低電力ワイヤレステクノロジの比較(第1部)
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2017-10-26
編集者メモ:3部構成のこのシリーズの第1部では、設計者が利用できる主要な低電力ワイヤレスオプションについて詳しく説明します。第2部では、利用できるチップ、プロトコルスタック、アプリケーションソフトウェア、設計ツール、アンテナの要件、電力消費/バッテリの寿命など、各テクノロジの設計に関する基礎について検討します。第3部では、各テクノロジのIoTの課題に対応するように設計されている現在と将来の開発について検討します。また、Wi-Fi HaLowやThreadのような新しいインターフェースとプロトコルも紹介します。
最近の開発では、センサが信号とデータを収集して通信するモノのインターネット(IoT)の接続に大きな焦点が当てられています。最終的な製品の例は、スマートフォン、医療やフィットネスのウェアラブルデバイス(図1)、ホームオートメーションなどから、スマートメータや産業制御まで、さまざまです。そのすべてに、超低電力消費量、低コスト、小さい物理的サイズといった設計上の制約があります。
この記事では、主要な低電力ワイヤレスオプションについて検討し、比較します。各テクノロジの基礎と、周波数帯域、ネットワークトポロジのサポート、スループット、レンジ、共存などの主要な動作属性について説明します。ソリューションの例も示します。

図1:ウェアラブルデバイスは、低電力ワイヤレステクノロジの主要な市場部門です。(画像提供:Nordic Semiconductor)
低電力のトレードオフ
現在、低電力ワイヤレステクノロジに関して、エンジニアには多くの選択肢があります。たとえば、Bluetooth Low Energy、ANT、ZigBee、RF4CE、NFC、Nike+、Wi-FiなどのRFベースのテクノロジや、Infrared Data Association(IrDA)が提唱する赤外線オプションなどがあります。
しかし、このような選択肢の広さが、選択プロセスをいっそう困難なものにしています。各テクノロジには、電力消費量、帯域幅、レンジの間にトレードオフがあります。オープン標準が設けられているものもあれば、まだ個々の企業が独自に決めているものもあります。状況をいっそう複雑にしているのは、IoTのニーズに対応するために新しいワイヤレスインターフェースとプロトコルが誕生し続けていることです。そのようなものの1つがBluetooth Low Energyです。
Bluetooth Low Energyの概要
Bluetooth Low Energyは、Nokia Research CentreにおいてWibreeという名前のプロジェクトとして産声を上げました。2007年にBluetooth Special Interest Group(SIG)によって採用されたこのテクノロジは、2010年のBluetoothバージョン4.0(v4.0)に超低電力消費タイプのBluetoothとして導入されました。
この技術は、ウェアラブルなどの小容量バッテリ搭載アプリケーションへとBluetoothエコシステムを拡大しました。Bluetooth Low Energyは、ターゲットアプリケーション内でマイクロアンペア単位の平均消費電流で動作し、スマートフォン、オーディオヘッドセット、ワイヤレスデスクトップで人気のある「クラシック」Bluetoothを補完します。
この技術は、2.4GHzの産業、科学、医療(ISM)用帯域で動作し、完全な非同期通信が使用できる、コンパクトなワイヤレスセンサやその他のペリフェラルからのデータ送信に適しています。これらのデバイスは、数バイトの少量データを低い頻度で送信します。デューティサイクルは、通常は毎秒数回~1分ごとに1回、あるいはより長いサイクルです。
Bluetooth v4.0以降のBluetooth Core Specificationでは、2種類のチップが定義されています。Bluetooth Low Energyチップと、修正されたスタックと旧バージョンのBasic Rate(BR)/Enhanced Data Rate(EDR)物理層(PHY)およびLow Energy(LE)PHYの組み合わせ(「BR/EDR + LE」)を搭載し、Bluetoothのすべてのバージョンおよびチップとの相互運用性を確保したBluetoothチップです。Bluetooth Low Energyチップには、他のBluetooth Low EnergyチップおよびBluetooth v4.0以上に準拠した、Bluetoothチップとの相互運用性があります。
Bluetooth Low Energyチップは、多くの消費者向けアプリケーションでBluetoothチップとの組み合わせで動作していますが、バージョン4.1、4.2、および5で導入された機能強化により、スタンドアロンデバイスとしての採用が進んでいます。
最近のBluetooth 5仕様の導入により、Bluetooth Low Energyの未加工データレートは1Mbit/秒から2Mbit/秒に増え、レンジは以前のバージョンと比べて最大4倍に向上しました。最大のスループットとレンジを同時に実現することはできません。これはクラシックなトレードオフです。Bluetooth SIGは最近になってBluetooth Mesh 1.0も採用しました。これにより、メッシュネットワークトポロジでテクノロジを構成できます。これについては、このシリーズの第3部で詳しく説明します。
Bluetooth Low Energyの概要については、「IoTの要件を満たすBluetooth 4.1、4.2、および5対応Bluetooth Low Energy SoCおよびツール(第1部)」を参照してください。
ANTとは
ANTは、超低電力ワイヤレスプロトコルであり、2.4 GHz ISM帯域で動作する点で、Bluetooth Low Energyと同等のテクノロジです。Bluetooth Low Energyと同様に、バッテリの寿命が月単位から年単位に及ぶコイン電池を動力とするセンサ用に設計されています。このプロトコルは、2004年にDynastream Innovations(カナダの会社で、現在はGarminに吸収)によってリリースされました。Dynastream Innovationsはシリコンを製造しておらず、設計者は2.4 GHzトランシーバ用のファームウェアをNordic Semiconductor(nRF51422 SoC)やTexas Instruments(TI)などの会社から入手できます。ただし、ANTプロトコルで動作し、設計統合作業をほとんど必要とせず、規制機関の認定にすでに合格している、完全にテスト済みおよび検証済みの広範なRFモジュールも提供されています。
ANTは独自のRFプロトコルですが、相互運用性がANT+ Managed Networkによって推奨されています。ANT+は、ANT+アライアンスメンバデバイスと、収集、自動転送、センサデータの追跡の間の相互運用性を促進します。相互運用性はデバイスプロファイルによって保証されます。特定のデバイスプロファイルを実装するANT+デバイスは、同じデバイスプロファイルを実装する他の任意のANT+デバイスと相互運用できます。新しい製品は、相互運用性に関するANT+認定テストに合格する必要があります。認定は、ANT+アライアンスによって管理されます。
ANTおよびANT+はもともとスポーツおよびフィットネスのセグメントを対象にしたものでしたが、最近では、ホームおよび産業オートメーションセクタのアプリケーションに使用されるようになっています。プロトコルは継続的に開発されており、高ノード数IoTアプリケーション用のエンタープライズ向けメッシュテクノロジであるANT BLAZEのリリースが最新の発表です。(第3部を参照。)
ZigBeeとは
ZigBeeは、PHYと、IEEE 802.15.4に基づくメディアアクセスコントロール(MAC)を使用する低電力ワイヤレス仕様です。それを基にして、ZigBeeアライアンスによって制御されるプロトコルを実行します。このテクノロジは、産業およびホームオートメーションセクタのメッシュネットワーク用に設計されました(一部の競合するテクノロジより先行しています)。
ZigBeeは2.4GHz ISM帯域で動作し、784MHz(中国)、868MHz(ヨーロッパ)、915MHz(米国とオーストリア)でも動作します。データレートは20Kbits/秒(868MHz帯域)から250Kbits/秒(2.4GHz帯域)の範囲です。ZigBeeは5MHzで区切られた16 x 2MHzチャネルを使用し、未使用の割り当てのためにスペクトルは若干非効率的です。
2007年にリリースされたZigBee PROは、強化されたセキュリティを含む堅牢な展開に必要な追加機能を提供します。ZigBeeアライアンスはZigBee PRO 2017を発表したばかりです。これは、2.4GHzと800~900MHzのISM周波数帯域で同時に動作できるメッシュネットワークです。(このシリーズの詳細については第3部を参照してください。)
RF4CEはすべてに対応するか
Radio Frequency for Consumer Electronics(RF4CE)はZigBeeに基づいていますが、RFリモート制御の要件用にカスタマイズされたプロトコルを使用しています。RF4CEは、2009年にSony、Philips、Panasonic、Samsungの家電メーカー4社によって標準化されました。このテクノロジは、Microchip、Silicon Labs、Texas Instrumentsなどの複数のシリコンベンダによってサポートされています。RF4CEの用途は、テレビのセットトップボックスのようなデバイスリモート制御システムです。このテクノロジは、RFを使用して、赤外線(IR)リモート制御の相互運用性、LOS、限られた機能といった欠点を克服します。
最近、RF4CEはリモート制御アプリケーションに関してBluetooth Low EnergyおよびZigBeeという強力な競合テクノロジに直面しています。
Wi-Fiの比較
IEEE 802.11に基づくWi-Fiは非常に効率的なワイヤレステクノロジですが、低電力消費ではなく高速スループットを使用する大量データ転送用に最適化されています。そのため、Wi-Fiは低電力(コイン電池)動作には適していません。近年は、IEEE Standard 802.11v(ワイヤレスネットワーク接続時のクライアントデバイスの構成の指定)の改訂など、電力消費向上のための改良が行われています。
2017年に公開されたIEEE 802.11ah(Wi-Fi「HaLow」)は、90MHz ISM帯域で動作し、2.4GHzおよび5GHz帯域で動作するバージョンのWi-Fiと比較してエネルギー消費の減少とレンジの拡張というメリットがあります。(第3部を参照。)
NIKE+はオプションか
Nike+は、スポーツウェアメーカーのNikeがフィットネスマーケット用に開発した独自のワイヤレステクノロジです。主として、2.4GHzの無線チップと、収集されたデータを分析して表示するAppleモバイルデバイスを統合する、Nike「foot pod」をリンクするために設計されています。フィットネスファンの熱心なグループの間ではまだ人気がありますが、新世代のスマートフォンに同じテクノロジが組み込まれているため、ハードウェアは下り坂になっています。Nikeは、そのワイヤレスフィットネス帯域製品を、代わりにスマートフォンソフトウェアアプリに向けています。
Nike+システムの基になっている独自のワイヤレステクノロジは、ワイヤレスマウスやキーボードなどの製品にまだ使用されています。相互運用性が必要なければ、Nordic SemiconductorのnRF24LE1のような類似テクノロジが、標準に準拠する必要なしに、Bluetooth Low Energyなどのテクノロジと同等のパフォーマンスを提供します。
IrDAは短距離の通信の問題をまだ解決していないか
Infrared Data Association(IrDA)は約50社で構成され、IrDAの名前で複数のIR通信プロトコルをリリースしています。IrDAは無線(RF)ベースのテクノロジではなく、赤外線(IR)の変調パルスを使用して情報を転送します。このテクノロジの主な長所は、RFではないことによる組み込みのセキュリティ、非常に低いビットエラー率(BER)(効率の向上)、規制の準拠や認定が不要、低コストなどです。また、このテクノロジは1Gb/秒の転送速度を提供する高速バージョンでも利用できます。
IRテクノロジの短所は、レンジの制限(特に高速バージョンの場合)、LOSの要件、標準的な実装で双方向通信が不可能なことです。また、IrDAは、(ビット当たりの電力に関して)無線テクノロジと比較して特に電力効率が良いわけではありません。コストが重要な設計パラメータである基本的なリモート制御アプリケーションの場合は、IrDAも市場シェアを確保していますが、スマートTVで求められるような高度な制御機能が必要な場合は、設計者はBluetooth Low EnergyやRF4CEを指定することが多くなります。
NFCが当てはまる場所
Near Field Communication(NFC)は、13.56MHzのISM帯域で動作します。このような低周波数では、送信および受信のループアンテナは、主として、変圧器のそれぞれ一次巻線および二次巻線として機能します。データ転送は、付随する電場ではなく磁場によって行われます。これは、短い距離では磁場の方が強力であるためです。NFCは最大424Kbits/秒の速度でデータを転送します。名前が示すとおり、NFCは最大10cmまでのレンジで動作する非常に短いレンジの通信用に設計されています。この制限により、Bluetooth Low Energy、ZigBee、Wi-Fi、その他の類似テクノロジと直接競合することはありません。NXP USAなどのメーカーから、CLRC66303 NFCトランシーバなどのシリコンが提供されています。
重要な長所は、「パッシブ」NFCデバイス(支払いカードなど)は電力を必要とせず、電力が入ったNFCデバイスの近いレンジに入ったときにのみアクティブになることです。NFCは、非接触支払いテクノロジで、またセキュリティ上では「中間者」攻撃の危険なしにBluetooth Low Energyデバイスなどの他のワイヤレステクノロジをペアリングする手段として、広く受け入れられています。NFCは、ここで説明している他のワイヤレステクノロジを補完するニッチアプリケーション向けのテクノロジとして、それなりの市場シェアを確保するものと考えられます。
ネットワークトポロジ
低電力ワイヤレステクノロジは、5種類の主要ネットワークトポロジをサポートします。
ブロードキャスト:メッセージは、トランスミッタからレンジ内にあるすべてのレシーバに送信されます。チャンネルは単方向であり、メッセージの受信確認応答はありません。
ピアツーピア:2台のトランシーバが双方向のチャンネルでリンクされており、それによりメッセージの確認応答が可能で、データを両方向に転送できます。
スター:1台の中央トランシーバが、双方向チャンネルを介して、複数の周辺トランシーバと通信します。周辺トランシーバ同士が直接通信することはできません。
スキャン:中央のスキャンデバイスは受信モードのままになっていて、レンジ内の送信デバイスから信号を受け取るのを待ちます。通信は一方向で行われます。
メッシュ:複数のノードを接続する双方向チャンネルをホップすることで、ネットワーク内のあるポイントから他のポイントに、メッセージをリレーできます(通常は、ハブやリレーなどの追加機能を備えたノードのサービスを使用します)。
図2のa、b、c、d、eはネットワークトポロジを示し、表1ではこれまでに説明した各ワイヤレステクノロジがサポートするトポロジを示します。

図2:低電力ワイヤレステクノロジは、徐々に複雑なネットワークトポロジをサポートするように発展してきました。(画像提供:Texas Instruments)
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B(Bluetooth Low Energy)、A(ANT)、A+(ANT+)、Zi(ZigBee)、RF(RF4CE)、
Wi(Wi-Fi)、Ni(Nike+)、Ir(IrDA)、NF(NFC)
- ブロードキャスト信号をリッスンするノードでは、連続受信モードをアクティブにする必要があります。
- すべてのネットワークトラフィックは停止し、電力消費は高くなります。
表1:低電力ワイヤレステクノロジによるネットワークトポロジのサポート。(表提供:DigiKey)
低電力ワイヤレステクノロジの性能
レンジ
ワイヤレステクノロジのレンジは、多くの場合、トランスミッタの出力電力とデシベルで測定されたレシーバのRF感度の組み合わせに比例するものと考えられます(「リンクバジェット」)。送信電力が大きく、感度が高いほど、信号対雑音比(SNR)が実質的に向上するため、レンジが大きくなります。SNRは、周辺雑音から信号を正しく抽出してデコードするレシーバの能力の尺度です。しきい値のSNRでは、BERが比率の仕様を超えて、通信は失敗します。たとえば、Bluetooth Low Energyレシーバの最大許容BERはわずか約0.1%です。
ライセンスフリーの2.4GHz ISM帯域での最大出力電力は、規制機関によって制限されています。一般に、規則は複雑ですが、基本的には、ホッピング周波数が75未満で15以上の周波数ホッピングシステムのアンテナ入力で測定されたピーク送信電力は、ピークで+21dBmに制限され、等方向性アンテナゲインが6dBiより大きい場合は出力の低下を含む必要があります。これにより、等価等方輻射電力(EIRP)は+27dBmになります。
この規制に加えて、低電力ワイヤレステクノロジには、バッテリの寿命を最大にするために、送信電力に対する仕様制限が含まれます。電力節約の多くは無線が高電力送信または受信状態になっている時間を制限することによって行われますが、RFチップメーカーは、Bluetooth Low Energyの最大送信電力を、通常で+4dBm、一時的に+8dBmと、規制で設定されている+21dBmの制限より十分低く抑えることによっても、エネルギーを節約しています。
ただし、ワイヤレスデバイスのレンジを制限する要因は、送信電力と感度だけではありません。動作環境(たとえば、天井や壁の存在)、RFキャリアの周波数、設計レイアウト、構造、コーディング方式などもすべて関係します。通常、レンジは「理想的な」環境について示されますが、デバイスは劣悪なシナリオで使用されることがよくあります。たとえば、2.4GHzの信号は人体によって大きく減衰されるので、手首に装着するウェアラブルデバイスでは、1メートル程度しか離れていない後ろのポケットに入っているスマートフォンへの送信さえ困難な場合があります。
次のリストは、他のRFソースまたは光学式ソースからの干渉と妨害がない環境において超低電力テクノロジから期待できる標準的なレンジです。
- NFC:10cm
- 高速IrDA:10cm
- Nike+:10m
- ANT(+):30m
- 5GHzのWi-Fi:50m
- ZigBee/RF4CE:100m
- Bluetooth Low Energy:100m
- 2.4GHzのWi-Fi:150m
- Bluetooth 5拡張レンジ機能を使用するBluetooth Low Energy:200~400m(転送エラー訂正コーディング方式によります)
スループット
低電力ワイヤレステクノロジによる送信は2つの部分で構成されます。プロトコルを実装するビット(パケットIDと長さ、チャンネル、チェックサムなどで、まとめて「オーバーヘッド」と呼ばれます)と、通信される情報(「ペイロード」と呼ばれます)です。ペイロード/(オーバーヘッド+ペイロード)の比率によって、プロトコルの効率が決まります(図3)。

図3:低電力ワイヤレステクノロジのパケット(ここで示すのはBluetooth Low Energy/Bluetooth 4.1)はオーバーヘッドとペイロードで構成されます。プロトコルの効率は、各パケットで搬送される有効なデータの量(ペイロード)によって決まります。(画像提供:Bluetooth SIG)
「未加工」データレート(オーバーヘッド+ペイロード)は、1秒間に転送されるビット数の尺度であり、マーケティング資料でよく引用される図です。ペイロードデータレートは常に低下します。(このシリーズの第2部では、各プロトコルの効率とバッテリの寿命に与える影響について詳しく説明します。)
低電力ワイヤレステクノロジでは通常、電力消費を最小限にしながら、センサノードと中央デバイスの間で少量のセンサ情報を周期的に転送する必要があるので、帯域幅は一般に控えめです。
次のリストでは、この記事で説明されているテクノロジについて、未加工データとペイロードのスループットを比較します。(これらは理論上の最大値であり、実際のスループットは構成と動作環境によって異なることに注意してください):
- Nike+:2Mbits/秒、272bits/秒(設計上、スループットは1パケット/秒に制限されます)
- ANT+:20Kbits/秒(バーストモードの場合、下記参照)、10Kbits/秒
- NFC:424Kbits/秒、106Kbits/秒
- ZigBee:250Kbits/秒(2.4GHzの場合)、200Kbits/秒
- RF4CE(ZigBeeと同じ)
- Bluetooth Low Energy:1Mbit/秒、305Kbits/秒
- 高速IrDA:未加工データ1Gbit/秒、ペイロード500Kbits/秒
- Bluetooth Low Energy(Bluetooth 5高スループット):2Mbits/秒、1.4Mbits/秒
- Wi-Fi:11Mbits/秒(最低電力の802.11bモード)、6Mbits/秒
レイテンシ
ワイヤレスシステムのレイテンシは、信号が送信されてから受信されるまでの時間として定義できます。通常はミリ秒単位の時間にすぎませんが、ワイヤレスアプリケーションの場合は重要な考慮事項です。たとえば、1秒ごとにセンサのデータを自動的にポーリングするアプリケーションでは低レイテンシはそれほど重要ではありませんが、リモート制御のような消費者向けアプリケーションでは、ユーザーはボタンを押してからほとんど遅延なしに操作が実行されることを期待するので、レイテンシが重要になります。
次のリストでは、この記事で説明されているテクノロジについてレイテンシを比較します。(ここでも構成や動作条件によって異なることに注意してください。)
- ANT:ごくわずか
- Wi-Fi:1.5ミリ秒(ms)
- Bluetooth Low Energy:2.5ms
- ZigBee:20ms
- IrDA:25ms
- NFC:通常は1秒ごとにポーリング(ただし、製品メーカーが指定可能)
- Nike+:1秒
ANTおよびWi-Fiの低レイテンシを実現するには、受信デバイスが常時リッスンしている必要があり、バッテリの電力が急速に消費されることに注意してください。低電力センサアプリケーションの場合、レイテンシが大きくなるのと引き換えに、ANTのメッセージング間隔を長くすることで、バッテリの消費を減らすことができます。
堅牢性と共存
確実なパケット転送は、バッテリの寿命とユーザーエクスペリエンスに直接影響します。一般に、最適ではない送信環境、付近の無線による偶然の干渉、意図的な周波数のジャミングなどによりデータパケットを配信できない場合、トランスミッタはパケットが正常に配信されるまで送信を試み続けます。それによってバッテリの寿命が犠牲になります。さらに、ワイヤレスシステムが単一送信チャンネルに制限されている場合、輻輳している環境では信頼性は必然的に低下します。
他の無線が存在するときに無線が動作する能力は、共存として記述されます。これは、スマートフォンのBluetooth Low EnergyとWi-Fiなどのように、同じデバイス内のほとんど間隔がない状況で無線が動作している場合、特に重要です。BluetoothとWi-Fiの共存を実現する一般的な方法としては、各IC間の有線接続で構成され、それぞれが自由に送信または受信できるタイミングを調整する、帯域外信号方式が使用されます。この記事では、パッシブ共存とは干渉防止システムを指し、アクティブ共存とはチップ間シグナリングを指します。
パッシブ共存を支援するための定評のある方法はチャンネルホッピングです。Bluetooth Low Energyは、37データチャンネルの間を疑似ランダムなパターンでホッピングする周波数ホッピングスペクトラム拡散(FHSS)方式を使用して、干渉を防ぎます。Bluetooth Low Energyのいわゆる適応型周波数ホッピング(AFH)では、各ノードは頻繁に輻輳するチャネルをマップして、以降の送信でそのチャンネルを避けることができます。最新バージョンの仕様(Bluetooth 5)で導入された改良型のチャンネルシーケンスアルゴリズム(CSA #2)では、次ホップチャンネルシーケンスの疑似ランダム性が改善され、干渉への耐性が向上しています。
ANTでは、それぞれの幅が1MHzの複数のRF動作周波数の使用がサポートされています。周波数が選択されると、すべての通信はその単一の周波数で行われ、選択された周波数で重大な低下が検出された場合にのみチャンネルホッピングが発生します。
輻輳を軽減するため、ANTは時分割多元接続(TDMA)適応型アイソクロナス方式を使用して、1MHzの各周波数帯域を約7ミリ秒のタイムスロットにさらに分割します。チャンネルでペアになったデバイスはこれらのタイムスロットの間に通信し、それがANTメッセージング周期(たとえば、250ミリ秒また4Hzごと)に従って繰り返されます。実際には、数十から数百のノードを、衝突することなしに単一の1MHz周波数帯域に収容できます。データの整合性が最終的な目標である場合は、ANTは「バースト」メッセージング技法を使用できます。これは、マルチメッセージ送信技法であり、利用可能なすべての帯域幅を使用して、すべてのデータ送信が完了するまで実行します。
使用可能なANT RFチャンネルの一部は、ANT+アライアンスに割り当てられ、ネットワークの整合性と相互運用性を維持するために調整されます(たとえば、2.450GHzおよび2.457GHz)。アライアンスは、通常の動作の間はこれらのチャンネルを避けるように指示します。
Bluetooth Low EnergyのFHSS技法やANTのTDMA方式とは異なり、ZigBee(およびRF4CE)は直接スペクトラム拡散(DSSS)方式を使用します。DSSSでは、信号はトランスミッタにおいて疑似ランダムコードによって混合され、レシーバにおいて抽出されます。この技法は、送信される信号を広い帯域に拡散することによって信号対雑音比を効果的に向上させます(図4)。ZigBee PROでは、周波数アジリティと呼ばれる技法がさらに実装されています。この技法では、ネットワークノードが空いているスペクトラムをスキャンしてコーディネータに指摘することにより、ネットワーク全体でそのチャンネルを使用できます。ただし、この機能が実際に展開されることはあまりありません。

図4:ZigBeeは、割り当てられたスペクトラムに送信される信号を拡散することで、他の2.4GHz無線からの干渉の軽減を試みます。(画像提供:Texas Instruments)
Wi-Fiが使用する20MHzチャンネルの数は、米国では11個、他のほとんどの国では13個、日本では14個です。したがって、83MHz幅の2.45GHzスペクトラム割り当ての範囲内では、3つのオーバーラップしないWi-Fiチャンネル(1、6、11)に対してのみ十分なスペースがあります。したがって、これらはデフォルトのチャンネルとして使用されます。自動的なチャンネルホッピングは組み込まれていませんが、ユーザーは干渉が動作の問題であることが明らかな場合は、代替チャンネルに手動で切り替えることができます。
選択されたチャンネル内でのWi-Fiの干渉防止メカニズムは複雑ですが、基本的には、DSSSと直交周波数分割多重方式(OFDM)の組み合わせです。OFDMは、低レートの変調で多数の密集したキャリアを使用する送信の形式です。信号は直交して送信されるので、間隔が近いことによる相互干渉の可能性は大幅に低下します。
5GHzのWi-Fiは725MHz幅の割り当てで動作し、いっそう多くのオーバーラップしないチャンネルを割り当てることができます。結果として、2.4GHzのWi-Fiと比較すると、干渉の問題が発生する可能性は大幅に減ります。
また、Wi-Fiでは、アクティブ共存テクノロジと、他の無線からの干渉が検出されたときにデータレートを下げるメカニズムが採用されています。
Wi-Fiが普及しているのはこのようなためです。他の2.4GHzテクノロジには、デフォルトのWi-Fiチャネル(1、6、11)との衝突を避けるための技法が組み込まれています。たとえば、Bluetooth Low Energyの3つのアドバタイジングチャンネルは、デフォルトのWi-Fiチャンネルの間のギャップに配置されています(図5)。

図5:Bluetooth Low Eenergyのアドバタイジングチャンネルは、Wi-Fiのデフォルトチャンネルから離して配置されています。Wi-Fi干渉の可能性がないチャンネルがさらに7つあることに注意してください。(画像提供:Nordic Semiconductor)
Nike+は独自の周波数アジャイル方式を使用しており、干渉が破壊的になるとチャンネルを反転させます。このテクノロジのデータ転送レートとデューティサイクルは最小限なので、これが必要になることはほとんどありません。
IrDAでは、どのような形式の共存テクノロジも実装されていません。ただし、光に基づくテクノロジなので、重要なIRコンポーネントで非常に明るい背景光によって影響を受ける可能性だけがあります。短いレンジとLOSの動作により、同時に動作しているIRデバイスが相互に干渉する可能性さえありません。
NFCで実装されている共存の形式では、リーダが、複数のNFCカードが含まれる財布から特定のカードのNFCタグを選択します。送信レンジが短いため、他のNFCデバイスまたは他の無線との干渉はほとんどありません。ただし、13.56MHzの帯域には周波数変調(FM)帯域でのハーモニクスがあり、81.3MHzと94.9MHzで特に強いことに注意する必要があります。これらのハーモニクスは、同じ場所にあるFMレシーバでのクリックノイズの原因になる可能性があります。FM干渉の影響は、衝突対策技法(「スキューイング」やクリーンアップなど)を実装して減らすことができます。
結論
多くの低電力ワイヤレステクノロジが普及しています。いずれも、バッテリで動作し、比較的控えめなデータ転送を行うように設計されていますが、レンジ、スループット、堅牢性、共存性の機能は異なっています。これらの性能のバリエーションにより適したアプリケーションには違いがありますが、かなりの程度オーバーラップしています。
第2部および第3部の概要:性能は選択プロセスの一部に過ぎないので、第2部では、利用できるチップ、プロトコルスタック、アプリケーションソフトウェア、設計ツール、アンテナの要件、電力消費など、各テクノロジの設計に関する基礎について詳しく見ていきます。
第3部では、各テクノロジのIoTの課題に対応するように設計されている現在と将来の開発、およびWi-Fi HaLowやThreadのような新しいインターフェースとプロトコルの概要を説明します。
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