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産業オートメーション向けのワイヤレスプロトコルの比較

著者 ジョディ・ムエラナー

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

第4次産業革命(インダストリ4.0)では、機械にインテリジェンスが提供され、自動化設備の効率と柔軟性が向上しました。このような複雑なシステムの増加に伴い、産業界ではワイヤレス通信の導入が進んでいます。結局のところ、インダストリ4.0のスマートマシンとモジュラーオートメーションは、次の項目によって定義されます。

  • 安全で適応可能な制御接続
  • 生産工程の値の収集と継続的な調整
  • 予知保全のための機械の状態監視
  • ビッグデータ分析機能のネットワーク化

これらの機能に対応するワイヤレス技術は、セルラー、Wi-Fi、Bluetooth、IEEE 802.15.4規格やプロトコルに基づいています。これは、設計技術者が、異なるベンダーのコンポーネントに互換性があることを期待していることが一因です。そのためには、独自のインターフェースではなく、業界標準のインターフェースでの接続が必要です。実は、相互運用性はインダストリ4.0の1つの側面に過ぎません。

画像:マテリアルハンドリングと協働ロボットのタスクを調整する鍵となるワイヤレス接続図1:ワイヤレス接続は、マテリアルハンドリングと協働ロボットのタスクを調整するための鍵となります。(画像提供:Getty Images)

ワイヤレス通信を搭載した個々の機器は、有線のネットワークに比べて一般的にコストが高くなります。しかし、この初期費用の増加は、いくつかの方法で相殺されます。そして、ワイヤレスデバイスは、多くの場合、長期的には最も費用対効果の高い選択肢となるのです。というのも、生産エリア内にケーブルを通すためのコストは、高額になる可能性があるからです。ケーブルやコネクタの配線計画には手間がかかります。さらに、ケーブルを保護するためには、ケーブルトレイやキャリアによる物理的なサポートが必要であり、ジャンクションボックスなどの付属品も必須です。このようなケーブル関連のハードウェアをすべて計画、発注、設置すると、ネットワークの導入にかかる時間が長くなります。

オートメーション向けのWi-Fiベースの規格

Institute of Electrical and Electronics Engineers(IEEE)は、1997年に802.11をリリースしました。この規格はローカルエリアネットワーク(LAN)の標準的なワイヤレス実装を定義しています。802.11を市場に普及させるために、業界団体のWi-Fi Allianceがすぐにこの規格に従いました。Wi-Fi Allianceを主導したのはワイヤレス機器メーカーでした。異なるサプライヤ間での製品の相互運用性を維持する試験/認証プログラムの構築に関心があったのです。現在、IEEE 802.11で定義されているWi-Fi規格は、Wi-Fi Allianceによる追加の標準化によって補完されています。これらの規格は、要件を満たす機器の互換性をさらに確実にしています。

画像:インダストリ4.0(別名IIoT)図2:インダストリ4.0はIIoT(産業用モノのインターネット)とも呼ばれており、ワイヤレス技術の採用と密接に関連しています。こうしたワイヤレス技術は、様々なデバイスやコンピューティングシステム間の接続を実現する標準化インターフェースを採用しています。ワイヤレス技術には、この図にあるHMIとして使用されるモバイルデバイスや、機械の状態を伝える無数のワイヤレスフィールドコンポーネントが含まれます。(画像提供:Getty Images)

Wi-Fiは、アプリケーションの監視や機械と企業レベルのシステムとの接続には非常に便利です。しかし一方で、Wi-Fiの速度、レイテンシ、接続安定性の問題により、機械制御に関連した要求の厳しい産業オートメーションアプリケーションへの適用は制限されてきました。そのため、現在の産業アプリケーションにおけるWi-Fiは、かなり条件の緩い用途に限られています。たとえば、次のような用途です。

  • 1~2秒の遅れを許容して製造実行システム(MES)にデータを伝えるバーコードスキャナ
  • リアルタイムの制御機能に関与しないモーションセンサ
  • 加速度センサ(振動の発生を経時的に追跡)、温度、圧力、湿度、ガス濃度センサなどのセンサを用いた長期的な機械の状態監視により、機器の効率性や健全性を監視

画像:Wi-Fi図3:Wi-Fiは機械の制御には不向きですが、機械の監視用途や、工場現場を企業レベルのシステムと接続するのに適しています。(画像提供:Wi-Fi Alliance)

Wi-Fiを産業制御アプリケーションに適用する試みはいくつかありましたが、成功は限られていました。例外的にIIoTの導入に成功しているプロトコルとして、中国の産業用ワイヤレス通信規格であるWIA-PA(Wireless Network for Industrial Automation and Process Automation)があります。

Wi-Fiは、2.4GHzまたは5GHzの周波数で動作し、周波数が高いほどデータ転送速度は速くなりますが、通信距離は短くなります。これは、周波数が高いほど、壁などの固体物体を通過する際に吸収されやすいためです。特殊な規格では他の周波数帯を使用します。たとえば、IEEE 802.11ah low-data Wi-Fi(HaLow Wi-Fi)は900MHz付近で動作します。通常、拡張範囲と超低消費電力を必要とするセンサに採用されています。一方、IEEE 802.11ad Wi-Fi(WiGig)は約60GHzで動作し、非常に高速なデータ転送を実現しています。

IEEE 802.15.4ベースのワイヤレス規格

他にも、IEEE 802.15.4規格で定義されているLR-WPAN(Low Rate Wireless Personal Area Network)というワイヤレスの選択肢があります。LR-WPAN技術は、速度や距離よりも低コストや低電力を優先します。LR-WPANの基本仕様では、データ転送速度は最大250kbit/sec、通信距離は最大10mとなっています。LR-WPAN通信は、通信インフラを追加することなく、低コストの機器間での通信を可能にすることを目的としています。6LoWPAN、WirelessHART、ZigBeeなど、IEEE 802.15.4規格に準拠したプロトコルは、IIoT向けのプロトコルとして急速に普及しています。

1.WirelessHART:802.15.4ベースのプロトコルの1つで、HART Communications Foundation、ABB、Siemensなどがサポートしています。十分にサポートされた堅牢な規格で、産業オートメーションのアプリケーションに好適です。ネットワークの信頼性は、時間同期型周波数ホッピングを用いたメッシュネットワークを使用することで維持されます。一方、Wi-Fiやセルラー技術に基づくワイヤレス通信プロトコルの多くは、信頼性の低いスター型ネットワークトポロジを使用しています。このようなトポロジでは、すべてのデバイスが中央のデバイスに接続する必要があります。すべての通信は128ビットのAESで暗号化され、ユーザーのアクセスは厳重に管理することができます。

画像:Analog DevicesのLTP5903-WHR SmartMeshネットワークマネージャ図4:LTP5903-WHR SmartMeshネットワークマネージャは、ライン電源駆動のWirelessHARTゲートウェイをサポートしています。拡張可能な双方向通信向けに標準ベースのワイヤレスセンサネットワークを統合できます。(画像提供:Analog Devices

WirelessHARTはメッシュ型のトポロジを採用しているため、データをデバイス間で直接ルーティングできます。これにより、ネットワークの範囲を広げ、冗長な通信経路を形成することができます。1つの経路が故障しても、送信者は自動的に冗長経路に切り替えることが可能です。また、周波数ホッピングにより、WirelessHARTは干渉の問題を回避することができます。

2.6LoWPAN: IPv6 over Low-Power Wireless Personal Area Network(通称6LoWPAN)は、IEEE 802.15.4ベースのネットワーク上でIPv6パケットの伝送を可能にするプロトコルです。このため、非常に低電力の機器でもインターネットに接続することができ、IoTセンサなどの低電力の機器に適しています。

3.ZigBee: Zigbee Allianceによって管理され、スマートホームやビルオートメーションのアプリケーションで最も広く使用されています。おそらく最も確立されたIEEE 802.15.4ベースのプロトコルでしょう。ノードをほとんどの時間、スリープモードにすることで、バッテリ寿命を大幅に延ばすことができます。ZigBeeは通常、2.4GHz帯で動作し、データ転送速度は250kbit/secに固定されています。スター型、ツリー型、メッシュ型など様々なネットワークトポロジをサポートできます。ツリー型やメッシュ型のトポロジは、ネットワークの範囲を広げます。

画像:Zigbee図5:Zigbeeは、産業環境下のモーション、振動、湿度、温度、存在センサに好適です(その他の用途もあります)。(画像提供:Zigbee Alliance)

産業オートメーションにおけるBluetooth LEとセルラーIoT

Bluetooth Low Energy(BLE)は、IEEE 802.15.4に代わる技術です。低コストと低電力が最優先され、速度や距離はさほど重視されない可能性があります。標準のBluetoothと同じ2.4GHzの周波数で動作します。Bluetooth LEの最大のメリットは、Open Handset AllianceのAndroid、AppleのiOS、MicrosoftのWindowsなど、様々なモバイルOSにネイティブに対応していることです。これに加えて、Logitech Corp.のような大手電子機器メーカーが研究開発に最も多くの投資を行っていることを考えてみましょう。Bluetooth LEが依然として、民生用機器のワイヤレス接続の主要な選択肢であるのは不思議ではありません。 これは、IIoTアプリケーションに主眼を置いてきたWirelessHARTとは対照的です。

画像:Bluetooth Low Energy(BLE)図6:Bluetooth Low Energy(BLE)規格には、システムが完全なシリアルインターフェースとして認識するシリアルポートプロファイルがあります。このプロファイルは、有線のデバイスを、BLEで接続されたアップグレードに置き換えるのに便利です。(画像提供:Bluetooth Special Interest Group

とはいえ、ここ数年、産業オートメーションのタスクに向けてBluetooth LEを採用したセンサ、リモコン、ロック、ハンドヘルドデバイスが続々と登場しています。この傾向は、今後ますます強まるでしょう。

BLEやIEEE 802.15.4ベースのプロトコルが低電力の短距離通信向けであるのに対し、セルラー技術は長距離無線通信です。2G GSMセルラープロトコルは、携帯電話やIoT機器で一般的な3Gや4Gの高速セルラープロトコルに取って代わられています。セルラー通信はかなりの電力を消費するため、産業用アプリケーション(特に機械に接続する場合)では、システムは恒久的に有線の電源に接続されています。セルラーLTEのカテゴリは、最大のデータ転送速度を示していますが、消費電力は大きくなります。LTE Cat-0とCat-1接続は、IoT機器に適しています。一方、LTE-Mは、マシンツーマシンやIoTアプリケーションに特化して設計された低電力のセルラープロトコルです。

携帯電話で比較的広く使われているのとは対照的に、産業用の5Gアプリケーションはさほど進化していません。 その理由は、消費者はダウンロード速度を重視し(そのため、初期の5G機器をいち早く採用し)、IIoTシステムのエンジニアは低レイテンシとユビキタスカバレッジを重視するからです。実際、産業オートメーションでは、低レイテンシが最重要視されています。確かに、最初の5Gネットワークではレイテンシは30ミリ秒未満に抑えられていますが、さらに1ミリ秒まで下げようという動きもあります。これは、工作機械のフィードバック信号の送信など、監視だけでなくリアルタイムでの産業制御も必要とするアプリケーションには十分な速度です。

5Gがレイテンシを低減する方法の1つに、ネットワークスライシングがあります。このネットワーク技術は、ネットワークの帯域を異なる仮想レーンに分割し、それぞれを管理するものです。一部のレーンは低レイテンシの伝送用に確保されており、ほとんどのトラフィックはそのレーンを使用することができません。そして、最速の伝送を必要とする産業制御アプリケーションのみが、この確保された高速レーンを使用できます。

ワイヤレスプロトコル「LoRA」の登場

長距離広域ネットワーク変調(LoRA)は、低コストのワイヤレスプロトコルです。再生可能エネルギー産業、鉱業、物流業界の遠隔やオフショアのアプリケーションに使用されています。低電力のワイヤレス技術で、1つのバッテリで最大10年間、10kmを超える超長距離の通信が可能です。手短に言えば、LoRAはライセンスフリーの周波数帯域で動作するノンセルラー技術です。433MHzや915MHzなどのサブギガヘルツ帯の周波数と、チャープ拡散スペクトラム(CSS)変調をベースにしたスペクトラム拡散変調を採用しています。そのため、遠隔地に設置され、高速のデータ転送を必要としないIoT機器に好適です。また、LoRAは128ビットの暗号化と認証制御を特長としています。もう1つの便利な機能として、デバイス間の三辺測量を利用したジオロケーションがあります。この機能は、特にIIoTアプリケーションのセンサに適しています。

LoRAは、Semtech Corp.が開発した独自の技術を使用していますが、オープンソースの要素も多く取り入れています。IBM、Cisco、TATA、Bosch、Swisscom、Semtechなどで構成される大規模なLoRa Allianceによってサポートされ、デバイスの相互運用性が確保されています。

まとめ

産業オートメーション向けのワイヤレスプロトコルは数多くあります。各プロトコルは特定のアプリケーションに適しています。低消費電力が求められ、短距離伝送が許容される用途では、多くの場合、ZigBeeやBluetooth LE接続が好適です。要求の厳しい産業アプリケーションでは、WirelessHARTワイヤレス接続のデバイスが必要になるかもしれません。このようなアプリケーションでは、堅牢な通信が求められます。長距離伝送や高速データ転送が必要な用途では、セルラーが必要です。5Gはワイヤレス通信を大きく変えることになるでしょう。電力消費が最小限で超長距離のデータ通信には、多くの場合LoRaが最適です。

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著者について

ジョディ・ムエラナー

ジョディ・ムエラナー博士は、製材所や医療機器の設計、航空宇宙製造システムの不確実性への対応、革新的なレーザー機器の開発などに携わってきたエンジニアです。同氏は、数多くの査読付き専門誌や政府の概要資料に寄稿しています...また、Rolls-Royce、SAE International、Airbusのための技術報告書も書いています。現在は、電動自転車を開発するプロジェクトを率いています。詳細はbetterbicycles.orgをご覧ください。また、同氏は脱炭素化技術に関する動向もカバーしています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者