故障確率(PFHd)の概念に基づいています。ISO 13849の機能安全分析では、3つの要素を考慮します。それは、起こりうる傷害の深刻度、危険にさらされる頻度または程度、そして危険を限定し、被害を回避する可能性です(図1)。

  • 傷害の深刻度
    • S1:軽傷(通常は回復可能な傷害)
    • S2:重傷(通常は回復不能または死亡)
  • 危険にさらされる頻度
    • F1:滅多にない、または暴露時間が短い
    • F2:頻繁で継続的、または暴露時間が長い
  • 危険回避または危害抑制の可能性
    • P1:特定の条件下で可能
    • P2:ほとんど可能性がない

ISO 13849のPLrレベルとIEC 62061の対応するSILの導出の画像図 1:ISO 13849のPLrレベルとIEC 62061の対応するSILの導出。どちらの規格も、1時間当たりの危険な故障(PFHd)という概念に基づいています。(画像提供:SICK)

LiDARの機能

2D LiDAR安全センサを個人保護アプリケーションに使用するには、ISO 13849に基づくPLbの認証が必要です。TiM 2D LiDARセンサ ファミリには、この要件を満たすモデル含まれています。2D LiDARセンサは、光学的な飛行時間(ToF)技術を使って周囲をスキャンします。ToFは、回転ミラーを使用してレーザーパルスを送信し、反射光を検出することで実現します。反射光がセンサに戻ってくるまでの時間が長ければ長いほど、対象物は遠くにあります。

時間測定と戻ってきた信号の強さを組み合わせることで、センサはミリメートル精度で複数の物体の位置を計算することができます。その結果、周囲の画像は毎秒最大15回更新されます(図2)。これにより、リアルタイムのナビゲーション、方向、制御、安全機能をサポートすることができます。

SICKのTiM 2D LiDARセンサの画像図2:TiM 2D LiDARセンサは、回転ミラーとレーザーパルスを使用して周囲の画像を作成し、毎秒最大15回更新できます。(画像提供:SICK)

TiM 2D LiDARセンサは、監視対象の定義されたエリア(フィールド)内の物体を検出します。モデルによって異なりますが、スキャン範囲は最大25m、作業範囲は最大270°です。

レーザーからの戻りパルスデータは、高精細距離測定(HDDM)またはHDDM+技術を用いて処理されます。HDDMは短い距離で非常に高い測定精度を達成し、ドッキングのような用途での細かい位置決めに適しています。HDDM+はエッジ反射を特によく処理するため、ダイナミックな環境での位置特定や衝突防止アプリケーションに最適です。

いずれの場合も、特許取得済みのHDDM/HDDM+マルチパルス技術により、TiM 2D LiDARセンサはスキャン範囲全体を隙間なく検出することができ、安定した測定精度を確保できます。

タイプTiM1xx、TiM3xx、およびTiM7xxは、物体があらかじめ定義されたフィールド内にあるかどうかを検出します。それぞれ3つのフィールドがあらかじめ設定された16のフィールドセットが、操作中の素早い適応をサポートします(図3)。個々のフィールド形状を指定することも、静的輪郭監視用に参照輪郭フィールドを定義することもできます。デジタルフィルタ、マスク領域、応答時間も定義でき、激しい雨、雪、粉塵があっても性能を最大限に発揮できます。

SICK TiM 2D LiDARセンサのフィールドセットの画像図3: TiM 2D LiDARセンサのフィールドセットは3つの設定済みフィールドで構成されています。(画像提供:SICK)

フィールド評価データまたはフィールド評価と測定データを提供するモデルが利用可能です。フィールド評価センサは物体の存在のみを判断し、フィールド評価と測定データはスキャンされた表面の正確な画像を提供するために使用することができます。

距離データに加えて、角度データと受信信号強度インジケータ(RSSI)出力を提供するTiM 2D LiDARセンサも利用可能です。この拡張されたデータセットは、変化する環境におけるAMRの衝突回避やナビゲーションに特に役立ちます。

セーフティLiDAR、最初の保護レイヤを追加

TiM 2D LiDARファミリには、PLbの要件を満たし、固定および移動アプリケーションの両方で使用できる、安全関連のバリエーションであるTiM361S(フィールド評価)とTiM781S(フィールド評価および測定データ出力)があります。これらは、産業用コボットのアクセス監視や、AMRやAGVのようなモバイルプラットフォームにおける個人保護に使用できます。

  • 屋内での使用に適したタイプTIM361S-2134101、モデル番号1090608は、検出距離0.05~10mで、HDDM技術を特長としています。
  • 屋内での使用に適したタイプTIM781S-2174104、モデル番号1096363は、検出距離0.05~25mで、HDDM+技術を特長としています。

統合の簡素化

TiM 2D LiDARセンサは、統合を簡素化するように設計されています。IP67までの保護等級により、ほこりや湿気がハウジングに侵入することはありません。80,000ルクスまでの明るい周囲照明に対して高い耐性を持っています。その頑丈な設計により、IEC 60068-2-6の耐振動要件とIEC 60068-2-27の耐衝撃要件を満たしています。必要に応じて、保護プレートの減衰マウントを使用することで、堅牢性をさらに強化することができます。

TiM 2D LiDARセンサのコンパクト設計、軽量、低消費電力は、モバイルプラットフォームに最適です。タイプTIM361S-2134101とタイプTIM781S-2174104は、重量がいずれもわずか250g、標準的な消費電力は4W、寸法は長さ60mm×幅60mm×高さ86mmです。

セイフティコントローラがもう1つのレイヤを追加

LiDARレーザースキャナは危険を検知し、アラートを送信します。一方でモジュール式セーフティコントローラは保護システムにさらなる安全レイヤを追加することができます。たとえば、Flexi Softセーフティコントローラは、レーザースキャナを含むさまざまなセンサやスイッチング素子と接続できるモジュール式システムです。IEC 61508ではSIL3と、ISO 13849ではPFHd1.07 x 10-9でPLeに相当します。

基本システムは少なくとも以下の2つのモジュールで構成されています(図4)。

  1. CPU0(モデル1043783と同様)は、LiDARのようなセンサからの信号を分析および評価する中央論理ユニットであり、中央マシンコントローラにおける安全分析を軽減します。CPU0の出力は、安全機能が実装されたプログラマブルロジックコントローラ(PLC)などのより高度な機械制御に接続されます。
  2. レーザースキャナをシステムに接続するには、モデル1044125などのXTIO I/O拡張モジュールが必要です。各レーザースキャナは3つのスイッチング入力を使用するため、レーザースキャナ2台につき1台のXTIO I/O拡張モジュールが必要です。コントローラは、最大12台のI/Oモジュールを制御できます。

SICK Flexi Softセーフティコントローラシステムの画像図 4:Flexi Softセーフティコントローラシステムは、CPU モジュール (1) と1台または複数の I/O モジュール (2) で構成されます。(画像提供:SICK)

何が起こったのか?

安全システムにおいて重要な要素は、あらゆる故障の根本原因を分析し理解する能力であり、「セーフティレーザースキャナが作動した原因は何か?」という疑問に答えることです。SICKのイベントカメラEventCamは、産業環境における突発的な障害を検出および分析するように特別に設計されています。

EventCamは、光学系、照明、エレクトロニクス、メモリを内蔵しており、移動式または固定式のシステムに搭載することができます。アルミニウム鋳造ハウジングはIP65等級に準拠しており、さまざまな位置に取り付けることができます。EventCamは、セーフティコントローラのようなオートメーションシステムに接続したり、センサに直接接続したりすることもできます。

エラーが報告されると、EventCamはシングルフレームまたはビデオシーケンスの保存を開始します。内部リングメモリには、最大でイベント前の240秒、後の100秒まで保存できます。ハイビジョン(HD)モードでは、最大で前の25秒、後の15秒まで録画できます。ビデオフレーム/秒(fps)のレートは、必要な解像度に応じて13から65の範囲で設定できます。

EventCamは、新しい機械やプロセスの稼働時にも役立ちます。数時間または数日間の連続テストのような監視されていない試運転を監視し、エラーの原因を迅速に特定することができます。複数のEventCamを使用して1つのプロセスを監視し、同時に複数の角度から視覚情報を提供することで、エラーのより深い、より徹底的な分析を行うことができます(図5)。

複数のEventCamを同期した場合の画像図5:複数のEventCamを同期させ、1つのイベントを複数のアングルから同時に記録することができます。(画像提供:SICK)

EventCamには2つのタイプがあります。モデル1102028の動作範囲が0.4m~0.6mで、保護スペースが比較的小さい据え置き型のコボットでの使用に適しています。モデル1093139のの動作範囲が0.8~6mで、大型のコボット、AMR、AGVで必要とされるより大きな保護スペースに対応できます。

まとめ

SICKのTiMファミリのような2D LiDARセンサは、コボット、AMR、AGV、および同様の機械の安全システムにおいて、第一線の防御を提供することができます。これらは、人々の接近を監視する一連の防護フィールドを提供します。セーフティコントローラを追加することで、侵入分析をサポートし、システム性能を向上させることができます。最後に、1台以上のEventCamは、1次2D LiDARセンサを監視し、突発的なトリップの根本原因を特定するのに役立ちます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者