産業用・医療用システムにおける効率的な電源熱管理の設計方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-08-25
産業用および医療用システムを設計する際、PSU(電源ユニット)の効率的で費用対効果の高い熱管理は、信頼性を保証するために重要です。PSUの効率的な熱管理システムの設計は複雑な作業ですが、PSUが密閉型かオープンフレーム型かによっても大きく変わります。
密閉型PSUを使用する場合は、エンクロージャのタイプが気流と熱放散に影響します。PSUファンは有用ですが、設計者はPSUファンの信頼性と、システムファンによる背圧も検討する必要があります。この背圧は、PSUファンの効果を著しく低下させ、PSUの動作温度を上昇させる可能性があるからです。
PSUは、入力ライン電圧が低い状態では、効率が低下することがよくあります。そのため、低い入力ライン条件で長時間稼働させたユニットは、熱放散が大きくなり、冷却を追加する必要が生じる可能性があります。また、産業用および医療用システムで使用されるような高温環境で動作させると、ディレーティングが必要になることがよくあります。
効率的な熱管理システムを迅速に導入するには、設計者は産業用および医療用アプリケーション向けに特別に設計され、さまざまな熱管理オプションを提供するPSUを利用することができます。
本稿では、産業用および医療用システムを設計する際の熱管理上の問題を検討し、効率的な熱管理ソリューションを設計するためのガイダンスを提供します。次に、Bel Power SolutionsのPSUを実例として、産業機器や医療機器にPSUを組み込む際に選択できるオプションを紹介し、最後に、設計者がPSUをシステム全体の熱設計に組み込む際に取るべき実践的な手順を紹介します。
電源の熱管理上の問題
PSUの熱管理上の問題としては、システムの気流、システムファンがPSU内蔵ファンの性能に与える影響、周囲動作温度、ピーク電力供給の必要性、入力電圧範囲が電力消費に与える影響などが挙げられます。これらは一次的な考慮ポイントです。ラックマウントシステムや、データセンターなどの特殊な環境における二次的な熱管理に関する考慮ポイントについては、本稿では触れません。
一次的な考慮ポイントの1つは、PSUの気流の方向です。通常の気流ではシステムから出ていく陽圧が発生し、逆方向の気流ではシステムに入ってくる陰圧が発生します(図1)。
図1:通常の気流では、陽圧がシステムから出ていきます(左)。逆気流では、陽圧がシステムに入ってきます(右)。(画像:Bel Power Solutions)
扇風機だけでは不十分
多くのPSUは冷却ファンを搭載しています。ファン付きPSUにより、熱設計がシンプルになるどころか、複雑になってしまう場合があります。気流の方向やシステムやシャーシの気流抵抗と気流圧力に関する考慮ポイントがあるためです。以下のように複雑になります。
- システムファンは、PSUファンと競合するので、PSUファンの効果を低下させ、PSUを通過する気流を減少させます。
- PSUを通過する気流は、予想外に高い抵抗を受けるので、その量が減少していきます。
- ケーブルなどの障害物が、PSUの気流を妨げて、ファンの効果を低下させる場合があります。
システムファンとPSUファンが相互作用する仕方はいくつかあります。それらの例を下の図2に示します。
- PSUファンは通常気流を生じますが、システムファンの方が性能が高いため、シャーシ内の圧力が低下する(陰圧となる)ので、PSUファンの効果が減少します。
- PSUファンは逆気流を生じます。システムファンはPSUの冷却を助けるものであって妨げるものではありません。しかし、PSUに入る空気がシステムの排気プレナムから来る場合、正味の気流が減少するという問題と、再循環によりPSUに熱が蓄積されるという問題が発生する可能性があります。
- PSUに入る気流は、メインシャーシの気流から隔離されているため、PSUファンをシステムファンからの干渉から保護します。最大限の効果を発揮させるためには、PSUの気流経路で抵抗が低いことが必要です。
図2:熱設計では、PSUの気流の方向および、PSUファンとシステムファンの力関係を検討する必要があります。(画像提供:Bel Power Solutions)
ピーク電力と公称電力の定格とディレーティングを比較
ピーク電力と公称電力では、ディレーティングが異なることがよくあります。ピーク電力は、数ミリ秒(ms)から10秒以上までの長時間に必要とされ、多くの産業用・医療用システムにおいて重要な考慮ポイントとなっています。異なるピーク電力に最適化されたBel Power Solutions製産業・医療用600ワットAC/DC電源(PSU)シリーズである、ABC601シリーズ(ピーク電力が10秒)とVPS600シリーズ(ピーク電力が1ms)の2つについて考えてみましょう。
ABC601シリーズは、85~305VAC(交流電圧)の入力電圧範囲において、最大600ワットの安定化出力電力を、24、28、36、48VDC(直流電圧)のシングル出力で提供します。たとえば、ABC601-1T48は48VDCの出力で提供します。これらのPSUは、密閉型フロントマウントファンのモデルにおいて最大60℃で、600ワットの連続電力、または最大800ワットのピーク電力(最大10秒間)を定格としています(図3)。Uシャーシモデルで1.2A(アンペア)、フロントマウントファンモデルで1.5Aの、5VDCスタンバイ電源出力を持っているほか、12V、1Aのファン出力を持っています。
図3:ABC601シリーズの密閉型フロントマウントファンモデルは、最大60℃で、600ワットの連続電力(上のグラフの赤線)または最大800ワットを10秒間(下のグラフの赤線)、供給します。(画像提供:Bel Power Solutions)
ABC601シリーズには、Uフレームシャーシと、フロントマウントファンを備えた密閉型という、2種類のパッケージがあります(図4)。ABC601シリーズは、複数ユニットを並列稼働できる電流共有回路を内蔵しているため、総電力を増大させることができます。
図4:PSU ABC601は、ファン冷却(上)または対流冷却(下)が選択可能です。(画像提供:Bel Power Solutions)
Bel Power SolutionsのオープンフレームPSUであるEOS Power VPS600シリーズは、入力範囲が85~264VACと狭く、最大600ワットの連続出力電力と720ワットのピーク電力を1msの間、供給します(図5参照)。これらのPSUは、出力電圧が12、15、24、30、48、58VDCのものが用意されています。たとえば、VPS600-1048の場合、出力は48VDCです。これらのユニットは、5VDC、500mA(ミリアンペア)のスタンバイ電源出力と、12V、500mAのファン出力を備えています。ABC601シリーズが2種類のパッケージスタイルで提供されるのに対し、VPS600シリーズは出力定格が異なる3種類のパッケージスタイル(600ワット定格を持つ対流冷却型Uチャンネル、420ワット定格を持つスロットカバーのユニット、360ワット定格を持つプレーンカバーのユニット)で提供されます。
図5:VSP600シリーズは、公称電力定格の異なる3つのパッケージ構成(600ワットの対流冷却型Uチャンネルユニット、420ワットのスロットカバーユニット、360ワットのプレーンカバーユニット)で提供されます。(画像提供:Bel Power Solutions)
さまざまな出力電圧オプションやパッケージスタイルがあり、それぞれ異なるディレーティングを持っています。たとえば、24VDCの出力ユニットに対するディレーティングは、以下のようになります。
- オープンフレーム
- 対流負荷、最大30℃で連続600ワット
- スロットカバー
- 対流負荷、最大30℃で連続420ワット
- プレーンカバー
- 対流負荷、最大30℃で連続360ワット
- すべてのカバースタイルに対応
- 30~50℃の間で、1℃につき0.833%ディレーティングする
- 50℃を超えた場合、70℃になるまで、1℃につき2.5%ディレーティングする
入力電圧の影響
入力電圧が低い場合、PSU の効率が低下し、公称出力電力がディレーティングすることがあります。たとえば、AC/DC電源であるABE1200/MBE1200シリーズは、180~305VACの入力で1200W、85~180VACの入力で1000Wを供給します(図6)。これらの公称定格は0~60℃に対するものです。70℃では、ABE1200とMBE1200はそれぞれ1200ワットから1100ワットへ、1000ワットから900ワットへと直線的にディレーティングします。
図6:ABE1200/MBE1200シリーズのPSUは、入力電圧180~305VACで1200ワット、入力電圧85~180VACで1000ワットを供給します。(画像提供:Bel Power Solutions)
これらのPSUは、最大限の気流が必要でない場合に可聴ノイズを最小化するためのファン速度制御機能を搭載しています。収納されるパッケージとしては1Uの高さに対応した3種類があり、その内訳は、2つのファンを搭載した密閉型モデル(24VDCモデルのみ)、2種類の保護カバーから選択できるU字型シャーシとなります(図7)。
図7:ABE1200シリーズのPSUは、デュアルファン付き(24VDCモデルのみ)と、2種類の保護カバー付きの計3種類から選択可能です。(画像提供:Bel Power Solutions)
DINが異なる
LEN120シリーズ PSUは公称定格電力が120Wで、標準的なDINレールマウント用に設計されています。たとえば、LEN120-12は、公称入力電圧範囲90~264VAC(ユニバーサル)または127~370VDC(図9)において12VDCの出力を供給します。DINレールPSUをディレーティングする場合に参照するデータシートでは、動作温度だけでなく入力電圧と出力電圧をも同時に考慮しているケースが数多くあります。LEN120シリーズの場合は、以下のようになります。
- 通常モデル
- -20℃~-10℃では、公称115VAC入力時、出力電力は2%/℃ディレーティングします。
- -20℃から-10℃では、公称230VAC入力時、ディレーティングする必要はありません。
- 40℃~+60℃では、公称115VAC入力時、出力電力は2.5%/℃ディレーティングします。
- 入力電圧が115~264VAC、162~370VDCの場合、ディレーティングする必要はありません。
- 入力電圧が115~90VACおよび162~127VDC(低ライン状態)の場合、出力電力は1%/Vディレーティングします。
- モデルLEN120-12(12VDC出力)
- 45℃~+60℃では、公称230VAC入力時、出力電力は3.33%/℃ディレーティングします。
- モデルLEN120-24およびLEN120-48(それぞれ24および48VDC出力)
- 50℃~+60℃では、公称230VAC入力時、出力電力は5%/℃ディレーティングします。
図 8:LEN120シリーズ DIN レールPSUは120ワット定格で対流冷却式です。(画像提供:Bel Power Solutions)
より良い熱設計のための実践的手順
これまで見てきたように、PSUをシステムに組み込む際には、複雑な熱設計の問題が発生します。設計者が不測の事態を避けるために実行できる実用的手順がいくつかあります。それらを以下に示します。
- PSUメーカーは、ファンの気流と静圧の関係(P-Q曲線)に関する詳細な情報を提供する。この情報を使用して、設計者は、PSUファンがシステムの内部背圧と同方向または反対方向に気流を送る場合にどのような気流が予測できるかを把握する。
- 一部のPSUメーカーが提供するPSUのFlowTHERM熱モデルをシステム全体のモデルで使用することで、PSUの熱性能を評価し、潜んでいる問題を洗い出す。
- PSUメーカーに対し、システムの熱設計のレビュー、さらなる解析のための提案、または設計の妥当性確認を依頼する。
まとめ
医療用や産業用のアプリケーションでPSUの熱管理システムを設計する場合、考慮すべきいくつかの問題があります。このような問題としては、システムの気流、システムファンがPSU内蔵ファンの性能に与える影響、規定されている動作温度範囲、ピーク電力供給をサポートする必要性、入力電圧範囲が電力消費に与える影響などがあります。
これらの問題を解決するため、設計者におかれては、さまざまな熱環境とアプリケーションシナリオ向けに最適化されたBel Industrial PowerのPSU設計をご利用することをおすすめします。さらに、設計プロセスの加速を可能にする熱管理ツールが、PSUメーカーから販売されています。
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