スイッチング電源の寄生パラメータを最小化する方法

著者 Kenton Williston氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

スイッチモード(スイッチング)電源は、その効率と柔軟性で人気があります。また、新たな用途に使用される中で、課題も生じています。最も顕著なのは、高周波スイッチングがシステムの他の部分に電磁妨害(EMI)を引き起こす可能性があることです。さらに、EMIの原因となる同じ要因が効率も低下させるため、スイッチング電源の主な利点の1つが損なわれてしまいます。

このような問題を回避するために、設計者は、電源回路の中で急激なスイッチングが起こる部分である「ホットループ」を構成する際に、特別な注意を払わなければなりません。等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)によるホットループの寄生損失を最小化することは不可欠です。これは、高集積電源部品を選択し、プリント回路基板(プリント基板)のレイアウトに注意することで達成できます。

この記事では、ホットループと、カップリングコンデンサ、パワー電界効果トランジスタ(FET)、プリント基板ビアなどの寄生損失の原因を紹介します。次に、Analog Devicesの高集積パワーコンバータの例を取り上げ、さまざまなプリント基板レイアウトと寄生パラメータへの影響を紹介します。最後に、ESRとESLを低減するための実践的なヒントを紹介します。

スイッチング電源のホットループの基礎

昇圧、昇降圧、フライバックコンバータなど、電流が急速にスイッチングする電源設計では、高周波で電流がスイッチングするホットループが発生します。このコンセプトは、シンプルな降圧コンバータ(別名:ステップダウンコンバータ)を通して説明できます(図1)。左側のループ(赤)にはすべてのスイッチング素子が含まれ、回路で発生する高周波電流がその中に含まれ、ホットループを形成します。

図:シンプルな降圧コンバータ図1:シンプルな降圧コンバータは、赤で表したホットループの原理を示しています。(画像提供:Analog Devices)

「ホット」という用語は、回路のこの領域で発生する重要なエネルギー変換とスイッチング活動に由来し、しばしば発熱を伴います。これらのホットループの適切なレイアウトと設計は、EMIを最小化し、効率的な電源動作を確保するために極めて重要です。

図2は、DC/DC同期降圧コンバータの現実的な回路を示しています。このホットループでは、物理的な構成要素(黒で表示)は、入力コンデンサ(CIN)と、スイッチング金属酸化膜半導体FET(MOSFET)のM1とM2です。

図:実世界のホットループ図2:実世界のホットループは、赤で示した寄生パラメータを必然的に含みます。(画像提供:Analog Devices)

ホットループ内の寄生パラメータは赤で表示されています。ESLは通常ナノヘンリー(nH)の範囲であり、ESRはミリオーム(mΩ)の範囲です。高周波スイッチングはESL内でリンギングを引き起こし、EMIの原因となります。ESLに蓄積されたエネルギーはESRによって放散され、電力損失につながります。

集積部品による寄生パラメータの最小化

これらの寄生インピーダンス(ESR、ESL)は、部品内やホットループのプリント基板トレースに沿って発生します。これらのパラメータを最小化するために、設計者は慎重に部品を選択し、プリント基板のレイアウトを最適化しなければなりません。

両方の目標を達成する1つの方法は、集積部品を使用することです。これにより、ディスクリート部品の接続に必要なプリント基板トレースが不要になり、ホットループ全体の面積が縮小されます。どちらも寄生インピーダンスの低減に貢献します。

高集積部品の好例は、Analog DevicesのLTM4638降圧μModuleレギュレータです。図3に示すように、この15アンペア(A)のスイッチングレギュレータは、スイッチングコントローラ、パワーFET、インダクタ、サポート部品をすべて6.25 x 6.25 x 5.02ミリメートル(mm)の小型パッケージに集積しています。

図:Analog DevicesのLTM4638 µModuleレギュレータ(クリックして拡大)図3:LTM4638 µModuleレギュレータは、降圧コンバータに必要な多くの部品を集積しています。(画像提供:Analog Devices)

LTM4638には、寄生損失を低減する機能が他にもいくつか組み込まれています。以下はその例です。

  • 高速過渡応答:これにより、レギュレータは負荷や入力の変化に応じて出力電圧を素早く調整することができます。最適でない動作状態を素早く遷移させることで、寄生損失の期間と影響を最小限に抑えます。
  • 不連続モード動作:これにより、次のスイッチングサイクルを開始する前にインダクタ電流をゼロにすることができます。一般的に軽負荷条件で使用されるこのモードは、サイクルの一部でインダクタを非通電にすることにより、インダクタのスイッチング損失とコア損失を低減します。
  • 出力電圧トラッキング:これにより、コンバータの出力がリファレンス入力電圧に追従します。出力電圧の上昇と下降を正確に制御することで、寄生損失を悪化させるオーバーシュートやアンダーシュートの可能性を低減します。

部品配置による寄生パラメータの最小化

LTM4638で同期降圧コンバータを構成するには、バルク入力コンデンサCINとバルク出力コンデンサCOUTをそれぞれ追加する必要があります。これらのコンデンサの位置は、寄生パラメータに大きな影響を与える可能性があります。

Analog DevicesのLTM4638用評価ボードDC2665A-Bを使った実験では、CINの位置による影響が示されています。その後、DC2665B-Bがこのボードに取って代わりましたが、同じ原理が適用されます。図4から図6は、CINとそれに対応するホットループの3つの異なるレイアウトを示しています。垂直型ホットループ1(図4)と2(図5)は、CINを最下層(それぞれレギュレータの真下または横)に配置します。水平型ホットループ(図6)は、コンデンサを最上層に配置します。

垂直型ホットループ1の底面図と側面図図4:垂直型ホットループ1の底面図と側面図。CINはレギュレータの真下にあり、ビアを介して接続されています。(画像提供:Analog Devices)

垂直型ホットループ2の底面図と側面図図5:垂直型ホットループ2の底面図と側面図。CINはレギュレータの下にありますが横に配置され、プリント基板のトレースとビアが必要です。(画像提供:Analog Devices)

水平型ホットループの上面図と側面図図6:水平型ホットループの上面図と側面図。CINは最上層にあり、トレースを介してレギュレータに接続しています。(画像提供:Analog Devices)

垂直型ホットループ1は最短経路であり、プリント基板トレースの使用を避けることができます。したがって、寄生パラメータが最も低くなると予想されます。各ホットループをFastHenryで600kHzと200メガヘルツ(MHz)で解析すると、この予想が正しいことがわかります(図7)。

ホットループ ESR(ESR1 + ESR2) @ 600kHz ESR(ESR1 + ESR2) @ 200MHz
垂直型ホットループ1 0.7mΩ 0.54nH
垂直型ホットループ2 2.5mΩ 1.17nH
水平型ホットループ 3.3mΩ 0.84nH

図7:予想通り、最短経路の寄生インピーダンスが最も低かったことがわかりました。(画像提供:Analog Devices、著者により変更)

これらの寄生パラメータは直接測定することはできませんが、その影響を予測しテストすることは可能です。具体的には、ESRが低いほど効率が高く、ESLが低いほどリップルが低くなるはずです。実験による検証でもこれらの予測が実証されました。垂直型ホットループ1は両方の指標で優れた性能を示しています(図8)。

画像:垂直型ホットループ1は、より高い効率と低リップルを実現図8:実験結果により、垂直型ホットループ1はより高い効率と低リップルを実現していることがわかりました。(画像提供:Analog Devices)

ディスクリート部品の寄生パラメータの最小化

集積デバイスには多くの利点がありますが、スイッチング電源の中にはディスクリート部品を必要とするものもあります。たとえば、高電力アプリケーションは集積デバイスの性能を超えるかもしれません。このような場合、ディスクリートパワーFETの配置とパッケージサイズがホットループのESRとESLに大きな影響を与える可能性があります。これらの影響は、図9に示すように、高効率の4スイッチ同期昇降圧コントローラを搭載した2つの評価ボードをテストすることで確認できます。

  • DC2825A評価ボードは、LT8390昇降圧レギュレータをベースにしています。そのMOSFETは並列に、つまり同じ向きに配置されています。
  • DC2626A評価ボードは、LT8392昇降圧レギュレータをベースにしています。2組のMOSFETが90度の角度で配置されています。

画像:Analog DevicesのDC2825A(左)とDC2626A(右)図9:DC2825A(左)はMOSFETを並列に配置し、DC2626A(右)は90度の角度で配置しています。(画像提供:Analog Devices)

この2つのボードは、同一のMOSFETとコンデンサを使用し、10A、300キロヘルツ(kHz)で36Vから12Vの降圧動作でテストされました。その結果、90度配置の方が電圧リップルが低く、共振周波数が高いことが示され、ホットループ経路が短いためプリント基板のESLが小さいことが分かりました(図10)。

グラフ:Analog DevicesのDC2626Aでは、リップルが低く、共振周波数が高くなる図10:MOSFETを90度で配置したDC2626Aでは、リップルが低く、共振周波数が高くなります。(画像提供:Analog Devices)

その他レイアウトの考慮事項

ホットループ内のビア配置は、ループのESRとESLにも影響を与えます。一般に、ビアを増やすとプリント基板の寄生インピーダンスは低下します。しかし、この低下はビア数に直線的に比例するわけではありません。端子パッドに近いビアは、ESRとESLを大幅に低減します。したがって、ホットループのインピーダンスを最小化するために、複数のビアを重要な部品(CINとµModule 、またはMOSFET)のパッドの近くに配置する必要があります。

電気および熱性能に好影響を与える方法は他にもたくさんあります。ホットループを最適化するためのベストプラクティスは以下の通りです。

  • プリント基板の伝導損失と熱ストレスを最小にするため、VIN、VOUT、グランドを含む高電流経路には大きな基板銅面積を使用する。
  • ユニットの下に専用の電源アース層を設ける。
  • 伝導損失を最小限に抑え、モジュールの熱ストレスを軽減するために、最上層と他の電源層間の相互接続に複数のビアを使用する。
  • キャップやメッキが施されていない限り、パッド上に直接ビアを置かない。
  • 信号ピンに接続される部品には、分離された信号グランド銅領域を使用し、信号グランドをユニット下部のメイングランドピンに接続する。
  • 信号ピンのテストポイントを使用してモニタする。
  • クロストークによるノイズの可能性を最小限に抑えるため、クロック信号と周波数入力トレースを分離しておく。

まとめ

ホットループ内の寄生パラメータは、スイッチング電源の性能に大きく影響します。これらのパラメータを最小化することは、高効率と低EMIを達成するために極めて重要です。

これらの目標を達成する最も簡単な方法の1つは、集積レギュレータモジュールを使用することです。しかし、スイッチング電源は通常、コンデンサなどのバルク部品を使用する必要があるため、ホットループのレイアウトについて理解することが不可欠になります。

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著者について

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Kenton Williston氏

Kenton Williston氏は2000年に電気工学の学士号を取得し、プロセッサベンチマークアナリストとしてキャリアをスタートさせました。その後、EE Timesグループの編集者として、エレクトロニクス業界を対象とした複数の出版物やカンファレンスの立ち上げや指導に携わりました。

出版者について

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