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AV/ICTの新規格IEC 62368-1に準拠した保護回路の設計方法

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

時間の経過とともに、オーディオビジュアル(AV)と情報通信技術(ICT)の境界はますます曖昧になってきました(スマートTVなどのホームマルチメディア製品がその一例です)。また、エンジニアは電気製品の保護を設計する際に、Hazard-Based Safety Engineering(HBSE)のアプローチを採用するようになっています。こういった傾向は、それらの機器を設置、維持、使用する人々を保護するために策定された規格に影響を与え、時代遅れのものにしてしまいました。したがって、それらの規格にAVおよびICT製品を準拠させるために使用されていた設計用ハードウェアの多くも時代遅れになりました。

IECではこのような事態を想定していたため、新たに1つの規格、IEC 62368-1(Information And Communication Technology Equipment - Part 1: Safety Requirements)を策定しました。この新しい規格は、2つの古い規格(IEC 60950-1およびIEC 60065)に代わるもので、最大600Vで動作する製品を対象としています。たとえば、ICT機器とAV機器の両方や、モノのインターネット(IoT)機器や電池駆動の電子機器などです。この規格はHBSEアプローチを採用しており、2020年12月に施行されています。

この記事では、IEC 62368-1を紹介します。これまでの異なる規格よりも複雑に見えるかもしれませんが、項目を簡素化し、より高いレベルの安全性と設計の柔軟性を実現していることを示します。また、IEC 62368-1でカバーされている過電圧およびサージ要件を満たす製品およびサブシステムの設計を容易にするために使用できる、Littelfuseの市販電気保護製品も紹介し、説明します。

IEC 62368-1とは

IEC 62368-1は、定格電圧が600Vを超えない電気・電子ICT/AV/IoT機器の安全のための回路保護を定義する規格に古い規格を置き換えるために採用されたものです(図1)。また、この規格は、そのような機器を設置、維持、使用する人々を保護することを目的としており、現在エンジニアが安全工学に対して取っているHBSEアプローチを反映しています。HBSEは、保護回路が遵守すべき一連のルールを定めた、従来の規範的な設計アプローチに代わり、製品がさらされる可能性のある危険性を考慮したアプローチになっています。これにより、製品があらかじめ指定されている危険にさらされて故障した場合でもユーザーを保護できる安全回路が実現しました。

旧来の安全規格IEC 60951-1とIEC 60065に代わるIEC 62368-1の図(クリックして拡大)図1:IEC 62368-1は、旧来の安全規格であるIEC 60951-1とIEC 60065に代わり、ICTやAVをはじめ、IoTや電池駆動の電子機器などの製品を対象とする安全規格である(画像提供:Littelfuse)

IEC 62368-1は、エンドユーザー製品だけでなく、その製品を構成する部品やサブシステム(電源など)にも適用されます。この新しい規格では、旧規格に準拠していた設計やサブアセンブリを、期間を限定せずに再利用できるように規定しています。北米、英国、日本、オーストラリア/ニュージーランドなどの主要市場のエンジニアが、この新しい規格を採用するものと期待されています。

人体用の回路保護

エンジニアがIEC 62383-1に準拠するには、HBSE手法を採用する必要があります。つまり、以下を行うということです。

  • 製品で使用するエネルギー源(ES)の指定
  • それらエネルギー源が出力するエネルギーレベルの測定
  • エネルギー源のエネルギーが危険かどうかの見極め
  • 危険レベルの分類
  • 危険によって怪我や火災が起きるかどうかの見極め
  • 以下を行うために必要なセーフガードスキームの決定
    • 分類された危険による痛みや怪我から人を守る
    • 機器の故障が原因の火災による人身事故や物的損害の可能性を低減する
  • セーフガードの効果測定

この規格では、3つのクラスのES(エネルギー源)を詳細に規定しています。クラス1のES(ES1)は、通常の動作状態でも、異常な状態でも、あるいは単一の故障が発生した場合でも、クラス1の制限値内に留まります。このエネルギーは人が感知できますが、痛みを伴うものではなく、また発火させるには不十分なものです。クラス1のESから一般ユーザーを保護するためのセーフガードは特に必要ありません。

クラス2 ES(ES2)のエネルギーレベルは、クラス1の制限値を超えていますが、製品の正常時、異常時、単一故障時の動作条件ではクラス2の制限値未満であり続けます。このエネルギーは痛みを感じるには十分ですが、怪我をもたらすことはまずありません。条件によっては、発火を引き起こすのに十分なものです。クラス2のエネルギー源から一般ユーザーを保護するには、少なくとも1つのセーフガードが必要です。

最も危険なのはクラス3のES(ES3)です。このエネルギーは、正常時、異常時、単一故障時のいずれにおいてもクラス2の上限値を超えており、人身事故や発火・延焼を起こす可能性があります。ES3による人身事故の種類は、細動、心肺停止、皮膚や内臓の火傷にまで及ぶ可能性があります。一般ユーザーをES3から保護するには、二重または強化されたセーフガードが必要です。

特に、この新しい規格では、さまざまなカテゴリ(製品タイプや使用場所)に対し、過電圧耐性しきい値とサージ保護要件を規定しています。

設計者は、ES1、ES2、ES3に適用される実際の電流および電圧制限値が変動することを知っておく必要があります。たとえば、電圧制限値の要件は電源の動作周波数に左右されます。1キロヘルツ(kHz)未満で動作する電源からの電圧に対し、ES1の制限値は30Vrms、42.4Vpeak、60VDCです。ES2の制限値は50Vrms、70.7Vpeak、120VDCです。

機器は、適用されるエネルギークラスで規定されている電圧制限値または電流制限値のいずれかを満たす必要がありますが、両方を満たす必要はありません。また、制限値は正常動作、異常動作、あるいは単一故障状態のいずれの場合かによっても異なります。これらの制限値は、本規格の第5項に詳述されています。また、オフタイムに応じたパルス波形の制限値などの項目に言及した副条項もあります。

機器の回路保護

機器メーカーにとって、人を守ることは第一の関心事ですが、電圧や電流のスパイクによるダメージから最終製品を守ることも大きな関心事です。IEC 62368-1は、旧来の2つの規格をベースに、過渡的な過電圧や過電流からの耐性を確保するための機器の最小耐力を規定しています。

この規格では、家庭の電力計に付いている機器について、3つの「過電圧カテゴリ」(I、II、III)が規定されています。電力計の配電側に付いている機器は、過電圧カテゴリIVになっています。

具体的には、カテゴリIは主電源に接続されていない機器(電池駆動のポータブル機器など)で、カテゴリIIは建物の配線に接続されたプラグ式のICT機器やAV機器です。カテゴリIIIは、ビルインフラの構成要素である配電盤、回路ブレーカ、配線、ジャンクションボックス、スイッチ、壁コンセント、産業用機器などのシステムです。

カテゴリIIは一般的に、120または230VのAC電源を使用した機器設計や、100~250VのAC電源を対象としています。この規格では、上記の機器には120V AC電源の場合は1.5kV以上、230V AC電源の場合は2.5kV以上のピーク過渡電圧耐性が必要と規定されています(図2)。

様々な過電圧カテゴリを規定しているIEC 62368-1の図図2:IEC 62368-1では、最終製品が使用される場所に応じた様々な過電圧カテゴリが規定されている。カテゴリI、II、IIIは電気メータの家庭側で使用される製品、カテゴリIVは配電側で使用される製品を対象としている(画像提供:Littelfuse)。

IEC 62368-1のサージ保護要件を満たす回路設計

過渡過電圧や過電流に対する保護用の規格要件に準拠した回路を設計することは、それほど難しいことではありません。重要なのは、別の伝導経路を提供することで、過渡的なスパイクを高感度の機器から遠ざけることです。電源が差動モード、または差動およびコモンモードのどちらの方式を採用しているに応じてお勧めできる技術が2つあります(図3AとB)。

IEC 62368-1 カテゴリIIの過渡電圧・電流保護回路の図図3:IEC 62368-1カテゴリIIの過渡電圧・電流保護は、差動モード方式(A、上)または差動およびコモンモード方式(B、下)で構成されている(画像提供:Littelfuse)

差動モード方式(3A)では、ヒューズ(I)による過電流保護と、熱保護された酸化金属バリスタ(TMOV)(II)による保護が行われます。TMOVは、異常な過電圧により過熱した場合に開くように設計された熱作動素子と、MOVの、2つの要素で構成されています。MOVは、通常の動作では非常に高い抵抗値を持ち、正常な動作電圧が回路にかかるようになっています。過渡的なスパイクなどの高電圧では、低い抵抗値を示し、電流を短絡させて最終製品に流れないようにします。

差動・コモンモード方式では、活線と中立線においてヒューズとTMOVを使用しているだけでなく、2つのMOVとガス放電管(GDT)も使用しています。図3Bに示すように、MOVはGDTと直列に、活線と基線、中立線と基線に沿って追加されます。GDTは、通常の動作では高い絶縁抵抗と低いキャパシタンスおよびリークを特長としています。しかし、高過渡電圧にさらされると、封入されたガスがプラズマ化し、最終製品の電圧が低くなってしまいます。

熱保護、低いエネルギー通過とクランプ電圧を備えているためTMOVオプションをお勧めしますが、IEC 62368-1規格に準拠する場合に限り他の形式の差動モード保護をご検討いただくこともできます。例としては、MOV、保護サイリスタとMOVの組み合わせ(特にモデムなどの製品)、TVSダイオードなどがあります。コモンモード保護には、MOVとGDTの組み合わせによる保護が唯一可能なソリューションです。

エンジニアにとって少し厄介なのは、部品の選択です。最終製品が規格IEC 62368-1に準拠するには、デバイスがこの規格に規定されている保護基準を満たす必要があります。

ヒューズ(I)は、過電流が発生したときに高感度回路の損傷を防ぐために使用されます(また、最終製品が故障テストに合格するためにも使用されます)。設計者は、ヒューズを検討する際には次のようなフューズを選択する必要があります。

  • 不用なトリップを回避するフューズ
    • たとえば、通常の動作時やサージパルステスト時に開くフューズであってはならない
  • システムの通常の動作電圧を超えた定格電圧を持つフューズ
  • 最大故障電流を安全に遮断するフューズ
  • 空きスペースにフィットするフューズ
  • 必要な第三者機関による認証(IEC、ULなど)を得ているフューズ

240V ACカテゴリII製品に適するオプションは、8Aデバイスである0215008.MRET1SPP、または12Aモデルである0215012.MRET1Pです。これらはいずれもLittelfuseの215シリーズに属しています。215シリーズは、サージ耐性を備えた20 mm × 5mmのセラミックボディカートリッジのタイムラグヒューズであり、IEC規格に準拠するとともに、部品や内部回路を個別に保護できるように設計されています。

この用途でのヒューズの主要要件は、その遮断定格が回路の最大故障電流以上であることです。そうでない場合は、機器が正常に動作せず、ヒューズが開いていたはずの回路に損傷を与える電流が流れ続ける危険性があります。215シリーズのヒューズは、250V ACで1.5kVという高い遮断定格を持っています。

設計者は図3AとBの回路に示されているTMOV(II)を選択する場合には、以下のガイドラインを考慮する必要があります。

  • TMOVは、IEC 61051-1やIEC 61643-331などのバリスタ部品の規格に準拠する必要があります。
  • 最大連続動作電圧(MCOV)が機器の定格電圧の1.25倍以上である必要があります。
    • たとえば、240V AC電源の場合、部品のMCOVは300V以上でなければなりません。
  • TMOVは、IEC 61051-2の2.3.6またはIEC 61643-331の8.1.1に規定されているとおり、複数回のストライクに耐える必要があります。
    • たとえば、240V AC電源の場合、TMOVは1.2/50μs(マイクロ秒)の電圧と8/20μsの電流を合成した2.5kV/1.25kAの合成波の10個のパルスに耐える必要があります。
  • 部品がIEC 62368-1規格のバリスタ過負荷テストに合格している必要があります。
    • たとえば、240V AC電源の場合、テストでは3.84kΩの直列抵抗(R)を用いて、2 × 定格電圧(480V)を印加する必要があります(以降のテストでは、回路が開くまでR値を半分にします)(図4))。

過負荷テストの回路図図4:過負荷テストの回路図。保護部品には定格電圧の2倍の過負荷をかけ、R1の値を半減したテストを回路が開くまで繰り返していく(画像提供:Littelfuse)

この用途に適する候補は、Littelfuseの機器TMOV14RP300EL2T7です。この機器は、MCOVが300V(部品規格の240V AC電源の要件を満たす)で、直径が14mmと、複数ストライクの要件を満たすのに十分なボディサイズを持っています。また、TMOV14RP300EL2T7は熱保護されているため、そのMCOV 300Vはバリスタ過負荷テストに十分に合格できます。さらに安全性を高めるため、非熱保護のMOVについてはMCOVを420V以上にする必要があります。TMOVは、最大6kAのシングルイベントピークサージ電流(<20μs)に耐えることができます。図5は、サージの継続時間と繰り返しのサージに対する耐性を示しています。

繰り返しサージに対するLittelfuse 14mm MOVの耐性グラフ図 5:繰り返しサージに対するLittelfuse 14mm MOVの耐性。この機器は最大6kAのシングルイベントピークサージ電流(<20μs)に耐えることができる(画像提供:Littelfuse)。

また、コモンモード保護に使用されるMOVとGDTの要件も、部品規格IEC 61051-1またはIEC 61643-331に規定されています。これらの規格に準拠した部品を用いて作られたサブアセンブリは、IEC 62368-1にも準拠することになります。この場合、MOVは上記のTMOVと同じMCOV要件およびサージ要件を満たしている必要がありますが、これらのMOVおよびTMOV機器はGDTと組み合わせて使用されるため、過負荷テストはMOV単体ではなくこれらを組み合わせた保護回路に対して行います。

LittelfuseのV10E300P MOVはこの要件を満たしています。この部品は、MCOVが300V、直径が10mmなので、当該規格の複数ストライク要件を満たすのに十分な堅牢性を備えています。最大で3.5kAのピークサージ電流に耐えることができます。GDTが当該規格の要件を満たすには、耐電圧2.5kVの電気的強度試験に合格し、クリアランスと沿面の適合性を満たす必要があります。

この用途に適する選択肢の1つが、LittelfuseのCG33.0LTR GDTです。これは、サージ保護用や高絶縁性用に設計された、2電極の高電圧機器です。GDTは、100Vで10GΩの絶縁抵抗と、1.5ピコファラド(pf)未満のキャパシタンスを持っています。降伏電圧は4.6kVで、最大10kAのサージ電流に耐えられます。

2個のV10E300P MOVと1個のCG33.0LTR GDTの組み合わせで、上記のTMOV保護回路の説明で述べた過負荷テストに合格することができます。

まとめ

IEC 62368-1は、従来、ICTとAVで別々の規格が適用されていた、最大600Vの電源で動作する製品の回路保護に関する、単一の規格です。また、旧規格ではカバーされていなかったIoT機器や電池式機器などの製品に関する回路保護も正式に規定しています。旧来の規格に慣れているエンジニアは設計アプローチを変える必要がありますが、IEEE 62368-1は回路保護の設計を簡素化し、より高いレベルの安全性と設計の柔軟性を実現します。さらに、Littelfuseをはじめとする保護部品メーカーは、この新しい規格に準拠した回路を簡単に設計するための機器やアドバイスを提供しています。

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著者について

Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigi-Key Electronicsウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者