自律車両によって改善される農業の持続可能性と生産性
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-02-08
無人トラクタ、ドローン、種まき・除草・収穫ロボットは、農業活動の持続可能性と生産性を向上させることで食糧不足の解消に貢献し、農業を変革する技術として、開発が進められているテクノロジーの例です。種類を問わず、自律車両さえあれば、人はトラクタなど機械の運転から解放され、より付加価値の高い活動を行えるようになります。そのような活動の例としては、精密農業の実施があります。精密農業は、収量を増大させたり環境への悪影響を低減させたりするほか、水不足や労働力不足などの制約に関する問題に対処することで農業経営の持続可能性を向上させたりもします。
ドローンや農業ロボットはゼロから開発・導入される新しいシステムですが、トラクタは違います。トラクタは既に多くの導入実績があり、耐用年数も長い傾向にあります。そのため、完全自動化された新設計が開発されているだけでなく、既存のトラクタが電気駆動に改修されて特殊目的用デジタルシステムにアップグレードされます(「デジタルトラクタインプルメント」と呼ばれます)。
そこで本稿では、デジタルトラクタインプルメントと新興の電動トラクタ(Eトラクタ)の開発を取り上げ、無人トラクタの開発に向けた課題を概説します。さらに、ドローン、トラクタ搭載センサ、およびAIやMLが精密農業にどのように活用されているかを見ていきます。また、農業用自律車両の開発を実現するために必要ないくつかの技術を検証します。また、マシンビジョン、モータ & 制御装置、パワーコンバータ、センサ & スイッチ、有線 & 無線通信インターフェース、各種の信号 & 電源ケーブル & コネクタなど、DigiKeyの幅広い製品が、設計者の開発プロセスの迅速化にいかに役立つかについても解説します。最後に、未来の農業について簡単に説明します。つまり、農場が完全自律型になると、生産性と持続可能性を最大化するために、自律型と標準型の両方の農機を含む混合車両群を管理できる高度な運用システムによって制御されるようになることを示します。
農業インプルメント向けに策定されたISObus
農業も、インダストリ4.0と同様に、相互接続されたインテリジェントな機械を使う方向に向かっています。そこで登場したのが、国際標準化機構(ISO)11783「農林業用トラクタ・機械シリアルデータネットワークバス」規格です。農業界では、単に「ISObus」(ISOバス)と呼ばれるものです。CAN(Control Area Network)バスが記載されているSAE(自動車技術者協会)J1939プロトコルを農業用途向けに最適化したものです。ISObusは、ISO11783規格の強化された認証テストを手配しているAgricultural Industry Electronics Foundation(国際農業電子財団:AEF)によって積極的に推進されています。
ISObusが導入される前は、農業従事者は独自の制御システムを備えたトラクタを使用していたため、柔軟性、性能、相互運用性に制限がありました。ISObusでは、コネクタ、通信プロトコル、運用ガイドラインが規格化されているので、複数メーカーのセンサシステムや制御システムを相互接続した形で開発することが可能です(図1)。また、ISObusは、トラクタのインプルメントの電動化もサポートしています。たとえば、電動の機械式パワーテイクオフ(PTO)をサポートしているほか、電動インプルメントに電力を供給するために最大700ボルト(V)、100キロワット(kW)の定格を持つ高圧コネクタなどをサポートしています。
図1:ISObusは、多様なメーカーのセンサやインプルメントをプラグアンドプレイシステムに統合することが可能です。(画像提供:Armin Weigel / dpa(写真提供:Armin Weigel / picture alliance / Getty Images))
ISObusは、TIM(Tractor implement management:トラクタインプルメント管理)システムを開発しようと進化しつつあります。このISObusの進化版では、各インプルメントからトラクタへのフィードバックが可能になり、トラクタとインプルメントを統合したシステムの最適化をサポートすることが構想されています。また、精密農業をサポートするインプルメントに、より高度なセンサを統合することも可能になります。トラクタは位置情報を提供し、統合システムは土壌や作物の状態に関するデータを継続的に収集することになります。さらに詳しく洞察することで、収量を増やし、持続可能性を高めることができます。
Eトラクタ、改修、無人トラクタ
自律車両を今後導入したり農業の持続可能性を高めたりするうえで、トラクタの電動化は、ISObusの継続的な開発とともに重要です。排出量削減が検討ポイントとして必須だからです。世界の温室効果ガス排出量の4分の1は農業と農業関連活動によるもので、トラクタ1台の排出量は自動車14台分に相当します1。
そこで、Eトラクタが台頭し始めております。Eトラクタは、ガス排出量の削減に加え、燃料コストの大幅な削減が可能だからです。大型で高出力のEトラクタは従来のトラクタのバッテリパックよりも大きなバッテリパックを必要とするため、現在、Eトラクタは小型モデルに限定されています。また、大型のEトラクタは重量が重いので土壌圧縮も増すため、望ましくなくなっています。さらに、大型のバッテリパックは充電時間が長すぎるので、農作業には実用的ではありません。25~70馬力(約18.6~52kW)のモータと小型バッテリパックを搭載した小型のEトラクタが、既にテストに入っています。トラクタの電動化は、駆動系のことだけではなく、トラクタのインプルメントを駆動・制御するための油圧を置き換えることでもあります(図2)。
図2:25~70HPのモータを搭載した小型Eトラクタが、配備に向けたテスト・準備に入っています。(画像提供:Getty Images(写真提供:brizmaker))
大型トラクタ向けには、ハイブリッド改造キットが用意されています。たとえば、あるサプライヤは、油圧ポンプの代わりにトラクタの既存の内燃機関に取り付けることができる250kWの発電機を含むキットを提供しています。このキットの同梱物としては、油圧駆動システムに代わる4つの電気モータと、既存のインプルメントを駆動するための電気式トランスミッションも含まれています。この改造キットは、油圧システムに取って代わることで、燃料コストやメンテナンスコストを削減するだけでなくハイブリッドEトラクタの可用性と信頼性を向上させます。
無人トラクタも、自律車両や無人トラックと同様に、今後の先行きは不透明な状況です。たとえば、カリフォルニア州の現在の規制では、「すべての自走式車両は、自力で動いている際、車両制御装置の前にオペレータを配置しなければならない」と定められています。完全な自律性を持つのはまだ先なわけです。
圃場の上空を飛行:
現在、広範な農作業にドローンが活用されています。例としては、以下のようなものがあります。
- 植物の健康状態を画像化する作業:作物の健康状態を監視する手段は、衛星画像からドローンにほぼ置き換わっています。NDVI(正規化植生指標)撮影機器を搭載したドローンは、植物の健康状態を監視するために使用できる詳細なカラー画像を提供します。衛星画像が入手に時間がかかってメートル精度であるのに対し、ドローンならミリメートル精度の画像が得られ、病害虫などの問題をリアルタイムで非常に細かく特定することが可能です。
- 圃場の状況を監視する作業:ドローンは圃場全体の土壌や水はけの状態をも監視することができます。これにより、より効率的で持続可能な散水計画を実現することが可能です。
- 植え付け作業:ドローンによる自動種まき機は、林業では一般的ですが、農業全般にも利用が広がっています。ドローンは、樹木や種子を素早く植えることができるだけでなく、アクセスしにくい場所にも効率よく植え付けることができます。たとえば、オペレータ2人のチームで複数のドローンを使って1日に40万本の植樹を行うことができます。
- 散布作業:ドローンを使った肥料や農薬の散布は台頭してきているアプリケーションですが、その利用状況は地域によって異なります(図3)。たとえば韓国では、農薬散布におけるドローンの使用率は約3割です。カナダでは、農薬散布にドローンを使うことは違法です。米国では、ドローンによる散布を行うには、連邦航空局(FAA)および州の農業・ビジネス・交通部門が義務付ける許認可が必要です。
図3:肥料や農薬の散布処理に使える大型ドローンが開発されています。(画像提供:Getty Images(写真:baranozdemir))
精密さによって少ないリソースで多くの収穫物を生産
ドローンやトラクタとトラクタインプルメントの電動化は、無人トラクタが実現する前から、精密農業を支援することと、持続可能性を高めることが期待されています。
米国[農業]機械製造業協会(AEM)の調査によると、精密農業の利用により、作物生産量の4%増、施肥効率の7%増、除草剤・農薬使用量の9%減、化石燃料使用量の6%減につながるとされています2。また、精密灌漑により水の使用量を4%削減することができます。
これらの数値は、現在の技術に基づくものです。コネクテッドシステムや人工知能(AI)が加わることで、それらの改善値は大幅に向上すると期待されています。車両のメンテナンスに機械学習(ML)を加えることで、さらにコストを削減するとともに持続可能性を向上させます。
AEMによると、肥料・農薬・燃料投入量の削減と収穫高の向上を両方とも計算に入れた場合、農機の自律化によって24%の改善が見込まれるとのことです。そのような改善が実現するには、「自律型機械が、取って代わられる元の機械よりも軽量化されることで、土壌圧縮が少なくなり、土壌状態が改善される」という前提が重要な要素となります。
また、AIとMLも、特定のタスク向けに最適化された精密機械の開発には欠かせないでしょう。特定作業用の機械は、汎用トラクタよりもさらに小型にすることができます。たとえば、マシンビジョンや繊細なタッチ、正確な手先の動きが要求される収穫作業のための小型マシンが開発段階にあります。
除草も、特定作業専用のAI/MLマシンが大きく貢献することが期待されるもう一つの分野です。除草は難しく、手間がかかるうえ、効率的に行わなければ、水の使用量増加と土壌養分の枯渇につながります。輪作は部分的な解決策ではありますが、除草剤や手作業による除草の必要性をなくすことはできません。マシンビジョンとAIやMLを統合した除草ロボットがテスト段階に入っています。また、これらの小型マシンは土壌圧縮も最小限に抑えるものです(図4)。
図4:マシンビジョンとAI/MLを統合した収穫用自律型ロボットの例(画像提供:Getty Images(写真提供:onurdongel))
農業OSと自律型車両群
農業界が見据えている未来とは、自律型と標準型の両方の農機および陸上機械やドローンを含む混合車両群を管理できる高度なオペレーティングシステム(OS)によって完全自律型の農場を制御することで、生産性と持続可能性を最大限に高めるものです(図5)。これらの農機群を連携して運用することで、設備投資を抑制し、 労働力の必要性を最小限に抑えて、自律的な生産と精密農業の実現に必要なビッグデータを提供することができます。また、将来の農業OSは、多数のサプライヤの多様な農機に対応するように標準化・最適化されることになるでしょう。ISObusの採用は、オープンソースの標準化されたファームオートメーションへの第一歩に過ぎません。
図5:地上と空中で協調する自律型農業機械の群れが、より高いレベルの持続可能性を実現します。(画像提供:Getty Images。Scharfsinn86によるイラスト)
提案されている農業OSからは、CO2排出量の削減、燃料消費量の削減、およびバッテリ充電・管理の最適化などの効果も期待できます。また、ビッグデータ分析も、これからの農業に重要な役割を果たすでしょう。圃場から直接得られる大量のリアルタイムデータを用いて、意思決定、制御、運用計画の学習をAI & MLアルゴリズムに継続的に行わせ、精密農業を最適化することが可能になるでしょう。
まとめ
自律型農業トラクタや持続可能な精密農業の開発は、まだ黎明期にあると言えます。農業界は、その開発の道程をISObusとともに歩み始めたところです。次世代のISObusは、相互運用性を改善するとともに、相互接続された、より複雑な農機群を実現するのに役立つことでしょう。目標は農業OSの開発です。農業OSは、これらの農機群を、AIやMLのアルゴリズムによって膨大なリアルタイムのセンサデータと統合し、高い持続可能性と生産性を生み出すように協調する地上の機械と空中の機械のフォーメーションとして展開することができるというものです。
- ロボットの頭脳を持つ無人トラクタが農場を引き受ける、『Autoweek』誌
- 精密農業の環境効果を数値化、AEM
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