車両資産追跡デバイスの電源供給と保護により信頼性の高い動作を確保する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

現代のロジスティクスとサプライチェーンの課題は、効率性と有効性を確保するために商用車のフリートに車両資産追跡を実装することで解決しやすくなります。しかし、車両資産追跡デバイスの設計者は、堅牢性、過酷な電気環境、高レベルの衝撃と振動、広い動作温度範囲に対応した設計を行う必要があります。同時に、より広い入力電圧範囲(通常4.5~60Vの直流(DC))を備えた小型フォームファクタで、より高い性能、効率、保護の要件も満たす必要があります。

動作条件や資産価値を考えると、保護の重要性はどれだけ強調しても強調し過ぎることはありません。一般的に、過電流、過電圧、不足電圧、逆電圧状態の保護機能を備え、信頼性の高い動作を確保し、高レベルの可用性に対応する必要があります。

これらの動作要件を実現するために必要なパワー変換回路や保護回路をゼロから設計することは困難な場合があります。ゼロから行うことで完全に最適化された設計ができる一方で、市場投入の遅れ、コスト超過、コンプライアンスの問題などを引き起こす可能性もあります。代わりに、設計者はすぐに入手可能なDC/DCコンバータ電源モジュールや保護ICを利用することができます。

この記事では、車両資産追跡デバイスの電力要件を確認し、それらのデバイスの標準的な電源管理および保護アーキテクチャがどのようなものかを概説します。次に、これらのアプリケーションで設計者が使用できるMaxim Integrated ProductsのDC/DCコンバータモジュールと保護ICの実例を紹介します。また、関連する評価ボードやプリント回路基板(プリント基板)のレイアウトガイドラインも提供します。

車両資産追跡デバイスの電源要件

車両バッテリは追跡デバイスの主電源で、民生用車両では12V DC、商用トラックでは24V DCが一般的です。資産追跡デバイスはアフターマーケットアクセサリとして販売され、数日間使用できる容量の充電式バックアップバッテリを搭載していることが期待されます。さらに、これらのデバイスは、車両電源バスの過渡状態や故障状態からの保護を必要とし、通常、システム要素に電力供給するために降圧DC/DCコンバータと低ドロップアウトレギュレータ(LDO)を組み合わせて搭載しています(図1)。

標準的な資産追跡/フリート管理デバイスにおける電源システム図図1:標準的な資産追跡/フリート管理デバイスの電源システムは、2つ以上の降圧DC/DCコンバータ、1つのLDO、1つの保護ICを搭載しています。(画像提供:Maxim Integrated)

資産追跡デバイスはアフターマーケットアイテムとして設置されるため、空きスペースに収まるよう可能な限り小型であることが求められます。デバイスの長寿命化や比較的小さなバッテリからの長時間バックアップを可能にするため、パワー変換部品の高効率化が必要です。資産追跡デバイスは一般的に密閉されたエンクロージャに収められているため、寿命や信頼性に悪影響を及ぼす可能性のある内部発熱の生成を最小限に抑えることが重要です。そのため、電源システムには小型化と高効率化の最適な組み合わせが求められます。LDOは小型ですが、最も効率的な選択肢ではありません。

その代わりに、設計者は高い変換効率を実現する同期整流式降圧DC/DCコンバータを利用することができます。たとえば、24Vから3.3Vへの同期整流式降圧型変換では72%、24Vから5Vへの変換では84%の効率が標準的な値です。同期整流式DC/DCコンバータを使用することで、熱放散が少なくなり、信頼性の向上やバックアップ用バッテリの小型化を実現しやすくなります。課題は、これらのアプリケーションで必要とされる最大入力定格60V DCの小型ソリューションを設計することです。

同期整流式降圧ICと統合型モジュールの比較

小型化と効率化の設計目標を達成するために、設計者は同期整流式DC/DCコンバータICや統合型DC/DCコンバータモジュールをベースとしたソリューションから選択することができます。標準的な300mAの同期整流式降圧ICソリューションは、2mm2のICや約4mm2のインダクタに加え、その他いくつかの受動部品が必要となります。これにより、合計29.3mm2のプリント基板面積が占有されます。その代わりに、Maxim IntegratedのHimalaya μSLIC統合型同期整流式降圧モジュールを使用すると、プリント基板面積が21mm2に抑えられ、28%小型化されたソリューションを実現できます(図2)。

Maxim IntegratedのHimalaya μSLIC電源モジュールソリューションと従来の降圧コンバータ実装の比較図図2:従来の降圧コンバータの実装(左)と比較して、Himalaya μSLIC電源モジュールソリューション(右)では占有する基板面積が28%縮小されます。(画像提供:Maxim Integrated)

垂直統合

Himalaya μSLIC電源モジュールは、インダクタと降圧コンバータICを垂直に統合し、標準のプレーナソリューションと比較して、プリント基板スペースを大幅に削減しています。μSLICモジュールの動作定格は、最大60V DC入力、-40~+125°Cです。垂直統合にもかかわらず、薄型かつ小型の10ピン、2.6 x 3 x 1.5mmのパッケージを実現しています(図3)。

Maxim IntegratedのHimalaya μSLIC電源モジュールの画像図3:Himalaya μSLIC電源モジュールでは、インダクタがIC上に垂直統合され、基板スペースを最小限に抑えています。(画像提供:Maxim Integrated)

MAXM15062/MAXM15063/MAXM15064高効率同期整流式降圧モジュールは、統合型コントローラ、MOSFET、補償部品、インダクタを搭載しています。これらのモジュールは、わずかな外部部品で完全な高効率DC/DCソリューションを実装します(図4)。これらのモジュールは、最大300mAを供給でき、4.5~60V DCの入力電圧範囲で動作します。MAXM15064は出力を0.9~5V DCに調節可能で、MAXM15062とMAXM15063はそれぞれ3.3Vと5V DCの固定出力となっています。

3つのコンデンサしか必要としないMaxim IntegratedのMAXM15064の図図4:MAXM15064は、3つのコンデンサと2つの抵抗で、完全な降圧コンバータソリューションを実現します。(画像提供:Maxim Integrated)

これらのモジュールは、サイクルごとの電流制限、固有の短絡保護、および優れた過渡応答という利点を提供するピーク電流モード制御アーキテクチャを備えています。ソフトスタート時間は4.1ミリ秒(ms)固定で、突入電流を低減します。設計者は、これらの効率的な降圧コンバータモジュールを利用することで設計プロセスを合理化し、製造リスクを低減し、市場投入までの時間を短縮することができます。

実証済みの設計を示す評価キット

MAXM15064EVKIT#評価キットは、MAXM15064同期整流式降圧モジュールを評価するための実証済みの設計を提供します(図5)。このキットは、最大300mAの負荷に対して5V DCを供給するようにプログラムされています。調節可能な入力不足電圧ロックアウト、オープンドレインRESET信号、選択可能なパルス幅変調(PWM)またはパルス周波数変調(PFM)モードを備えています。PFMモードを使用することで、より高い軽負荷効率を実現することができます。CISPR22(EN55022)クラスBの伝導および放射エミッションに準拠し、48V DC入力と200mAの出力で78.68%の効率を実現します。

Maxim IntegratedのMAXM15064EVKIT# 5V DC出力評価キットの画像図5:MAXM15064EVKIT#は、最大300mAを供給できるMAXM15064用の5V DC出力評価キットです。(画像提供:Maxim Integrated)

保護IC

設計者は、MAX176xxの調節可能な過電圧および過電流保護ICをMAXM1506x同期整流式降圧モジュールとともに使用することで、完全なシステムソリューションを実現することができます。これらのICは、12ピンTDFN-EPパッケージで、-65~+60Vの負および正の入力電圧フォールトからシステムを保護するように設計されています。また、電界効果トランジスタ(FET)を内蔵し、標準オン抵抗(RON)はわずか260mΩです。入力過電圧保護範囲は5.5~60Vでプログラム可能である一方で、入力不足電圧保護範囲は4.5~59Vで調節可能です。外部抵抗は、入力過電圧ロックアウト(OVLO)および不足電圧ロックアウト(UVLO)閾値を設定するために使用されます。

電流制限保護は、最大1Aの抵抗でプログラム可能で、大出力フィルタコンデンサの充電時に突入電流を制御するのに役立ちます。電流制限は、自動リトライ、ラッチオフ、連続の3つのモードで実装可能です。SETIピンの電圧は瞬間電流に比例し、A/Dコンバータ(ADC)で読み取ることができます。これらのICの動作温度範囲は-40~+125℃で、過度な温度から保護するためのサーマルシャットダウンを備えています。高い入力サージ電流が予想されるアプリケーションでは、オプションのサージ抑制器デバイスを使用することができます(図6)。このファミリには3つのICがあります。

  • MAX17608は、過電圧、不足電圧、逆電圧から保護します。
  • MAX17609は、過電圧および不足電圧から保護します。
  • MAX17610は、逆電圧から保護します。

Maxim IntegratedのMAX17608およびMAX17609保護ICの図図6:高入力サージアプリケーション向けのオプションのサージ抑制器(左)を示すMAX17608およびMAX17609保護ICの標準的な統合。(画像提供:Maxim Integrated)

保護IC用の評価キット

MAX17608EVKITMAX17609EVKIT、およびMAX17610EVKITにより、設計者はMAX17608、MAX17609、MAX17910の性能をそれぞれ評価することができます(図7)。たとえば、MAX17608EVKITは、MAX17608を評価するために完全に組み立てられた、テスト済みの回路基板です。定格は4.5~60Vおよび1Aで、不足電圧、過電圧、逆電圧保護、順/逆電流制限を備えています。MAX17608EVKITは、調節可能な不足電圧および過電圧保護、3つの電流制限モード、およびさまざまな電流制限閾値を実証するための構成が可能です。

Maxim IntegratedのMAX17608用MAX17608EVKIT#評価ボードの画像図7:MAX17608用MAX17608EVKIT#などの評価ボードは、MAX17609とMAX17610の保護ICにも利用可能です。(画像提供:Maxim Integrated)

プリント基板のレイアウトガイドライン

MAX1506xとMAX176xxをレイアウトする場合、設計を成功させるためにいくつかの基本的なガイドラインを遵守する必要があります。たとえば、MAX1506xの場合は次のとおりです。

  • 入力コンデンサは、INピンとGNDピンにできるだけ近づける必要があります。
  • 出力コンデンサは、OUTピンとGNDピンにできるだけ近づける必要があります。
  • フィードバック(FB)抵抗分圧器は、FBピンにできるだけ近づける必要があります。
  • 電源トレースと負荷接続は短いものを使用します。

MAX176xxの場合は次のとおりです。

  • すべてのトレースを可能な限り短くしておきます。これにより、寄生インダクタンスを最小限に抑え、出力短絡に対するスイッチの応答時間を最適化します。
  • 入出力コンデンサはデバイスから5mm以上離さないようにする必要があり、近いほど望ましくなります。
  • INピンとOUTピンは、短く幅広のトレースで電源バスに接続する必要があります。
  • 特に連続電流制限モードでは、熱性能を向上させるために、露出したパッドからグランドプレーンへのサーマルビアを使用することを推奨します。

参考までに、図8にMAXM17608とMAXM15062の両方と、電源チェーンにおけるそれぞれの位置を示しています。

標準的な資産追跡デバイスのブロック図図8:Maxim Integratedの同期整流式降圧コンバータと保護ICが適合する場所を示す標準的な資産追跡デバイスのブロック図。(画像提供:Maxim Integrated)

まとめ

このように、設計者は、MAX1506x高効率同期整流式降圧モジュールとMAX176xx保護ICを利用して、車両資産追跡デバイス向けの完全な電源および保護ソリューションを実装することができます。実装時の主なベストプラクティスに従うことで、効率的で堅牢な小型ソリューションを実現しつつ、製造リスクやコンプライアンス問題を最小限に抑えることができます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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