インダストリ4.0工場でのクラウド接続とローカル制御の利点をバランスよく活用できる新しいIO-Linkマスター
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-11-06
産業用ネットワークにおけるクラウド接続のニーズとプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を使用するローカル制御のニーズのバランスをとることが、さらに容易になりました。インダストリ4.0のネットワークは複雑です。工場フロアのIO-Linkから始まり、EtherNet/IP、PROFINET対応の接続機器やPLCなどのフィールドバス、クラウド接続のOPC UA(OPC統一アーキテクチャ)インターフェースに至るまで、さまざまなレベルのコネクティビティが求められます。
従来のインダストリ4.0ネットワークでは、センサやアクチュエータなどのデバイスはIO-Linkマスターを介してフィールドバスネットワークと接続します。フィールドバスネットワーク上のデバイスは、OPC UA規格やその他のプロトコルでクラウドに接続します。
今では、機械や工場ネットワークの設計者は新しいツールを利用できるようになりました。IO-Linkマスターにより、通常のEtherNet/IP、PROFINET、その他のフィールドバス接続と、クラウドへの直接接続のためのOPC UAインターフェースを組み合わせることができます。IO-Linkマスターを使用することで、接続をフラット化し、重要なデータの送信をネットワークの最上位レベルまで高速化できるのです。
この記事ではまず、従来のネットワークアーキテクチャにおけるローカル制御とクラウド接続の使用についてレビューします。次に、フィールドバスとOPC UA接続を組み込み複数の並列接続に対応するPepperl+Fuchsの新しいIO-Linkマスターで実現できるフラットなアーキテクチャを紹介します。また、新しいEthernet-APL(Advanced Physical Layer)技術の活用方法も検討します。
そして最後に、OPC UAインターフェース内蔵の新しいIO-Linkマスターと、ネットワーク拡張のための互換性のあるIO-Linkハブを詳しく取り上げ、代表的なIO-Linkデバイスをいくつか紹介します。また、IO-Linkデバイスの設定、試運転、トラブルシューティングにおけるIO-Link USBマスターの使用についても詳しく説明します。
インダストリ4.0工場では、ローカル制御とクラウド接続のさまざまな組み合わせが求められます。どちらの方式もそれぞれの利点があります。最適なソリューションでは、複雑なデータ分析のためにクラウドを利用しつつ応答性の高いローカル制御を実現するために、PLCとエッジコンピュータを組み合わせることがよくあります。
PLCは堅牢で、産業環境での使用を前提として設計されています。通常はモジュール式で、インダストリ4.0工場の変わりやすいニーズに対応できます。PLCはリレーベースのシステムよりも小型で信頼性が高いため、リレーベースのシステムの代わりに採用されることがよくあります。おそらく最も重要な点は、PLCは接続されている機械やセンサから直接送信されるフィードバックを活用し、重要なアプリケーションのリアルタイム制御をサポートできるということでしょう。
クラウド接続は、基本的に無制限のストレージと演算機能を提供します。個別のPLCによって制御されるさまざまなアプリケーションから送信されるデータをリンクさせることができ、工場オペレーション全体の調和と最適化を支援します。クラウド接続はPLCの管理タスクの負荷を減らすことができ、クラウドコンピューティングサービスは迅速で経済的な拡張が可能です。
従来のIO-Link
IO-Linkはフィールドバスではなく、ポイントツーポイントのプロトコルです。従来のインダストリ4.0ネットワークでは、IO-Linkマスターは工場フロアのIO-Linkデバイスとフィールドバスネットワークの間を仲介します。IO-Linkマスターの各ポートは、1つのIO-Linkデバイスに接続します。IO-Linkマスターは接続されたIO-Linkデバイスから送信される通信を統合して変換し、フィールドバスネットワークに送信します。
IO-Linkマスターは制御盤内に設置できます。保護等級IP20でリモート接続ポイントとしてフィールドバスネットワークに接続することも、IP65/67等級で工場フロアに設置することも可能です(図1)。従来のIO-Linkマスターとクラウドの間に直接接続はありません。クラウドへの通信は、すべてフィールドバス上のデバイスを経由して制御されます。
図1:IO-Linkがフィールドバスに接続される従来のネットワークアプリケーション。(画像提供:Pepperl+Fuchs)
拡張IO-Linkと並列ネットワーク
IO-LinkマスターにOPC UA接続を追加すると、産業用ネットワークアーキテクチャの可能性が劇的に広がります。クラウドへのデータアップロードでフィールドバスを介する必要がなくなります。
リアルタイム制御などの時間が重視されるデータには、今後もフィールドバスを使用できます。時間的制約の少ないデータはまとめて直接クラウドに送信できるため、フィールドバスデバイスにかかる負荷(通信オーバーヘッド)を抑えることができます。
標準的な産業機械制御システムと並列的に使用できることから、Pepperl+Fuchsはこの新しい構造を「並列」アーキテクチャと呼んでいます。その鍵となるのが、同社のMultiLink™技術です。この技術は、EtherNet/IPやMQTT(Message Queuing Telemetry Transport)などのプロトコルを介したPLC接続を可能にする産業用Ethernetフィールドバスの並列使用をサポートします。このオープンソースのメッセージングプロトコルはOPC UAを使用し、産業用コンピュータ、SCADA(監視制御およびデータ収集)システム、クラウドなど、IIoT(産業用モノのインターネット)上のデバイスと接続できます。
MultiLinkインターフェース内蔵のIO-Linkマスターの完全パッケージの場合は、フィールドバス接続や接続されているIO-Linkデバイスの設定がウェブブラウザ経由で可能な統合ウェブサーバとIODD(IO-Link Device Description)インタプリタ機能も搭載されています(図2)。
図2:OPC UAによるクラウドへの直接接続とネットワーク構造のフラット化を実現する新しいIO-Linkネットワークアーキテクチャ。(画像提供:Pepperl+Fuchs)
ネットワークの選択肢の増加
OPC UA/MultiLinkインターフェース内蔵のIO-Linkマスターは、前述の新しい並列ネットワークアーキテクチャの実現に加え、次のようなその他のユースケースにも使用できます。
改良 - 従来のIO-LinkマスターをOPC UA/MultiLinkインターフェース内蔵のIO-Linkマスターに置き換えることで、既存のネットワークに並列通信の利点を追加できます。
従来のPLCを使用しないアプリケーション - ERP(企業資源計画)やMES(製造実行システム)のように、工場現場のセンサからデータを収集するためPLCが不要なアプリケーションもあります。OPC UAインターフェース内蔵のIO-Linkマスターは、データを直接クラウドに送信できるため、データを集約、分析、処理して生産性を最大化できます。
複数のPLCを使用するアプリケーション - 複雑な溶接セルは、複数のPLCと複数のプロトコルを使用することでOPC UAの追加による恩恵を享受できるアプリケーションの一例です。たとえば、一次PLCはPROFINET通信によりプロセス全体を制御し、産業用PCはEtherNet/IP通信で光学的な品質モニタリングを制御し、各種ロボットやその他の装置は独自の制御プロトコルを使用できます。Pepperl+FuchsのMultiLink技術を活用したOPC UAは、フィールドバスプロトコルが異なっていてもシステム間の通信とデータ交換を可能にし、溶接セル全体をクラウドにリンクさせることができます。
Ethernet APLを土台として構築
MultiLink技術は、Ethernet-APLを土台として構築されており、Ethernetを活用して長距離のプロセス計装で信号と電力の伝送を可能にします。この技術は10BASE-T1LのEthernet物理層規格に準拠しています。
伝送速度10Mbpsで最大1000mのケーブル長に対応するEthernet-APLは、プロセスのリアルタイム監視/制御用に設計された技術で、並列アクセスを実現します。また、EtherNet/IP、HART-IP、OPC UA、PROFINETやその他の上位プロトコルをサポートします。Ethernet-APLを採用すれば、ゲートウェイやその他のプロトコル変換が不要になります。Ethernet-APLは、OSI(開放型システム間相互接続)モデルの第1層で特別なEthernet物理層(PHY)を使用して10BASE-T1Lを実装します(図3)。
図3:Ethernet-APLは10BASE-T1Lに基づく新しいPHYです。(画像提供:Pepperl+Fuchs)
新しい産業用ネットワーキングツール
並列接続が可能なOPC UA/MultiLinkインターフェース内蔵のIO-Linkマスターによって生まれた新たな可能性を活用したい産業用ネットワーク設計者向けに、Pepperl+FuchsはICE2(EtherNet/IP用)とICE3(PROFINET用)のIO-Linkマスターシリーズを提供しています。どちらのタイプのIO-Linkマスターも入力8点と出力8点が利用でき、すべてのモジュールパラメータと接続されているすべてのIO-Linkデバイスに対するウェブベースの設定機能(ウェブ上でIODDを取得)が搭載されています。どちらも、100以上のIODDファイルを格納できるIODDストレージを内蔵しています。その他の特長は次の通りです。
- PortVision® DXソフトウェアにより、ネットワーク構成、デバイス管理、設定のクローン作成/バックアップを1つのアプリケーションで提供します。
- すべてのモジュール設定を個別のファイルとして保存し、クローン機能を使用して新しいデバイスに転送することで、迅速な展開が可能です。
- ブロック型モデルは、定格電流16Aの電源用LコードM12コネクタプラグ(x2)を装備し、入出力にはAコードM12コネクタプラグ、フィールドバスへの接続はDコードM12コネクタプラグを使用します。
- DINレール取り付け型モデルは、ネジ端子または脱着式プッシュインコネクタが付属しています。
- 保護等級については、ブロック型はIP67、DINレール型はIP20に準拠しています(図4)。
図4:DINレール型(左)とブロック型(右)のIO-Linkマスターの例。(画像提供:Pepperl+Fuchs)
OPC UA/MultiLinkインターフェース内蔵の代表的なIO-Linkマスターは次の通りです。
- ICE2-8IOL1-G65L-V1Dは、ブロック型のEtherNet/IP、Modbus対応IO-Linkマスターで、接続されたデバイスに最大200mAの電力を供給できるIO-LinkクラスAポート(x4)と、独立した電源を持つ高出力デバイス用IO-LinkクラスBポート(x4)を搭載しています。
- ICE2-8IOL-K45P-RJ45は、DINレール型のEtherNet/IP対応IO-Linkマスターで、入力8点、出力8点、プッシュインコネクタを備えています。
- ICE3-8IOL1-G65L-V1Dは、ブロック型のPROFINET/Modbus対応IO-Linkマスターで、IO-LinkクラスAポート(x4)とIO-LinkクラスBポート(x4)を備えています。
- ICE3-8IOL-K45S-RJ45は、DINレール型のPROFINET IO対応IO-Linkマスターで、入力8点、出力8点、ネジ端子を備えています。
ネットワーク拡張用ハブ&コンバータ
IO-Linkハブは、センサ、アクチュエータ、その他のデバイスのネットワークの拡張をサポートします。IO-Linkハブにより、複数のデジタルセンサやアクチュエータを標準のセンサケーブルでIO-Linkマスターに接続できます。たとえば、ICA-16DI-G60A-IO IO-Linkハブは最大16点のPNPデジタル入力に対応し、ロジックレベルをポートごとに個別に設定できます。接続されているIO-Linkマスターの能力にもよりますが、接続されたデバイスに最大500mAの電力を供給でき、IP65、IP67、IP69Kの各保護等級に対応しています。
アナログ出力のセンサをIO-Linkネットワークに接続する必要がある場合は、電流または電圧のアナログ入力とIO-Link出力を備えたICA-AI-I/U-IO-V1 IO-Linkコンバータを利用できます。これはIP67に対応し、次の入力設定が可能です。
- 電流入力:0~20mAまたは4~20mA
- 電圧入力:-10~10Vまたは0~10V
IO-Linkデバイス製品の紹介
検出と制御のニーズなど、ほぼすべての産業プロセスでIO-Linkデバイスの包括的なエコシステムが利用できます。Pepperl+FuchsのIO-Linkポートフォリオには、誘導型近接センサ、誘導型位置決めシステム、光電センサ、超音波センサ、振動センサ、ロータリエンコーダ、識別システムが含まれます(図5)。たとえば、次のようなものがあります。
- VDM28距離測定センサは、パルスレンジ技術(PRT)を採用し、0.2~15mの動作範囲で5mmの繰り返し精度、25mmの絶対精度を実現します。
- IUT-F191-IO-V1-FR2-02 RFID読み取り/書き込みデバイスは、最大通信距離1mの産業用アプリケーション向けに最適化されています。このデバイスはISO/IEC 18000-63に準拠し、パッシブタグの読み取りと書き込みを行います。
図5:利用可能な幅広いIO-Linkデバイスの例。(画像提供:Pepperl+Fuchs)
IO-Linkデバイスの試運転用のUSBマスター
IO-Linkデバイスのインストールと試運転に対して、ネットワーク技術者はIO-LINK-MASTER02-USBを使用できます(図6)。このUSBマスターを使用すると、IO-LinkデバイスをPCのUSBポートに接続できます。これはテスト、設定、調整作業のサポートを目的として設計されています。接続されているデバイスの設定とパラメータ化が可能で、デバイス診断にも対応しています。低消費電流のデバイスは、USBマスターから直接給電できます。大量の電力を必要とするデバイスは、オプションの外部電源に接続できます。
図6:このIO-Link USBマスターはPCに接続でき、ネットワーク展開を高速化します。(画像提供:Pepperl+Fuchs)
まとめ
IO-LinkマスターデバイスでOPC UAの並列接続が可能になり、インダストリ4.0ネットワークの設計者が利用できる選択肢が劇的に広がりました。今では、ネットワークアーキテクチャのフラット化および、工場フロアのIO-Linkデバイスとクラウドとの直接接続が可能になりました。この新しい技術は、業務効率を向上させる目的でさまざまなユースケースで使用することができます。
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