自律型移動ロボットのタイプとアプリケーション

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

自律型移動ロボット(AMR)は、多くの産業分野の多様化する物流アプリケーションで利用されています。コンベヤなどの固定された材料輸送システムとは異なり、AMRは固定ルートに縛られずに施設内を走り回ることができます。また、ワイヤレス通信とオンボードナビゲーションシステムにより、次の移動先を指示するコマンドを受信できます。AMRはプログラムされていなくても要求された場所に移動でき、障害物に遭遇した場合は別の経路を見つけられます。AMRは、材料の輸送、ピックアップ、ドロップオフといった付加価値のない作業を行い、人が付加価値のある複雑な作業を行えるようにすることで、倉庫業務、製造工程、ワークフローをより効率的かつ生産的にすることができます。AMRは比較的新しい技術ですが、すでにさまざまな種類に枝分かれしており、それぞれが特定のタスクを実行するために最適化されています。

この記事では、コンベヤシステムや無人搬送車(AGV)といった従来の移動ソリューションとAMRを比較対照します。また、AMRを使用する利点と、AMR設計の普及によってその有用性がどのように拡大しているかを紹介します。さらに、AMRフリートと他のシステム(精密なナビゲーション機能を含む)とのソフトウェア統合、AMRが作業者の安全性に与える影響、AMRフリートの管理およびシミュレーション方法についても解説します。最後に、定期的なメンテナンスがどのようにAMRの寿命を最大化し、予定外のダウンタイムが発生する前に問題の可能性を特定し、予定されたシャットダウンやその他の運用上の考慮事項に基づいて修理や部品交換を事前計画するのに役立つかを簡単に考察します。

AGVは、コンベヤシステムよりも柔軟に材料を特定の場所に届けることができますが、AMRに比べるとはるかに柔軟性に欠けます。AGVは、コンベヤと同様にルートが決まっています。しかし、AGVの場合、コンベヤシステムよりも簡単かつ迅速にルートを変更できます。AMRは、人と協力して作業し、より柔軟性が高く、特定のタスクを達成するために最も効率的なルートを見つけることができます。AMRが障害物に遭遇した場合は、それに応じてコースを変更し、目的地まで進み続けることができます。AGVが障害物に遭遇した場合は、停止して支援を求めてから、あらかじめ定められた経路を進みます(図1)。AMRは、オンボードおよび集中型の計算能力と高度なセンサを組み合わせて環境を理解し、ラックやワークステーションなどの固定された障害物および、フォークリフト、人、AGV、他のAMRなどの移動する障害物を回避します。

障害物への接近時に単独で障害物を回避できるAMRの画像図1:AMR(左)は障害物に接近すると、単独でそれを回避することができます。AGV(右)は障害物に接近すると、助けが来るまで停止します。(画像提供:Omron

統合ツールキット(ITK)はOmronのインターフェースで、AMRと製造実行システム(MES)や倉庫管理システム(WMS)などのクライアントアプリケーションソフトウェアとの一元的な統合を可能にします。たとえば、倉庫や配送センターの環境では、AMRを倉庫の制御システムと統合することで、施設内の拠点間のルートをAMRが柔軟に作成できるようになります。その結果、大部分の受注処理や倉庫業務の動的環境下で、ロボットがより適切に人間と連携できるようになります。

AGVと同様の作業も可能なAMR

コンベヤ、フィーダ、テストスタンドへの材料供給といった一部のAMRアプリケーションでは、ロボットが特定の場所で高精度かつ再現性をもって停止することが必要になります。OmronのAMRを使用するフリートマネージャは、ソフトウェアによる高精度位置決めシステム(CAPS)と高精度位置決めシステム(HAPS)という2つの高精度位置決めシステムから選択できます。CAPSやHAPSは、目標到達精度を約±100mmから±8mmに向上させることができます。CAPS技術では、AMRの前面にあるメインのセーフティスキャニングレーザーを使用して目標位置を検出し、AMRがその位置まで高精度で移動できるようにします。

HAPS技術でも、規定された空間をより高い精度で一貫して移動したり、所定の目標地点で正確に停止したりすることができますが、ちょっとした工夫が必要です。HAPSを使用することで、AMRはAGVと同様に、床に貼られた磁気テープ(マグテープ)をたどって目標地点まで移動できます。AMRの下に設置されたHAPSセンサは、完全な自律モードから磁気テープで規定された経路に円滑に移行するために使用されます。AMRは次に、オンボードセンサとフロアマーカーを組み合わせて、正確に移動し、特定の場所で停止します(図2)。

AMRの前面スキャニングレーザーを使用するOmronのCAPSの画像図2:OmronのCAPS(左)は、AMRのフロントスキャニングレーザーと自律移動を組み合わせ、高精度で目標位置を特定して移動します。HAPS(右)は、磁気テープなどのマーカーとオンボードセンサを組み合わせて、特定の場所に移動および停止します。(画像提供:Omron)

HAPSモードで動作する場合、OmronのAMRはどの地点でも磁気テープ経路に出入りすることができます。これにより、AMRは自然機能や自律移動からAGVのような磁気テープ誘導へと円滑に移行することができます。AMRの前後にHAPSセンサを搭載すれば、磁気テープの経路に沿って正確に前後移動することができます。

OmronのAMRシステムは、開発者、インテグレータ、エンドユーザーがさまざまなペイロードやタスクに合わせてカスタマイズできます(図3)。CAPSとHAPSの組み合わせは、ITKがサポートする設備統合の可能性に加えて、正確で再現性のある位置決めが必要な場合にこれらのAMRの機能を高め、次のような新しいアプリケーションを開拓します。

  • 材料を満載したカートの配送
  • 小売店の在庫調査
  • ホテルの宿泊客に商品を届けたり、ワークステーションに高額な部品を届けたりする安全な配送ロボット
  • 公共スペースの消毒
  • カスタムの協働AMR
  • コンベヤトップ
  • 最大1,500kgの重量物の配送

さまざまな構成で入手可能なAMRの画像(クリックして拡大)図3:AMRは、特定のタスクを実行するために最適化されたさまざまな構成で入手可能です。(画像提供:Omron)

安全なロボット操作

AMRには、安全な操作が必須です。標準的な安全センサの例としては、障害物を検知するリアソナーやフロントレーザー、物体に接触した場合にAMRを停止させるフロントバンパーセンサ、AMRが作動していることを周囲に知らせるライトディスクなどがあります(図4)。オプションのセンサを追加することで、突出した障害物や垂れ下がった障害物の識別など、特定の要件に対応することができます。AMRは、EN 1525(産業用トラック、無人トラックおよびそのシステムの安全性)、ANSI 56.5:2012(産業用無人搬送車および産業用有人車両の自動化機能の安全基準)、JIS D 6802:1997(無人搬送車システム - 安全通則)など、国内外のさまざまな安全規制に準拠する必要があります。

ISO EN1525、JIS D6802、ANSI B56.5の安全規格に準拠しているOmronのAMRの図(クリックして拡大)図4:OmronのAMRは、ISO EN1525、JIS D6802、ANSI B56.5の安全規格に準拠しており、安全専用の複数のセンサを標準装備しているほか、特定のアプリケーションシナリオでの安全性を高めるためにオプションのセンサを装着することも可能です。(画像提供:Omron)

システムレベルの安全性評価

国内外のさまざまな規格を満たすことは、AMRの安全の始まりに過ぎません。AMRは進化し続けている技術です。AMRはより複雑化し、より重いペイロードを扱うようになっているため、安全上の新たな課題が生じています。Omronは、AMRで増大する安全性の懸念に対応するため、AMR展開の設計支援、リスク評価、テスト、検証を行うセーフティコンサルティングサービスを提供しています。たとえば、新しいISO3691-4規格には、移動ロボットと他の構造物との間のクリアランスに関する特定の要件が含まれています。Omronのセーフティサービスコンサルタントは、以下のようなサポートを提供します

  • ISO3691-4で求められているレイアウト設計レビューとゾーン識別
  • 特にトラフィックの多いアプリケーションや重負荷を移動させるアプリケーションにおける設計計算
  • オンサイトでのソリューションのテストと検証

AMRフリートマネージャ

AMRの1台のみの配備は、ほとんど前例がありません。AMRフリートは100台が一般的です。OmronのAMR管理ソリューションは、データ収集、分析、レポート機能を内蔵しており、企業が全体の施設運営や常駐ロボットフリートの性能を最適化できるようにします。Enterprise Manager 2100ネットワークアプライアンスは、AMRのフリートを管理するために設計されたハードウェアおよびソフトウェアソリューションです(図5)。キュー管理ソフトウェアは、個々のAMRとの通信に使用され、ユーザーや自動装置からのジョブリクエストに基づいて、各AMRにタスクを割り当てます。

Omronの2100 Enterprise Managerネットワークアプライアンスの画像図5:Omronの2100 Enterprise Managerネットワークアプライアンスは、最大100台のAMRフリートを管理するように設計されています。(画像提供:Omron)

OmronのFleet Operations Workspace(FLOW)ソリューションは、Enterprise Manager 2100上で動作し、移動ロボットの位置やトラフィックの流れを監視するインテリジェントなフリート管理システムを提供します。Enterprise Manager 2100により、ユーザーはAMRの構成を管理・更新できます。また、AMRの相互作用と移動を調整するため、各ロボットは周辺にあるAMRの位置と経路を認識することができます。FLOWソフトウェアは、さまざまなロボット管理作業を自動化することで、製造実行システム(MES)や企業資源計画(ERP)システムのプログラミング要求を軽減します。FLOWの特長は、以下の通りです。

  • Restful、SQL、Rabbit MQ、ARCLなどの業界標準に基づいたフリート統合ツールキット
  • 重要度に応じたタスクの優先順位付け
  • 人間とロボットのトラフィックに基づく最速ルートの特定と選択
  • 遮断された経路の特定と代替経路への割り当て
  • AMRジョブ割り当ての最適化
  • バッテリ充電スケジュールの最適化によるフリートの稼働時間の最大化

シミュレーションでAMRフリートを最適化

EM2100ネットワークアプライアンスをフリート管理に展開する前にFleet Simulatorソフトウェアを使用することで、ユーザーは自律移動ロボットのフリートのトラフィックやワークフローを計画し、潜在的な問題を特定して解決できます。OmronのFleet Simulatorを使用すれば、実際の施設の地図に基づくAMRの位置確認、経路計画、障害物回避、タスクシミュレーション、およびフリート管理を正確にモデル化することができます。さらに、このシミュレーションは、AMRフリートの構成を最適化し、スループットを予測するためにも利用できます。EM2100は、工場出荷時にFleet Simulator として構成することも、現場でソフトウェアアップデートにより構成することも可能です。

Omronのフリートシミュレータの画像図6:Omronのフリートシミュレータは2100 Enterprise Managerネットワークアプライアンス上で動作し、異種AMRのフリート全体を展開前に最適化することができます。(画像提供:Omron)

AMRの健全性

AMRは現場投入後、ほぼ連続して動作することが期待されるため、予防的なメンテナンスが展開を成功させるための重要な要素となります。Omronではこのようなニーズに対応するため、施設内で個々のAMRの状態を定期的に評価するWellness Visitを提供しています。これにより、メンテナンスを事前に計画することができ、コストのかかるダウンタイムを最小限に抑えられます。Wellness Visitの利点は、以下の通りです。

  • AMRの動作寿命の最大化
  • AMRのピーク時の動作効率の維持
  • 潜在的な問題の事前把握と予定外のダウンタイムの最小化
  • 予定されたシャットダウンや運用上のその他の考慮事項に基づく、修理や部品交換の積極的なスケジューリング

まとめ

AMRは、材料のピックアップやドロップオフを行い、人が付加価値のある複雑な作業を行えるようにすることで、倉庫業務、製造工程、ワークフローをより効率的かつ生産的にすることために利用されています。AMRを使用する作業の多様化に伴い、新たなAMRの形式が開発され、AMRフリートの管理が複雑化しています。AMRフリートの管理は、フリートを起動する前に、模擬環境でAMRの相互作用をシミュレーションすることから始まります。フリートを展開したら、AMRは安全かつ効率的に、ダウンタイムを最小限に抑えて動作する必要があります。一元化されたハードウェアおよびソフトウェアアプライアンスが提供されているため、AMR展開の可能性をシミュレーションし、AMRフリートの安全性、効率性、信頼性の高い運用を監視することができます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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