過酷な環境下で重工業機器を正確かつ確実に制御する方法

著者 Kenton Williston氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

建設重機、産業、ロボット、海洋、航空機器の設計者は、より多くの機能を追加すると同時に、軽量でコンパクトな制御システムを使用して、繊細な操作や動きをより正確に制御する方法を模索しています。これらの目標はまた、物理的にも電気的にも厳しい、過酷で容赦のない環境で達成されなければなりません。

このような要件を満たすために、設計者は、ユーザーインターフェースが、正確な制御に必要な精度レベル、方向の柔軟性、タクタイルフィードバックを持ち、同時に、極端な温度や使用サイクルに耐える堅牢性と信頼性を備えていることを保証する必要があります。

タッチスクリーンはさまざまなアプリケーションで使用されていますが、必要なタクタイルフィードバックと堅牢性に欠けています。また、従来のX/Yジョイスティックはかさばりすぎて、最大限の方向制御に必要な信号オプションや軸の数が不足しがちです。その代わりに、設計者は薄型のジョイスティックまたはサムスティックを使うことができます。ジョイスティックまたはサムスティックは現在、堅牢なフォームファクタでより洗練された制御を提供できます。ユーザーの指で操作するこの小さなデバイスは、狭い場所でも複数の入力に簡単にアクセス可能です。

この記事では、現代の産業機器やその他の重機がより高い精度の制御を必要とする理由と、薄型サムスティックが関連する問題にどのように対処するかについて簡単に説明します。また、センサの選択、堅牢化、物理的・電気的設計オプションなど、主要な設計と実装基準についてもご紹介します。実例として、APEM Inc.の薄型サムスティックを使用します。

高度な機器には、精密な制御が必要

より優れたオペレータ制御は、2つの主な傾向(職場要件の複雑化と先端技術の採用)によってますます必要とされています。このような傾向により、精密な制御だけでなく、多くの移動軸を持つ複雑な制御も求められています。

この点を説明するために、コンテナ船の荷役を行う海上ガントリクレーンを考えてみましょう。船舶が大型化するにつれて、クレーンは許容可能な入港時間を達成するためにより速く稼働する必要があります(これは利益に直接影響します)。同時に、規制の強化により、安全性と環境への影響の改善が求められています。

港湾環境全体も変化しています。これらの港湾で使用される船舶、列車、トラック、その他の機器には、高精度の調整を必要とする技術が加わっています。たとえば、自動搬送車(AGV)は港湾内の貨物輸送に使用されており、これらのAGVは貨物を正確に配置する必要があります。

これらすべての要素に対処するため、クレーンは油圧式から電動式に切り替わっています。これにより、スピードと精度が向上するだけでなく、水平、垂直、回転移動の複雑な組み合わせが可能になり、汎用性も向上しています。

オペレータ制御を装置の能力に合わせる

このような高度化する機器を制御するために、オペレータは、精密で信頼性が高く、使いやすい多軸制御を必要としています。

タッチスクリーンは1つの選択肢です。使いやすく、複数の同時入力にも容易に対応できます。しかし、タッチスクリーンは敏感で、誤って触れてしまう可能性があります。汚れ、湿気、極端な温度は故障の原因となる場合があり、スクリーンは物理的な損傷や電磁妨害の影響を受けやすいと言えます。最も重要なのは、タクタイルフィードバックがないため、重機のヘッドアップ操作に適していないことです。

ジョイスティックはこうした問題の多くを解決してくれます。ジョイスティックをアームレストコンソールやベリーボックスに取り付けると、人間工学に基づいた快適な入力が可能になります。適切な設計により、厳しい環境条件にも耐えることができます。また、オペレータに物理的なフィードバックを与え、ワークスペースへの視覚的な集中を維持することもできます。

しかし、従来のジョイスティックは、狭い環境では場所を取り、出っ張っていることがあるため、意図しない操作が発生する可能性があります。スペースに余裕がある場合でも、ジョイスティックは比較的大きな動きをオペレータに要求するため、その精度には限界があります。

サムスティックは、ジョイスティックを扱いやすいサイズに縮小することで、こうした問題に対処しています。指で操作するこの薄型デバイスは、誤操作のリスクを最小限に抑えます。正確でスムーズな入力を可能にし、オペレータは2本のサムスティックを同時に簡単に操作できるため、複数入力の問題を解決できます。

薄型のジョイスティックは、ベリーボックスや携帯機器のようなポータブルコントローラに特に適しています。しかし、スペースが限られているアプリケーションであれば、小型化の恩恵を受けることができます。

正しいセンサを選択する

もちろん、すべてのサムスティックが同じように作られているわけではありません。まず、電位差(つまり抵抗)、誘導、光電、ホール効果(つまり磁気)など、さまざまな位置センサを使うことができます。これらのオプションにはそれぞれ長所と短所があります。

  • 電位差センサはシンプルで低コストですが、寿命が限られています。
  • 誘導型センサは信頼性が高いですが、温度変化や電磁妨害(EMI)の影響を受けやすいと言えます。
  • 光電センサは精密ですが、ほこりや湿気、物理的な損傷に弱いと言えます。
  • ホール効果センサは正確で耐久性がありますが、強い磁場の影響を受けることがあります。

これらすべてのトレードオフを考慮すると、ホール効果センサは、多くの場合、過酷な環境で高精度のセンシングを行うための優れた選択肢です。ホール効果センサは、標準的な3.3Vまたは5V DC(直流)で動作し、堅牢な機械と組み合わせて実装されるため、期待寿命が1000万サイクルのデバイスを実現します。

ホール効果センサは、2つの電極の間に導電性材料の薄いストリップを配置します(図1)。ストリップに電流(I)が流れ、それに垂直な磁場(B)が印加されると、ストリップ全体に電圧差(UH)が発生します。この電圧差はホール電圧と呼ばれ、磁場の強さと方向に比例します。

図:導電性ストリップに電流(I)が流れるとホール電圧(UH)が発生図1:ホール電圧(UH)は、電流(I)が導電性ストリップに流れ、磁束密度(B)がストリップに垂直に置かれたときに発生します。(画像提供:Wikipedia)

産業用ジョイスティックの用途において、ホール効果センサが他のタイプのセンサと比較して優れている点をいくつか挙げます。

  • 非接触式で、時間が経っても摩耗しません。
  • ほこり、汚れ、湿気、振動に強いと言えます。
  • 直線変位と角変位を高精度かつ高分解能で測定できます。
  • 幅広い温度と電圧範囲で動作します。
  • デジタル電子機器やマイクロコントローラと簡単に統合できます。

ホール効果センサは、位置と角度の両方を検出できるため、特に有用です。このため、X/Y制御だけでなくZ軸センタータップも備えたジョイスティックなど、多軸制御に適しています。

とはいえ、センサは考慮すべき設計パラメータの1つに過ぎません。ホール効果サムスティックの実装を成功させるには、いくつかの物理的・電気的パラメータを注意深く考慮する必要があります。

サムスティックを制御パネルに配置する

サムスティックは、制御パネルのような保護された固定場所に取り付けられることもあります。多くの場合、オペレータは作業場の近くにいる必要があり、コンソール、車両のアームレスト、ペンダント、ベリーボックスのような場所に限定されます。

サムスティックを携帯型のエンクロージャで使用する場合は、落下による損傷からサムスティックを保護するよう注意する必要があります。エンクロージャの最も軽い端に取り付けて地面にぶつからないようにしたり、ガードで保護したりといった基本的な予防策を、長期的な信頼性のために実施しなければなりません。

車両に設置するのも危険を伴う場合があります。ピッチングをしている船上や乗り物上の制御デバイスは、不用意に手をかけることになりかねないので、危険な誤操作を避けるためにも、サムスティックの高さをできるだけ低くすることが重要です。

このような状況では、サムスティックはパネル面より約50ミリメートル(2インチ)以上出ないようにしてください。また、サムスティックとパネル上の他の制御デバイスとの間に十分なクリアランスが必要です。オペレータがかさばる手袋を着用する可能性がある場合は、さらにクリアランスが必要です。

薄型ジョイスティックの堅牢化

産業用ジョイスティックは、落下する水や噴霧された水にさらされることが多いため、少なくともIP66に適合している必要があります。これは、ジョイスティックの動きに合わせて伸縮するフレキシブルなブーツ、すなわちコンボリューテッドゲイターで実現できます(図2)。

ジョイスティックはパネルカットアウトにドロップインするか、背面から取り付けることができます。いずれの場合も、ジョイスティックのこの部分はゲイターで保護されていないため、パネルの下側が水しぶきや過度の湿気、ほこりにさらされないようにしてください。

画像:薄型サムスティックのドロップインマウント図2:薄型サムスティックのドロップインマウント(左)ではベゼルと皿ネジを使用します。リアマウント(右)では機械ネジと付属ナットを使用しますがベゼルは使用しません。コンボリューテッドゲイターにより、保護等級IP66を実現しています。(画像提供:著者、APEM資料より)

耐久性を最大化するために、設計者はステンレススチール製のシャフト、同様に丈夫な金属製のギンブル、ベースの機械部品、リミッタを備えたデバイスを使用する必要があります。先に述べたように、携帯機器は落下しやすいので、ジョイスティックは1メートル(m)の自由落下にも耐えられるかどうかテストされなければなりません。設計者は、適用されるIEC規格に従って、振動、電磁両立性(EMC)、静電気放電(ESD)保護に適切な定格があるかどうかも確認する必要があります。

過酷な環境では、極端な温度への耐性も重要です。1例として、APEMのXSシリーズ 薄型ジョイスティックは、動作温度-30°C~+85°C、保管温度-40°C~+110°Cに対応しています。

最後に、サムスティックがセーフティクリティカルなアプリケーションで使用される場合(多くの場合そうです)、SIL(Safety Integrity Level:安全度水準)評価がSIL2以上であることを確認してください。

人間の使いやすさを考慮した設計

ジョイスティックに適切な素材と人間工学に基づいた設計を選ぶことは、使い勝手に大きな影響を与えます。設計者は、コントローラが濡れていたり汚れていたりする可能性があること、オペレータが重い手袋をしている可能性があることを念頭に置く必要があります。したがって、ジョイスティックキャップでは、耐久性がありながら握りやすい表面を提供するナイロンのような素材が必要です。

図3に示すように、ジョイスティックキャップはさまざまなシナリオに対応できるよう、多種多様な種類が用意されています。たとえば、APEMのXS140SCA12A62000指先ジョイスティックは、キャッスルキャップ(左)を装備しています。このキャップの質感により、ジョイスティックの主軸であるX軸とY軸の操作がしやすくなり、まっすぐな軌道を維持しやすくなります。これに対してXS140SDM12A62000は、任意の動きに適した指先キャップを採用しています。

画像:XS140SCA12A62000のAPEMキャッスルトップ図3:XS140SCA12A62000に装備されているキャッスルトップ(左)とXS140SDM12A62000に装備されているフラットキャップ(右)は、それぞれ直線運動と任意運動に適しています。(画像提供:著者、APEM資料より)

ジョイスティックはガイド付きにすることもできます。このようなジョイスティックは、主軸に向かって動きやすく、主軸から遠ざかる方向にはより大きな力を必要とします。同様に、ジョイスティックは、ジョイスティックの全体的な抵抗を増加させるセンタリング力を備えることができます。たとえば、APEM XSシリーズの薄型ジョイスティックは、1ニュートン(N)の軽い力でも、2.5Nの強い力でも中央に跳ね上げることができます。

最後に、ジョイスティックはセンターポジションに関連するさまざまな機能を設定することができます。

  • センタータップ機能を追加することで、ジョイスティックをボタンのように使えるようになります。これにより、制御パネルがシンプルになり、より複雑な操作が可能になります。
  • あるいは、センタータップを電圧テストに使用し、電源が正常に動作していることを確認することもできます。
  • アクティブ/非アクティブの状態表示が必要なアプリケーションでは、ジョイスティックが使用中かどうかを判断するセンター検出機能があります(この機能は、安全やセキュリティの目的では使用しないでください)。

これらのオプションは互いに排他的であることに注意してください。どの機能をジョイスティックに実装するのが最適か、どの機能を他の制御デバイスで使用できるかを見極めることが重要です。

電気設計の考慮事項

最大限の信頼性を確保するには、冗長ホール効果センサを備えたジョイスティックを使用してください。さらに、電源は慎重に調整されなければなりません。電源が規定の許容範囲外で変化した場合、センサに永久的な損傷が発生する可能性があり、冗長性の利点がなくなります。

ジョイスティックの電圧出力もまた、熟考された設計が必要です。最初のステップとして、出力信号のタイプ(アナログまたはパルス幅変調(PWM)など)を選択し、これらの信号を読み取るマイクロコントローラユニット(MCU)の予想入力に合わせて電圧をスケーリングする必要があります。図4は、このような出力電圧の例を示しています。出力インピーダンスも考慮する必要があります。負荷抵抗が低いと(たとえば、10kΩ未満の場合)、センサを損傷する可能性のある大電流のリスクが生じます。

画像:2つの出力電圧(X/Y)は、MCUの入力に合わせてスケーリングする必要あり(クリックして拡大)図4:多軸ジョイスティックの場合、2つの出力電圧(X/Y)はMCUの入力に合わせてスケーリングする必要があります。(画像提供:APEM)

先に述べたように、ホール効果センサは磁気干渉に弱いと言えます。そのため、よく設計されたジョイスティックは、内部に磁気スクリーニングを組み込んでいます。電源を適切に切り離し、適切なEMCシールドを施すよう注意する必要があります。これらの対策が施されていても、ジョイスティックを強い磁場の近くに取り付けたり、強い磁場の近くで操作したりしないでください。

まとめ

産業機器の複雑化に伴い、設計者はより堅牢な制御デバイスを必要としています。これは、正確な制御に必要な精度レベル、方向の柔軟性、タクタイルフィードバックをユーザーインターフェースに持たせるためです。同時に、ユーザーインターフェースは、極端な温度や使用サイクルに耐える堅牢性と信頼性を備えている必要があります。前述のように、薄型のジョイスティックは優れたソリューションとなり得ます。位置センサ、IP定格、電磁気的絶縁、人間の使いやすさを適切に考慮し、入念な設計を施せば、このようなサムスティックは幅広い用途に多くの利点をもたらすことができます。

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著者について

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Kenton Williston氏

Kenton Williston氏は2000年に電気工学の学士号を取得し、プロセッサベンチマークアナリストとしてキャリアをスタートさせました。その後、EE Timesグループの編集者として、エレクトロニクス業界を対象とした複数の出版物やカンファレンスの立ち上げや指導に携わりました。

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