産業用IoTセンサ向けの絶縁型DC/DCコンバータの選択および使用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-03-09
機械状態モニタリングなどのアプリケーションに使用されるワイヤレスの産業用モノのインターネット(IIoT)センサに電力供給することは、困難な課題です。これらのセンサには、小型で堅牢、展開が容易で安価でありながら、ほとんどあるいは全くメンテナンスすることなく長期間にわたって確実に動作することが求められます。センサの故障は、機械の状態に関する重要なデータの欠落から、高価な修理、システムや生産ラインの壊滅的な障害に至るまで、さまざまな影響を及ぼします。
この記事では、状態モニタリングアプリケーション向けのバッテリ駆動IIoTセンサのための電源を構築する際に、設計者が直面する課題について詳しく説明します。その後、RECOM Powerが提供する高エネルギー密度の絶縁型DC/DCコンバータを、高価でかさばるヒートシンクに頼ることなく、これらの課題に対処する電源の基礎として使用する方法を説明します。
状態モニタリングの概要
状態モニタリングを使用することで、大規模で複雑な機械や工程の予防保全スケジュールに関する問題を克服できます。この技術で機械部品の状態を把握することにより、故障が発生する前に修理や交換ができるようになります。たとえば、モータの振動信号を常時モニタリングすることで、ソフトウェアがベアリングの摩耗状態を特定し、現在の摩耗速度がいつ故障を引き起こすかを推定できます。このような情報により、技術者は保守間隔を延長しながら、計画外のダウンタイムを回避できます(図1)。
図1:メンテナンスを行わないと、複雑な産業工程や機械は最終的に故障し、ダウンタイムが長期化してしまいます。修理後も、摩耗した装置の故障が繰り返し発生します(下)。予防保全では、工程や機械が長期間稼働して機械が摩耗しないように、頻繁な間隔で保守をスケジューリングしますが、リソースを大量に消費します(中)。状態モニタリングを使用すると、故障のリスクなしで保守間隔を延長しながら、メンテナンス費用を低減できます(上)。(画像提供:RECOM Power)
IIoTセンサは、状態モニタリングアプリケーションのための優れた選択肢となります。これらの小型デバイスは、既知の機械や工程の故障点付近に機械的に取り付けることで、測定精度を向上できます。ワイヤレス接続により、高価な通信配線を必要とせず、定期的な状態更新が可能となります。
IIoTセンサ用の電源設計の課題を解決するのは困難です。典型的なアプリケーション環境は、汚れており、振動が多く、非常に高温で、危険電圧がかかっていることが一般的です。多くの場合、スペースは貴重であり、繊細な電子機器には、連続的でクリーン、かつ正確に安定化されたDC電圧が求められます。
RECOM Powerが提供するRxxCTExxシリーズのような新世代の絶縁型DC/DCコンバータは、その解決策をもたらします。これらの小型デバイスは、IIoTセンサアプリケーションに必要な高いエネルギー密度、小型サイズ、耐久性、効率性を提供します。これらのコンバータは、最大1Wを供給可能な面実装パッケージで提供され、プリント基板上のスペースは最小限に抑えられています。
堅牢な商用IIoTセンサ電源
電源と制御素子を同一シリコン上に搭載し、薄型のトランスを採用するといったパッケージングの進化により、各メーカーはIIoTセンサアプリケーション向けのハイスペックな絶縁型DC/DCコンバータを提供できるようになりました。たとえば、RECOM PowerのDC/DCコンバータは、プレーナ型トランスなどの設計要素を使用して、チップの高さを3mm未満に抑えています(図2)。
図2:RECOMのRxxCTExxシリーズは、薄さ3mm未満の小型面実装SOIC-16パッケージで提供されます。(画像提供:RECOM Power)
標準的なSOIC-16パッケージの採用により、自動化装置を用いた取り扱いや組み立てが可能になります。さらに、チップの小型化により、パワーレギュレーションを負荷により近い位置に配置し、設計の簡素化と小型化を実現できます。
RECOM Powerが提供する低価格のDC/DCコンバータは、公称4.5~5.5Vの入力から、5Vの出力(出力電圧リップルは最大50ミリボルトp-p(mVp-p))で0.5W(R05C05TE05S-CT)または1W(R05CTE05S-CT)をもたらします。コンバータの出力電圧は、一般的なアクティブセンサのファミリや、データ解析によく使用されるマイクロコントローラまたはDSPのフロントエンドに対応します。R05C05TE05S-CT(0.5W)の入力電流は240mA、R05CTE05S-CT(1W)の入力電流は370mAです。コンバータには短絡、過電流、過温度保護の機能が搭載されており、IIoTアプリケーションで高い信頼性をもたらします。
0.5Wの製品は最大100℃の周囲温度でディレーティングなしに動作し、1Wの製品は最大72℃まで使用可能です。両デバイスとも、IEC 62368-1(情報技術装置、安全性要求事項)に準拠しています。
DC/DCコンバータには最小負荷要件がないため、省エネのために非常に軽負荷の動作モードに切り替えることの多いアプリケーションに適しています。これは、IIoTセンサの一般的な動作モードです。R05C05TE05S-CTは、0.6W(入力電流は255mAまで上昇)を最大60秒間出力できます。再びピーク電力にアクセスできるようになるには、ピーク電力持続時間の3倍の回復時間が必要となります(図3)。
図3:RECOM PowerのR05C05TE05S-CT 0.5W DC/DCコンバータは、0.6Wのピーク出力を最大60秒間供給できます。再びピーク電力を消費できるようになるには、ピーク電力持続時間の3倍の回復時間が必要となります。(画像提供:RECOM Power)
絶縁要件への対応
IIoTノードの周辺環境では、重機械が起動または停止するたびに高い電力サージが発生します。安全上の理由と壊れやすい電子機器を保護するために、センサのDC電源を主電源から絶縁する必要があります。
RECOM PowerのDC/DCコンバータは、内蔵トランスを使用して出力と入力を絶縁します。このデバイスは、3kVのDC絶縁電圧(定格60秒)を備えており、3.6kV DCの最大絶縁電圧まで1秒間テストされています。絶縁抵抗(500ボルトDC,25℃)は50ギガオーム(GΩ)で、外部クリアランスは8mm超です。図4は、絶縁型DC/DCコンバータの応用回路を示しています。
図4:RECOM PowerのRxxC05TExxS絶縁型DC/DCコンバータの応用回路。(画像提供:RECOM Power)
熱管理の重要性
DC/DCコンバータのエネルギー密度は、1立方センチメートルあたりのワット数(W/cm3)で測定されます。設計者は電力密度を高めることで、部品サイズを大きくせずにアプリケーションで利用できる電力を増やしたり、製品全体の寸法を小さくしながら電源出力を維持したりすることが可能になります。
DC/DCコンバータのサプライヤにとって、高いエネルギー密度を提供するための鍵は、チップの効率や熱性能を向上させて、小型パッケージの使用と最大動作温度の上昇を実現することです。
RECOM PowerのDC/DCコンバータは、低コストで絶縁型の半安定化スイッチングデバイスに対して優れた効率を提供します。競合デバイスとの大きな違いは、20%から全出力負荷の範囲において、効率曲線が比較的フラットになることです(図5)。競合デバイスでは多くの場合、低・中出力負荷で効率が悪くなります。
図5:R05C05TE05S-CTの効率対出力負荷パーセントのグラフを示しています。絶縁型スイッチングコンバータは、広い負荷範囲にわたって優れた効率を実現します。(画像提供:RECOM Power)
部品の最大接合部温度(Tjmax)(シリコンダイの中央上部で測定)は、一般的にデータシートに詳しく記載されています。デバイスがこの制限を超えないことを条件に、メーカーは性能を保証しています。この温度を超えて動作させると、半導体のコンダクタンスが変化して本来の性能を発揮できなくなるばかりか、永久的な損傷を引き起こす可能性もあります。
DC/DCレギュレータのような固定消費電力デバイスのTjは、内部のマルチパス熱抵抗(Ψjt)と、周囲環境への熱伝達の有効性に大きく依存します。Ψjtでは、チップの底面からプリント基板を経由するなど、部品から熱を逃がすためのあらゆる手段が考慮されます。このパラメータは実験室以外での測定が困難なため、多くの場合、データシートには記載されません。Ψjtの代わりによく使用されるのがθjaです。これは、シリコンダイから周囲環境へ直接向かう単一熱経路の熱インピーダンス(Rθja)の指標で、測定がより簡単です。Rθjaの単位は、1Wあたりの摂氏(またはケルビン(K))(℃/W)です。次の式から、Tjを推定できます。

部品設計者は、内部熱インピーダンスを最小化し、伝導および対流熱伝達を最大化して部品温度を下げ、TjとTjmaxの間に十分な「オーバーヘッド」を提供することを目指しています(図 6)。
図6:アクティブデバイスが正常に動作するために、部品メーカーは最大接合部温度(Tjmax)を指定しています。与えられた電力消費量に対して、Tj は部品の総合熱インピーダンス と周囲温度 (Ta) でほぼ決定されます。(画像提供:RECOM Power)
IIoTセンサは多くの場合、換気の悪い密閉された環境で動作します。そのため、周囲温度が上昇し、産業環境では簡単に70℃近くに達してしまいます。この高いTaは、部品の温度オーバーヘッドに影響を与えます。
次の一般的なDC/DCコンバータの例を考えてみましょう。

このデバイスは温度オーバーヘッドが非常に限られているため、ヒートシンクを用いてコストと体積を増やさなければ、このアプリケーションには不向きとなります。
より良い解決策は、温度範囲の広いデバイスを選択することです。商用DC/DCレギュレータの多くはTjmaxが125℃ですが、RECOM Powerのソリューションのように150℃まで拡張しているものもあります。2つ目の解決策は、入力電圧と出力電圧の整合性を高めることです。これにより、リニアレギュレータの効率を高め、消費電力を低減します。そして3つ目の解決策として、設計者は熱インピーダンスが最も低いデバイスを選択する必要があります。
これらの基準を念頭に置いて選択されたDC/DCコンバータの第2の例を考えてみましょう。

このオプションは、温度オーバーヘッドが大きく、製品寿命の延長に貢献します。
RECOM PowerのRxxCTExxシリーズは、3Dパワーパッケージング(3DPP)を採用し、熱インピーダンスを低減しています。3DPPでは、材料の最適化や製造技術および、フリップチップオンリード(FCOL)、埋め込みIC、サーマルビアなど、接合部から周囲へのさまざまな熱伝達方法を駆使して、熱インピーダンスを低減できます。これらの技術により、アクティブ冷却方式や大型パッシブヒートシンクによる複雑さやコストを回避して、高負荷に給電可能なSOIC-16サイズのDC/DCコンバータを製造することが可能になります。RxxC05TExxS製品では、従来製品の約90℃/Wに対し、63.8℃/WというRθjaを実現しています。
特定の状況、たとえば放熱の多い大型電気モータを搭載した機械の近くなどの密閉された空間では、周囲の温度がさらに上昇する可能性があります。これらの状況において、チップメーカーはディレーティング(デバイスの出力電力を制限して消費電力とTjを低減すること)を推奨しています。たとえば、上記の2つ目のDC/DCコンバータについて考えてみましょう。110℃まで温度が上昇しても38℃程度の温度オーバーヘッドしか残らず、これは製品寿命を延ばすための推奨値を下回っています。図7は、RECOM PowerのRxxC05TExxSの熱ディレーティング曲線を示しています。
図7:RECOM PowerのRxxC05TExxS DC/DCコンバータの熱ディレーティング曲線。メーカーは、部品への長期的な損傷を避けるため、Ta = 104℃以上では出力電力を下げることを推奨しています。(画像提供:RECOM Power)
まとめ
機械状態モニタリングなどのアプリケーションに使用される低電力ワイヤレスIIoTセンサへの電力供給は、動作環境が高温で汚れているため、大変な作業となります。繊細な監視デバイスにはクリーンで安定したDC電圧を供給し、産業用装置に一般的な高電圧サージから保護する必要があります。また、一般的にスペースは貴重であり、コストを抑える必要もあります。
新世代の絶縁型DC/DCコンバータは、設計者がこれらの課題に対処するのに役立ちます。小型の面実装ソリューションはアセンブリが容易で、求められる高いエネルギー密度、省スペース、耐久性、および有効性をもたらします。さらに、新しいパッケージングと製造技術によって熱インピーダンスが低減され、高価でかさばるヒートシンクを必要とせずに、密閉された高温環境でデバイスが動作できるようになるのです。
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