高電圧DC/DCモジュールの設計上の考慮点
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2025-07-15
アプリケーションが小型で絶縁された高電圧電源を必要とする場合、適切なDC/DCコンバータを選択することは、設計上の重要な判断です。コンバータは、信頼性と安全性に影響を与えるさまざまな電気的および環境的なストレスに耐えながら、正確で安定し、調整可能な出力電圧を保証する必要があります。
高電圧DC/DCコンバータの性能仕様は書類上では堅牢に見えても、実際のテストはモジュールが製品に組み込まれ、実際の環境で運用開始された時点から始まります。
DC/DCコンバータの評価と統合方法を理解することは、試作および量産への移行の成否を見極める上で非常に役立ちます。
高電圧DC/DCコンバータは、分析機器、半導体製造、医療診断、科学研究などの分野において重要な役割を果たしています。高電圧モジュールを重要で長期使用されるアプリケーションに組み込むためには、次のような特定の基準が必要です。
- 質量分析法と電気泳動法では、正確な化学分離と検出を行うために、安定した低ノイズの高電圧が不可欠です。
- ウェハ製造における静電チャックは、加工中にシリコンやガラス基板を保持するため、精密な電圧制御が必要です。
- 走査電子顕微鏡(SEM)では、ビーム制御と画像の鮮明さのために、超安定なバイアスが必要です。
- 高電子倍増管(PMT)は、測定や光子検出のノイズを避けるため、安定したバイアス電圧とリップルのない電圧を必要とします。
- コンデンサ充電回路は、レギュレータの高速電流制限とアーク保護機能により保護されます。
- 医療診断ツールは、分析対象物質(ターゲット物質)の検出や治療制御に高電圧モジュレータを使用し、信頼性と安全性が求められます。
これらの要件を満たす主要なソリューションとして、XP PowerのHRC05シリーズ (図1)の高電圧DC/DCコンバータモジュールがあります。このシリーズは、小型の5Wバージョンで、安定化性能と実装の容易さを両立させています。
図1:HRC05シリーズの5W定格高電圧DC/DCコンバータのフォームファクタ。(画像提供:XP Power)
モジュール要件
小型計測機器の設計、センサの実験、または新しい画像システムの開発など、これらのモジュールがどこに適合するかを理解することは、それらを効果的かつ創造的に活用する上で役立ちます。HRC05シリーズにより、製品設計者は高度に統合されたソリューションを実現できますが、効果的に活用するためには、設計レイヤの詳細に注意を払う必要があります。
XP PowerのHRC0524S6K0PおよびHRC0524S6K0Nモデルを分析することで、設計上の選択が明らかになります。両モデルは電気的および機械的特性はほぼ同一ですが、極性が逆になっています。どちらも仕様は以下の通りです。
- 入力電圧:22VDC~30VDC(定格24VDC)
- 出力範囲:0 → ±6,000V(0V~5Vの制御ピンでプログラム可能)
- 最大出力電流:0.83mA(~5W)
- フォームファクタ:小型SIPパッケージ(~64.8mm × 33mm × 15.2mm)
- 温度範囲:-40°C~+70°C
- 保護機能:短絡保護、アーク保護、過負荷保護、不足電圧/過電圧保護、サーマルシャットダウン
- 絶縁:入出力間5.2kVDC
大きな違いは出力極性にあり、HRC0524S6K0Pは0V~+6,000Vの正の高電圧を、HRC0524S6K0Nは0V~−6,000Vの負の高電圧を出力します。
最終的なアプリケーションによって極性が選択されます(図2)。たとえば、光電子増倍管(PMT)や静電チャックは、電子を引き込む、または基板を固定したりするために負のバイアスを必要とします。一方、圧電アクチュエータ、コンデンサ充電回路、またはイオン光学装置では、正の電圧変化を必要とします。
図2:HRC05シリーズは、重要な分析、医療、半導体、または検出器アプリケーションに最適です。(画像提供:XP Power)
両モジュールはフットプリントと制御動作が同じであるため、複数のバリエーションを含むプラットフォームや製品ファミリの設計時に便利です。設計者は、基板レイアウトを変更することなく、極性を変えることができます。変更が必要なのは、電気接続とアプリケーションロジックのみです。
極性を間違えても、モジュールが損傷するわけではありませんが、慎重に設計された製品が機能しなくなる可能性があります。コンバータが正常に動作しているように見えても、機能しない場合や不正確な測定値を出力する可能性があります。
負荷の電気的要件を理解することは、電圧や電源仕様を満たすことと同じくらい重要です。アプリケーションに応じて、必要な電圧と極性をすべて明確に定める必要があります。
高圧パワーコンバータの精度
高電圧システムでは、出力精度が最も重要な性能要因です。小さな電圧誤差やリップルでも、システム全体の性能を低下させる可能性があります。
XP PowerのHRC05シリーズは、アナログインターフェースを介して出力電圧を簡単に制御できるシンプルなソリューションを有し、設計者にシンプルさと柔軟性を提供します。VIN_CTRLピンに0V~5Vの信号を加えると、出力は線形にプログラムされ、0Vからモジュールの最大定格電圧まで調節されます。この最大定格電圧は、2kV~6kVの範囲で設定可能です。
同様に重要なのは出力の安定性です。HRC05シリーズは、通常、出力フルスケールの0.5%未満のリップルを保ち、これはほとんどのアナログフロントエンド、バイアス電源、およびセンサ回路にとって十分以上の性能を提供します。多くのシステム、特に光学系や低レベル信号検出を扱うシステムでは、この低リップルが、クリーンな測定結果とノイズが多く使用不能な結果の差を決定付ける要因となります。
ただし、高精度アプリケーションでは、開ループ制御では不十分な場合があります。そのような場合、外部較正または閉ループ制御回路の構築が必要となることがよくあります。たとえば、高抵抗の分圧器を使用して出力をADCに適した安全な出力レベルに電圧を低下させ、それをマイクロコントローラにフィードバックします。このフィードバックループは、温度や負荷条件が変化しても、VIN_CTRL信号を動的に調整し、目標電圧を正確に保ちます。
最終的に、HRC05シリーズからモジュールを選択することにより、設計者に高い精度を実現するための堅固な基盤を提供します。ただし、その精度がどれだけ維持されるかは、システム全体にどのように慎重に実装されるかによって決まります。
高電圧回路基板の考慮事項
XP PowerのHRC05シリーズのような高電圧DC/DCコンバータを回路基板に組み込む際、レイアウト設計では、低電圧システムやデジタルのみのシステムでは通常考慮されない詳細な点に注意する必要があります。
高電圧設計には、性能と安全性に影響を及ぼす可能性のある、いくつかの課題が存在します。これらの課題は、設計の初期段階で適切に対処されない場合、重大な問題を引き起こす可能性があります。具体的には以下の点が挙げられます。
- 低電圧回路からの適切なクリーページ距離およびクリアランス距離
- 高電圧領域にグランドプレーンを配置しない
- 回路基板のパッドに鋭いエッジを避ける
- 高電圧の付近にシルクスクリーンを配置しない
- 高電圧領域にメッキ穴を配置しない
- 必要に応じて、基板にスロットを配置して絶縁を確保する
- コンフォーマルコーティングおよびその他の絶縁材料(適用可能な場合)
さらに、PCBの高電圧側において、コンバータ付近に配置される部品の選択は困難になる場合があります。考慮すべきポイントおよび重要な仕様は、次の通りです。
- 電圧、電流、および電力定格
- 部品のディレーティング
- 温度係数
- 熱性能
PCB上のクリーページ距離とクリアランス距離を確保するだけでなく、設計者は、特にモジュールを高湿度環境や汚染の多い環境に組み込む場合、絶縁強化措置(切り欠きやコンフォーマルコーティングなど)を検討しなければならない場合があります。
高電圧設計は、単に電気仕様を満たすことだけではありません。基板の物理的特性と、それに加わる電気的ストレスとの相互作用を理解することが重要です。適切に設計された基板は、HRC05モジュールが製品の寿命にわたって信頼性高く、安全に、かつ仕様範囲内で動作することを保証します。
最終アプリケーションの統合
高電圧モジュールの選択は、作業の半分を占めます。製品に安全かつ信頼性が高く、コスト効率の高い方法で統合するためには、電気設計と物理設計の両面において細心の注意を払う必要があります。XP PowerのHRC05シリーズは、小型で信頼性の高いモジュールですが、重要なアプリケーションの要件を満たすためには、慎重なシステム統合が必要です。
設計者は、特にスペースが限られた製品や携帯可能な製品において、モジュールの高さを考慮し、隣接する導電性の表面からの適切な絶縁を確保する必要があります。HRC05モジュールは、サイズが約64.8mm × 33.0mm × 15.2mmの完全密封型のSIPに収納されています。PCBピンを介して垂直に取り付けられ、高電圧ピン周辺のクリーページ距離とクリアランスを保ちながら、基板スペースを節約します。
SIPパッケージは、熱を発生する部品が基板に接触するのを防ぐことで、熱管理を簡素化します。ただし、設計者は、ユニットが5Wの出力限界付近で動作する場合、特に温暖な環境下では、十分な空気の流れまたは受動的な冷却を確保する必要があります。
VIN_CTRLピンは主要な制御インターフェースとして機能し、0Vから5Vのアナログ信号を使用して、モジュールの定格出力(例:0kV~6kV)の0%~100%まで出力電圧を線形にプログラムします。この設計により、HRC05モジュールはマイクロコントローラのDACやアナログ制御ループとの統合に最適な選択肢となります。さらに、このモジュールはモニタリング出力として、VOUT_MON(スケール電圧フィードバック)とIOUT_MON(比例電流出力)を備えています。これらの出力により、システムはコンバータの性能を監視し、保護機能や較正ルーチンを実行することが可能です。
精密アプリケーションでは、設計者はファームウェアを介して閉ループを選択できます。このアプローチでは、VOUT_MONとIOUT_MONのADC読み取り値に基づいて、制御信号を常時調整します。これにより、システムは多様な負荷下でも安定を保ちます。
HRC05シリーズは、5.2kVDCの入力から出力までの絶縁性能を誇り、低電圧制御回路を高電圧の危険から保護します。このシリーズは基本絶縁要件も満たしており、多様な産業用および科学用アプリケーションに最適です。ただし、医療用患者接続機器の場合、強化絶縁または二重絶縁が義務付けられている場合があるため、注意が必要です。
HRC05シリーズには、内蔵のEMIフィルタが搭載されていません。したがって、システムレベルのEMC試験に合格するためには、設計者は入力フィルタリング(πフィルタやコモンモードチョークなど)を追加し、高電圧負荷の特性に応じて出力スナビングまたは抵抗負荷を検討する必要があります。
まとめ
小型システムに高電圧機能を統合するには、モジュールの性能と設計者の細部まで行き届いた配慮が必要です。レイアウト、熱管理、フィルタリング、信号制御など、あらゆる段階で適切な設計が求められます。XP PowerのHRC05シリーズ高電圧DC/DCコンバータは、高精度で安定かつ信頼性の高い高電圧電源アプリケーション向けに最先端のソリューションを提供します。HRC05シリーズは、プログラム可能な出力、優れたレギュレーション、堅牢な保護機能、および小型な設計を特徴とし、医療、産業、科学分野のアプリケーションにおける小型パッケージの最適なソリューションです。

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