窒化ガリウム(GaN)集積回路による電源効率の向上

著者 Jessica Shapiro

DigiKeyの北米担当編集者の提供

現代のエレクトロニクスの世界では、医療機器から携帯電話やノートパソコンの充電器、補助電源に至るまで、あらゆるものにパワーコンバータが必要とされています。筐体サイズの小型化、熱管理、可変入力電圧、スマート充電プロトコルなど、電源装置やコンバータの設計は複雑化する一方で、効率性への要求はますます高まっています。

過去10年間で、窒化ガリウム(GaN)チップ上の集積回路(IC)を用いた新しいスイッチ技術が登場しました。GaN回路は原子レベルで異なる挙動を示すため、パワーコンバータの設計者にとって課題であると同時に解決策も提示しています。

GaN半導体はバンドギャップが広く、3.4eVという値はシリコン半導体の3倍以上に相当します。他のワイドバンドギャップ材料と同様に、GaN半導体は、より高い電圧、最大+400°Cまでの温度での動作が可能であり、高電力アプリケーションでの使用を可能にします。またより高い周波数での動作が可能であるため、無線周波数(RF)および5Gアプリケーションにおいても有用です。

パワーコンバータアプリケーションにおいて、GaN集積回路はシリコンICよりも小型のサイズで、直列インピーダンス(RDS(ON))や並列静電容量(COSS)といったトランジスタ関連の損失を最適化します。シリコンICと同じフットプリントで、GaN ICはより高い周波数に対応可能でありながら発熱を抑えます。この特性により、設計者は大型の放熱器を小型化または不要にすることが可能となります。

しかしながら、GaNトランジスタは制御が難しい場合があります。高周波数に対する高い耐性があるということは、制御ドライバをトランジスタに近接させて配置し、遅延を除去するとともに、トランジスタのスイッチング速度を効果的に下げる必要があることを意味します。これにより、望ましくない電磁干渉(EMI)を回避することが可能になります。GaNを利用するパワーコンバータの設計者は、1次側(入力)用の高電圧パワースイッチと2次側(出力)用の制御IC、および帰還回路を単一デバイスに統合することで、これらの課題を克服しています。

スイッチング仕様

Power Integrationsは、PowiGaN™ 技術を搭載したInnoSwitch3を使用して、こうしたパッケージの複数のファミリを開発しました。たとえば、スイッチャICのInnoSwitch3-CPファミリ(図1)には、擬似共振(QR)フライバックコントローラを採用し、定電力(CP)プロファイルのための定電圧(CV)/定電流(CC)出力を供給します。

ICの1次側と2次側は電気的に絶縁されていますが、出力電圧および電流情報は、誘導結合を介して2次側コントローラから1次側コントローラに伝送されます。このFluxLink通信技術により、正確な情報を迅速に伝達され、高速な負荷過渡応答および最大70kHzのスイッチング周波数を実現します。

Power InnovationsのスイッチャIC InnoSwitch3-CPファミリの図図1:InnoSwitch3-CPファミリのスイッチャICは、1次側および2次側のコントローラが電気的に絶縁されていますが、磁気リンク(点線)を介してフィードバックを共有しています。(画像提供:Power Innovations)

InnoSwitch3-CPファミリのICは、ヒートシンクなしで50W~100Wを扱うことができるため、電源装置全体の体積を減らすことができます。これらの部品は、650Vでの連続動作に対応していますが、最大750Vのサージに耐えることができます。産業用モデルは、900Vまたは1,700Vの耐圧設計となっています。

InnoSwitch3-CPファミリのICを採用した電源装置は、許容負荷範囲全体で94%の効率を実現します。シリコンベースのスイッチが約90%であるのと比較して優れています。この高い効率性と、最小限の消費電力(30mW未満)により、InnoSwitch3-CPファミリは世界各国のエネルギー効率規制への適合を実現しています。

安全性と部品の長寿命を確保するため、InnoSwitch3-CPファミリのICは、UL1577(Underwriters Laboratories)規格に準拠した4,000VACの強化されたガルバニック絶縁を1次側と2次側の間に備えており、各ユニットはHIPOT試験を実施しています。その他の安全機能には、同期整流電界効果トランジスタ(SR FET)ゲートのオープン検出、入力ラインの低電圧または過電圧、出力の過電圧の検出機能が含まれています。また、ICコントローラは過電流を制限し、過熱前にシャットダウンすることも可能です。

InnoSwitch3-EPファミリのIC(図2)は、InnoSwitch3-CPファミリのICと類似しています。単一の定電力出力に最適化されているのではなく、加重SSRフィードバックを使用して複数の出力の電圧を平均化し、制御信号に変換します。

Power Innovations InnoSwitch3-EPスイッチャICファミリの画像図2:スイッチャICのInnoSwitch3-EPファミリは、入力電圧に依存する出力電力の範囲を有しています。回路上ではInnoSwitch3-CP ICに類似しており、2次側にオプションの電流検出抵抗を備えています。(画像提供:Power Innovations)

InnoSwitch3-EPファミリのICは、電圧依存型の出力特性を有します。InnoSwitch3-EP ICは、750Vで50W~100W、1,250Vでは最大85Wの出力を実現します。高電圧スイッチ動作向けに設計されており、耐圧は1,700Vです。

2次側において、InnoSwitch3-EPファミリでは電流検出抵抗はオプションです。この検出機能を有効にした場合、負荷電流が設定閾値を越えた状態で所定時間経過後に自動再起動するように設定することが可能です。

InnoSwitch3-CPのICは、USB Power Delivery(PD)プロトコルやQuickCharge(QC)プロトコル、その他の独自プロトコルに対応した民生用電源コンバータに広く採用されています。InnoSwitch3-EP ICは、より高い電圧対応能力と柔軟性を備えているため、産業用電源装置、需給計器、スマートグリッド向けの優れた選択肢となります。また家電製品の補助電源、スタンバイ電源、バイアス電源にも使用されています。

プログラム可能電源

InnoSwitch3-Pro IC(図3)では、I2C(集積回路間)デジタルインターフェースを介して、入力、出力、および障害のより動的な管理が可能です。ユーザーは、25kHz~95kHzの範囲で全負荷スイッチング周波数を任意の値に設定できます。大型トランスでは発熱を最小限に抑えるため低い周波数を選択し、小型トランスではより高い周波数を選択することが可能です。

Power InnovationsのスイッチャIC InnoSwitch3-Proファミリの図図3:スイッチャICのInnoSwitch3-Proファミリは、I2Cインターフェースを介したデジタル制御に対応しており、リモート状態監視、電圧および電流調整、スイッチング周波数の任意設定が可能です。(画像提供:Power Innovations)

マイクロコントローラをループ内に組み込むことで、InnoSwitch3-ProファミリのICには、追加の保護オプションが提供されます。ユーザーは、出力過電圧および低電圧故障に対する希望の応答を個別に設定することが可能です。また、入力電圧を監視し、ブラウンイン/ブラウンアウトおよび過電圧保護を確保することも可能です。また、マイクロコントローラはSR FETゲートのオープンも検出し、ヒステリシス特性のサーマルシャットダウンを管理することで、ICをより効果的に保護します。

InnoSwitch3-Pro ICの高度な設定可能性、低熱放散性、高効率性は、USB PD 3.0、QC、Adaptive Fast Charge(AFC)、Fast Charge Protocol(FCP)、Super Charge Protocol(SCP)などのプロトコルに対応する充電アダプタへの使用に最適です。設計者には、小型設計と最小限の発熱が求められるバッテリ充電器や可変LEDバラストに本製品が選ばれています。

小型コンデンサ

InnoSwitch3シリーズのようなスイッチングICは、パワーコンバータや電源装置のアーキテクチャの一部に過ぎません。たとえば、電源装置に入力されるAC電力の変動を平滑化するエネルギー貯蔵部品であるバルクコンデンサは、その電源装置内のスペースの25%を占める場合があります。

Power Integrationsは、PowiGaN ICスイッチング技術を用いて、MinE-CAPを開発しました。 これは 、2つの小型コンデンサと連動し、所定の電源電圧に適切な静電容量を提供するICスイッチおよびコントローラです(図4)。最大400Vに対応可能で、定格1μF~5μFのセラミックまたは電解コンデンサが常に作動しています。MinE-CAPは、より低い電圧が検出された場合に、定格160Vでありながらより高い静電容量を持つ追加の電解コンデンサを作動させます。

MinE-CAPは、大容量コンデンサを2つの小型コンデンサに分割することで必要なスペースを最大40%削減するだけでなく、突入電流防止用負温度係数(NTC)サーミスタも不要になります。MinE-CAPで制御されるコンデンサは、代わりに電源投入時の突入電流に対応できるよう容量が設計されています。

Power InnovationsのGaNベースICコントローラMinE-CAPの図図4:MinE-CAPはGaNベースのICコントローラであり、電源装置のバルクコンデンサを2つの小型ユニットに分割することで、必要体積を最大40%まで削減することができます。MinE-CAPは、InnoSwitch3 DC/DC変換製品との連携を想定して設計されています。(画像提供:Power Innovations)

まとめ

GaN半導体を用いたトランジスタ、制御IC、帰還回路を統合したスイッチングICは、この材料が持つ高温、高電圧、高周波への耐性を活用しています。これらのICにより、プリント回路基板の小型化、ヒートシンクの不要化、コンデンサの配置自由度が向上し、多機能電源装置をより小型な筐体に収めることが可能になります。Power IntegrationのPowiGaN技術を採用したInnoSwitch3のGaN製品ラインは、高電力密度とさらなる小型化を追求する設計者の関心を引き続けるでしょう。

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著者について

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Jessica Shapiro

Jessica Shapiro uses her engineering and writing backgrounds to make complex technical topics accessible to engineering and lay audiences. While completing her bachelor's degree in Materials Engineering at Drexel University, Jessica balanced engineering co-ops with her work as a reporter and editor on The Triangle, Drexel's independent student newspaper. After graduation, Jessica developed and tested composite materials for The Boeing Company before becoming an associate editor of Machine Design magazine, covering Mechanical, Fastening and Joining, and Safety. Since 2014, she's created custom media focusing on products and technology for design engineers. Jessica enjoys learning about new-to-her technical topics and molding engaging and educational narratives for engineering audiences.

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