産業用Ethernetが工場環境で産業用IoTを強化する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2025-08-12
通常のEthernet機器を工場で使用するとどうなるでしょうか。工場環境ではすぐに故障します。工場では-40°C~+75°Cという極端な温度環境で稼働し、絶え間ない振動にさらされ、過酷な化学薬品にさらされます。産業ネットワークに障害が発生すると、生産が停止し、経済的損失につながります。
この記事では、産業用Ethernetと従来のオフィスネットワークの違いについて説明します。さらに、特別なコンポーネントが機械間で通信を確実にする仕組みについても説明します。説明は主に次の3つの部分で構成されています。過酷な工場環境に耐えうるネットワークの構築、耐環境性ネットワークスイッチ、産業グレードのケーブル、および保護パッチパネルについてです。
産業環境における性能の限界
産業用モノのインターネット(IIoT)は、標準的なIT機器がすぐに使えなくなるような環境下で動作します。製造現場では、床からは冷却システムを詰まらせる粉塵が発生し、食品加工現場では湿気がショートや腐食を引き起こします。極端な温度、絶え間ない振動、モータからの電磁干渉はすべて、通常のネットワーク機器を危険にさらし、故障やコストのかかるダウンタイムを招きます。
時々の遅延なら許されるオフィスネットワークとは異なり、産業用ネットワークは決定論的でなければならず、予測可能な時間枠内でイベントが発生するようにしなければなりません。標準Ethernetは確率的(ベストエフォート)プロトコルであり、配信時間は保証されていません。産業用アプリケーションでは、互換性と決定論性が求められます。特にモーションコントロールのような操作では、ミリ秒単位の遅延が機器を損傷させる可能性があるためです。
互換性と決定論の維持
図1に示すように、産業用プロトコルはPROFINETベースのネットワークを使い、OSI(Open Systems Interconnection)モデルのレイヤ7 で動作します。PROFINETはPROFINET RTとPROFINET IRT(「Isochronous Real-Time:等時性リアルタイム」)に分けられます。RTは通常のTCP/IP処理をバイパスして待ち時間を短縮し、IRTはEthernetのトラフィックスイッチングルールを変更して、タイムクリティカルなデータ交換を優先します。
図1:OSIモデルは産業プロトコルが各ネットワーク層でどのように機能するかを示しています。(画像提供:Eaton)
PROFINETは物理層(1~2)において標準Ethernet上で動作するため、産業用ネットワークは通常のEthernet機器と接続することができ、同時に機械制御のための正確なタイミング、プロトコルの柔軟性、ネットワークの拡張性を有しています。
IIoTオートメーションシステムのコンポーネントと運用上の課題
産業用Ethernetスイッチ、ケーブル、パッチパネルは、ファクトリオートメーションにおける産業用モノのインターネット(IIoT)に不可欠なコンポーネントです。3つのコンポーネントそれぞれに共通および固有の課題が存在します。
共通の課題:すべてのコンポーネントは、工場機械からの電磁干渉から保護する必要があります。このため、スイッチとパッチパネルにはシールドされたハウジングが必要であり、ケーブルにはシールドツイストペア(STP)またはホイルで遮蔽されたツイストペア(F/UTP)構造が採用されています。スイッチは耐衝撃性を備えた堅牢なケースを、ケーブルは振動や機械的ストレスに耐える設計を、パッチパネルは14ゲージの冷間圧延鋼板などの頑丈な材料を採用しています。
固有の課題は以下の通りです。
産業用Ethernetスイッチ
- 極端な温度範囲(-40°C~+75°C)でも確実に動作すること
- 不安定な産業用電源に対応するため冗長化されたDC電源入力とアラームリレーが必要
- 重要な産業用データストリームに優先するためのQoS(Quality of Service)プロトコルが必要
産業用Ethernetケーブル
- 直接環境にさらされるため、防塵および防滴のためにIP68定格のコネクタが必要
- 振動による断線を防ぐため、ロックネジ付き専用M12コネクタを使用
- 機械周辺の狭いスペースの設置に対応するため直角プラグを採用
産業用パッチパネル
- 高密度設計により、限られたスペースに多数のケーブル配線を整理する必要がある
- 長期的な接続の完全性を維持ためストレインリリーフバーを内蔵
- 密集したラックでもアクセスしやすい90度ダウンアングルポートを採用
Eatonは, 工場環境における上記課題を解決する工業用Ethernetスイッチ、ケーブルおよびパッチパネルを含む幅広い産業用Ethernetソリューションを提供しています。
産業用Ethernetスイッチ
EatonのNGIシリーズスイッチは産業用ネットワーク上のデバイスを接続します。サイズには、5ポートの小型のものから16ポートの大型のものまであります。この小型スイッチは最大14Gbpsのデータに対応します。大型スイッチは最大32Gbpsのデータに対応します。すべてのRJ45ポートは、10Mbps、100Mbps、または1000Mbpsの3種類の速度で動作可能です。図2は、NGI-U08AおよびNGI-U05C2POE4モデルの主要コンポーネントの製品イメージを示しています。
図2:EatonのNGIシリーズ産業用Ethernetスイッチの主要コンポーネント。(画像提供:device.report)
NGI-U05POE4ネットワークスイッチは、耐振動および耐衝撃性を備えた堅牢な金属ハウジングを採用し、-10°C~+60°Cの温度範囲で動作可能です。主な特長は、最大30W電力を供給可能な4つのPoE+ポート(総電力は120W)を備えていることです。これにより、ACコンセントが容易に利用できないエリアにおいて、カメラやセンサなどのデバイスに電源を供給することが可能になります。
機能の強化を求める場合には、動作温度範囲が-40°C~+75°Cと広く、振動に耐える堅牢なケースを備えたNGI-U08Aネットワークスイッチが適しています。このモデルの電源冗長機能は、電源供給が不安定な状況下で特に有用です。産業用データストリームに優先順位付けを支援するEthernet/IP QoSe(EIP QoS)を搭載し、より優れたパフォーマンスレベルを実現します。
産業用Ethernetケーブル
Eatonの産業用Ethernetケーブルはモータや重機にから発生する干渉から信号を保護するためにシールド構造(STP または F/UTP)を採用しています。ケーブルは、IP68定格のコネクタやCMX屋外対応の被覆などの機能により、粉塵、湿気、腐食性要素に耐える設計になっています。
絶え間ない振動による接続不良を防ぐため、ケーブルには堅牢な丸型M12コネクタを使用し、12mmのロックネジにより確実な接続を実現します。多くのケーブルはPoE(Power over Ethernet)に対応しており、電源コンセントが利用できないセンサやカメラなどのデバイスへ、単一ラインで電源とデータを供給することができます。
N206-PC23-IND(図3)はIP68定格に準拠しており、コネクタが防塵構造であること、水深1.5mでの最大60分間の浸水に耐えられることを示しています。CMX規格のジャケットを採用しているため、屋外用途に適しています。-20°C~+80°Cの極端な温度環境で動作するように設計されています。
図 3:EatonのRJ45コネクタ付き産業用Cat5e/Cat6 STP Ethernetケーブル(モデルN206-PC23-IND)。(画像提供:Eaton)
本ケーブルのシールド構造は、電気モータや溶接装置などの重機から発生するEMI/RFIラインノイズからの保護に効果的です。PoEに対応しており、セキュリティカメラやVoIP電話などの互換性のあるデバイスへの給電が可能です。
2-6A4-01M-BL(図4)およびNM12-602-02M-BL産業用ケーブルは M12コネクタを備え、防塵および防水性能でIP68定格を取得しています。これらのモデルは、高電力60W PoEをサポートし、オスのM12 X-CodeコネクタとオスのRJ45コネクタを接続します。
図4:EatonのNM12-6A4-01M-BL、直角M12コネクタと60W PoEサポートを備えた10G Cat6aシールド産業用ケーブル。(画像提供:Eaton)
NM12-6A4-01M-BLは、NM12-602-02M-BLに対し優位性を有し、より高速な10Gbpsネットワーク速度と、高速アプリケーションにおける干渉対策のための全面ホイルシールド(F/UTP)を提供します。また、図4に示すように、特殊な直角M12コネクタを備えてているため、ケーブルの張力を軽減し、狭いスペースでも容易に接続できます。しかし、より長いケーブル長(6.6フィート)、より低いネットワーク速度(1Gbps)でストレートM12コネクタのみが必要な場合は、NM12-602-02M-BLで十分対応可能です。
産業用パッチパネル
産業用パッチパネルは完全シールドされたRJ45ポートを備えており、製造環境で一般的な電磁干渉から保護します。このシールド設計により、EMIやRFIによるデータの破損を防ぎ、パケット損失や再送信の必要性が低減されます。スペース効率に優れたオプションには、標準的な1Uモデルと省スペースの0.5Uモデルがあり、限られたラックスペースでより高いポート密度を実現します。
図5に示すように、N254-024-SH-Dモデルは、RJ45ポートが90度下向き(C)に配置されており、狭い産業用スペースでのケーブル管理を容易にし、ケーブルやコネクタへの負担を軽減します。専用のグランド線(D)は、シールドの適切な電気的接地を確保し、電気的ノイズの多い産業環境におけるEMI/RFI保護性能を最大限に引き上げます。
図5:主要な産業用特徴を強調したEatonの産業用パッチパネル(モデルN254-024-SH-D)。(画像提供:Eaton)
産業用ネットワークの信頼性最適化のための統合戦略
産業用Ethernetコンポーネントを統合する際は、仕様を環境上の課題に一致させます。食品加工施設では、粉塵の多い倉庫よりも高い防湿性が求められます。一方、溶接装置のある場所では、強化された電磁干渉(EMI)シールドが必要です。
容量を増やせるエンクロージャ、より広帯域のケーブル、予備ポートを備えたスイッチなど、拡張機能を備えたコンポーネントを選択することで、成長を見据えた計画をを立てます。インフラ全体で一貫した性能仕様を維持することで、相互運用性を確保します。スイッチが10Gbpsをサポートしている場合は、同じ帯域幅に対応したケーブルを使用します。
時間に敏感なアプリケーションを設計する際は、レイテンシとジッタの両方を考慮します。床面積が限られる場合は壁掛け型エンクロージャで物理的な制約を解決し、最適なデバイス設置位置に到達するようケーブル長を延長します。
まとめ
産業グレードのネットワークは、標準的な機器が故障した場合でも確実に動作します。これによりダウンタイムが削減され、メンテナンスコストも削減されます。さらに、分析用の一貫したデータを提供します。メーカーが標準Ethernetと産業用プロトコルを組み合わせると、多大なメリットが生まれます。この組み合わせにより、ユニバーサルなコネクティビティと精密なタイミング制御が実現します。デジタルツインや予知保全には、このタイミング制御が不可欠です。
工場がIoTを導入する中、堅牢なインフラが違いを生み出します。適切な産業用Ethernetに投資した企業は、すぐに運用上のメリットが得られます。この投資は同時に、インダストリ4.0の進展に備える基盤となります。こうした進展には、製造施設全体にわたる信頼性の高いネットワークが求められます。
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