自動車および産業用アプリケーション向けの薄膜抵抗器の選択

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

自動車、産業、通信などの電子アプリケーションには、高湿度や腐食性大気などの過酷な環境に耐える精密部品が必要です。受動部品はこうした先進的な設計の成功に不可欠であり、信頼性の高い性能を確保するには絶え間ない技術革新が求められます。

たとえば、金属皮膜チップ抵抗器は、厳しい環境下でも精度、安定性、信頼性を確保できるよう適切に設計され、テストされなければなりません。自動車および産業市場用チップ抵抗器の設計に影響を与える重要な問題の1つに、硫黄化合物の存在下における長期信頼性があります。 油、潤滑油、燃料、その他の硫黄を多く含む化合物が存在する環境では、コンタクトを劣化させ、チップ抵抗器の信頼性を低下させる可能性があります。

この記事では、過酷な自動車および産業環境用の抵抗器を選択する際に設計者が直面する課題について説明します。また、YAGEOの耐硫化・耐湿性面実装抵抗器の2つのファミリを取り上げ、このようなアプリケーションの課題に対応するためにこれらの抵抗器をどのように使用できるかをご紹介します。

チップ抵抗器の特性

チップ抵抗器は、自動車、産業、通信機器など、現代の電子機器における重要な部品です。小型で精度が高く、安定性と信頼性に優れているため、高密度回路に最適です。抵抗値、許容差、抵抗温度係数(TCR)、電力定格の幅広いラインアップが用意されています。YAGEOのチップ抵抗器には、ATシリーズとRPシリーズがあります。いずれのシリーズも、AEC-Q200認定を取得しており、自動車アプリケーション向けの定格となっています。この仕様では、温度、湿度、はんだ付け時の熱に対する耐性、熱衝撃、基板のたわみに対する耐性について、受動電子部品をテストします。また、湿度に対する低感度と耐硫黄性についてもテストします。

電気的仕様の比較

面実装デバイス(SMD)抵抗器のATおよびRPシリーズは、4つの標準面実装パッケージ(0402、0603、0805、1206)で入手できます。各パッケージの数値コードには、インチ単位でのデバイスの公称長さと幅が含まれています(表1)。

SMDパッケージ 寸法(インチ) 寸法(mm) 電力定格(W)
0402 0.039 x 0.02 x 0.014 1.0 x 0.5 x 0.35 0.063(1/16)
0603 0.063 x 0.031 x 0.022 1.6 x 0.8 x 0.55 0.10(1/10)
0805 0.079 x 0.049 x 0.024 2 x 1.25 x 0.6 0.125(1/8)
1206 0.122 x 0.063 x 0.026 3.1 x 1.6 x 0.65 0.25(1/4)

表1:RPおよびATチップ抵抗器シリーズ部品における4つのパッケージサイズの寸法と電力定格を示しています。(表提供:Art Pini)

電力定格はパッケージの体積によって異なり、1/16Wから1/4Wの範囲です。

これらのパッケージサイズは、抵抗値、抵抗許容差、TCR、電圧定格の異なるバリエーションを提供します。ATシリーズ 抵抗器の仕様は表2にまとめられています。

画像:YAGEO ATシリーズ 抵抗器の電気的特性(クリックして拡大)表2:ATシリーズ 抵抗器の電気的特性を示しています。(表提供:YAGEO)

表には、各パッケージサイズ、TCR、許容差における使用可能な抵抗値の範囲が記載されています。

同様に、RPシリーズの仕様は表3にまとめられています。

表:YAGEO RPシリーズ 抵抗器の電気的特性(クリックして拡大)表3:RPシリーズ 抵抗器の電気的特性を示しています。(表提供:YAGEO)

いずれの製品シリーズも、パッケージサイズ、TCR、抵抗許容差、抵抗値に基づいて部品が選択されます。使用可能な抵抗値の範囲は、その他の各仕様によって異なります。

RPシリーズのTCR値は、±50、±25、±15、および±10ppm/°Cです。ATシリーズには、さらに低いTCR値である±5ppm/°Cが追加されています。

RPシリーズデバイスで使用可能な抵抗値の範囲は、各TCRステップのAT抵抗器の抵抗値より大きいか等しいことにご留意ください。

両シリーズとも、0.1%、0.25%、0.5%、1%の許容差値を提供しています。これらの値は最も使用されている抵抗許容差です。しかし、ATシリーズでは、0.05%、0.02%、0.01%の3つの追加許容差範囲も提供しています。これらの精密な許容差はあまり必要とされず、提供される抵抗値の範囲はより限定されています。

ATシリーズとRPシリーズの抵抗器の比較

YAGEOのAT0402FRE0710KLは、10kΩ、1/16WのATシリーズ 抵抗器で、TCRは0402パッケージで±50ppm/°Cです。RPシリーズの同等品はRP0402FRE0710KLで、同じ仕様です。製品の違いは、RPシリーズがこのTCR範囲で10Ωから240kΩの抵抗値を提供するのに対し、ATシリーズは10Ωから100kΩの抵抗値を提供することです。RPシリーズはすべてのTCR値でこの抵抗値範囲を提供しますが、ATシリーズはTCR値が±10ppm/°Cと±5ppm/°Cの場合、抵抗値範囲が狭くなります。

AT0603DRE0710KLは、10kΩ、1/10WのATシリーズ 抵抗器で、0603パッケージに収められています。TCRは±50ppm/°Cです。RP0603DRD0710KLはRP 0603シリーズの抵抗器で、TCRが±25ppm/°Cである以外は同じ公称仕様です。RPシリーズで使用可能な抵抗値の範囲は10Ωから910kΩです。AT抵抗器の抵抗値範囲は、TCRの仕様が最も高い2つの抵抗器で10Ωから330kΩ、TCRの値が低い抵抗器ではさらに限定的な範囲となります。

0805パッケージのATシリーズ AT0805BRD0710KLは、10kΩ、1/8Wの抵抗器で、TCRは±25ppm/°Cです。RPシリーズの同等品であるRP0805BRD0710KLは、抵抗値、許容差、TCRが同じです。RPシリーズは、TCR値の全範囲にわたって抵抗値の範囲が広く、一方、AT抵抗器は、TCRの3つの低い値では範囲がより限定されています。

AT1206BRD0710KLは、1206パッケージの10kΩ、1/4W抵抗器です。同等のRPシリーズ製品はRP1206BRD0710KLで、仕様は同一です。

電気的仕様に基づくと、これらの抵抗器ファミリは類似しており、多くのアプリケーションに適合します。RPシリーズは抵抗値の範囲が広く、より適用範囲が広くなっています。ATシリーズは、一部の抵抗値で狭い許容差と低いTCR範囲を提供しており、これらの特性は、高い精度と正確さを必要とするアプリケーションに適しています。両シリーズとも、定格電力レベルでは-55°Cから+155°Cの温度範囲で動作します。周囲温度が+70°Cを超える場合は、定格電力をディレーティングする必要があることにご注意ください(図1)。

グラフ:動作周囲温度(Tamb)の関数としての定格電力の最大電力損失(PMAX)(単位:パーセント)図1:両シリーズの電力ディレーティング曲線では、70°Cを超える温度では電力の低減が必要です。(画像提供:YAGEO)

環境安全性と保護

ATおよびRP製品ファミリは、いずれも自動車および産業環境での使用に適しています。製造に使用されるエポキシ化合物はハロゲンを含んでいません。さらに、鉛フリーでRoHS仕様にも適合しています。これらの抵抗器は、禁止された材料を使用しないことで、環境に有害な廃棄物の生産を削減します。

両抵抗器製品ラインは、車両や産業環境で一般的に見られる湿気や腐食性ガスに対する耐性も備えています。耐湿性の1つの側面として、湿度感度レベル(MSL)があります。エレクトロニクス業界で使用されているこの定格システムでは、部品が過剰な水分を吸収してウェーブはんだ付けプロセスで使用できなくなる前に、部品がどの程度の期間特定の条件下にさらされ得るかを判定します。使用されるテスト条件は、相対湿度60%から85%、温度+85°F未満です。ウェーブはんだ付けでは、閉じ込められた水分が急速に膨張し、部品や場合によっては回路基板に損傷を与える可能性があります。ATおよびRPシリーズの抵抗器はMLS 1の定格であり、これは無制限のフロア保管寿命であることを示します。また、AEC-Q200に基づく耐湿性テストも実施されており、両シリーズとも湿度にさらされた場合の抵抗値の変化は±(0.1% + 0.05Ω)未満です。

硫黄化合物への暴露による汚染は、チップ抵抗器などの受動部品にとってますます懸念が高まっている分野です。オイル、潤滑油、油性燃料、ゴム製部品やコーティングは硫黄ベースの煙を発生させます。 これらの硫黄化合物は金属、特に銀と反応し、チップ抵抗器を損傷させる可能性があります。

耐硫黄性テスト(ASTM-B-809-95、修正版)では、測定量の粉末硫黄を追加して、密閉容器内に硫黄を豊富に含む環境を作り、テスト対象の部品をその環境にさらします。 容器は+105°Cまで加熱され、部品は750時間その環境にさらされます。テスト中の抵抗器は、抵抗値の変化が規定の限界値を下回っていることを確認するために測定されます。両シリーズの抵抗器は、硫黄に対する優れた耐性を発揮します。

ATシリーズとRPシリーズの抵抗器の違い

ATシリーズとRPシリーズの抵抗器は、異なる設計となっています。ATシリーズは、初期の設計で、耐湿性と耐硫黄性に対してより伝統的なアプローチを採用しています。RPシリーズは、最近の設計で、より新しい構造技術と材料を採用しています(図2)。

画像:YAGEO ATシリーズとRPシリーズのチップ抵抗器の構造比較図2:ATシリーズとRPシリーズのチップ抵抗器の構造を比較すると、湿気や硫黄からの保護方法の違いがわかります。(画像提供:YAGEO)

両シリーズとも、他のチップ抵抗器と同様、セラミック基板上に抵抗金属膜を蒸着したものです。AT抵抗器では、硫黄蒸気の腐食作用を低減するために、上面電極(C1)に銅を使用しています。これは、硫黄との銅の反応が銀ほど強くないためです。抵抗層と電極は、エポキシのオーバーコートで密封されています。はんだ付け性を確保するために、エンドキャップは錫メッキニッケルでできています。エンドキャップは抵抗器の底面の銀電極を密封し、接続ポイントを提供します。

長年にわたる関連チップ部品の経験に基づき、RPデバイスでは、硫黄汚染を防ぐために、C1内部電極の上にポリマー銀層(C3)を追加しています。これにより、内部電極を銀で製造することが可能になります。薄いパッシベーション層は、金属膜と腐食性要素の間のバリアとなります。パッシベーションは、抵抗層をコーティングして腐食や環境の影響を受けにくくする化学的プロセスです。エポキシオーバーコートにより、密封プロセスが完了します。

RPシリーズは、改善された密封プロセスにより、ATシリーズよりも耐硫黄性に優れています。RPデバイスの硫黄テスト仕様は、ATの仕様である±(4.0%+ 0.05Ω)よりも厳しい制限値±(2.0% + 0.05Ω)となっています。これは、硫黄暴露による抵抗値の変化がより小さいことを意味します。

また、新しい抵抗器構造により、生産効率が向上し、コストが削減され、リードタイムが短縮されました。

まとめ

自動車、産業、および通信システムには、高湿度や腐食性大気などの過酷な環境下でも確実に動作する精密部品が必要です。ATおよびRPシリーズ 抵抗器はAEC-Q200認定を取得しており、これらのアプリケーションに最適です。RPシリーズは耐湿性と耐硫黄性が向上し、低価格でリードタイムも短縮されています。ATシリーズは、許容差が±0.01%、±0.02%、±0.05%と低い抵抗値を選択できます。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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