物流追跡とロジスティクス4.0でサプライチェーンの混乱を管理する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

当面の間続くと予想されるサプライチェーンの混乱を管理するために、物流追跡はますます不可欠になっています。物流とは、ある場所から別の場所へ、つまり製造施設や倉庫、または地理的に分散した場所の間で物品を移動させるプロセスです。物流追跡では、サプライチェーンの状況をリアルタイムで把握できるため、必要に応じて調整を行い、サプライチェーンの混乱による影響を最小限に抑え、スムーズで効率的、かつ収益性の高いオペレーションを実現することができます。

産業用モノのインターネット(IIoT)の登場により、ロジスティクス4.0や人工知能(AI)などのスマートサプライチェーン管理が発展したことで、新たな課題に対処できるようになり、物流管理にさらなる柔軟性がもたらされました。ロジスティクス4.0により、サプライチェーンのリアルタイムの可視化と完全性制御を実現し、適切な製品を、適切な時間、場所、数量、状態、および適切なコストで提供するために必要な情報が確実に入手できるようになります。サプライチェーン内の場所に応じて、リニア(1次元)バーコード、2次元バーコード、電波による個体識別(RFID)、近距離無線通信(NFC)、Bluetooth、Wirepas(産業用Bluetooth)、GPSなど、さまざまな技術を使用して物流追跡を実施できます。

この記事では、物流の課題を概説してから、選択した物流追跡技術と関連する業界標準の有用性を比較し、最後にBanner EngineeringとWürth Elektronikが提供する追跡ツールの例を、開発プロセスを加速する評価プラットフォームとともに紹介します。

インダストリ4.0とロジスティクス4.0は相互に関連しており、効率的なマスカスタマイゼーションという目標を経済的に達成するためには、その両方が必要となります。ロジスティクス4.0は、個々の物品に関連する非常にきめ細かいリアルタイムの情報と、ネットワーク、オートメーション、低レイテンシ通信を組み合わせることで、混乱を早期に警告し、サプライチェーン全体で最適な物流を維持するための迅速な対応が可能となります。状況に応じて最適な物流ソリューションを導き出すためには、複数の技術が必要となります。

1次元および2次元バーコード

バーコードは、個々の物品のデータ収集を自動化するための安価で効果的な方法です。データ量に応じて、以下のようなバーコード形式があります。

  • 1次元バーコードまたはリニアバーコードには、シリアル番号、モデル番号、商品履歴などの情報が含まれます。
  • スタック型リニアバーコードでは、複数の1次元バーコードを密着させて、より高いデータ密度を実現します。
  • 2次元バーコードは、ボックスやセルで構成され、さらに大量のデータが格子状に格納されています。

1次元バーコードが最も一般的で、バーコード情報は黒と白のバーとスペースの幅に含まれ、使用されている特定の形式を理解するバーコードスキャナを使用して読み取ります。1次元バーコードには、特定のアプリケーションで必要とされるデータ用に最適化された複数の形式があります。たとえば、以下のようなものが挙げられます。

  • Code 128、マテリアルハンドリング用
  • Code 39、軍や政府機関で使用
  • インターリーブ2/5、特定の産業アプリケーション向け
  • UPC-A、米国の小売業で広く使用
  • Postnet、米国郵政公社(USPS)で使用

たとえば、Code 128形式には、以下のものが含まれます(図1)。

バーは、情報を伝える黒い線です。基本コードには、幅の広いバーと狭いバーという2つのサイズがあり、リーダでバイナリ情報に変換されます。その他のコード形式では、バーの幅を変えたり、ホワイトスペースを入れたりして、より詳細な情報を伝えることができます。

クワイエットゾーンは、バーコードの端にある空白部分で、スキャナがコードの始まりと終わりを識別できるようにするものです。これは、すべての1次元バーコード形式に共通する機能です。

スタートコードとストップコードは、バーとスペースの特定の組み合わせで、バーコードの始まりと終わりを示します。

チェックデジットは、データの正確性を確認し、データの読み取りエラーから保護するために使用します。

ヒューマンリーダブルコードは、バーコードの機械読み取り可能な情報の一部ではありません。

モジュール幅は、バーコードの最小のセルまたはバーの高さ/幅で、コードを正確に読み取るためにスキャナが必要とする最小の分解能を決定します。

Code 128形式を使用した1次元バーコードの構造を示す画像図1:Code 128形式を使用した1次元バーコードの構造(色は識別用)。(画像提供:Banner Engineering)

2次元バーコードは、より複雑で、より多くのデータを含んでいます。一般的な2次元バーコードには、以下のようなものがあります。

  • 自動車、電子機器、USPSアプリケーションで使用されるDataMatrix
  • 自動車や商業マーケティングにも利用されるQRコード
  • 旅行券や一部の車検証で使用されるAztec
  • マテリアルハンドリング向けやUnited Parcel Service(UPS)で使用されるMaxiCode

DataMatrix形式には、以下のものが含まれます(図2)。

セルは、2次元マトリクス内にある黒と白の四角い領域で、データが格納されています。

クワイエットゾーンは、2次元バーコードの周囲にある空白部分で、スキャナがコードの始まりと終わりを識別できるようにするものです。

ファインダ(または「L」)パターンは、コードを読み取る正しい方法を識別できるように、リーダの向きを変えるためにあります。

クロッキングパターンはファインダパターンの反対側にあり、コード内にあるセルの大きさと、バーコードの行と列の数をリーダに伝えます。

2次元バーコードDataMatrixの構造を示す画像図2:2次元バーコードDataMatrixの構造(色は識別用)。(画像提供:Banner Engineering)

2次元バーコードには、エラー訂正データも含まれます。コードによっては、リーダのデータ収集の質を向上させるために、エラー訂正データを3回含めることがあります。

バーコードの読み取り

レーザースキャナは、1次元バーコードを読み取るためのシンプルでコスト効率の高い方法を提供します。回転ミラーを使用してレーザーをバーコードに照射し、その反射光をフォトダイオードで測定します。光測定結果はその後、デジタル出力に変換されます。高速レーザースキャナでは1秒間に最大1,300回のスキャンが可能ですが、2次元バーコードは読み取れません。

イメージングリーダを使用すれば、1次元バーコードと2次元バーコードの両方を読み取ることができます。このようなリーダは、バーコードの画像を取り込み、画像処理ソフトウェアで解析することで、バーコードの位置や方向を特定して読み取ることができます。イメージリーダは、レーザースキャナと比較して、複数の高さを読み取るための被写界深度が広く、複数のバーコードを同時に読み取ることができます。読み取り速度は、イメージングカメラや処理ソフトウェアの性能に依存します。

Wirepas自己形成型モバイルネットワーク

バーコードに加え、無線タグやIIoTを活用することにより、サプライチェーン全体で物品の識別、位置、状態に関する情報を提供できます。Wirepasは、ロジスティクス4.0アプリケーションのサポートに必要なスケールと密度を実現するために設計された、自律型および自己形成型の無線接続プロトコルです。Bluetoothのような従来のメッシュネットワークは、輻輳や帯域幅の制限により、大規模な接続に苦労することがあります。Wirepasは、ネットワークインテリジェンスをノードに分散させることでそれらの障壁を取り除き、無衝突の無線周波スペクトルによる自己回復ネットワークを実現します(図3)。

WirepasがBluetoothの代替となり得ることを示す図図3:管理する物品数が多い物流追跡アプリケーションにおいて、WirepasはBluetoothや独自の無線プロトコルに代わる選択肢を提供できます。(画像提供:Würth Elektronik)

Wirepas Meshソフトウェアは、大規模ネットワークや電池駆動ネットワーク向けに設計されています。各ノードには、以下の特長があります。

  • ネットワーク環境をスキャンし、最適な経路を選択します。
  • 近接するノードの近さに応じて、送信電力を調整します。
  • ルーティングノード、非ルーティングノード、またはシンクとして動作可能です。
  • 低電力モードと低遅延モードの切り替えが可能です。
  • 最適な周波数を選択します。
  • 干渉に対する耐性を有しています。

数社の大手コンテナ輸送会社によって設立された独立組織のDigital Container Shipping Association(DCSA)は、輸送コンテナの無線接続インターフェース規格を発表しました。Wirepasは、DCSA規格に準拠しています。

1次元および2次元バーコードの実装

1次元または2次元バーコードを使用してロジスティクス4.0の追跡システムを設計する場合は、Banner EngineeringのWVGA(752 × 480ピクセル)画像ベースバーコードリーダABR3009-WSU2を利用することができます(図4)。工場出荷時に45mm、70mm、125mmという3つのフォーカス位置で校正されており、個々のアプリケーションに応じて微調整が可能な連続焦点範囲を備えています。ABR3009-WSU2では、57フレーム/秒の撮影が可能です。

Banner EngineeringのABR3009-WSU2の画像図4:Banner EngineeringのABR3009-WSU2は、1次元および2次元バーコードのフルライブラリを読み取ることができます。(画像提供:Banner Engineering)

標準的なすべての1次元および2次元ABR 3000シリーズのリーダは、DataMatrixバーコードを読み取るように設定されており、シンプルな構成の場合はオンボードのプッシュボタンを使用して、他のスタイルを読み取るように簡単に設定できます。より複雑な構成の場合は、Bannerのバーコードマネージャソフトウェアを使用してPCで行います。ソフトウェアで調節可能なオートフォーカスなどのレンズオプションを使用すれば、セットアップや設定をさらに簡素化できます。デバイスの統合とIIoTデータの収集は、産業用Ethernet、シリアル接続、またはUSB接続で設定できます。モデルABR3009-WSU2はIP65定格で、埃およびノズルから噴射される水から保護されます。

Wirepas無線モジュール

Würth ElektronikのThetis-Iは、Wirepasメッシュ通信プロトコルをサポートする2.4GHz無線モジュールです。設計者は、見通し線400mの品番2611011021010を使用して、Wirepasをロジスティクス4.0の資産追跡デバイスに組み込むことができます(図5)。送信出力(Tx)は6デシベルメートル(dBm)、受信感度(Rx)は最大-92dBm、伝送速度は最大1Mbpsです。2611011021010には、Txモードで18.9mA、Rxモードで7.7mA、スリープモードで3.16μAが必要となります。サイズは、8 × 12 × 2mmです。

Wirepasメッシュプロトコルを備えたWürth Elektronikの2.4GHz Thetis-I無線モジュールの画像図5:Wirepasメッシュプロトコルを備えた2.4GHz Thetis-I無線モジュール。(画像提供:Würth Elektronik)

Wirepasメッシュプロトコル搭載のThetis-I無線モジュールを使用したロジスティクス4.0アプリケーションの開発を加速するために、ミニEVボード、USB無線スティック、3つのセンサノードを含むThetis-I EVキットを使用できます(図6)。Wirepasメッシュのプロトタイプネットワークは数分で設定でき、EDV-Kitの各コンポーネント(ミニEVボード、USB無線スティック、センサノード)を別途購入することで、プロトタイプネットワークを拡張できます。

Thetis-I Wirepas Meshモジュールを搭載したWürth ElektronikのThetis-I EVキットの画像図6:Thetis-I EVキットは、Thetis-I Wirepas Meshモジュールを搭載し、ミニEVボード、USB無線スティック、3つのセンサノードがセットになっています。(画像提供:DigiKey)

ミニEVボードは、アプリケーション開発のためのホストマイクロコントローラとの接続をサポートします。センサノードは31mm × 32mmの電池駆動基板で、圧力センサと湿度センサを搭載しています。センサデータは無線モジュールによって自動的に読み取られ、メッシュネットワークに送信されます。また、EVキットには、無線モジュールとの通信、ネットワーク設定、センサデータの監視をサポートする、WürthのPCツールWirepas Commanderソフトウェアも付属しています。

まとめ

ロジスティクス4.0は、サプライチェーンの全物品に関するリアルタイムの詳細な情報に依存しており、サプライチェーンの混乱を早期に警告するために、ネットワークシステム、オートメーション、低レイテンシ通信を使用してインダストリ4.0と統合する必要があります。成功する物流システムを実装するためには、複数の追跡技術が必要となります。この記事では、ロジスティクス4.0ソリューションで協調動作する1次元および2次元バーコードと拡張性の高い無線Wirepasネットワークに関するさまざまな選択肢を紹介しました。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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DigiKeyの北米担当編集者