小型データ収集システムの構築方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-02-15
データ収集(DAQ)は、設計の検証・確認から加速寿命試験 & 生産試験にいたるまで、様々な研究・エンジニアリング活動において重要な機能です。DAQシステムの重要な要素は、センサ、測定ハードウェア、ソフトウェアという単純なものですが、それ以外の要素は複雑になってきます。
システムにはさまざまな物理現象の測定が求められる場合もあるため、柔軟性や拡張性はもちろん、堅牢性や信頼性も必要です。また、コストは常に検討要素となります。そのため、DAQシステムの仕様や構築は複雑になります。システムがオーバースペックであれば、コストがかかり、使い勝手も悪くなる可能性があります。アンダースペックであれば、現在または将来のタスクに適さないものとなります。このジレンマを解決するために、設計者はモジュール方式を採用することができます。これは、時間とともに必要となる処理性能、機能、接続性のオプションを追加できる複数のスロットを備えた、堅牢で高性能なシャーシから始まります。
この記事では、アナログ信号のデジタル化、ナイキストサンプリング定理とエイリアシング、入力範囲、サンプリングレート、多重サンプリングと同時サンプリングの比較など、仕様決定者が知っておくべきDAQシステムの性能指標を考察します。その後、National InstrumentsのCompactDAQシャーシ、アナログおよびデジタルI/Oモジュールおよび、開発環境の選択、ドライバ、分析/レポートツールなどのソフトウェアコンポーネントをベースにしたモジュール方式を紹介します。
DAQの要件と性能指標
前述したように、基本的なレベルのDAQは、センサ、信号コンディショニング、A/Dコンバータ(ADC)、プロセッサ、および関連ソフトウェアで構成されます(図1)。設計者にとっての課題は、コストとセットアップ時間を抑えながら、システム要素を測定/分析対象に適合させることです。
図1:DAQシステムは、センサ、信号コンディショニングやデータ変換を行うDAQ測定デバイスおよび、ドライバやアプリケーションソフトウェアを含むコンピューティングリソースで構成されます。(画像提供:NI)
システム要素を適合させるには、精度、信号振幅、信号周波数がDAQシステムの基本パラメータであることを理解することが重要です。これらはそれぞれ、測定分解能、測定範囲、測定レートにつながります。多くのアプリケーションでは、分解能が最も重要な考慮事項となります。分解能により、使用可能な測定値の数が決まります。たとえば、3ビットの分解能を備えたデバイスでは8個(23)の可能値を測定できますが、6ビットの分解能を備えたデバイスでは64個(26)の可能値を測定できます(図2)。分解能が高いほど、信号をより正確に反映した測定が可能になります。
図2:DAQデバイスの精度は分解能につながります。6ビットの分解能を備えたDAQデバイスは、3ビットの分解能を備えたデバイスの8倍の情報量(精度と同じく8倍)を提供します。(画像提供:NI)
特定のADCは、±10Vのように設定された入力範囲を測定するように設定され、DAQデバイスの分解能が全範囲に適用されます。たとえば、±2Vのような小さな範囲を測定する場合、結果はDAQデバイスの指定された分解能のほんの一部(この場合は約20%)の測定になります(図3)。入力範囲を選択可能なDAQデバイスを使用することで、この問題に対処できます。一般的な入力範囲には、±10V、±5V、±1V、±0.2Vなどがあります。信号の範囲に合わせて入力範囲をスケーリングすることで、より高品質な測定が可能になります。
図3:3ビットの分解能と±10Vの測定範囲(左の赤線、測定範囲の上下にある黄色の点線)を備えたDAQデバイスを使用して、±2Vの信号(白色の正弦波)を測定すると、精度が大幅に低下します。(画像提供:NI)
サンプルレート、ナイキスト、オーバーサンプリング
サンプルレートとは、ADCがアナログ入力をデジタルデータに変換する速度のことです。サンプルレートと分解能は、反比例の関係になる場合があります。サンプルレートを高くするとADCが信号をデジタル化する時間が短くなるため、多くの場合、分解能のビット数を減らすことでしかサンプルレートを高くできません。そのため、サンプルレートの最適化が重要になります。
ここで役立つのが、ナイキストサンプリング定理です。これによると、最大信号周波数の2倍を超えるサンプルレート(fs) で、元の信号の周波数を正確に測定することができます。これは、ナイキスト周波数(fN)と呼ばれます。ナイキスト定理によると、元の信号の形状や周波数を正確に測定するためには、fsを最大信号周波数の5~10倍にする必要があります。fNよりも高いサンプリングレートを使用することは、オーバーサンプリングと呼ばれます。
fsを最適化する際には、fNの理解に加えて、エイリアシングやゴーストも対処が必要な課題となります。エイリアシングとは、サンプリングレートが低すぎて高周波成分を正確に捉えることができないため、サンプリングされた信号のスペクトルに歪みが生じる現象です。オーバーサンプリングすることで、エイリアシングを解消できます。オーバーサンプリングは、高速な信号エッジ、一回限りのイベント、過渡を捉えるのにも役立ちます。しかし、fsが高すぎると、多重サンプリング時にゴーストと呼ばれる現象が発生する可能性があります。
高い多重サンプリングレートでは、各入力チャンネルのセトリング時間が検討要素となります。ゴーストは、サンプルレートがDAQデバイスのセトリング時間を超えたときに発生します。その時点で、隣接するチャンネルの信号が干渉してゴーストが発生し、測定値が不正確になります(図4)。
図4:左側では、サンプルレートが十分に低いため、チャンネル0(赤)とチャンネル1(青)の測定間で適切なセトリングができるようになっています。右側では、サンプルレートが高すぎてゴーストが発生し、チャンネル0がチャンネル1の測定に影響を与えています。(画像提供:NI)
DAQデバイスの効果的なサンプルレートは、同時または多重アーキテクチャの選択によって影響を受けます。同時サンプリングでは、入力チャンネルごとに1つのADCを使用し、チャンネル数に関係なく、すべてのチャンネルでフルサンプルレートを実現します(図5)。
同時サンプリングにより、複数のサンプルを一度に取得することができます。同時アーキテクチャは、比較的高価で部品数も多くなるため、1台のDAQデバイスで利用できるチャンネル数が制限される可能性があります。多重アーキテクチャでは、マルチプレクサ(mux)を使用して1つのADCをすべてのチャンネルで共有し、各チャンネルで利用可能な最大レートを低減します。サンプルは連続して取得され、チャンネル間に遅延があります。多重アーキテクチャはコストが低く、チャンネル密度の高いDAQデバイスを実現できます。
図5:同時サンプリングでは、すべてのチャンネルでフルデータレートが提供されるのに対し、多重サンプリングでは、すべてのチャンネルでフルサンプルレートが共有されるため、チャンネルあたりのレートが低くなります。(画像提供:NI)
小型DACシステムの構築
DACシステムを構築するための最初のステップは、CompactDAQシャーシを選択することです。シャーシには、PCIおよびPCI Express(PCIe)、High-Speed USB、PXIおよびPXI Express(PXIe)、Ethernet 2.0などの各種通信バスと、NIのCシリーズ I/Oモジュール用に1~14個のスロットが用意されています。たとえば、781156-01は、8つのスロットと1つのUSB 2.0インターフェースを備えています(図6)。モジュールを接続するだけで、測定タイプやチャンネルをシステムに追加できます。すべてのモジュールが自動的に検出され、シャーシのバックプレーン内のクロックに同期されます。
図6:781156-01 CompactDAQシャーシは、8つのスロットと1つのUSB 2.0高速インターフェースを備えています。(画像提供:NI)
通信バスは、シャーシ仕様の重要な部分です(表1)。USBが提供する60Mビット/秒は、大半のアプリケーションにとって十分であり、USBは柔軟性と携帯性にも優れています。Ethernetは、物理的に大きなアプリケーションにおける長いケーブル距離と分散型DAQシステムに対応できます。PCIおよびPCIeバスにより、デバイスをデスクトップコンピュータに接続して、データの記録や分析を行うことができます。PXIおよびPXIeバスは、PCIやPCIeと類似していますが、優れた同期機能を備えており、大量のデータを統合・比較することが可能です。
表1:DAQ通信バスの選択は、シャーシ選択の重要な部分です。バスは、必要なデータ伝送レート、距離、携帯性のニーズに適合させる必要があります。(画像提供:NI)
シャーシを選択したら、設計者は60以上のCシリーズ モジュールの中から、測定、制御、通信の各アプリケーションに合わせて選択することができます。Cシリーズのモジュールは、ほぼすべてのセンサやバスに接続でき、DAQや制御アプリケーションの要件を満たす高精度の測定を可能にします(図7)。ホットスワップ可能なこれらのモジュールは、ノイズを除去してデータを分離するための測定に特化した信号コンディショニング、A/D変換、および多彩な入力コネクタを備えています。
図7:Cシリーズ モジュールは、共通のフォームファクタを備え、あらゆるCompactDAQシャーシにホットプラグで接続可能で、多様なアプリケーションのニーズに合わせてさまざまな入力コネクタが用意されています。(画像提供:NI)
Cシリーズ モジュールは、以下のような多くのDAQ機能および制御機能に使用できます。
- アナログ入力モジュールは、最大16チャンネルで、電圧センサや電流センサおよび、温度、音、歪み、圧力、負荷、振動などを測定する一般的なセンサとの接続が可能です。
- NI 9239は、4チャンネルの汎用アナログ入力モジュールです。各チャンネルは、24ビットの分解能で±10Vの測定範囲を提供し、最大サンプリングレートで50キロサンプル/秒(kS/s)のデータを出力します。
- アナログ出力モジュールは、2、4、16チャンネルがあり、電圧信号の生成や産業用電動アクチュエータの制御に使用できます。
- NI 9263は、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)のトレーサブル較正に加え、過電圧保護、短絡保護、高速スルーレート、高精度を特徴とする、4チャンネルのアナログ出力モジュールです。
- デジタル入出力モジュールは、デジタル信号の生成と読み取りに使用できます。デジタル入力モジュールには4、6、8、16、32チャンネル、出力モジュールと双方向モジュールには8、16、32チャンネルが用意されています。
ソフトウェアの統合
小型DAQシステムを構築するための最後のステップは、ソフトウェアです。NI-DAQmxアプリケーションプログラミングインターフェース(API)は、LabVIEW、C、C#、Pythonなどのさまざまな開発オプションと直接連携します。APIは、すべてのNI DAQデバイスにおいてシームレスな動作をサポートし、ハードウェアのアップグレードや変更に伴う再開発の手間を最小限に抑えます。また、ドキュメント、ヘルプファイル、すぐに実行可能な多数のソフトウェアサンプルへのアクセスが含まれているため、アプリケーション開発を迅速に開始できます。
開発者は、プロジェクトごとに必要なプログラミングのレベルを選択することができます(図8)。FlexLoggerデータロギング用ソフトウェアは、センサに焦点を当てた直感的な構成の開発環境を提供し、NIのLabVIEWと統合してカスタム分析を行うことができます。LabVIEWを使用すると、対話型解析パネルまたはフル機能のプログラミング環境を使用して、ハードウェアを構成することができます。高度な開発者は、ほとんどのプログラミング言語を使用して、カスタマイズと性能を実現するためにDAQmx APIと直接インターフェース接続することができます。
図8:DAQソフトウェアの選択フローチャートは、開発者がプロジェクトごとにプログラミングのレベルを選択する方法を示しています。(画像提供:NI)
まとめ
DAQをゼロから設計すると、複雑な作業になる可能性があります。センサ、信号コンディショニング、処理、I/O、ソフトウェアは、目の前のタスクを実行しつつ、時間の経過とともに変更やアップグレードに対応する必要があります。開発者は、各要素をつなぎ合わせるのではなく、モジュール方式を採用することで、センサ、ハードウェア、ソフトウェアを含む小型DAQシステムを迅速かつ効率的に設計することができます。これらはすべて、時間とともにアプリケーション要件が変化しても交換可能です。
さらに、この記事で紹介しているアプローチは、特定のシステム要件を満たすために、PCIおよびPCIe、High-Speed USB、PXIおよびPXIe、Ethernet 2.0など、さまざまな通信バスをサポートします。ホットスワップ可能なモジュールを使用することで、ノイズを除去してデータを分離するための測定に特化した信号コンディショニング、A/D変換、および選択可能な入力コネクタスタイルを提供します。また、柔軟性があり、LabVIEW、C、C#、Pythonなどのさまざまな測定ソフトウェアとの統合も可能です。
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