MEMSマイクロフォンを使用したビームフォーミング入門

著者 Bruce Rose, Same Sky

複数のMEMSマイクロフォンをビームフォーミングアレイで組み合わせることで、これらの小型、低電力、コスト効率の良いデバイス固有の利点を、指向性応答を必要とする音声対話システムや業務用AV機器などのアプリケーションにもたらすことができます。

マイクロフォンと指向性

堅牢でコスト効率が良いMEMSマイクロフォンは、サイズが小型で消費電力が低いことから、ほとんどのアプリケーションに簡単に組み込むことができます。MEMSの無指向性応答はどの方向からの音に対しても均一な感度を示し、方向が定まらない音源または移動する音源からの音を捕捉するための固定マイクロフォンが必要な場合などの特定の用途に適しています。一方、全方向性の場合、周囲の音や不要な音が、必要としている主要音源に重なり合って音声が不明瞭になり聞き取るのが難しくなる原因にもなります。

複数のMEMSマイクロフォンを使用したビームフォーミングアレイでは、この問題を克服するために、特定の方向からの音を増幅し、他の方向からの音を減衰できます。それを行うには、マイクロフォンの信号を合算し、遅延挿入、増幅、フィルタリングなどの信号処理技術を使用して不要な音からの信号を最小限に抑えます。必要な音源を表す信号を合算する一方、不要な信号は非干渉的に合計することで主要な信号と相対的に減衰されます。図1はこの方法を示しています。慎重に設計されたマイクロフォン2個の基本アレイの場合、信号処理は非常にシンプルにすることができます。

図1:ビームフォーミングマイクロフォンアレイは、必要な信号をバックグラウンドノイズと相対的に増幅します。(画像提供:Same Sky)

基本的なビームフォーミングアレイには、マイクロフォンを2つまで含めることができ、単一軸を持つ機器を作成できます。適切な信号処理を使用してブロードサイドアレイを形成し、2つのマイクロフォンの軸に対して垂直なアレイの側面から直接来る音によって生じる信号を最大化できます。もう1つの方法としてエンドファイアアレイがあり、マイクロフォン軸に沿って移動する音の指向性を最適化することでこのアレイを形成できます。

いずれの場合も、アレイ内のマイクロフォンの感度と周波数応答が緊密に一致することが重要です。幸いにもこれは、製造時に使用されるウェハスケールのファブリケーションプロセスによりMEMSマイクロフォンの主な長所となります。

ブロードサイドアレイ

図2はブロードサイドアレイを示しています。目的の音源の方向からの音が各マイクロフォンに同時に到達し、その出力を合算することで大きな信号が生成されます。他の角度からの音声信号は、それほど強め合うようには合算されません。

実際には、ブロードサイドアレイは主軸のどちら側からの音に対しても均等な感度になります。このため多くの場合、後方、上、下からの不要な音がほとんどないか皆無と想定される場合に使用されます。一般的な用途の1つは、TVやPCモニタでの音声対話のサポートです。ユーザーが画面の真正面に位置し、室内の周囲の音は後方や上からよりも両サイドの音源から発生することが想定されます。マイクロフォンアレイは、画面筐体の内部に組み込むことができます。これにより、自然なブロードサイドの方向性が生まれ、マイクロフォンも目立たず便利です。

図2:ブロードサイドアレイは、マイクロフォンの軸に垂直な場所にある音源に対して最も高感度となります。(画像提供:Same Sky)

エンドファイアアレイ

マイクロフォンの後方または横からの音源を減衰させる場合、エンドファイアレイを使うことでこれらを最小限に抑えると同時に、アレイ真正面からの音声信号を増幅できます(図3)。

図3:エンドファイアアレイでは、マイクロフォンの真正面からの音を分離できます。(画像提供:Same Sky)

図のように、必要な音は最初のマイクに到達してから、ある一定の距離をおいて2番目のマイクに到達します。信号処理により、結果的に生じる既知の遅延を補正し、2つの信号を合算して、より大きな効果を生み出します。アレイの後方または軸から外れた場所からの音声信号を合計しても、はるかに小さい効果しか生まれません。

エンドファイアアレイの代表的なアプリケーションには、テレビやラジオで使用するハンドマイクがあります。司会者や話し手などの音源に向けることで話者の音声を明瞭に捉えバックグラウンドノイズを排除します。

円形アレイと球状アレイ

4つ以上のマイクロフォンを円周上(図4)または球状の向きに配置したビームフォーミングアレイで得られる音声信号は、より複雑な信号処理アルゴリズムを使用して、受信した音の音源方向を判定できます。このタイプのアレイは、軍事または法執行用途での砲火の発生源の特定などを含めた情報収集の目的に使用できます。その場合、デジタル信号処理を適用して発砲音を認識し、音源をピンポイントで特定できるように挙動を計算します。

図4:大きなアレイでは音源位置の特定など複雑な機能に対応できます。(画像提供:Same Sky)

まとめ

MEMSマイクロフォンは、無指向性応答機能を備え、幅広いアプリケーションに採用されています。特に、設計の優先順位に費用効果、信頼性、小型サイズ、低消費電力などが含まれる場合の選択肢となります。MEMSマイクロフォンは半導体ファブリケーションプロセスを使用して製造されるので、感度および周波数応答などのパラメータを緊密に一致させることができます。これは、ビームフォーミングアレイ構成時の重要な要件です。

ビームフォーミングによって、MEMSマイクロフォンの長所を、指向性応答を必要とするアプリケーションにもたらします。アレイには2つ以上のマイクロフォンを使用し、信号処理をそれぞれの出力に適用して目的の指向性応答を得ることができます。基本構成にはブロードサイドアレイとエンドファイアアレイがあり、比較的シンプルな信号処理がそれらの特徴です。より複雑なアレイには、方向を検知する円形または球状のアレイや、調査やセキュリティ監視などのアプリケーション用に数個から数百個のマイクロフォンから構成されるアレイもあります。

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著者について

Bruce Rose, Same Sky

この記事は、Same Skyの主任アプリケーションエンジニアであるブルース・ローズ氏によって執筆されました。