超小型設計のワイヤ~基板コネクタの利点を活用する方法

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

有線接続の一般的な方式は、ワイヤが挿入されているレセプタクルハウジングを、基板に実装済みのヘッダに差し込む形式です。 このような有線接続は、車載用、産業用、照明、テレコムアプリケーションで使用される製品のプリント基板相互で電力や通信をルーティングするには、シンプルで堅牢な低コストのソリューションです。

しかし、このようなワイヤ~基板接続には欠点もいくつかあります。たとえば、従来のコネクタは大きめで高さのある形状であるため、小型設計の製品では使い物になりません。また、コネクタとケーブルを組み立てるのに手際を要する場合もあり、それによって大量生産プロセスが滞るおそれもあります。

形状がわずか1.4mmの低い高さに抑えられた超小型コネクタの登場により、この問題に対処できるようになりました。このコネクタは自動表面実装アセンブリに対応していて、簡素化されたケーブル構造を備えた部品として設計されています。このようなコネクタは小型ですが、信頼できる有線リンクの機械的、電気的完全性の要件を満たし、金メッキコンタクト、ストレインリリーフ機能、必要に応じて簡単に取りはずすことも可能なロッキング機構などの特長を備えています。

この記事では、まず有線接続の利点について概説し、新世代の小型コネクタが持つ利点を電子製品に容易に活かす方法について説明します。この記事では、Molexの例を使用してこのようなコネクタの構造を調べ、コネクタが小型ながら高い完全性をともなう信号リンクを実現する方法と、コネクタと付随するケーブルの特長が量産アセンブリにどのように適しているかについて解説します。

有線接続コネクタの小型化

コネクタおよびケーブルは、単体の製品に収められているプリント回路基板(PCB)同士で電力と信号を送信する、シンプルで信頼性が高く安価なソリューションであることが期待されています。しかし、これらの部品がその期待通りに機能するには、接続が十分に堅牢で、振動や汚れ、熱に晒されても高い信号の完全性を確保できる性能がなければなりません。Molexは実績のあるソリューションを提供しているメーカーで、同社はレセプタクル端子、レセプタクルハウジング、ヘッダから構成されるシステムを開発しています(図1)。

ワイヤ~基板システムの画像図1:ワイヤ~基板システムは、シンプルで堅牢かつ高い完全性をともなうコネクティビティソリューションを提供します。(画像提供:Molex)

Molexのワイヤ~基板システムを図2に示します。

ワイヤ、レセプタクル端子、ヘッダアセンブリを含むMolexのワイヤ~基板システムの画像図2:Molexのワイヤ~基板システムには、ワイヤ、レセプタクル端子、その端子を差し込むレセプタクルハウジング、ハウジングと嵌まり合うヘッダアセンブリが含まれます。(画像提供:Molex)

このタイプの従来のシステム(MolexのMini-Lockワイヤ~基板システムなど)では、コネクタピンの間隔は2.5mmピッチが使われています。これらのシステムは優れた機能性を発揮しますが、広めのピッチによりレセプタクルおよびヘッダ全体の寸法が大きくなる傾向があります。たとえば、基板実装型の0534260610 6極ヘッダの寸法は、幅17.4mm x 深さ11.5mm x 高さ6.7mmです(容積1340mm3)。嵌合レセプタクルハウジング(0511020600)の寸法は、幅15.5mm x 奥行9.5mm x 高さ5.8mmです(容積850mm3)。

Molexは先ごろ、より狭ピッチのワイヤ~基板システムを市場に投入しました。そのタイプの製品には、電流容量2A、1.5mm(5040500691)および1.0mm(5037630691)のPico-Lockシステム、および1.2mm(0781715006)Pico-EZmateシステムがあります。より狭ピッチのピンは、コネクタ全体の寸法を大幅に縮小する効果があります(表1)。

Mini-Lock 2.5mmヘッダ Pico-Lock 1.5mmヘッダ Pico-Lock 1.0mmヘッダ Pico-EZMate 1.2mmヘッダ
幅(mm) 17.4 12.75 9.8 9.0
奥行(mm) 11.5 6.1 4.85 4.5
高さ(mm) 6.7 2.0 1.5 1.4
容積(mm3 1340 156 71 57
品番 WM3425-ND WM10143CT-ND WM25688CT-ND WM5408CT-ND

表1:6極ヘッダMini-Lock(0534260610)、Pico-Lock(5040500691および5037630691)、Pico-EZmateシリーズ(0781715006)の寸法。(表提供:Digi-Key Electronics)

これらのコネクタシステムが占有する基板面積は非常に小さく、部品形状もきわめて薄型なので(図3)、エンジニアは、以前であれば小さすぎてコネクタ技術を使用できなかった製品に、信頼できる安価なワイヤ~基板コネクティビティを活用できるようになりました。

Molexの表面実装Pico-Lockヘッダの図図3:表面実装Pico-Lockヘッダの形状は1.5mmの低い高さのため、小型の最終製品にも使用できます。(画像提供:Molex)

ワイヤ~基板コネクタの主な要素

シンプルなMolexのコネクタシステムを実現する主な要素は、レセプタクル端子です。この部品は、ワイヤ先端に圧着された形でレセプタクルハウジングに差し込まれます。Molexは幅広い種類のレセプタクル端子を提供しており、24~28AWGワイヤと同社のPico-Lockコネクタで使用する金メッキ(5040520098)、28~30AWGワイヤとPico-EZmateシステムで使用する0781720411などが含まれます。圧着接続部は、0638275700クリンパなどの手工具または自動圧着システムで作成します。

圧着レセプタクル端子による接続部(図4)は、以下の主要部品で構成されています。

  • ベルマウス:導体圧着の端に形成されるフレア形状で、より線を通し易くするファンネルとなります。レセプタクル端子の鋭利なエッジによってより線が切断したり傷ついたりするのを防ぐために重要です。
  • 導体圧着:接続部の最も重要な要素で、ワイヤ導体の周囲で端子を機械的に圧着形成します。これにより、抵抗が低く高電流通電を可能にする一般的な電気経路が形成され、はんだ付け処理を加える必要はありません。
  • 導体ブラシ:端子のコンタクト側の圧着から先に出ているより線です(ただしその先端は圧着接続部の嵌合部分には届きません)。このより線の延長は、圧着処理中に機械的圧縮力がワイヤ導体の最大限の領域に及ぶようにするため重要です。
  • 絶縁圧着:この端子部分で、ワイヤのハウジングへの差し込みとストレインリリーフのためにワイヤを支持します。導線を切断しない範囲で、可能な限りしっかりワイヤを保持する必要があります。

Molexのレセプタクル端子で形成される圧着接続部の図図4:Molexのレセプタクル端子と工具で構成される圧着接続部の部品。(画像提供:Molex)

適切に形成された圧着接続には、次の特性があります(図5)。

  • 穴を開けずに絶縁体を圧縮する絶縁圧着
  • 導体圧着部の前方からはみ出る導体ブラシ、はみ出し長さはワイヤ導体の直径以上
  • 絶縁体と導体圧着部の間に絶縁体と導体が見える構造
  • 先端と末端でベルマウスの形状を示す導体圧着部分
  • 圧着プロセスの影響を受けない移行部分および嵌合部分

適切に形成された圧着接続部の特性の図図5:適切に形成された圧着接続の特性には、絶縁体に穴をあけずに圧縮する絶縁圧着および目視できるベルマウスの構造などがあります。(画像提供:Molex)

圧着高さの測定により、ワイヤ導体周りの圧着の機械的圧縮を非破壊的に素早く確認します。圧着高さは、形成された圧着の上面から底部の湾曲面までの距離として定義されます。さらに目で見てわかる圧着品質は、パンチ工具とアンビル工具の間隔によって導体圧着の底に形成される押し出し(または小さなフレア)で判別されます。アンビルが磨耗していたり端子が過度に圧着されていたりすると、過度の押し出しが生じます。また、パンチおよびアンビルが揃っていなかったり送り調整が正しくなかったりすると、不均一な押し出しの原因になります。

組み立て後、圧着されたレセプタクル端子の機械的なアライメントも重要です。圧着部と嵌合部の位置のねじれや屈曲によりミスアライメントが生じると、ソケットコネクタをコネクタヘッダに差し込めなくなります。

適切に形成できたら、圧着レセプタクル端子をレセプタクルハウジングに差し込みます。圧着レセプタクル端子の機械的なアライメントが正しければ、容易に差し込めるはずです。さらに端子がヘッダと正しく係合するのを確認することも重要です。標準的なハウジングはロッキング機構を備えており、連結されているワイヤが引っ張られたとき定位置に固定された端子が外れるのを防ぎます。たとえば、Pico-Lockシリーズの端子用のMolex 5037640601 6極レセプタクルハウジングはハウジング上にモールドランスを備えており、レセプタクル端子の金属ランスと係合し、レセプタクルがハウジングから引き出されるのを防ぎます(図6)。

MolexのPico-Lockシリーズの画像図6:MolexのPico-Lockシリーズでは、レセプタクル端子上のランスがレセプタクルハウジングのモールドランスと係合して、レセプタクルを定位置に固定します。(画像提供:Molex)

レセプタクル端子をレセプタクルハウジングに挿入したら、完成したケーブルアセンブリを基板実装のヘッダに差し込むことができます。ここでも、ハウジングとヘッダの機械的なアライメントが正しければ(コネクタがごく小さいので注意が必要)容易に差し込めるように、コネクタシステムは設計されています。レセプタクル端子がレセプタクルハウジングにロックされ緩みを防ぐのと同様に、ハウジングとヘッダにも、差し込んだヘッダが容易に外れるのを防ぐ機構が含まれています。たとえば、Pico-Lockシリーズの6極レセプタクルハウジングにはフリクションロックと2つのポジティブロックが含まれており、ハウジングをヘッダに差し込むと係合します(図7)。

フリクションロックおよび2つのポジティブロックを含むMolexのPico-Lockヘッダの図図7:Pico-Lockヘッダにはフリクションロックと2つのポジティブロックが含まれており確実に係合します。(画像提供:Molex)

自動アセンブリ用の設計

ワイヤ~基板システムは量産製品のメーカーにとっては課題にもなり得ます。というのは、従来のヘッダは形状が扱いにくく、プリント回路基板への実装のために通常はスルーホール接続を採用しているからです。(たとえばMolexのMini-Lock 0534260610はスルーホール技術を備えています。)このような特長により、自動実装設備を使用して基板上のコネクタを組み立てるのは非現実的で、メーカーは生産ラインに手作業プロセスを加えざるを得ず、生産の減速にもつながります。

これを克服するために、MolexのPico-EZMateおよびPico-Lock(基板実装)ヘッダは表面実装用に設計されています。このデバイスは、スルーホール接続の代わりにはんだパッドを備えており、自動実装設備で使われるリールに直接パッケージングするように設計されています。さらに、ヘッダには平らな表面があり、実装設備の真空ノズルから部品をピックアップしやすくしています(図8、9、10)。

MolexのPico-LockおよびPico-EZmateコネクタの図図8:MolexのPico-LockおよびPico-EZmateコネクタは、表面実装用に設計されています。ここではPico-Lockヘッダのはんだパッドパターンを示します。(画像提供:Molex)

MolexのPico-LockおよびPico-EZmateコネクタの図図9:MolexのPico-LockおよびPico-EZmateコネクタは、自動実装設備に適したリールでの供給が可能です。ここでは、Pico-Lockヘッダのリールパッケージングを示します。(画像提供:Molex)

広い平面を備えたMolexのPico-LockおよびPico-EZmateコネクタの図図10:MolexのPico-LockおよびPico-EZmateコネクタは、自動実装設備の真空ピックアップツール用に大きな平面を備えています。ここでは、Pico-Lockヘッダのピックアップ面を示します。寸法「A」は6極ヘッダで9.8mmです。(画像提供:Molex)

結論

ワイヤ~基板コネクタシステムは、車載用、産業用、照明、テレコミュニケーションなどの製品のプリント回路基板相互で電力や信号をルーティングするための、実績ある安価な方法を提供します。しかし、従来の部品設計では寸法が比較的大きいため、小型の最終製品では使用できませんでした。

新世代の小型化されたワイヤ~基板システムにより、エンジニアはこれらのコネクタ部品の利点をさらに小型のユニットにまで活かすことができるようになりました。製品がメーカーの仕様通りに組み込まれている限り、これらのコネクタシステムは長期間確実に機能し、最も狭いピンピッチのコネクタでも最大2Aの電流を伝送できます。

さらに優れた点として、コネクタシステムの一部を成す基板実装ヘッダは、量産アセンブリ環境で一般的に導入されている自動実装設備での使用に対応するように設計されています。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Steven Keeping

Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者