ビル管理システム用センサをコスト効率的にネットワーク化する方法

著者 Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ビルオートメーションは、施設の運用・保守コストを削減すると同時に、建物の占有者に対してより安全で快適な環境を提供します。ビルオートメーションシステム(BAS)の性能向上は、建物全体に配置される数多くのセンサから得られる(および多くの制御装置/アクチュエータに送られる)大量のデータに依存します。この配置には、取得したデータをセンシングノードから中央のハブやクラウドに転送し、そこで分析・処理してから必要な制御信号を提供するための、コスト効果の高い効率的な手段が必要となります。

特に従来の建物(および電源がすぐに利用できない場所)にセンサやアクチュエータを大規模に配置する場合、建物全体をカバーするために広範でコストのかかる修繕が必要になる可能性があります。これまでは、RS-485ネットワークがコスト効率の良いレトロフィットソリューションでしたが、より豊富なデータセットとより高いデータレートを実現するには、より高いスループットを備えた代替ソリューションが必要です。

設計者はスループットを向上させながらコストを最小化するために、10BASE-T1Lを使用することで、現在取り付けられているシングルツイストペアEthernetまたはRS-485配線を活用できます。IEEE規格802.3cg-2019のパケット形式データ通信インターフェースに基づく10BASE-T1Lは、最大1000mの距離で10Mビット/秒のスループットを実現します。2線式インターフェースでは、データケーブル経由で電源を供給するオプションがあり、ローカル電源や電源ケーブルの配線が不要になります。これにより、無限のデバイスに接続できるため、電力を大量に消費するゲートウェイも不要になります。

この記事では、ビル制御の要件とこれまでの対処方法について解説します。そして、10BASE-T1L EthernetとAnalog Devicesのソリューション例を紹介し、その実装の容易さを示します。また、ソフトウェアI/O(SWIO)技術を使用して、ビル管理システム(BMS)の下位互換性と上位互換性を維持しながら、Ethernetネットワークのビルコントローラのセンサインターフェース接続を簡素化する方法も示します。さらに、設計者がSWIOを使い始めるのに適した評価ボードについても説明します。

BAS(またはBMS)の役割

BAS(またはBMS)は、建物のさまざまなシステムのオートメーションおよび管理を行います。BMSの目的は、占有者の快適性、ビルシステムの効率性、運用・保守コスト、セキュリティなど多岐にわたります。BMSは、監視層、サーバ/アプリケーション層、フィールドコントローラ層、入出力層という4つの層で構成されます。

監視層は、物理的には2線式の伝送層で、監視デバイスが配置されています。監視デバイスは、すべてのフィールドコントローラのトラフィックを統合します。サーバ/アプリケーション層は、異なる監視デバイスからデータを受信します。この層は、ビル管理システムで一般的に使用されているModbus、KNX、BACnet、LONなどの標準的なEthernetプロトコルをサポートしています。また、統合されたデータをユーザーインターフェースを通じてクライアントやエンドユーザーに提供します。フィールドコントローラ層は、温度センサやスイッチからの入力データを確認し、アクチュエータやリレーなどのシステム出力を制御します。

BMSパズルの最後のピースは、入出力層です。この層には、センサや制御デバイスが存在します。TCP/IPに対応した一部のセンサやアクチュエータでは、コントローラが不要になります。

RS-485:従来のBMSコネクティビティソリューション

これまで、TIA/EIA-485インターフェース(通称RS-485)は、マルチドロップ通信リンクによる安価なローカルネットワークとして、BMSアプリケーションの設計者に非常に広く使用されてきました。RS-485は、バランス型のマルチポイント伝送ラインを実装する際のレシーバとドライバの電気的特性を規定した電気専用規格です。これは、1本のツイストワイヤペア接続で双方向半二重のデータ交換をサポートし、BMSに最適なマルチドロップ接続(同じラインに複数のトランシーバを接続)を可能にします。

RS-485は、適度に高いデータレートもサポートしています(10mまでの距離で35Mビット/秒、1,200mで100kビット/秒)。RS-485の経験則によれば、速度(ビット/秒)×ケーブル長(m)が10E8を超えてはいけません。したがって、50mケーブルの最速速度は2Mビット/秒となります。しかし、RS-485のビル制御アプリケーションでこのような高いレートを使用するのは一般的ではありません。RS-485の物理層(PHY)で動作する一般的なビルオートメーションプロトコルであるBACnet MS/TPの最大速度は、115,200ビット/秒です。

他のシリアル通信リンクと比較して、RS-485通信リンクの主な利点は、厳しい産業環境における電気ノイズへの耐性が高いことです。RS-485の電気ノイズ除去特性、長い電路、単一ラインにおける複数のトランシーバのサポート、適度に速いデータ送信速度は、BMSの環境とよくマッチしています。

10BASE-T1L Ethernetプロトコル

BMSの要件が増大し、データセットが豊富になるにつれ、スループットがますます重要になります。10BASE-T1Lは、1000mで10Mビット/秒をサポートするため、ツイストペアケーブルを使用したポイントツーポイント通信の高速化を実現します。また、電源、配線、距離、データアイランドといった現場での課題に対応しつつ、複雑なゲートウェイも不要にします。

10BASE-T1Lの「10」は10Mビット/秒の伝送速度、「BASE」はベースバンド信号、「T」は「ツイストペア」、数字「1」は1kmの範囲を表します。最後の「L」は「長距離」を意味し、セグメントの長さが1kmであることを示しています。500mWの出力が可能な10BASE-T1Lは、本質的に安全なゾーン0または危険領域のアプリケーションにEthernetをもたらします。非本質安全アプリケーションでは、最大60Wの出力が可能です。

10BASE-T1L Ethernetネットワークのトポロジは、デイジーチェーン、ライン、リングのいずれかになります。前述の通り、ゲートウェイはありません。Ethernetパケットはエッジから制御レベルへ、最終的にはクラウドへと移動し、ビルオートメーション向けのシームレスな通信という目標をより完全に実現します。

センサが製造工場にあろうと、机の上にあろうと、この簡素化されたEthernet-クラウド間コネクティビティにより、携帯電話やラップトップでセンサを構成することが可能になります。

ビルオートメーションの10BASE-T1Lハードウェア構成

10BASE-T1L Ethernetコネクティビティのセンシングノードの開発において、設計者にはAnalog Devicesが提供するすぐに使用可能な選択肢が3つあります。ADIN1100は、堅牢な産業用低電力10BASE-T1Lトランシーバで、Ethernet物理層(PHY)を備えています。ADIN1110には、メディアアクセス制御(MAC)とPHYインターフェースの両方が内蔵されています(図1)。

Analog DevicesのADIN1110低電力シングルポート10BASE-T1Lトランシーバの図図1:ADIN1110は、Ethernet PHYとMACを内蔵した低電力シングルポート10BASE-T1Lトランシーバです。(画像提供:Analog Devices)

第3の選択肢は、2つの10BASE-T1L PHYと1つのシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)ポートを内蔵した低電力、低複雑度の2ポートスイッチであるADIN2111です(図2)。SPIを使用することでホストプロセッサの要件が緩和され、ユーザーにとって電力、コスト、性能の面でデバイスを最適化するための選択肢が広がります。

Analog DevicesのADIN2111低電力、低複雑度、2ポートスイッチの図図2:ADIN2111は、PHYを内蔵した低電力、低複雑度の2ポートスイッチです。(画像提供:Analog Devices)

ADIN1100およびADIN2111の10BASE-T1Lデバイスは、デイジーチェーン(図3)、ライン、またはリングネットワークのトポロジで展開できます。スター型ネットワークと比較して、これらのネットワークトポロジでは必要なケーブルの量を大幅に削減できます。

10BASE-T1Lネットワークのデイジーチェーントポロジの図図3:ADIN1100コントローラとADIN2111 2ポートスイッチを使用した10BASE-T1Lネットワークのデイジーチェーントポロジを示しています。ライントポロジやリングトポロジも使用可能です。(画像提供:Analog Devices)

10BASE-T1Lの使用を開始するにあたって、設計者はADIN1100用のEVAL-ADIN1100評価ボードを使用することができます。このボードは、ADIN1100の全機能への簡単なアクセスを提供し、PC上のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)またはスタンドアロンハードウェアで構成された操作を介して設定できます。これには、10BASE-T1Lケーブルおよび外部電源用のプラグインネジ端子コネクタ2個、RJ45コネクタ付きCat 5e Ethernetケーブル、USB-A~マイクロUSB-Bケーブルが同梱されています。また、小さな試作領域も用意されています。

10BASE-T1Lに対応した柔軟なセンサインターフェース

BMSネットワークのエッジでは、温度、圧力、荷重、湿度、歪ゲージなどのセンサが複雑に絡み合うため、BMSイベントをキャプチャして作動させるためのさまざまなアナログ回路が必要になります。

設計者はこの多様なインターフェースに対応するため、プロセス制御およびBMSアプリケーション用のクワッドチャンネルソフトウェアプログラム可能I/O(SWIO)インターフェースICである、Analog DevicesのAD74412Rを使用することができます。SWIOは、どのピンのどのI/O機能にもアクセスできる独自の柔軟性を提供するため、設計者はいつでもチャンネルを構成できます。建物全体に張り巡らされた2線式Ethernetチャンネルを通じて、オンザフライでプログラミングを行うことができます。その結果、設計リソースの要件が少なくなり、自動化された建物全体に迅速かつ広範に展開できるユニバーサルな製品を実現することができます。

AD74412Rは、アナログ入力、アナログ出力、デジタル入力および、互換性のあるSPIで抵抗温度検出器(RTD)測定を実行する機能を備えています。図4は、16ビットΣ-Δ A/Dコンバータ(ADC)、一連の診断機能および、4つの設定可能なI/Oチャンネルを提供する4つの設定可能な13ビットD/Aコンバータ(DAC)を示しています。

4つの設定可能な13ビットDACを搭載したAnalog DevicesのAD74412RクワッドチャンネルSWIOの図図4:AD74412RクワッドチャンネルSWIOは、4つの設定可能な13ビットDACを備え、4つの設定可能なI/Oチャンネルを提供します。また、16ビットΣ-Δ ADCと一連の診断機能も搭載しています。(画像提供:Analog Devices)

AD74412Rに関連するモードは、電流出力、電圧出力、電圧入力、外部電源電流入力、ループ電源電流入力、外部RTD測定、デジタル入力ロジック、およびループ電源デジタル入力です。また、AD74412Rは、DACとADC用に高精度の2.5V内部リファレンスを備えています。

AD7441R評価ボードを使用した設計

AD74412R SWIOのアナログアプリケーションは、数え切れないほどあります。Analog Devicesでは、設計者が始めやすいように、評価ボードEV-AD74412RSDZを用意しています(図5)。この評価ボードでは、オンボード再構成オプションとPCベースのプログラム可能性により、エンジニアリングの探求が可能になります。

AD74412R用に全機能を搭載したAnalog DevicesのEV-AD74412RSDZ評価ボードの画像図5:EV-AD74412RSDZは、AD74412R用に全機能を搭載した評価ボードです。(画像提供:Analog Devices)

AD74412R評価ソフトウェアは、ボードから入出力信号を取り出すEVAL-SDP-CS1Zシステムデモンストレーションプラットフォーム(SDP)を介して EV-AD74412RSDZと通信を行います。ドロップダウン式のメニューインターフェースにより、AD74412Rの構成を簡素化し、診断ツールを提供します。

まとめ

10BASE-T1Lは、従来の2線式ツイストペアによる取り付けをサポートしながら、最大1000mの距離で10Mビット/秒のスループットを備えた次世代BASを提供します。上述したように、ADIN1100 10BASE-T1Lトランシーバ、ADIN2111 2ポートEthernetスイッチ、プロセス制御およびBMSアプリケーション用のAD74412Rクアッドチャンネルソフトウェアプログラム可能I/O(SWIO)ソリューションを使用することで、設計者は下位互換性と上位互換性のある10BASE-T1Lセンサネットワークを迅速に実装できるようになります。

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著者について

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Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏

Bonnie Baker氏は、アナログ、ミックスドシグナル、シグナルチェーンの経験豊富な専門家であり、電子技術者です。Baker氏は、業界の出版物で技術記事、EDNコラム、製品特集など、数百本の署名記事や著書を執筆してきました。『A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers』(ベイカーの12の教え:デジタル設計者のためのリアルアナログソリューション)を執筆し、他にも数冊の書籍を共著する傍ら、Burr-Brown、Microchip Technology、Texas Instruments、Maxim Integratedで設計者、モデリングエンジニア、戦略マーケティングエンジニアとして働いてきました。Baker氏は、アリゾナ大学ツーソン校で電気工学の修士号を取得し、北アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ在)で音楽教育の学士号を取得しています。彼女はまた、ADC、DAC、オペアンプ、計装アンプ、SPICE、IBISモデリングなど、様々なエンジニアリングトピックに関するオンラインコースの企画・執筆・発表に携わってきました。

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