Bluetoothの方向検出を使用して、高精度で低電力の屋内リアルタイムアセットトラッキングを実現

著者 Bill Giovino

DigiKeyの北米担当編集者の提供

工場、倉庫、製造施設では、タグを使用してアセットのリアルタイム位置追跡を行うケースが増えています。そして、そのデータは通常、適切なクラウドベースのIIoT(産業用モノのインターネット)在庫管理システムに統合され、リモートでのアセットトラッキングを可能にします。問題は、NFCとは別に、ほとんどのアセットトラッキングソリューションは電池で動作するタグに依存しており、消費電力を可能な限り低く保つ必要があることです。さらに、ソリューションの中には、屋内で使用すると信頼性が低く、不正確なものもあります。

たとえば、GPSタグは屋内、特に鉄骨やコンクリートの建物では信頼性が低くなります。従来のBluetoothロケーションシステムは、受信信号強度インジケータ(RSSI)情報に基づいています。このRSSI情報は便利ですが、設計者の精度要件を満たしていないことがよくあります。必要とされているのは、屋内で使用でき、かつ長い電池寿命を実現する、信頼性と費用対効果が高く、高精度で電池駆動のワイヤレスアセットトラッキングソリューションです。

これらの課題に対応するために、この記事ではBluetooth 5.1の方向検出プロトコルとその動作方法について説明します。続いて、このプロトコルをサポートするSilicon Labsの費用対効果に優れたBluetoothモジュールを紹介し、この製品がIIoT在庫管理システムの精度要件と低電力要件の両方を満たす方法を説明します。

アセットトラッキングとは何か、なぜIIoTに必要なのか?

高度なIIoT在庫管理システムでは、世界中のどこにいてもクラウドからアセットをリアルタイムで追跡する必要があります。高価値の製品や備品を保管している大型倉庫では、在庫管理や盗難防止の補助のためにロケーションアセットタグが必要になる場合があります。これにより、人間の倉庫作業員だけでなく、自動化されたピッキング装置も迅速かつ効率的にアイテムを見つけ出し、出荷の準備をすることができます。在庫管理では、アセットの存在や位置を簡単に特定して、定期的なステータスレポートに項目化できます。入出庫のアセットを追跡する出荷マニフェストを手動で確認するよりも、確実に在庫状況を提供することができます。

IIoT在庫管理システム以外にも、アセットのリアルタイム位置追跡は盗難防止システムにも利用されています。倉庫内のアイテムが出荷の予定がない場合、出口付近で追跡された場合にIIoTシステムはセキュリティに警告を出すことができます。また、翌日配達から当日配達へと急速に進化している時代に、リアルタイムのアセットロケーションは、サービスと配達を加速させることができます。

大量のアセットを追跡するためには、アセットロケーションタグは費用対効果が高く、電池寿命が長くなければなりません。NFCタグは電池を使用しませんが、レシーバはタグから20cm以内にある必要があり、その有用性が制限されています。GPSトラッカーは、特に鉄骨やコンクリート構造物によって、衛星の追跡信号が遮断される可能性があるため、屋内では信頼性が低くなります。

人気のあるアセットトラッキングソリューションは、Bluetoothのビーコンロケーション機能に依存しています。これは、ビーコンメッセージに符号化された基準信号強度と受信信号の信号強度を比較することにより、タグの位置を追跡する機能です。次に、ビーコンの位置を3つ以上のレシーバを使って三角測量し、ビーコンのおおよその位置を取得します。しかし、この方法では、在庫管理システムに必要な精度が得られません。また、位置精度は、湿度の変化だけでなく、フォークリフトや作業員、ドアなどの移動体によっても影響を受けることがあります。

Bluetooth方向検出

有効なソリューションとなるのがBluetooth 5.1仕様に含まれるBluetooth方向検出機能です。

Bluetoothの方向検出は、2つ以上のアンテナで受信した信号の位相シフトに基づいて電池駆動アセットタグの位置を三角測量します。その結果、1m未満の精度で、コスト効率の良い位置追跡ソリューションが実現します。屋内で確実に使用でき、単一のコイン電池で長期の運用が可能です。

Bluetoothの方向検出では、標準のBluetoothアドバタイジングパケットにCTE(連続トーン拡張)と呼ばれる新しい信号が追加されます。CTEは、Bluetoothの周波数+250Hzと計算された周波数で送信される連続トーンです。CTEは通常のBluetoothメッセージパケットとは独立しているため、これらのパケットを妨害したり、遅延させたりすることはありません。これにより、受信アンテナは、リアルタイムで途切れることなく連続的な固定信号を得ることができ、リアルタイムでの位置追跡の問題を解決することができます。

到来角と離脱角

Bluetoothの方向検出では、到来角(AoA)と離脱角(AoD)と呼ばれる2種類の位相シフト、アンテナベースの位置検出機構を使用しています(図1)。AoAは、外部システムが個々のタグを追跡しなければならない場合に使用されます。Bluetooth 5.1以降の対応モジュールを搭載したアセットタグがCTEをブロードキャストします。2つのアンテナを持つ基地局のBluetoothレシーバが到着信号を受信します。レシーバは、アンテナによって受信された2つのサンプリングされた信号間の位相差を使用して、三角測量によってアセットタグまでの距離を計算します。

図:AoA方式とAoD方式による方向検出(クリックして拡大)図1:AoA方式の方向検出(左)では、アセットタグがBluetooth AoA基地局ロケータに信号をブロードキャストし、ロケータが、2つ以上のアンテナで信号の到達角度を測定してタグの位置を決定します。AoD方式(右)では、Bluetoothの基地局が、自身の位置を計算するアセットタグにビーコンを送信します。(画像提供:Silicon Labs)

エイリアシングによるサンプリング誤差を防ぐためには、2つの受信アンテナ間の距離が、受信信号のナイキスト周波数の波長に対応している必要があります。ナイキスト周波数の波長は、受信信号の波長を2で割ったものです。約2.4GHzのBluetooth信号は12.5cmの波長に相当するので、2つのアンテナ間の距離は6.25cm以下でなければなりません。2つのアンテナでの信号間の位相差、2つのアンテナ間の既知の固定距離、および2つのアンテナの既知の構成を使用して、アセットタグまでの距離を計算することができます。

追加のアンテナ受信ユニットを最初のユニットと同じ構成の2つのアンテナで使用する場合、3D空間でのアセットタグの正確な位置を特定できます。

AoD方式は、アセットタグが自身の位置を追跡しなければならない場合に使用されます。AoD方式では、タグがBluetoothレシーバであり、複数のアンテナを持つ基地局がBluetoothトランスミッタです。基地局は、各アンテナからCTEを送信します。レシーバのファームウェアは、アンテナの数、各アンテナ間の既知の固定距離、複数のアンテナの既知の構成を把握しており、受信信号間の位相差を使用して自身の位置を計算します。

倉庫内のIIoT在庫管理システムでは、箱やコンテナに取り付けられた電池駆動のアセットタグはAoAを使用し、フォークリフトや自動化されたピック&パック装置はAoDを使用することになります。フォークリフトなどの自動化されたピック&パック装置はヘビーデューティで、省電力機器に頼らないため、Wi-Fi経由で位置情報をメインのIIoTハブに送信することができます。これらはすべて、IIoTクラウドインターフェースでリアルタイムに追跡することができます。

低電力のBluetooth方向検出モジュール

低電力のBluetooth 5.2方向検出アプリケーション向けに、Silicon LabsはBGM220 Bluetoothモジュールファミリを発表しました。このファミリは、単一の長寿命コイン電池で10年間の電池寿命を提供するように仕様規定されています。BGM220PC22HNA2バージョンは、フットプリントが12.9 x 15.0mm、プロファイルが2.2mmのBluetooth 5.2トランシーバモジュールです(図2)。1.8~3.8V電源を必要とするため、民生用モバイルデバイス向けの長寿命の3.0Vリチウムコイン電池や、より大きな充電式3.6Vリチウムイオン(Li-ion)電池で動作するアプリケーションに適しています。-40°Cから+105°Cで動作することができ、工場や産業用倉庫などの過酷な環境に特に適しています。

画像:Silicon Labsの小型Bluetooth 5.2モジュールBGM220PC22HNA2図2:BGM220PC22HNA2は小型Bluetooth 5.2モジュールで、単一の長寿命コイン電池で最大10年間にわたってBluetooth方向検出をサポートします。(画像提供:Silicon Labs)

BGM220PC22HNA2の無線は、2.4GHz帯で動作し、1mW(dBm)を基準とした8デシベルを出力します。このモジュールには、必要なデカップリングコンデンサとインダクタ、38.4MHzおよび32.768kHz発振器、内蔵セラミックチップアンテナが含まれています(図3)。このモジュールは、512Kバイトのフラッシュと32KバイトのRAMによってサポートされたArm® Cortex®-M33コアをベースにしています。

図:Silicon LabsのBGM220PC22HNA2 Bluetoothモジュール(クリックして拡大)図3:BGM220PC22HNA2 Bluetoothモジュールには、2.4GHz無線、メモリ、Arm Cortex-M33プロセッサ、ADCなど、自己完結型のBluetooth方向検出アセットタグをサポートするために必要なすべての機能が備わっています。(画像提供:Silicon Labs)

ファームウェアのカスタマイズで利用可能なペリフェラルには、76.9キロサンプル/秒(kSPS)16ビットA/Dコンバータ(ADC)が含まれています。このADCは、12ビット1,000kSPS ADCとして動作するように構成することもできます。ファームウェアのカスタマイズには、最大24個のI/Oピンが利用可能です。4つの16ビットタイマと1つの32ビットタイマがファームウェアイベントのタイミングに使用できます。2つのI2Cインターフェースで外部ペリフェラルにアクセスできます。BGM220Pには、UART、SPI、スマートカードインターフェース、IrDA、またはI2Sとして独立して構成できる2つの多機能USARTも含まれています。これにより、ピン数を抑えつつ、シリアルインターフェースの選択を柔軟に行うことができます。

BGM220PC22HNA2をBluetooth方向検出アセットタグで使用する場合、アプリケーションは必要なペリフェラルのみを使用し、使用していないものは電源をオフにして電池寿命を延ばすようにしてください。最小限のアセットタグ構成では、Bluetooth信号の送信を妨げない非金属ハウジングに3.0Vの電池を搭載したBGM220PC22HNA2のみが含まれています。外部スイッチをI/Oピンに接続して、個々のタグのIDを設定するなど、ブートのカスタマイズを行うことができます。1つ以上の外部LEDを取り付けることができますが、各LEDが電池をさらに消耗することに設計者は注意する必要があります。理想的には、LEDは構成時にのみ使用されます。

Bluetooth方向検出アプリケーションの開発

Bluetooth方向検出アプリケーションの開発向けに、Silicon Labsは、SLWSTK6103A BGM220P Wireless Gecko Bluetoothモジュールスターターキットを提供しています(図4)。BGM220Pモジュールのキャリアボードであるプラグイン無線ボードが含まれています。ボード中央には128 x 128のLCDディスプレイがあり、図ではSilicon Labsのロゴと追加のテキストが表示されています。

LCDディスプレイの下には、ファームウェアでプログラム可能な2つの押ボタンがあります。開発時にはLCDを使用してステータス情報を表示することができます。また、押ボタンでファームウェアのフローを制御することができます。デバッグはUSBコネクタを介してサポートされています。Silicon Labsのエネルギーモニタリングソフトウェアをサポートする追加のコネクタが用意されており、電力消費を必要最小限に抑えるようにアプリケーションを微調整することができます。

画像:Silicon LabsのSLWSTK6103A BGM220Pスターターキット図4:SLWSTK6103A BGM220Pスターターキットには、Bluetooth方向検出をサポートするBGM220Pモジュールのファームウェアを開発するために必要なものがすべて含まれています。(画像提供:Silicon Labs)

また、SLWSTK6103Aには温湿度センサが搭載されています。Bluetooth方向検出アセットタグ向けに、環境センサをI2Cインターフェースに取り付けることができます。これにより、アセットタグ周辺の条件をモニタすることができ、あらかじめ設定されたしきい値を条件が超えた場合には、Bluetoothでアラートを送信することも可能です。ヘッダコネクタには、追加のI/Oとペリフェラルピンが用意されています。スターターキットは、外部USB接続またはコイン電池で給電することができます。

まとめ

IIoT在庫管理システムにおけるリアルタイムのアセットトラッキングには、正確で信頼性が高く、小型で低電力の費用対効果の高いソリューションが必要です。前述のように、Bluetooth 5.1仕様の方向検出機能は、既製のモジュールを使用してアセットタグに素早く統合し、必要な程度のリアルタイム位置追跡機能と性能を提供できます。

参考記事

  1. 高精度アセットトラッキングおよび屋内位置決めにおけるBluetooth 5.1対応プラットフォームの使用 - 第1部
  2. 高度なBluetooth 5.2対応SoCを使用してセキュアな低電力IoTデバイスを構築
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著者について

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Bill Giovino

Bill Giovino氏は、シラキュース大学のBSEEを持つエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへの飛躍に成功した数少ない人の1人です。

Billは25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integratedなどの多くの企業のために技術的および非技術的な聴衆の前で新技術の普及を楽しんできました。STMicroelectronicsでは、マイクロコントローラ業界での初期の成功を支えました。InfineonでBillは、同社初のマイクロコントローラ設計が米国の自動車業界で勝利するように周到に準備しました。Billは、CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとして、多くの企業が成果の低い製品を成功事例に変えるのを手助けしてきました。

Billは、最初のフルTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、モノのインターネットの早期採用者でした。Billは「教育を通じての販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝するための明確でよく書かれたコミュニケーションの重要性の高まりに専心しています。彼は人気のあるLinkedIn Semiconductorのセールスアンドマーケティンググループのモデレータであり、B2Eに対する知識が豊富です。

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